突然の体調不良に襲われたとき、あなたは心臓の病気の可能性を考えたことがありますか?心筋梗塞は心臓の血管が詰まって心臓の筋肉が壊死してしまう病気で、日本でも年間約20万人もの人が発症しています。心筋梗塞は早期に適切な治療を受けることで、生存率が改善される可能性があります。
この記事では、心筋梗塞の症状と原因、治療法や予防方法について解説します。心臓の健康を守るために、ぜひ参考にしてください。
心筋梗塞は、冠動脈の閉塞により心臓の筋肉(心筋)への血液供給が途絶え、心筋細胞が壊死する深刻な病態です。まず心臓の基本的な構造と機能を知ることが重要です。
心臓は、全身に血液を送り出す重要なポンプの役割を果たしています。心臓自体も適切に機能するために、酸素や栄養の供給が必要です。その役割を担っているのが「冠動脈」と呼ばれる特殊な血管です。冠動脈は心臓の表面を網の目のように覆い、常に新鮮な血液を心筋に供給しています。
心筋梗塞が発生すると、以下のような過程を経ます。
令和2年(2020年)、日本における死因の第1位は悪性新生物(癌)で27.6%、第2位に15.0%で心疾患が続き、41%が心不全、33%が虚血性心疾患(急性心筋梗塞:15%、その他の虚血性心疾患:18%)でした。(日本循環器病研究センター)
心筋梗塞の深刻さと早期治療の重要性を示しています。心筋梗塞は発症から治療開始までの時間が予後を大きく左右します。適切な処置を受けることで、心筋のダメージを最小限に抑え、生存率を向上させます。
胸痛、息切れ、冷や汗などの症状が現れた場合は、躊躇せずに救急車を要請しましょう。早期発見と適切な治療を受けることで、心筋梗塞の予後が改善する可能性があります。
心筋梗塞の主な原因は動脈硬化であり、過程を理解することは予防と早期介入の観点から重要です。動脈硬化のプロセスは以下のとおりです。
上記のように動脈硬化が進むことで、心筋梗塞の原因となります。
心筋梗塞の発症メカニズムは以下のとおりです。
上記のように動脈硬化が進むことで、心筋梗塞が発症します。
心筋梗塞と狭心症は、どちらも冠動脈の血流障害に起因する心疾患ですが、病態と重症度に重要な違いがあります。心筋梗塞と狭心症の主な違いは以下のとおりです。
狭心症は、冠動脈の動脈硬化などにより血管が狭くなり、一時的に心筋への血流が不足することで胸痛などの症状が現れます。完全な閉塞ではないため、安静やニトログリセリンの服用で症状は比較的速やかに改善します。
心筋梗塞は冠動脈が完全に閉塞し、心筋への血液供給が遮断されることで発症します。心筋細胞が壊死し始め、安静にしても痛みは持続します。冠動脈が完全に閉塞している状態は生命を脅かす緊急事態であり、迅速な医療介入が不可欠です。
狭心症を繰り返し経験している患者さんは、将来的に心筋梗塞を発症するリスクが高いです。冠動脈内のプラーク(脂肪の塊)が破裂し、血栓形成を引き起こすことで生じるためです。狭心症と診断された場合でも、決して軽視せず、医師の指示に従って適切な治療と生活習慣の改善を継続しましょう。
狭心症について詳しく知りたい方は以下の記事もご確認ください。
>>狭心症について
心筋梗塞は、病態や影響を受ける心筋の部位によって分類がさまざまです。心筋梗塞の分類は、適切な治療方針の決定や予後の予測に重要な役割を果たします。
心筋梗塞は、心電図検査でのST部分の変化にもとづいて大きく2つに分類されます。
心筋梗塞は、壊死が生じた心臓の部位によっても分類されます。
上記の分類は、心臓のどの部分の機能が低下しているかを示し、治療方針や予後の予測に役立ちます。心筋梗塞の種類を正確に診断し、適切な治療法を選択することは、患者さんの予後を大きく左右します。心電図検査や血液検査、心臓超音波検査や冠動脈造影検査などを組み合わせた総合的な評価が重要です。患者さんの年齢、全身状態、併存疾患なども考慮に入れ、各患者さんに最適な治療戦略を立てることが求められます。
心臓は、全身に血液を送るポンプの役割をしています。心臓の筋肉に栄養や酸素を届けているのが、冠動脈と呼ばれる血管です。心筋梗塞の主な症状は以下のとおりです。
心筋梗塞の代表的な症状が、胸の痛みや圧迫感です。締め付けられるような痛みや圧迫されるような痛み、焼けるような痛みのなど感じ方は人それぞれです。安静時や睡眠中など、特別なきっかけがなく痛みが起こることが多くみられます。
心筋梗塞になると胸の痛みだけでなく、吐き気や嘔吐を伴うことがあります。吐き気や嘔吐は、心臓の機能低下に伴い、自律神経のバランスが乱れることが原因と考えられています。症状の現れ方は個人差があり、胸痛と同時に現れる場合や、胸痛に続いて現れる場合などがあります。
心臓は、体中に酸素を送り届けるために休むことなく働き続けています。心筋梗塞になると、心臓のポンプ機能が低下するため、体に十分な酸素が行き渡らなくなります。体は酸素不足を補おうとして、心臓をより速く鼓動させようとして動悸が起こります。息切れは、血液中の酸素不足によって引き起こされます。
動悸と息切れの特徴は以下のとおりです。
階段の上り下りや、普段は楽に歩ける距離でも息切れを感じる方も注意が必要です。以下の記事では、動悸の原因や症状について詳しく解説しているので、合わせてご確認ください。
>>動悸について
体は緊急事態を乗り切ろうと、自律神経の働きによって大量の汗をかきます。「冷や汗」と呼ばれるもので、顔面蒼白や手足の冷えを伴うこともあります。突然大量の汗をかき始めたり、体が冷えたりします。強い胸痛や吐き気とともに現れる場合には注意が必要です。
心筋梗塞の痛みは心臓だけでなく、肩や腕・背中・顎など体のさまざまな部位に広がることがあります。心臓と他の部位の神経がつながっているために起こる現象で、関連痛と呼ばれています。左肩や左腕に痛みが出ることが多いですが、右側にも現れることがあります。痛みの部位はさまざまであり、左肩、左腕、背中、顎、歯などが痛むこともあります。
痛みは、心臓の痛みとは別に、または心臓の痛みと同時に現れることがあります。
私たちの心臓は寝ている間も、ご飯を食べているときも、毎日休むことなく全身に血液を送り届けるために働いています。
心臓の筋肉に栄養と酸素を届けているのが、心臓を取り巻くように走っている「冠動脈です。ここでは心筋梗塞の原因とリスク因子について解説します。
心筋梗塞の主な原因は、動脈硬化によって冠動脈が狭くなる「冠動脈狭窄」です。動脈硬化は、血管の壁にコレステロールや脂肪などが溜まることで血管が硬く狭くなってしまう病気です。血液の通り道が狭くなって、心筋梗塞を発症しやすくなります。
高血圧は、血管に常に高い圧力がかかっている状態です。高血圧が続くと血管の壁が傷つきやすくなり、コレステロールなどが溜まりやすくなって動脈硬化を進行させてしまうのです。
高コレステロールは、血液中のコレステロール値が高い状態です。コレステロールは細胞膜やホルモンの材料となる重要な物質ですが、過剰になると血管の内側に溜まり動脈硬化を引き起こす原因となります。
高血圧や高コレステロールは自覚症状が出にくいことが多く、健康診断などで指摘されても「自分は大丈夫だろう」と軽く考えてしまいがちです。心筋梗塞だけでなく脳梗塞や狭心症などのリスクも高まります。
以下の記事では高血圧の原因を詳しく解説しています。
>>なぜ高血圧に? 様々な原因を詳しく解説
タバコの煙に含まれるニコチンは血管を収縮させ、血圧を上昇させる作用があります。タバコを吸うと血管がキュッと縮まってしまうのです。一酸化炭素は、血液中の酸素を減らし、心臓に負担をかけます。
ストレスは目に見えませんが、体にさまざまな影響を与えます。ストレスを感じると、交感神経が優位になり、血管を収縮させ、血圧を上昇させる原因になります。ホルモンバランスが乱れ、動脈硬化のリスクを高める可能性も指摘されています。
糖尿病は、血液中のブドウ糖値(血糖値)が高くなる病気です。高血糖の状態が続くと、血管の内壁が傷つきやすくなり動脈硬化を進行させてしまいます。高血圧や高脂血症などの生活習慣病を合併しやすいため、心筋梗塞のリスクがさらに高まります。
肥満、特に内臓脂肪が蓄積した「内臓脂肪型肥満」は、動脈硬化だけでなく、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病のリスクを高めます。糖尿病や肥満はの病気は心筋梗塞の大きなリスク因子となるため、肥満の解消は心筋梗塞の予防に重要です。
以下の記事では糖尿病の原因や症状について解説しています。
>>糖尿病
加齢は動脈硬化の最大の危険因子です。年齢を重ねるにつれて血管の弾力性が失われ、硬くもろくなるため動脈硬化が起こりやすくなります。
心筋梗塞は、遺伝的な要因も関係していると考えられています。家族に心筋梗塞や狭心症などの心臓病を患った人がいる場合は、遺伝的に動脈硬化を起こしやすい体質である可能性があり注意が必要です。
心筋梗塞の診断に使われる主な検査は以下のとおりです。
心電図は心臓が動くときに発生する電気信号をキャッチして、グラフのように表示する検査です。心筋梗塞が起きると心臓の筋肉に酸素が届かなくなり、電気信号が変化します。心電図検査では、電気信号の波形を見て心筋梗塞の診断を行います。
血液検査では採血した血液の中に、心臓の細胞が傷ついたときに出てくる特定の物質(心筋逸脱酵素)が含まれているかどうかを調べます。心筋梗塞になると心臓の筋肉が傷つき、トロポニンやCK-MBなどの心筋逸脱酵素が血液中に放出されます。血液検査では、心筋逸脱酵素の量を測定することで心筋梗塞の有無や重症度を評価します。
心エコー検査は、超音波を使って心臓の動きや構造を調べる検査です。心臓の壁の厚さや動き弁の開閉状態などを確認することができ、心筋梗塞によって心臓の機能がどれくらい低下しているかを評価することができます。
心筋シンチグラフィーは、ごく微量の放射性物質を注射し心臓の筋肉に集積する様子を特殊なカメラで撮影する検査です。心筋梗塞を起こした部分だけでなく、周りの筋肉への影響や心臓全体の血流状態を評価できます。
心臓カテーテル検査と冠動脈造影は、心電図や血液検査よりさらに詳細な検査となります。心臓カテーテル検査は足の付け根や腕の血管から細い管(カテーテル)を挿入し、心臓まで進めて検査を行い心臓の状態を直接観察します。
カテーテルを通して造影剤を流し込み、心臓の血管(冠動脈)の様子をレントゲンで撮影します。冠動脈造影では狭窄や閉塞などの血管の異常を見つけ出し、心筋梗塞の原因となっている血管の状態を正確に把握できます。
心筋梗塞の治療法や期間について、わかりやすく解説していきます。
心筋梗塞が疑われる場合、病院では迅速な治療が開始されます。まずは痛みを和らげ、心臓の負担を減らすために、酸素吸入や薬剤投与などの緊急処置が行われます。 緊急処置は心臓への負担を最小限に抑え、心臓の悪化を防ぐための処置です。
緊急処置と並行して、冠動脈の詰まりを解消するための治療が行われます。 代表的な治療法は、冠動脈形成術(カテーテル治療)です。 冠動脈形成術は足の付け根や腕の血管から細い管(カテーテル)を挿入し、詰まっている冠動脈まで進めてバルーンカテーテルと呼ばれる風船状の器具で血管を広げる治療法です。
再狭窄を防ぐために冠動脈ステント(血管を内側から支えるため柱)が留置されることもあります。
心筋梗塞の治療には血栓の形成を防ぎ、血管の詰まりを予防するために薬物療法も重要な役割を担います。 抗血小板薬と抗凝固薬は、再発予防のための「縁の下の力持ち」といえます。
抗血小板薬は血小板と呼ばれる血液の細胞が固まるのを防ぎ、血栓を予防する薬です。 血小板は血管が傷ついたときに集まり血液を固めますが、心筋梗塞の場合、過剰に働いて血管を詰まらせることがあります。 抗血小板薬は血小板の働きを抑え、血管が詰まるのを防ぎます。
抗凝固薬は、血液を固まりにくくして血栓を防ぐ薬です。 血液が固まりやすくなっていると血管の中で血栓ができやすくなってしまい、心筋梗塞のリスクが高まります。服用期間は患者さんの状態や薬の種類によって異なるため、医師の指示に従ってください。
心筋梗塞後には心臓の負担を軽減し、症状の悪化を防ぐためにベータ遮断薬やACE阻害薬などの薬が処方されることがあります。 ベータ遮断薬やACE阻害薬は心臓が過剰に働くのを抑え、心臓を休ませる効果があります。
ベータ遮断薬は心臓の拍動数を抑え、心臓の負担を軽減する薬です。 心臓は興奮するとドキドキと速く拍動しますが、ベータ遮断薬は興奮を抑えることで、心臓の拍動数をゆっくりにします。ACE阻害薬は血管を拡張して血圧を下げ、心臓の負担を軽減する効果があります。 血管は緊張すると細くなって血液が流れにくくなり、ACE阻害薬は緊張を和らげることで血管を広げます。
降圧薬やコレステロール低下薬は、心筋梗塞の再発を予防するために重要です。降圧薬には血管を拡張して血圧を下げる薬や、心臓の働きを抑えて血圧を下げる薬などさまざまな種類があります。高血圧は血管に負担をかけ、動脈硬化を進展させる原因です。 降圧薬は血圧を下げることで、血管への負担を軽減し動脈硬化の予防・改善効果を発揮します。
コレステロール低下薬には、スタチンと呼ばれる薬が広く使われています。 スタチンは肝臓でコレステロールが作られるのを抑え、血液中のコレステロール値を下げる効果があります。 コレステロールは細胞膜やホルモンなどの材料となる重要な物質ですが、血液中に過剰に存在すると血管壁に溜まり、動脈硬化を引き起こします。 スタチンはコレステロールを低下させることで、動脈硬化の予防・改善効果を発揮します。
心筋梗塞の予防方法と、発症後の予後について解説します。
心筋梗塞の予防には、生活習慣の改善が重要です。生活習慣病は、心筋梗塞のリスクを高めるので、以下のポイントを意識して改善しましょう。
脂肪分の多い食事は、血管を詰まらせる原因です。野菜や果物を中心とした、バランスの取れた食事を心がけましょう。ハンバーガーやフライドポテトばかりではなく、サラダやスープなども一緒に食べるように心がけてください。
塩分の摂りすぎは高血圧のリスクを高めるため、減塩を心がける必要があります。塩分を摂りすぎると、血液中の水分量が増え、血管に圧力がかかります。1日の塩分摂取量の目標は男性は7.5g未満、女性は6.5g未満です。
青魚に多く含まれるDHAやEPAやオリーブオイルなどに含まれるオレイン酸は、善玉コレステロールを増やし悪玉コレステロールを減らす働きがあります。野菜や海藻・きのこなどに多く含まれる食物繊維は、コレステロールの吸収を抑え血糖値の上昇を緩やかにする効果があります。
適度な運動は血行を促進し、心臓の働きを活発にする効果があります。運動不足はポンプの機能を低下させてしまうため、意識的に体を動かすことが重要です。激しい運動である必要はありません。1日30分程度のウォーキングや軽いジョギングなど、無理なく続けられる運動を選びましょう。
睡眠不足はストレスホルモンの分泌を促し、血圧や心拍数を上昇させるため心臓に負担がかかります。睡眠中は、心臓も休息を取っています。毎日7時間程度の質の高い睡眠を確保しましょう。
タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させ血圧を上昇させるため心筋梗塞のリスクを高めます。タバコは動脈硬化を進行させる大きな要因です。禁煙は心筋梗塞の予防だけでなく、さまざまな病気のリスクを減らす効果があります。
心筋梗塞の予後は、発症から治療開始までの時間、梗塞の範囲、患者さんの年齢や全身状態、併存疾患の有無など、さまざまな要因に影響されます。
心筋梗塞後の予後に影響を与える主な要因は以下のとおりです。
糖尿病や高血圧、慢性腎臓病などの併存疾患がある場合、予後が悪化する傾向もあります。適切な再灌流療法(PCI、血栓溶解療法など)を受けた患者さんは、予後が改善しやすいです。適切な治療と継続的なケアにより、多くの患者さんが回復し、質の高い生活を送れます。
心筋梗塞のリスクが高い場合は医師の指示に従い、薬物治療や定期的な検診を受けましょう。
高血圧や糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病がある場合は、薬物治療が必要となる場合があります。生活習慣病は動脈硬化を進行させる大きなリスク因子となるため、適切な薬物療法によって生活習慣病をコントロールすることが重要です。
定期的な検診を受けることで心筋梗塞のリスク因子を早期に発見し、適切な治療や生活習慣の改善を行えます。健康診断では血液検査や血圧測定、心電図検査などを行い心筋梗塞のリスクを評価します。
心筋梗塞は一刻を争う緊急事態です。冠動脈の閉塞から心筋へのダメージが始まるまでの時間は短く、迅速な対応が生死を分けます。以下、心筋梗塞が疑われる際の適切な対処法を説明します。
心筋梗塞の予防と早期発見のために、定期的な健康診断を受けることが重要です。胸痛や息切れなどの症状が現れた場合は、早めに医療機関を受診してください。
心筋梗塞は冠動脈が詰まることで心臓の筋肉が酸素不足になり、壊死してしまう病気です。代表的な症状は以下のとおりです。
原因は、高血圧や高コレステロール、喫煙やストレスなどさまざまです。治療法には、緊急処置・冠動脈形成術・薬物療法・心臓リハビリテーションなどがありますが、普段からの予防を意識しましょう。心筋梗塞の予防には、バランスの取れた食事や適度な運動、禁煙やストレス管理などが重要です。定期的な検診を受け、心筋梗塞のリスクを下げましょう。気になることがあれば、当院までご相談ください。
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