大石内科循環器科医院

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軽度認知症障害

物忘れが最近増えた? 大切な約束を忘れてしまうことや、以前はスムーズにできていたことが難しくなってきたと感じていませんか?もしかしたら、それは軽度認知症障害(MCI)のサインかもしれません。

高齢化社会を迎えた日本において、MCIは決して珍しいものではありません。85歳以上ではなんと約3人に1人がMCIであるとの報告もあります。単なる加齢によるもの忘れとは異なり、MCIは日常生活に支障をきたす可能性があり早期発見と適切な対応が重要です。

この記事では、MCIの定義、診断基準、主な症状から、原因、検査方法、そして効果的な対策や治療法までを分かりやすく解説します。

自分の状況と照らし合わせながら、MCIについて学び、不安を解消し、将来への備えを始めてみませんか? あなた自身の健康を守る第一歩を踏み出しましょう。

MCIスクリーニング検査プラスは、認知症の一つアルツハイマー病の前段階であるMCI (軽度認知障害)のリスクを調べる検査です。くわしくはこちらの記事をご覧ください。

軽度認知症障害とは?定義と診断基準

「軽度認知症障害」という診断名に、不安や戸惑いを感じている方もいらっしゃるかもしれません。高齢になると物忘れが増えたり、新しいことを覚えるのが難しくなったりすることはよくあります。しかし軽度認知症障害は、単なる加齢に伴うもの忘れとは少し異なります。

この章では軽度認知症障害とはどのような状態なのか、どのように診断されるのかを具体的な例を交えながらわかりやすく説明します。ご自身の状態やご家族の状態について少しでも疑問や不安があれば、ぜひ読み進めてみてください。

軽度認知症障害の概要

軽度認知症障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)は、加齢に伴うもの忘れよりも進んでいますが、認知症と診断されるほどではないグレーゾーンの状態です。

例えば昨日の夕食のおかずを思い出せない、スーパーに買い物に行ったのに何を買おうとしていたか忘れてしまう、といった物忘れが頻繁に起こるようになったとします。このような物忘れが同年代の方と比べて明らかに多い場合、軽度認知症障害の可能性が考えられます。

最初は「ただの物忘れだろう」と軽く考えていた方が、後に軽度認知症障害と診断されるケースがありました。70代の男性Aさんは、趣味のゴルフのスコアを忘れてしまうことが増え、最初は「年のせいかな」と思っていました。しかし次第に財布や鍵の置き場所を忘れるようになり、家族に心配されて受診されました。検査の結果、Aさんは軽度認知症障害と診断されました。

軽度認知症障害には、大きく分けて2つのタイプがあります。1つは、記憶力の低下が目立つ「健忘型MCI」、もう1つは、記憶力以外の認知機能、例えば、判断力や計画力、言語能力などの低下が目立つ「非健忘型MCI」です。健忘型MCIは、アルツハイマー型認知症に移行しやすいタイプと考えられており、特に注意が必要です。

タイプ主な症状具体的な例
健忘型MCI物忘れが目立つ昨日の夕食を思い出せない、約束を忘れる、置き場所を忘れる、新しい情報が覚えられない、同じことを何度も聞く・話す
非健忘型MCI記憶力以外の認知機能の低下(判断力、計画力、言語能力、視空間認知など)判断ミスが増える、複雑な作業が難しくなる、言葉が出てこない、道に迷いやすくなる

例えば、60代の女性Bさんは家計簿の計算ができなくなったり、料理の段取りが分からなくなったりするようになりました。Bさんは物忘れはそれほどひどくなかったのですが検査の結果、非健忘型MCIと診断されました。

診断基準と診断方法

軽度認知症障害の診断は、問診、認知機能検査、画像検査などを通して総合的に行います。

問診では医師が患者さん本人やご家族から、日常生活での困りごとや症状について詳しく話を聞きます。「最近、もの忘れが多くなったと感じますか?」「周りの人から、変化を指摘されたことはありますか?」といった質問を通して、認知機能低下の程度や日常生活への影響を把握します。

認知機能検査では記憶力、注意力、言語能力などを測るための様々なテストを行います。例えば「100から7ずつ引いていく」といった計算問題や、短い物語を記憶して復唱するテストなどがあります。患者さんによっては、これらのテストに抵抗を感じる方もいらっしゃいますが、正確な診断のためにご協力いただくことが重要です。

また、画像検査(MRIやCT)を行うことで、脳の萎縮や脳血管障害などの有無を確認することもあります。これらの検査結果は、他の病気との鑑別や、軽度認知症障害のタイプを特定する上で重要な情報となります。

症状の初期段階と進行の特徴

軽度認知症障害の初期症状は非常に軽微であることが多く、周りの人にも気づかれにくい場合があります。例えば「人の名前が思い出せない」「約束を忘れてしまう」「財布や鍵などの置き場所がわからなくなる」といった症状が現れます。これらの症状は、加齢によるもの忘れと区別がつきにくいため、軽度認知症障害の早期発見は難しいです。

軽度認知症障害が進行すると、日常生活にも支障が出てきます。例えば、料理、掃除、洗濯などの家事ができなくなったり、金銭管理や服薬管理が難しくなったりします。また、時間や場所の見当識障害が現れることもあり、道に迷ったり、日付が分からなくなったりすることもあります。

軽度認知症障害は、必ずしも認知症に進行するわけではありません。適切な対策を行うことで、認知機能の低下を遅らせたり、進行を食い止めたりすることができる場合もあります。早期発見、早期対応が重要ですので、少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診することをお勧めします。

軽度認知症障害の主な症状

「軽度認知症障害」と診断されると、将来への不安で押しつぶされそうになる方もいるかもしれません。物忘れや判断力の低下は誰にでも起こりうることですが、軽度認知症障害は単なる加齢変化とは異なります。この章では、軽度認知症障害の主な症状を、私の診療経験から得た具体的な例を交えながら説明します。

記憶力低下とその影響

軽度認知症障害の最も特徴的な症状は記憶力の低下です。しかし加齢に伴うもの忘れと軽度認知症障害によるもの忘れはどのように違うのでしょうか?

例えば、昨日の夕食のおかずを思い出せないのはよくあるもの忘れです。しかし、夕食を食べたこと自体を忘れてしまう、あるいは食べたのに食べていないと言い張る場合は、軽度認知症障害によるもの忘れの可能性があります。最初は「ただの物忘れだろう」と安易に考えていた方が、後に軽度認知症障害と診断されるケースが少なくありません。

また、新しい情報を覚えるのが難しくなることもあります。例えば、新しく覚えた人の名前や、最近起きた出来事をすぐに忘れてしまうといったことが頻繁に起こるようになります。70代の男性Dさんは、趣味の囲碁教室に通っていましたが、新しく覚えた戦法をすぐに忘れてしまうようになり、教室に通うのが億劫になってしまいました。Dさんは、囲碁仲間との交流を楽しみにしていただけに、この変化に大変ショックを受けていました。検査の結果、Dさんは軽度認知症障害と診断されました。

このような記憶力低下は、日常生活にも様々な影響を及ぼします。約束を忘れてしまったり、道に迷ってしまったり、同じことを何度も聞いたり話したりするようになることもあります。

集中力や注意力の変化

軽度認知症障害では、集中力や注意力が低下することもあります。読書やテレビの内容が頭に入ってこなかったり、話の途中で何を話していたのか忘れてしまったりといった経験はありませんか?

例えば60代の女性Eさんは、長年勤めていた会社の事務作業にミスが増え上司から注意を受けるようになりました。Eさんは以前はテキパキと仕事をこなしていただけに、この変化に戸惑いを感じていました。また、家でも料理中に火加減を忘れて焦がしてしまうことが増えました。これらの変化は、集中力や注意力の低下を示唆しています。後にEさんは、軽度認知症障害と診断されました。

集中力や注意力の低下は、日常生活において様々な問題を引き起こします。例えば、車の運転中に注意散漫になり、事故を起こしてしまうリスクが高まります。また、仕事や家事においても、ミスが増えたり、作業効率が低下したりする可能性があります。

日常生活への支障

軽度認知症障害の症状が進行すると、日常生活にも様々な支障が現れます。料理、掃除、洗濯などの家事が難しくなったり金銭管理ができなくなったり、身だしなみに気を遣わなくなったりすることがあります。

70代の男性Fさんは以前は趣味のガーデニングを楽しんでいましたが、最近は庭の手入れを怠るようになり庭は荒れ放題になっていました。また服装にも無頓着になり、以前のように身だしなみを整えることが少なくなりました。Fさんのご家族は、これらの変化に気づき心配して受診を勧めたところ、軽度認知症障害と診断されました。

また、社会活動への参加意欲が低下することもあります。今まで楽しんでいた趣味に集中できなくなったり、人と会うのが面倒になったり外出する機会が減ったりすることがあります。60代の女性Gさんは、社交的で友人とのランチや旅行を楽しんでいましたが、最近は誘いを断ることが多くなりました。Gさんは、「疲れるから」と理由を話していましたが実際には、会話についていけなくなったり場所や時間を間違えたりすることが増え不安を感じていたのです。

これらの症状、人によって現れ方が異なり、また必ずしもすべての症状が現れるわけではありません。しかし日常生活に支障が出ている場合は、軽度認知症障害の可能性を考え早めに医療機関を受診することが大切です。早期に発見、適切な対応をすることで、進行を遅らせたり症状を改善したりできる可能性があります。

軽度認知症障害の原因とリスクファクター

軽度認知症障害は将来の認知症発症のリスクを高める状態として、多くの方が不安を抱えていることでしょう。ご自身の状態を理解し適切な対策を講じるためには、原因やリスクファクターについて正しく知ることが重要です。

軽度認知症障害は、単一の要因で引き起こされるのではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。大きく分けて遺伝的要因と環境要因があり、これらが相互に作用することでリスクが高まります。

遺伝的要因と環境要因

遺伝的要因は、親から子へと受け継がれる遺伝子の影響です。アルツハイマー病に関連する遺伝子を持つ方は、軽度認知症障害のリスクが上昇することが知られています。しかし、遺伝的要因を持つすべての人が軽度認知症障害を発症するわけではありません。

ご両親がアルツハイマー病であったにもかかわらず、80歳を超えても認知機能が全く問題ない方もいらっしゃいます。逆に、家族歴がないにもかかわらず、比較的若い年齢で軽度認知症障害と診断される方もいます。遺伝的要因はあくまでリスクの一つであり、発症を決定づけるものではないのです。

環境要因は、生活習慣や周囲の環境など、後天的な影響です。高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、血管を傷つけ、脳への血流を阻害する可能性があります。脳への酸素供給が不足することで、認知機能の低下につながりやすくなるのです。

また、喫煙も血管に悪影響を与え、軽度認知症障害のリスクを高めることが示唆されています。長年ヘビースモーカーだった方が、60代で軽度認知症障害と診断された方もいます。禁煙は認知機能の低下予防に大きく貢献するため、喫煙習慣のある方は禁煙を強くお勧めします。

さらに社会的な孤立や活動性の低下も、軽度認知症障害のリスクファクターとして挙げられます。人とコミュニケーションをとったり新しいことを学んだりする機会が少ないと、脳の刺激が不足し認知機能の低下を招きやすくなります。

要因の分類具体的な例軽度認知症障害への影響の可能性
遺伝的要因家族にアルツハイマー病の方がいる、アルツハイマー病関連遺伝子を持つアルツハイマー病の発症リスク上昇、軽度認知症障害への移行リスク増加
環境要因高血圧、糖尿病、脂質異常症脳血管障害による脳損傷、脳への血流低下による酸素供給不足、認知機能低下
環境要因喫煙血管収縮、脳への酸素供給不足、認知機能低下
環境要因過度の飲酒脳細胞への直接的なダメージ、ビタミンB1欠乏症による神経障害、認知機能低下
環境要因運動不足脳血流の低下、生活習慣病のリスク増加、認知機能低下
環境要因社会的な孤立、活動性の低下脳への刺激不足、認知機能低下
環境要因頭部外傷脳損傷、認知機能低下
環境要因睡眠不足、質の悪い睡眠脳の疲労蓄積、認知機能低下
環境要因ストレス脳機能への悪影響、うつ病などの精神疾患発症リスク増加、認知機能低下
環境要因バランスの悪い食生活、栄養不足脳機能に必要な栄養素の不足、認知機能低下

健康状態との関連性

軽度認知症障害は、全身の健康状態と密接に関連しています。例えば、うつ病は意欲や集中力の低下、記憶力の障害といった認知機能の低下を引き起こすことがあります。うつ病が改善すると認知機能も回復することがあるため、精神的な健康を保つことは認知症予防の観点からも重要です。

また、甲状腺機能低下症は、物忘れ、集中力の低下、思考力の低下などを引き起こし、軽度認知症障害と似た症状を示すことがあります。適切なホルモン補充療法を行うことで症状が改善することがあります。

ビタミンB12欠乏症も、認知機能の低下を引き起こす可能性があります。ビタミンB12は神経機能の維持に不可欠な栄養素であり、不足すると神経障害や認知機能障害が現れることがあります。

年齢と軽度認知症障害の関係

年齢を重ねるにつれて、脳の老化は誰にも避けられません。軽度認知症障害は、加齢とともに発症率が増加する傾向があります。85歳以上では約3人に1人が軽度認知症障害であるとの報告もあります。

しかし、高齢だからといって諦める必要はありません。適切な生活習慣を維持することで、認知機能の低下を遅らせたり、進行を抑制したりすることが可能です。バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠、社会参加などを心がけ、脳を活性化させることが大切です。

ある方は、90歳を超えても読書や旅行を楽しんでいらっしゃいます。年齢に縛られず積極的に生活することで、認知機能を維持し、充実した日々を送ることができるのです。

軽度認知症障害の検査方法と診断プロセス

「もしかして、軽度認知症障害…?」と不安を抱き、勇気を出してこのページをご覧になっている方もいるかもしれません。 ご自身の状態を理解し、適切な対策を始めるためにも、検査は重要な一歩です。検査を受けることに抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、検査の内容やプロセスを事前に知っておくことで、不安を軽減できるはずです。

この章では軽度認知症障害の検査方法と診断プロセスについて、専門医の立場から具体的な例を交えながら詳しく解説します。検査を受ける際の心構えや結果の解釈についても触れていきますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

一般的な検査手法

軽度認知症障害の検査は、多角的な視点から総合的に行われます。問診、認知機能検査、画像検査、血液検査など、それぞれの検査が重要な役割を担っています。まるで探偵が様々な手がかりを集めて事件の真相を解明していくように、医師はこれらの検査結果をパズルのように組み合わせ、正確な診断を導き出していきます。

  • 問診: これは医師と患者さん、そしてご家族との対話から始まる、最も基本的な検査です。医師は、患者さんの日常生活における具体的な変化や困りごと、過去の病歴、現在の健康状態などについて詳しく尋ねます。

例えば、「最近、スーパーで買いたいものを忘れてしまうことが増えた」「テレビのリモコンの置き場所が分からなくなる」といった些細な変化でも、医師にとっては重要な手がかりとなります。

また、患者さん本人には自覚がないものの、ご家族から「同じ話を何度も繰り返すようになった」「以前はできていた家事ができなくなった」といった証言が得られることもあります。問診では、ご家族の観察も重要な情報源となるのです。

ご本人は「年のせいだから」と軽く考えていたものの、ご家族の気づきによって早期に診断がついたケースがいくつもあります。

  • 認知機能検査: これは、記憶力、注意力、判断力、言語能力、視空間認知といった様々な認知機能を客観的に評価するための検査です。代表的なものとして、「ミニメンタルステート検査(MMSE)」や「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」などがあります。

これらの検査では、「100から7を順番に引いていく」「時計の絵を描いてください」「3つの言葉を覚えて後で復唱してください」といった課題を通して、認知機能のレベルを測定します。まるで脳の体力測定のようなものです。

検査時間は30分程度で、特別な準備は必要ありません。検査結果は点数で表され、年齢や教育レベルなどを考慮して総合的に判断されます。

  • 画像検査: これは、MRIやCTといった装置を用いて脳の状態を画像で確認する検査です。脳の萎縮の程度や、脳梗塞、脳腫瘍といった器質的な病変の有無を確認することができます。

例えば、アルツハイマー型認知症では、記憶を司る海馬という部分が萎縮することが知られています。画像検査によって海馬の萎縮が確認されれば、アルツハイマー型認知症の可能性が高くなります。

また、脳血管性認知症では、脳梗塞によって脳組織が損傷している様子が画像に写し出されます。画像検査は、認知症の種類を鑑別する上でも重要な役割を果たすのです。

  • 血液検査: これは、血液中の成分を分析することで、全身の健康状態や栄養状態をチェックする検査です。甲状腺機能低下症やビタミンB12欠乏症など、認知機能の低下を引き起こす可能性のある病気が隠れていないかを調べます。

例えば、甲状腺ホルモンが不足すると、物忘れや集中力の低下といった症状が現れることがあります。ビタミンB12が不足すると、神経障害や認知機能障害を引き起こす可能性があります。血液検査によってこれらの病気が発見されれば、適切な治療によって認知機能の改善が期待できるのです。

軽度認知症障害の対策と治療方法

軽度認知症障害と診断された後、「これからどうなるんだろう…」と不安な気持ちでいっぱいになる方もいるかもしれません。将来認知症へと進行してしまうのではないかと考えると、不安で夜も眠れない方もいるでしょう。

しかし、軽度認知症障害は、適切な対策と治療によって、症状の進行を遅らせたり、場合によっては改善したりすることも可能です。

この章では、薬物療法と非薬物療法の選択肢、そして日常生活での工夫やサポート方法について、専門医の立場から具体的な例を交えながらわかりやすく解説します。軽度認知症障害と前向きに向き合い、より充実した日々を送るための一助となれば幸いです。

薬物療法の選択肢

軽度認知症障害の薬物療法として、現在、コリンエステラーゼ阻害薬という種類の薬が用いられることがあります。

これは、脳の中で記憶や学習といった認知機能に重要な役割を果たしているアセチルコリンという物質の分解を抑えることで、認知機能の改善を期待する薬です。代表的な薬としては、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなどがあります。

これらの薬は、認知機能の低下を遅らせる効果が期待できますが、すべての患者さんに効果があるわけではありません。効果には個人差があり、全く効果がない方もいれば、劇的に改善する方もいます。薬物療法によって症状が改善し、趣味の社交ダンスを再開できた方もいます。
とある70代の方は軽度認知症障害と診断された当初、物忘れがひどく趣味の社交ダンスも諦めかけていました。しかしドネペジルを服用したところ、物忘れが改善し社交ダンスも再び楽しめるようになったのです。

一方で薬の効果が実感できず、服用を中止する患者さんもいます。ある60代の方は軽度認知症障害と診断され、リバスチグミンを処方されました。しかし数ヶ月服用しても効果を実感できず、副作用の吐き気にも悩まされていたため、服用を中止しました。

このように、薬物療法の効果や副作用には個人差があるため、医師とよく相談しながら、自分に合った薬を選択することが重要です。また、副作用が現れた場合は、我慢せずに医師に伝えるようにしましょう。

非薬物療法の有効性

軽度認知症障害の治療において、薬物療法と同じくらい重要なのが非薬物療法です。非薬物療法は、薬を使わずに、生活習慣の改善やトレーニングなどを通して認知機能の維持・向上を目指す治療方法です。

非薬物療法にはさまざまな種類があり、主なものとしては、認知リハビリテーション、生活習慣の改善、運動療法などがあります。

  • 認知リハビリテーション: 脳を活性化させ、認知機能の維持・向上を図るトレーニングです。パズルや計算問題、記憶ゲーム、読み書き、音読など、さまざまな方法があります。例えば、毎日決まった時間に計算ドリルを解いたり、記憶ゲームアプリで遊んだり、新聞や本を音読したりすることで、脳を刺激することができます。認知リハビリテーションによって、日常生活での記憶力や判断力が改善した方もいます。
  • 生活習慣の改善: バランスの取れた食事、適度な運動、質の高い睡眠は、脳の健康維持に不可欠です。例えば、野菜や魚を積極的に摂り入れた食事を心がけ、1日30分程度のウォーキングを習慣化し、寝る前にカフェインを摂らないようにすることで、脳の機能をサポートすることができます。
  • 運動療法: ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は、脳への血流を促進し、認知機能の改善に効果的です。週に3回、30分程度のウォーキングを継続することで、記憶力や集中力が改善した方もいます。

日常生活での工夫とサポート方法

軽度認知症障害の方は、日常生活の中で様々な困難に直面することがあります。物忘れがひどくなったり、判断力が低下したりすることで、今までできていたことができなくなることもあります。しかし、ちょっとした工夫や周囲のサポートによって、これらの困難を軽減し、より快適に生活を送ることが可能になります。

工夫の例説明具体的な例
メモ帳やカレンダーの活用約束や買い物リストなどをメモしておき、記憶の負担を減らす。買い物に行く前に、買いたいものをメモしておいたり、病院の予約日をカレンダーに記入しておく。スマホのカレンダーアプリやリマインダー機能を活用するのも効果的です。
整理整頓を心がける物の置き場所を決めておくことで、探し物をする手間を省き、ストレスを軽減する。財布や鍵、携帯電話などの置き場所を決め、必ず同じ場所に置くようにする。洋服や書類なども整理整頓し、必要な時にすぐに取り出せるようにしておく。
ルーティンを作る毎日の生活に一定のリズムを作り、規則正しい生活を送ることで、脳への負担を減らす。毎日同じ時間に起床し、食事をし、就寝する。起床後すぐにカーテンを開けて日光を浴びたり、軽い体操をするのも効果的です。
家族や周囲のサポート家族や周囲の人は、患者さんのペースに合わせて、必要な時に必要なサポートを提供する。患者さんが困っている時に、優しく声をかけ、一緒に解決策を考える。患者さんの気持ちを尊重し、無理強いしないことが大切です。

これらの工夫以外にも、地域包括支援センターなどの相談窓口を利用することで、専門家によるアドバイスやサポートを受けることができます。軽度認知症障害は、早期に適切な対策と治療を開始することで、症状の進行を抑制し、生活の質を維持することが可能です。焦らず、ゆっくりと、自分にあった方法を見つけていきましょう。

まとめ

軽度認知症障害(MCI)は、加齢によるもの忘れより症状が進行しているものの、認知症と診断されるほどではない状態です。主な症状は記憶力低下、集中力・注意力の低下、日常生活への支障(家事、金銭管理など)です。健忘型MCIと非健忘型MCIの2種類があり、前者はアルツハイマー型認知症への移行リスクが高いです。

診断は問診、認知機能検査(MMSEなど)、画像検査(MRI、CT)、血液検査などを通して行われます。早期発見が重要で、少しでも気になる症状があれば医療機関を受診しましょう。

原因は遺伝的要因(アルツハイマー病関連遺伝子など)と環境要因(生活習慣病、喫煙、社会的な孤立など)の複雑な相互作用です。 うつ病や甲状腺機能低下症などもMCIと似た症状を示すため、鑑別が必要です。

治療は薬物療法(コリンエステラーゼ阻害薬など)と非薬物療法(認知リハビリテーション、生活習慣改善、運動療法など)があります。 薬の効果には個人差があり、副作用にも注意が必要です。日常生活では、メモやカレンダーの活用、整理整頓、ルーティン化、そして周囲のサポートが重要です。MCIは必ずしも認知症に進行するわけではなく、適切な対策で進行を遅らせたり、症状を改善できる可能性があります。

当院は物忘れ外来を行っております。また。認知対応型通所介護センター(デイサービス)も併設しておりますので、気になる症状等がある方は当院にご相談ください。





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