現代社会において、糖尿病は決して他人事ではありません。糖尿病と診断された場合、食事療法の正しい知識を身につけることが重要です。正しい知識により、食事は「制限」ではなく「健康への投資」へと変わります。
この記事では、糖尿病における食事療法の基礎から、避けるべき食品や積極的に摂りたい食品、具体的な食事管理のポイントを解説します。血糖値コントロールの鍵を握る食事を通して合併症を予防し、充実した毎日を送りましょう。
大石内科循環器科医院では、糖尿病に関する検査と丁寧な診療を行っています。症状が気になる方はもちろん「ちょっと不安かも…」という段階でも、早めのチェックが何より大切です。地域のかかりつけ医として、あなたの健康を全力でサポートいたします。どうぞお気軽にご相談ください。
正しい知識にもとづいた食事管理は、血糖値を安定させ、健康的な生活を送るための重要な鍵になります。糖尿病の食事療法の基本は以下のとおりです。
血糖値コントロールは、糖尿病の合併症リスクを低減するために重要と考えられています。合併症のリスクを減らすためには、血糖値を下げるだけでなく、できるだけ安定した状態を保つことが望ましいです。高血糖の状態が続くと、血管がダメージを受け、全身のさまざまな臓器に悪影響を及ぼします。
細い血管が集中している目や腎臓、神経などが特に悪影響を受けやすいです。高血糖の状態が続くと、以下の合併症を引き起こすリスクが高まります。
血糖値の大きな変動も血管に負担をかけるため、合併症のリスクを高める可能性があります。空腹時血糖値が正常範囲内であっても、食後血糖値が急上昇する状態が続くと、合併症のリスクは高いままです。食後高血糖は自覚症状がないことが多いため、気づかないうちに血管が傷ついている可能性があります。
血糖値を安定させるには、毎日の食事内容や量、時間などに気を配る必要があります。適切な食事療法を行うことで、合併症を予防し、健康寿命を延ばすことにつながります。
以下の記事では、血糖値の基準値や、異常値が引き起こす健康リスク、そして日常生活でできる対策について詳しく解説していますので、参考にしてください。
>>血糖値の正常範囲とは?異常値が引き起こすリスクと対策を解説
糖尿病の食事療法では、適切なカロリーを摂取することが重要です。「カロリー」とは、食品に含まれるエネルギー量です。摂取カロリーが消費カロリーを上回ると、体脂肪として蓄積され、体重増加につながります。肥満はインスリン抵抗性を高め、血糖値のコントロールを難しくする要因となることが知られており、糖尿病の悪化を招く可能性があります。
必要なカロリー量は、年齢や性別、身長、体重、日々の活動量によって異なります。体をよく動かす仕事をしている人は、デスクワークの人よりも多くのカロリーが必要です。加齢に伴い基礎代謝が低下すると、必要なカロリー量は少なくなります。
糖尿病における適切なカロリー摂取量は、標準体重を維持できるカロリー量を目安とします。標準体重とは、BMI(Body Mass Index:体格指数)が22となる体重のことです。BMIは、[体重(kg)]÷[身長(m)×身長(m)]で計算できます。
自分に合ったカロリー摂取量は、BMIを基に計算する方法の他、活動量や生活強度を考慮して計算する方法など、複数の算出方法があります。かかりつけの医師や栄養士に相談して、ご自身の状況に合った適切なカロリー摂取量を知り、食事療法に役立てましょう。
糖尿病の食事療法では、以下のさまざまな栄養素をバランス良く摂取することが大切です。
炭水化物は、体にとって重要なエネルギー源ですが、血糖値に直接影響を与えるため、摂取量のコントロールが重要です。白米やパン、麺類などの穀物、芋類、砂糖などは炭水化物を多く含みます。たんぱく質は、筋肉や臓器、血液などを作る材料となる栄養素です。肉や魚、卵、大豆製品などに多く含まれています。
脂質はエネルギー源となるだけでなく、細胞膜やホルモンの材料になる栄養素です。脂質には、飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸、コレステロールなどがあり、それぞれ体への影響が異なります。ビタミンやミネラルは、体の機能を調節するために必要な栄養素です。野菜や果物、海藻などに多く含まれています。
食物繊維は、血糖値の上昇を緩やかにしたり、腸内環境の改善に寄与したり、コレステロールの吸収を抑制したりするなど、さまざまな健康効果が期待されています。野菜や果物、海藻、きのこなどに多く含まれています。
それぞれの栄養素には、体にとって重要な役割があります。特定の栄養素だけを過剰に摂取したり、極端に制限したりするのではなく、さまざまな食品を組み合わせて、バランスの良い食事を心がけましょう。
糖尿病の方が避けるべき食品は以下のとおりです。
GI値とは、Glycemic Index(グリセミック・インデックス)の略で、食品が血糖値を上昇させる速さを表す数値です。ブドウ糖を100とした場合の相対値で表され、70以上を高GI食品、56〜69を中GI食品、55以下を低GI食品と分類します。
高GI食品は消化吸収が速く、体内でブドウ糖に分解される速度が速いため、血糖値が急上昇しやすいです。高GI食品の代表例は以下のとおりです。
高GI食品を食べる際は、量を控えめにしたり、食物繊維が豊富な食品と一緒に食べたり、調理方法を工夫したりするなどして、血糖値の急上昇を抑える工夫をしましょう。白米を食べる際に、食物繊維の多い野菜や海藻を一緒に食べると、血糖値の上昇を緩やかにできます。
高糖質食品とは、糖質(炭水化物から食物繊維を除いた成分)を多く含む食品のことです。糖質が多いと摂取量や種類によっては血糖値が上がりやすくなるため注意が必要です。精製された穀物は、食物繊維やビタミン、ミネラルなどが取り除かれており、血糖値を上昇させやすい傾向があります。
糖質を多く含む清涼飲料水や甘いジュースも、血糖値を急上昇させるため、なるべく控えましょう。お茶や水、無糖の炭酸水などの糖分を含まない飲み物を選ぶことで、血糖値への影響を抑えられます。
脂質は重要なエネルギー源ですが、種類によって体への影響が異なります。トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングなどの加工食品に多く含まれる脂質です。飽和脂肪酸は、肉類の脂肪やバター、ラードなどに多く含まれます。
トランス脂肪酸と飽和脂肪酸は、悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロールを減らすため、動脈硬化のリスクを高めます。糖尿病の方は、動脈硬化による合併症のリスクも高いため、トランス脂肪酸と飽和脂肪酸の摂取は控えめにすることが大切です。
揚げ物やインスタント食品、スナック菓子などは、トランス脂肪酸や飽和脂肪酸を多く含む傾向があります。魚介類や植物油など、良質な脂質を摂るようにしましょう。
塩分の摂りすぎは、高血圧の原因となり、糖尿病の合併症である腎臓病のリスクを高めます。高血圧は、腎臓に負担をかけ、腎機能を低下させる原因となります。加工食品に多く含まれる添加物の中には、血糖値のコントロールを阻害するものもあるため、注意が必要です。塩分や添加物を多く含む加工食品の代表例は以下のとおりです。
ハムやソーセージなどの加工食品は、保存性を高めるために、多くの塩分や添加物が使用されていることが多いです。加工食品はなるべく控え、新鮮な食材を使った手作り料理を心がけましょう。新鮮な食材を使った手作り料理であれば、塩分や添加物を自分でコントロールすることができます。
どうしても加工食品を食べる場合は、栄養成分表示を確認し、塩分や添加物の少ないものを選びましょう。減塩タイプの調味料を使ったり、香辛料やハーブを活用して風味をつけたりすることで、塩分を控えられます。
以下の記事では、糖尿病による心血管系の合併症とその予防策について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
>>糖尿病による合併症リスク|心臓と血管に与える影響と対策方法
糖尿病と診断された後、摂取を推奨される食品について、以下の内容を解説します。
GI値が低いほど、血糖値の上昇が緩やかになります。同じ穀物でも、精製されていない食品のほうがGI値が低く、血糖値の上昇も緩やかになります。精製されていない食品には食物繊維が豊富に含まれているためです。低GI食品の代表例は以下のとおりです。
食物繊維は、糖質の吸収を遅らせ、血糖値の急上昇を抑える働きがあります。食物繊維は、血糖値のコントロール以外にも、腸内環境を整えたり、コレステロールの吸収を抑えたりするなど、さまざまな健康効果が期待できます。高食物繊維食品の代表例は以下のとおりです。
野菜は、調理方法を工夫すると、たくさんの量を無理なく食べられます。生野菜サラダだけでなく、温野菜サラダやスープ、炒め物、煮物など、さまざまな調理法を取り入れましょう。きのこ類は、食物繊維が豊富で低カロリーです。食物繊維を豊富に含む食品を毎日の食事に取り入れることで、血糖値を安定させ、健康を維持しましょう。
タンパク質は、筋肉や臓器、血液など、私たちの体を作るうえで欠かせない栄養素です。糖尿病の方も、健康な体を維持するために、良質なタンパク質を十分に摂取することが重要です。肉や魚、卵、大豆製品など、さまざまな食品からバランス良くタンパク質を摂りましょう。
特に、魚にはドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)といった、血液流動性の向上や中性脂肪の低下に関連があるとされる良質な脂質が含まれています。DHAやEPAは、血液をサラサラにする効果が期待でき、動脈硬化リスクの低減に役立つ可能性があります。オリーブオイルやアボカド、ナッツ類も、良質な脂質を含むおすすめの食材です。
糖尿病の食事管理の5つのポイントは以下のとおりです。
食事の際に、何をどの順番で食べるかは、血糖値の上昇に大きく影響します。血糖値の急上昇は血管に負担をかけ、合併症のリスクを高めるため、できるだけ血糖値を緩やかに上昇させることが重要です。
食物繊維を多く含む野菜から食べ始めることで、胃の中に食物繊維の層ができ、糖質の吸収を穏やかにできます。野菜の次に、肉や魚などのタンパク質、最後にご飯やパンなどの炭水化物を食べるように意識してみましょう。
食物繊維が豊富なサラダを最初に食べ、次に豆腐とわかめの味噌汁、鶏肉のソテー、最後に少量のご飯という順番が良いです。炭水化物を最後に食べることで、血糖値の急上昇を抑制し、食後血糖値のピークを低く抑える効果が期待できます。
1日3食規則正しく食事を摂ることは、血糖値の安定に大きく貢献します。食事の間隔が空きすぎると、血糖値が乱高下しやすくなります。空腹感も強くなってドカ食いにつながり、血糖値のさらなる急上昇を招く可能性があるため注意が必要です。どうしても空腹を感じる場合は、適切な間食を摂るようにしましょう。
間食は、血糖値を急上昇させにくい低GI食品を選び、1日に200kcal程度を目安にしてください。無糖ヨーグルトに少量の果物を加えたもの、ナッツ類ひとつかみ、ゆで卵などがおすすめです。市販のお菓子やジュースは、糖質が多く含まれているため控えましょう。
調理方法を工夫することで、血糖値への影響を少なく、より健康的な食事を摂ることができます。揚げ物や炒め物は、脂肪を多く含むため、血糖値のコントロールだけでなく、体重管理の面でも注意が必要です。蒸し物や煮物、焼き物など、油を控えた調理法を選ぶと良いです。
味付けは薄味を心がけ、塩分や糖分の摂りすぎにも注意してください。野菜は、蒸すことでビタミンやミネラルなどの栄養素を損なうことなく、素材本来の味を楽しめます。肉や魚は、グリルや蒸し焼き、煮付けなどがおすすめです。
外食や旅行の際は、普段の食事管理を維持することが難しくなりがちです。少しの工夫で血糖値コントロールを意識した食事を楽しむことができます。
外食では、メニューを選ぶ際に野菜や魚料理を意識的に選びましょう。丼ものや麺類などの単品料理の場合は、サラダや野菜料理を追加で注文すると、食物繊維を補えます。セットメニューを選ぶ際は、ご飯の量を少なめにする、あるいはパンを半分残すなど、炭水化物の量を調整することも有効です。
旅行中は、どうしても食事のリズムが崩れがちです。できる限り規則正しい時間に食事を摂るように心がけ、間食で栄養を補うなど工夫しましょう。旅行先でスーパーやコンビニを利用する際は、栄養成分表示を確認し、糖質や脂質の量を把握することで、適切な食品選択ができます。
西太平洋地域では糖尿病の有病率が上昇しており、2021年には医療費が2400億米ドルに達しました。デジタル医療や人工知能の活用が、糖尿病ケアの質向上に貢献する可能性があると報告されています。
食後の血糖値を定期的に測定することで、自分の食生活が血糖値にどのように影響しているかを客観的に知ることができます。血糖値の自己測定は、糖尿病の食事療法において重要な役割を果たします。
自身の血糖値の変動パターンを理解し、食事内容や量、食べる順番などを調整することで、より効果的な血糖値コントロールに期待が持てます。主治医と相談しながら、適切な頻度で血糖値を測定し、食事療法に役立てましょう。
糖尿病の食事療法は、制限ではなく、より健康に過ごすための学びの機会です。血糖値コントロールのカギは、バランスの良い食事と適切なカロリー摂取にあります。高GI・高糖質食品や、トランス脂肪酸・飽和脂肪酸の多い食品、塩分・添加物の多い加工食品は控えめにしましょう。
代わりに、低GI・高食物繊維食品、良質なタンパク質と健康的な脂質、野菜や魚などを積極的に摂り入れてください。食べる順番や調理方法を工夫し、規則正しい食事を心がけ、外食時や旅行時にも食事管理を意識しましょう。
定期的な血糖値の自己測定も、効果的な食事療法に役立ちます。毎日の食事を楽しみながら、糖尿病と上手に付き合っていきましょう。
以下の記事では、血糖値を下げるために効果が期待できる生活習慣の改善ポイントを7つに分けて詳しく紹介していますので、実践の参考にしてください。
>>血糖値を下げる7つの効果が期待できる方法!生活習慣改善のポイント
Boon-How Chew, Pauline Siew Mei Lai, Dhashani A/P Sivaratnam, Nurul Iftida Basri, Geeta Appannah, Barakatun Nisak Mohd Yusof, Subashini C Thambiah, Zubaidah Nor Hanipah, Ping-Foo Wong, Li-Cheng Chang.Efficient and Effective Diabetes Care in the Era of Digitalization and Hypercompetitive Research Culture: A Focused Review in the Western Pacific Region with Malaysia as a Case Study.Health Syst Reform,2025,11,1,p.2417788-
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