大石内科循環器科医院

静岡市葵区鷹匠2-6-1 新静岡駅より 徒歩3分 駐車場あり

静岡市葵区鷹匠2-6-1
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慢性腎不全

慢性腎不全とは慢性的に腎機能が低下する「慢性腎臓病(CKD)」が進行して、特に腎臓のろ過能力が正常時の30%以下になった状態をさす病名です。

ただし腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、腎障害がかなり進行しないと自覚症状が現れません。腎不全が進行すると就寝中の頻尿、尿の色の変化(透明・赤色・コーラ色など)、むくみ、息切れ、疲れやすくなるなどの症状が現れます。

腎不全の主な原因は糖尿病性腎症、高血圧による腎硬化症、慢性糸球体腎炎、多発性のう胞腎といった腎臓の病気のほか、生活習慣病や加齢・喫煙・遺伝など様々な因子によって引き起こされます。

腎機能の低下が進んで尿として老廃物を出すことができなくなると、体内に毒素が溜まるため骨がもろくなる、心血管疾患の発病リスクを高めるなど、命に関わる危険な状態を招く恐れがあります。
さらに慢性腎不全に進行すると回復が見込めないケースがほとんどで、腎機能が著しく低下すると「人工透析」などの腎代替療法が必要になります。そのため、腎臓病は「早期発見・早期治療」が重要となります。

健康診断・人間ドックで指摘された方、ご自身の尿が気になり始めた方、ご家族に腎臓病の方がいて心配のある方など、お気軽に当院までご相談ください。

腎臓のしくみと働き

腎臓は「血液のろ過装置」として、人が生きていく上で欠かせない大事な役割を担っています。

腎臓のしくみ

腎臓は背中側の腰骨の少し上あたりに左右1個ずつあり、健康な腎臓ではそら豆のような形をしており、握りこぶしくらいの大きさです。

腎臓内には、毛糸玉のような毛細血管の塊である糸球体(しきゅうたい)と尿細管から構成される血液のろ過装置の役割を果たす「ネフロン」が1つの腎臓につき約100万個備わっています。

(図)腎臓と糸球体

腎臓の主な働き

腎臓には、「尿を作る」以外にも様々な働きがあります。

1.老廃物・余分な水分をろ過して、体外へ排出(排泄)する

腎臓では糸球体で血しょうをろ過して最初にできる尿(原尿)として、1日あたり150L作られています。そのうち99%は尿細管で再吸収され、約1%(約1.5L)の不要物が尿として排泄されます。

2.体液および電解質、酸塩基の調節

体内の水分やナトリウム、カリウム、カルシウム、リン・塩素といった電解質の濃度・量を調整して、一定に保ちます。また、血液を弱アルカリ性に保つため代謝に伴って作られる酸を「尿」として排泄したり、重炭酸イオン(アルカリ性物質)を放出したりします。

3.血圧コントロール

血圧を一定に調節する酵素「レニン」を分泌します。

4.ビタミンDの活性化

カルシウムやリンのバランスを整え、正常な骨を維持するのに必要なホルモン「ビタミンD」を活性化させます。

5.造血ホルモン(エリスロポエチン)を分泌して、赤血球を作る

造血を促すホルモンエリスロポエチンを分泌して、赤血球を作ります。

慢性腎不全とは?

何らかの原因により、腎機能の低下が長期間持続している場合を「慢性腎臓病」と呼びます。

さらに腎機能低下が進行して、腎臓のろ過能力が正常時の30%以下になると「慢性腎不全」となります。慢性腎不全になると、基本的に失われた腎機能の回復は難しくなります。

慢性腎不全(慢性腎臓病)になりやすい人

以下の項目に思い当たる数が多いほど、慢性腎不全(慢性腎臓病)になりやすい傾向があります。何か気になることがありましたら、お気軽に当院までご相談ください。

  • 生活習慣病やメタボリックシンドロームの指摘を受けた
    糖尿病・高血圧症・脂質異常症・高尿酸血症・肥満・喫煙などの生活習慣病やメタボリックシンドロームは、腎臓病機能の低下を引き起こす危険因子となります。
  • 高齢者
    腎機能は、加齢によって自然に低下していくことが分かっています*1。さらに加齢に伴い、高血圧などの合併症の割合も増えていくため、腎機能の低下が起こりやすいです。
    *1(参考)年齢別腎機能別腎機能低下速度|日本老年医学会雑誌51巻5号(2014:9)
  • 家族に腎臓病の人がいる
    同じような食生活や生活習慣を送ることから、体質が似やすいので要注意です。
  • 人間ドック・健康診断で「たんぱく尿」を指摘された
    たんぱく尿は腎臓に何らかの障害が起きているときに出ます。また、たんぱく尿が出ること自体が腎臓の負担となって病気の進行を早めるため、すみやかに医療機関を受診しましょう。
  • 腎機能異常や腎形態異常がある
    左右の腎臓がくっついている「馬蹄腎(ばていじん)」、腎臓に多数ののう胞ができる「多発性のう胞腎(のう胞腎)」など、腎臓の形・数・構造・大きさに異常がある場合には、腎機能の低下が起こりやすくなります。
  • 喫煙者
    喫煙は、たんぱく尿の増加、腎機能障害の悪化を引き起こすとされます。
  • 過去に心臓病・腎臓病になったことがある
    心臓と腎臓は互いに影響し合う関係なので、どちらかが機能低下を起こすと、もう一方も影響を受けて機能が低下します。これを「心腎連関症候群」と呼びます。
  • 生活習慣の乱れ
    睡眠・運動不足、ストレス、不規則な生活、過度な飲酒などをすると、腎臓に負担がかかります。

慢性腎不全の症状

個人差がありますが、初期の腎不全では自覚症状が現れず、健康診断や他の病気の検査などで初めて病気に気づくことがあります。
腎臓病が進行すると、次のような症状が現れます。

  • 尿量の変化
    腎不全になると尿を再吸収できなくなるため、尿量が増加します。さらに腎不全が進むと、原尿を作れなくなり、尿量が減少していきます。
    ・夜間の尿量増加(就寝中のトイレ回数増加)
    日中にナトリウム排泄ができず、夜間に血圧を上げてナトリウム排泄しようとするため、寝ているときのトイレ回数が増えます。尿の濃縮機能障害が起こると、尿量が増え、尿の色が透明になることがあります。
  • むくみ
    指輪や靴がきつくなります。尿が体外に排泄されなくなると、体内の水分量が増加して体に溜まっていくので、2~3kg以上体重が増加します。腎臓原因のむくみは左右対称にむくみ、指で10秒以上強く押すと、皮膚が凹みます。最初に足首のくるぶしあたりに現れます。体重が5kg以上増えると、むくみは全身に広がって、肺の中に水が溜まる場合もあります。
  • 高血圧
    血液中の水分も増えるので血圧が上がります。心臓に負担がかかり、息切れ・疲れやすいといった症状が現れます。
  • 貧血
    腎機能が低下すると、作り出せる造血ホルモン「エリスロポエチン」が減少することで、赤血球が減ります。赤血球が減ると、貧血・立ちくらみ・動悸(どうき)・息切れが現れます。
  • 尿毒症
    腎不全によって体に毒素が溜まると、以下のような症状が現れます。
  • だるさ・倦怠感(けんたいかん)
    腎機能の低下が著しく、だるさを伴うようになった場合には「腎代替療法」を検討する時期です
  • かゆみ
    腎機能が低下すると、毒素など身体にとって不要な老廃物を尿として排出できなくなるので、血液中・皮膚に溜まっていきます。皮膚の受容体を刺激するため、「かゆみ」を感じやすくなります。
  • 吐き気
  • 食欲不振
  • 頭痛
  • 呼吸困難
    進行すると、けいれん・意識障害を起こすことがあります。

慢性腎不全の原因

慢性腎不全は、主に腎臓の病気によって引き起こされますが、生活習慣病なども腎臓病を引き起こす要因になります。透析導入に繋がりやすい、特に注意したい原因には次のようなものがあります。
※原因となる病気によって、予後(病気の経過・結末)は異なります。

  • 糖尿病性腎症
    人工透析導入の約43%を占める原因疾患です。糖尿病の合併症のひとつで、高血糖が腎機能を低下させるため血糖コントロールが十分でないと10年~15年で発症します。初期では自覚症状もなく尿たんぱくが出るのみですが進行すると大量の尿たんぱくが出るようになり、むくみや疲れやすくなります。
  • 高血圧性腎症(腎硬化症)
    高血圧により腎臓の血管が動脈硬化を引き起こして血流が悪くなることから、糸球体が次第に硬化していく病気です。
    病気の進行が遅く、軽度の尿たんぱくがみられる「良性腎硬化症」と、急速な腎機能の悪化だけでなく眼底・心臓などにも異常がみられる「悪性腎硬化症」があります。進行すると、画像検査で腎臓の萎縮がみられます。
  • 慢性糸球体腎炎
    慢性的に糸球体の炎症が起こっている病気の総称で、IgA腎症、膜性腎症などが含まれます。血液のろ過装置である「糸球体」が炎症を起こすので、ろ過処理がうまくできないことから、血液中のたんぱく質や赤血球が尿中に漏れ出ます。血尿やたんぱく尿が1年以上続きます。若い方の腎臓病に多い原因です。
  • 多発性のう胞腎
    遺伝性の高い腎疾患です。左右両方の腎臓に多数ののう胞(水が溜まった袋状のもの)が発生して、少しずつ大きくなる病気です。のう胞があっても40歳頃までは、ほとんど無症状で経過しますが次第に腎機能が低下して60歳頃までに約半数の方が末期腎不全まで進んで人工透析に至ります。

そのほか、腎不全の前段階である「慢性腎臓病」の発症に大きく影響を与えると考えられている要因として、次の2点があります。

生活習慣の乱れ
  • 肥満
  • 運動不足
  • 過度の飲酒喫煙
  • ストレス
生活習慣病

生活習慣病は動脈硬化に繋がりやすく、腎臓病を進行させやすい傾向があります。

  • 糖尿病
  • 高血圧
  • 脂質異常

生活習慣の乱れや生活習慣病を改善することが、腎臓病の予防となります。

慢性腎不全の検査・診断基準

当院では、日本腎臓学会による最新の慢性腎臓病(CKD)診療ガイドに準拠した検査・診断を行っています。

腎不全の検査

尿検査

血尿・たんぱく尿・尿糖・比重(≒密度)、pH(ペーハー/ピーエイチ:酸性・アルカリ性の酸塩基バランス)などを調べます。特に「たんぱく尿・血尿」は慢性腎臓病の早期発見に繋がります。

  • たんぱく尿
    たんぱく尿が出ていること自体が腎臓の障害となり腎臓の働きを低下させると分かっています。ただし、健康な人でも風邪を引いたときや運動の後では、たんぱく量の増加が起こります。
  • 微量アルブミン尿
    糖尿病初期に現れるたんぱく質のひとつに「アルブミン」があります。
  • 尿潜血(尿中に血液が混じっていること)
    ひと目で血が混ざっているのが分かる状態以外に見た目では分からなくとも、尿に赤血球が混じっているケースがあります。陽性だった場合には、尿の沈殿物を顕微鏡で調べる検査を追加で行うことがあります。

血液検査

腎機能が低下すると、尿で排泄されるはずの物質が血液中に溜まっていくため、血液検査では「腎機能の異常」「障害の程度」が分かります。主に血清クレアチニン(Cr)と尿素窒素(BUN)の値を確認します。

  • 血清クレアチニン
    クレアチニンは毎日筋肉で作られている老廃物で、腎機能を評価する際に重要な成分です。なお筋肉量に比例するため、筋肉が多い人は濃度が高く筋肉が少ない人は低くなります。
    【正常値】男性1.2 mg/dl以下、女性1.0mg/dl以下
  • 尿素窒素(にょうそちっそ)
    体内でエネルギーとして利用される「たんぱく質」の後にできる老廃物で、通常は尿として排泄されますが腎機能が低下していると血液中に残ります。
    ※食事で摂った「たんぱく質」の量に左右されるため、腎臓が悪くなくても過剰に「たんぱく質」を摂れば上がります。ほかにカロリー不足で体内のたんぱく質が使われた場合や、脱水や消化管出血・悪性腫瘍などがあるときにも増加します。逆にたんぱく質不足や肝不全の場合には数値が低くなります。
    【正常値】20mg/dl以下

そのほか腎機能障害が認められるなど必要に応じて、以下の検査を行う場合があります。
※必要に応じて、対応病院をご紹介します。

画像診断

腎臓の形、尿の通り道の異常を確認します。腎萎縮(じんいしゅく)、多発性のう胞腎などが分かります。

  • 腹部単純レントゲン検査
  • 腹部超音波検査(エコー検査)
  • 経静脈性腎盂(じんう)造影検査
    造影剤を点滴などで血液中に投与して、腎臓から尿管に造影剤が流れている様子をレントゲン撮影する検査です。腎機能や腎臓・尿管・膀胱の形などを調べます。
  • アイソトープ検査
    放射性物質を注射して、腎臓を通過する様子を調べます。

腎生検

腎臓の一部を採取して、顕微鏡で異常を調べる検査です。他の検査で慢性腎臓病の原因が分からない場合などに行います。

慢性腎不全の診断

尿検査および血液検査から、腎臓の重症度を調べて診断しています。
以下の①②のどちらか、もしくは両方が3か月以上続くと慢性腎臓病と診断します。

  1. 腎障害の所見
    • たんぱく尿(0.15g/gCr以上)
    • アルブミン尿(30mg/gCr以上)
  2. 糸球体ろ過量(GFR)が60ml/分/1.73m2未満
    ※「eGFR(推算糸球体ろ過量)」から、評価することもあります。
    eGFR値は、血液検査でクレアチニン値、性別、年齢から判断します。健康な方のGFR値は100ml/分/1.73m2前後です。

慢性腎不全のステージ

慢性腎不全では、腎機能によって病態を5つのステージに分けています。
※下記表は目安です。なおeGFR値は筋肉量の影響を受けるため、筋肉が多い方や痩せて少ない方は正確に評価できないことがあります。詳しくは医師までご相談ください。

(表)慢性腎臓病のステージ

慢性腎不全の治療

慢性腎臓病では治療で腎機能を回復させることは難しいため「残っている腎機能の維持」を基本とし、少しでも人工透析療法への移行を遅らせ心血管疾患などの合併症予防を目的としています。
薬物療法と並行して食事療法によって、腎臓の負担を下げるような生活習慣の改善を目指します。

食事療法

「食事療法」を中心に生活習慣の改善を進めていきます。慢性腎臓病患者様の食事では、「たんぱく質」「塩分」「カリウム」の摂取量に注意が必要となります。患者様によっては「リン」「水分」制限が必要となることもあります。
※摂取制限の程度は、慢性腎臓病の原因となる病気や合併症の有無、年齢により個人差があります。

なお、当院では管理栄養士による「食事・栄養指導」を行い、お一人お一人の身体の状況や栄養状態に応じたご提案をしています。
つい栄養素の摂取制限に気を取られてしまい、カロリー摂取が疎かになってしまうケースもよくあります。特にご高齢の方では、低栄養が問題となります。
小さな実践の積み重ねが長期的な食生活のコントロールに繋がっていきますので、お気軽にご相談ください。

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1.塩分を減らす

私たちは誰でも塩分を取れば、のどが渇いて水分を取りたくなるようになっています。塩分を過剰摂取すると、血液量・体重(水による)の増加、むくみ、血圧の上昇を引き起こすため、腎臓に負荷がかかります。

特に慢性腎臓病患者様は、高血圧で腎臓への負担が増すと腎臓障害がさらに悪化し、ろ過しきれずに体液・血液量が増えて、ますます高血圧を引き起こす、という悪循環が生まれる可能性があります。

腎疾患の食事療法では、「食塩管理」が基本中の基本となります。厚生労働省の報告によると、1日あたりの塩分摂取量は平均10.1g*2となっていますが、治療ガイドラインによると、慢性腎臓病の方では1日あたり、3g~6g未満とされています。

※実際の制限の程度は患者さんの重症度(ステージ)によって異なりますので、詳しくは医師にご確認ください。
*2(参考)令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要 P.23|厚生労働省

ただし急激に厳しい減塩を行うと体調を崩したり、味気なくて食欲が落ちたりすることもあります。調理方法など工夫して、少しずつ塩分摂取量を落とすようにすると良いでしょう。

塩分制限のポイント
  • ほとんどの食品に塩分が使われていることを理解する
    塩・醤油・みそなどの調味料を全く使わなく調理しても、食品自体に含まれているため1日2g程度は摂取しています。
  • 調味料は、計量スプーンで量って使用する
    • コショウ/七味/生姜/レモン/しそなど、香辛料・香味野菜・かんきつ類で味を付けたり、酢・ケチャップ・マヨネーズなどは減塩調味料に変えたりする
    • 外食や加工食品などを控える
      2015年より加工食品には食品成分表示として「塩分相当量」の記載が義務化されています
  • 醤油やソースなどは「かける」のではなく、「つけて」使う
  • 麺類の汁は残す
    汁は全部残せば、2~3gの減塩となります。

2.たんぱく質を減らす

尿にたんぱく質が含まれていること自体が、腎臓の組織に障害を与え腎臓の働きを低下させます。慢性腎臓病の進行を食い止めるには、少しでもたんぱく尿を減らす必要があります。
通常、標準体重1kgあたり0.6~0.8gに制限します。
※実際の制限値は、患者様ごとの尿たんぱく排泄量・クレアチニン値によって異なります。

たんぱく質制限のポイント
  • 主食(ご飯・パン・麺類など)をでんぷん製品や低たんぱく食品に切り替える
    ※ご飯180g(お茶碗の8分目程度まで盛った場合)を低たんぱく質食品に替えると、たんぱく質を4g以上減らすことができる上しっかりとした量のご飯を食べられます。減らした分、おかずに回せます。
    (例)普通のご飯(白米)180g……たんぱく質 4.5g
       低たんぱくご飯(たんぱく質1/25)……たんぱく質 0.2g
       でんぷん米……たんぱく質 0.1g
  • 良質なたんぱく質を摂る
    肉類・卵・魚類・乳製品・豆類など良質なたんぱく質には、体では作れない「必須アミノ酸」が多く含まれます。
  • 不足したエネルギーは、糖質・油脂類で補う
    たんぱく質を制限すると、エネルギー不足になりがちです。そのため、不足分は、たんぱく質をあまり含まない糖質(でんぷん・砂糖など)、油脂類から補いましょう。春雨・くずきりなどのデンプン製品や揚げ物・炒め物・マヨネーズなどを使った料理がおすすめです。

3.カリウムを減らす

カリウムは体に重要な電解質の一つで、血圧の調整や酸塩基バランスの調整などを行っています。腎機能が低下しているとカリウムが尿から排出されず、血中のカリウム濃度が高くなる「高カリウム血症」を引き起こすことがあります。
血性カリウム地5.5mEq/L以下を目標として、1日当たりのカリウム摂取量を1500mg以下に制限します。

カリウム制限のポイント
  • 生野菜や果物・海草類・豆類・いも類などにはカリウムが多く含まれるので、水にさらす、茹でると良い
    ※ドライフルーツは生の果物よりもカリウムが多いので要注意!
  • カリウムは水に溶ける性質があります。野菜・いも類などは小さく(薄く)切って水にさらしたり、茹でた汁を捨てたりすると調理前と比べてカリウム量は20~30%減となります。
  • 缶詰の果物がおすすめ
    果物にはカリウムが多く含まれているので、「缶詰の果物」がおすすめです。
    ※缶詰内のシロップには、カリウムが溶け出ています。飲まないようにしましょう。

4.リン・水分を減らす

症状に合わせて、摂取制限が必要な場合があります。

リンは、肉(特にレバー)、魚、卵、乳製品(牛乳・チーズなど)といった「たんぱく質」の多い食品に含まれています。リンの少ない食品を選んだり、食品添加物入りの加工食品はできるだけ避けたりした方が無難です。リンが多く含まれるものは、ゆでこぼしたり水にさらしたりしてから調理すると良いでしょう(ゆで汁・さらした水は捨てる)。

合わせて、適度に運動する、疲れを溜めない、感染症を予防する、体の冷えに注意する、嗜好品の摂取はほどほどにする、といったことも心がけましょう。
当院では患者さんとよく話し合いながら、無理なく治療を進めていけるよう心がけています。

運動療法

継続的な運動は、慢性腎臓病患者さんのQOL(生活の質)・ADL(日常生活動作)を改善させると考えられています。肥満の解消だけでなく、糖尿病や高血圧といった生活習慣病の発症・悪化を抑える効果も期待できます。

さらに近年では適度な有酸素運動によって、尿たんぱくが減少したなどの効果がみられたとする報告もあります*3。無理のない範囲で積極的に運動療法を取り入れましょう。

*3(参考)慢性腎臓病(CKD)への運動療法のエビデンス|日児腎誌 Vol.25 No.1

※患者様の年齢・合併症の有無・体調などによって、運動が推奨されない場合もあります。必ず医師と相談してから始めることが大切です。

当院では、インストラクターによる運動教室を開催しています。
運動強度(レベル)は身体のバランスを整える軽い運動から、全身の筋肉と関節を使ったやや強度を上げた運動まで、患者様の体力づくりをサポートしています。

また、患者様の身体状態・ご要望に合わせた個別トレーニングのご提案も行っております。お気軽にご相談ください。

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運動療法のポイント
  • 運動療法を始める前には、必ず医師のメディカルチェックを受ける
    人によっては運動が適切ではない場合があります。医師と相談の上、適切な運動量を設定することが大事です。
  • 運動を始める前・後には、準備運動や整理運動を行う
    急な運動は、逆に身体を痛める要因になります。運動後もストレッチなど行うとよいでしょう。
  • 1日20分以上を目安に、継続して運動を行う
    週2~3回以上を目安に、少しずつでも続けることが大切です。
    1回10分を3回など複数回に分けて運動する、「できるだけ歩く」「階段を使う」など日常生活に軽い運動を取り入れるなど、工夫すると続けやすいです。
  • 運動の強さは中強度の「有酸素運動」や「レジスタンス運動」がおすすめ
    中強度程度(息が弾む程度・少しきつい程度)の運動療法が推奨されています*4。中強度レベルでは、血圧上昇が軽度であり、血中の乳酸蓄積(≒筋肉痛)もほとんどありません。
    (例)有酸素運動……早歩きのウォーキング、軽いジョギング、水中運動、自転車など
    レジスタンス運動……ダンベル・ゴムチュブなどを使った筋肉トレーニング、スクワット・腕立て伏せなど
     *4(参考)腎臓リハビリテーションガイドライン|日本腎臓リハビリテーション学会
  • 今まで運動習慣がなかった人は、少しずつ運動量を増やす
    いきなり激しい運動を初めても、血圧上昇や怪我など逆効果なケースがあります。掃除、洗車、子供と遊ぶ、自転車で買い物に行くなどなど、少しずつ身体活動量を増やすことから始めると良いでしょう。

薬物療法

残念ながら、今のところ慢性腎臓病を治す特効薬はありません。
しかし、降圧薬・リン吸着薬・カリウム吸着薬・利尿剤などのお薬を使って、慢性腎臓病の原因となっている病気の治療や現れる症状を軽くしたり、慢性腎臓病の進行や合併症を予防したりすることは可能です。
患者さんの血圧・血糖レベル・合併症の有無など総合的に判断して、組み合わせて使用します。

腎臓を守り血圧を下げる薬(降圧剤)

糖尿病の合併がある方/軽度たんぱく尿を認める方の第一選択薬となります。
慢性腎臓病では血圧管理が非常に重要であり、進行を遅らせるためには血圧を130/80mmHg以下に管理する(可能であれば、さらに下げる)ことが必要です。
降圧剤の中には、尿たんぱくを減らす効果を持つ薬もあります。

  • ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
    ※妊娠中の使用は不可。ACE阻害薬よりも副作用が少ないとされます。
  • ACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)
    ※妊娠中の使用は不可。

上記のARB、ACE阻害薬など「RAS阻害薬」は、すべての腎臓病ステージで投薬可能です。しかしステージ4および5、高齢者の場合では投薬開始時に腎機能の悪化、高カリウム血症が起こる可能性もあるので少量から開始します。

慢性腎炎に対する治療薬

ネフローゼ症候群・IgA腎症など、たんぱく尿が現れる糸球体腎炎には、抗炎症作用のあるお薬を使用します

  • 副腎皮質ステロイド
  • 抗血小板薬
    抗血小板薬の中には、たんぱく尿を減らす効果を持つ薬もあります。

腎性貧血に対する治療薬

慢性腎臓病により造血ホルモン(エリスロポエチン)が分泌されにくくなると、血液が十分に作られないため貧血になります(腎性貧血)。
貧血が進行すると倦怠感が現れたり、心臓への負担をかけるため心不全を悪化させたりすることがあります。ガイドラインの中で、血中ヘモグロビン濃度を10~12g/dlに保つよう推奨されています。 

  • 赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)
    エリスロポエチンの不足を補う注射薬(1~2週間に1回)です。
  • HIF-PH阻害薬
    エリスロポエチン産生を促す内服薬です。

老廃物を排出する機能を助ける薬

腎機能低下により、血液中の老廃物が体内に溜まると、生命の危険がある「尿毒症」を引き起こします。

  • 経口吸着炭素製剤
    原因となる尿毒症毒素を腸内で吸着して便とともに排泄させるお薬で、腎機能の低下を抑えます。
    ※毒素以外にも同時に服用した薬を吸着する可能性があります。他の薬を服用する際には30~60分以上ずらす必要があるので、飲み忘れに注意が必要です。

体液量・イオンバランス調節を助ける薬

腎機能が低下すると、カリウムやリンの排泄も低下します。

  • カリウム吸着薬
    腸内でカリウムを吸着して、便と共に排泄させるお薬です。
    ※副作用として、便秘になりやすいことがあります。
  • リン吸着薬
    食物中のリンにくっついて、便排泄させるお薬です。

骨を作る機能を助ける薬

腎臓では、カルシウム吸収に必要な「活性型ビタミンD」を作っています。
腎機能の低下でビタミンDの活性化ができず、さらに血清リン値の上昇を防ぐため、のどから副甲状腺ホルモン(PRH)が活発に分泌されるようになると、骨代謝(骨を壊して新しい骨を作る「骨の新陳代謝」)の回転が高まり、骨がもろくなります。

また、骨の変化以外にも血管の石灰化、脳梗塞や狭心症・心筋梗塞といった命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。

  • 活性型ビタミンD製剤
    PTH分泌を抑制するお薬です。
  • カルシウム受容体作動薬
  • リン吸着剤
  • 炭酸カルシウム製剤

むくみを取る薬

慢性腎臓病が進行してくると、尿によって老廃物を排出できなくなり、体中に水分が貯留するため、「むくみ」が出てきます。むくみを取るには食事による塩分制限のほか、お薬を使用することがあります。

  • 利尿剤
    尿を強制的に出すお薬です。

酸性に傾いた血液を弱アルカリ性に戻す薬

人間の体は弱アルカリ性(ph7.4程度)に保たれています。しかし腎機能の働きが悪くなると、酸性に傾きます。この「アシドーシス状態」になると骨がもろくなったり、栄養状態が悪化したり腎機能低下に影響を及ぼす場合があります

  • 重炭酸ナトリウム(重曹)
    血液を弱アルカリ性に戻すお薬です。

なお自己判断で薬を中止したり、減らしたりすることは大変危険です。近年では、配合薬も登場しています。内服薬が多い方、また薬で気になる点がある方は医師までお気軽ご相談ください。

末期腎不全の治療

腎機能が正常時と比べて10%以下、もしくは薬でコントロールできない高度の尿毒症症状、体液過剰、高カリウム血症などとなったら透析または腎移植を準備します。

透析および腎移植は、相補的な役割があります。患者様の病態だけでなく、ライフスタイル・性格・体調などから総合的に選択することが大切です。

透析療法

人工透析とは、人工的に血液を浄化して腎臓を代行する治療法です。

透析をすることで生命維持できるようになり、ある程度普通に生活できるようになります。しかし腎機能を回復させたり、腎機能を完全に補ったりするものでありません。腎移植をしない限り生涯継続する必要があります。また長期継続によって、合併症を引き起こすこともあります。
人工透析には以下の2種類あります。

  • 血液透析
    腕の血管に針を刺してポンプから血液を体外に取り出し、透析器(ダイアライザ)にかけて尿毒素を除去するなど血液をきれいにしてから体内に戻す方法。
    透析治療を行うためには、太い血管が必要です。事前に手首近くの動脈と静脈を繋ぎ合わせる「シャント手術」を行います。血液透析は標準スケジュールとして週3回、1回3~5時間かけて行います。
  • 腹膜透析
    お腹にカテーテル(管)を入れて、カテーテル経由で透析液を出し入れする方法です。治療開始前に、透析液を出し入れするためのカテーテルを腹腔内に埋め込む手術が必要です。腹膜透析液の交換は通常1日4回、1回あたり約30分です。夜間の就寝中に機械で透析液の交換を行えるシステム(APD)もあります。

腎移植

家族・配偶者などから2つある腎臓のうち1つを提供してもらう「生体腎移植」と、脳死・心臓死された方から腎臓を提供してもらう「献腎移植」があります。

よくあるご質問

①むくみが現れてきた場合、水分を控えた方が良いのでしょうか?

まずは「塩分」を控えましょう。
塩分摂取量が増えると体は水分を取り込んで塩分を薄めようとするため、のどが渇きます。水分量が増えると「むくみ」として現れることがあります。
また、体内の水分量が増えすぎると血管が圧迫されるため、血圧が上昇して心臓に負担をかけます。心不全などの病気が原因となって、むくみが生じることもあるので、むくみが全身に現れた場合には速やかにご相談ください。

②「慢性腎不全」「慢性腎臓病」「IgA腎症」「ネフローゼ症候群」と、様々な病名がありますが、何が違うのですか?

「慢性腎臓病」という大きな枠組みの中に、腎臓病の原因になっている病名、現れている現象、腎臓の状態などで色々な呼び方があります。

  • 慢性腎臓病(CKD)
    慢性に経過するすべての腎臓病の総称で、腎障害と糸球体ろ過量(GFR値)に基づいて定義された、近年使用されている新しい概念です。
  • 慢性腎不全
    ゆっくり時間をかけて、腎臓のろ過機能が正常の30%以下になった状態を指した病名です。
  • IgA腎症
    腎臓病の原因となっている「慢性糸球体腎炎」をさらに分類した病名です。
  • ネフローゼ症候群
    極端に尿たんぱくが出ている状態であり、病名ではなく状態を指します。

③ 慢性腎臓病となっても、食事療法や薬物療法で抑え続け、将来的に人工透析にならずにいられるものなのでしょうか??

患者様ごとに、慢性腎臓病の原因となる疾患や状態によっても違いますので「必ず人工透析を回避できる」とは断言できません。しかし早期からしっかりと治療に取り組んでいけば、腎機能の低下を遅らせることは期待できます。
腎臓は、一度壊れると元に戻らないからこそ、早期発見・早期治療開始が重要です。
腎臓や尿で気になることがありましたら、早めに当院へご来院ください。

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