足の痛みやしびれ、冷えなど、足の不調に悩んでいませんか?もしかしたら、それは「下肢閉塞性動脈硬化症」かもしれません。
この病気は足の血管が老化し、血液の流れが悪くなることで起こります。放置すると、歩行困難や足の潰瘍、最悪の場合、壊疽による足の切断に繋がることも。
しかし適切な治療と生活習慣の改善によって、症状の進行を抑制したり、改善したりできる可能性があります。
この記事では、下肢閉塞性動脈硬化症の基礎知識から、予防策、治療法まで詳しく解説します。自分の足の状態が気になる方は、ぜひ読み進めてみてください。
「下肢閉塞性動脈硬化症」…なんだか難しそうな響きですよね。 簡単に言うと、足の血管が老化して血液が流れにくくなる病気です。 私たちの体中に張り巡らされた血管は、全身に栄養や酸素を運ぶための重要な役割を担っています。 しかし、この血管が動脈硬化によって硬く狭くなってしまうと、血液の流れが悪くなり様々な体の不調が現れます。 今回は、その中でも特に足に症状が現れる「下肢閉塞性動脈硬化症」について、詳しく解説していきます。
下肢閉塞性動脈硬化症は、足の動脈硬化が原因で足の血管が狭くなったり、詰まったりしてしまう病気です。 動脈硬化は、血管にコレステロールや脂肪などが溜まって血管が硬く狭くなる状態を指します。 これは、水道管に例えるとわかりやすいでしょう。 水道管の内側に汚れが溜まると、水の勢いが弱くなってしまいますよね? これと同じように足の血管が動脈硬化で狭くなると、血液がスムーズに流れなくなり、様々な症状を引き起こすのです。
下肢閉塞性動脈硬化症の初期症状として多く見られるのが、足の痛みやしびれです。 特に歩いている時や運動をしている時に症状が現れやすく、少し歩くと足が痛くなり休むと痛みが引くという「間欠跛行(かんけつはこう)」と呼ばれる状態がみられます。 これはまるで「足がこむら返りを起こしたような痛み」と表現する患者さんもいらっしゃいます。
症状が進行すると安静時にも足が痛んだり冷たくなったり、しびれたりするようになります。 さらに重症化すると足の皮膚の色が変化したり、潰瘍(かいよう:皮膚の表面が深くえぐれた状態)ができたり最悪の場合、壊疽(えそ:組織が腐ってしまう状態)を起こすこともあります。
重症度 | 症状 |
---|---|
軽症 | しばらく歩くと足が痛む(間欠跛行) |
中等症 | 安静時にも足が痛む、冷える、しびれる |
重症 | 足の色が変わる、潰瘍や壊疽ができる |
下肢閉塞性動脈硬化症の最大の原因は、動脈硬化です。 動脈硬化は、加齢とともに誰にでも起こる老化現象の一つですが、それに加えて、喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、ストレス、遺伝なども発症リスクを高める要因となります。
これらの要因によって、血管の内側にコレステロールや中性脂肪、カルシウムなどが溜まりやすくなり、血管が硬くもろくなってしまうのです。 その結果、血管が狭窄(きょうさく:狭くなること)したり、閉塞(へいそく:詰まること)したりして、下肢閉塞性動脈硬化症を発症すると考えられています。
下肢閉塞性動脈硬化症の検査では、まず、医師が患者さんの足の脈を触診したり、聴診器で血流の音を確認したりします。 聴診器を当てると、「ザーザー」という音が聞こえることがあり、これは血管が狭くなっているサインかもしれません。 さらに、ABI(足関節上腕血圧比)検査、超音波検査、血管造影検査などの画像検査を行います。
ABI検査は、腕と足の血圧を測定し、その比率を調べることで、足の血管の詰まり具合を評価する検査です。 これは、腕の血圧と比較して、足の血圧が低い場合に、足の血管が狭くなっている可能性を示唆します。 超音波検査では、超音波を使って血管の状態を画像で確認します。 これにより、血管の狭窄や閉塞の程度をリアルタイムに把握することができます。 血管造影検査は、カテーテルという細い管を足の血管に通して造影剤を流し込み、レントゲン撮影を行うことで、血管の狭窄や閉塞の程度を詳しく調べる検査です。 これにより、血管の病変の場所や程度を正確に診断することができます。
下肢閉塞性動脈硬化症の治療は、症状や重症度によって異なります。 軽症の場合は、生活習慣の改善や薬物療法が中心となります。 具体的には、禁煙、運動療法、食事療法、薬物療法などがあります。
例えば禁煙は血管を拡張し血流を改善する効果が期待できますし、適度な運動は新しい血管の成長を促し血流を改善する効果があります。 食事療法では、コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控え、野菜や果物を中心としたバランスの取れた食事を心がけることが大切です。 薬物療法では、抗血小板薬や血管拡張薬などが処方され、血栓の形成を防いだり、血管を広げて血流を改善したりします。
中等症以上の場合は、血管内治療や外科手術が必要になることがあります。 血管内治療は、カテーテルという細い管を足の血管に通して、風船で血管を広げたり、ステントという金属製の網状の筒を留置して血管を広げたりする治療法です。 外科手術には、バイパス手術などがあります。 バイパス手術は、詰まった血管を迂回する新たな血管を作る手術です。 これは、心臓のバイパス手術と同様の考え方で、足の血流を回復させることを目的としています。
どの治療法が適切かは、患者さんの状態や希望などを考慮して、医師とよく相談して決めることが大切です。 また、治療後も再狭窄や再閉塞を防ぐため、生活習慣の改善や定期的な検査など、長期的な管理が必要となります。
下肢閉塞性動脈硬化症と診断されると、不安な気持ちになるかもしれません。しかし、適切な治療と生活習慣の改善によって、症状の進行を抑え快適な日常生活を送ることは可能です。
治療期間は足の血管の狭窄の程度や症状、そして患者さん自身の年齢や体力によって大きく異なります。例えば、初期段階で症状が軽い場合は「運動療法」と「薬物療法」を中心とした治療を行いながら、経過を観察していきます。
一方、症状が進行し歩行困難などがみられる場合には「血管内治療」や「外科手術」が必要となることもあります。
治療法 | 期間 | 経過 |
---|---|---|
生活習慣の改善 | 数ヶ月~数年 | 定期的な検査を受けながら、食事や運動などの生活習慣の改善を継続します。 |
薬物療法 | 数ヶ月~数年 | 定期的な検査を受けながら、医師の指示に従って薬を服用します。 |
血管内治療 | 数日~数週間 | 入院が必要な場合があり、治療後は経過観察を行います。カテーテルという細い管を用いて血管を広げます。 |
外科手術 | 数週間~数ヶ月 | 入院が必要な場合があり、治療後はリハビリテーションなどを行います。血管のバイパス手術などを行います。 |
下肢閉塞性動脈硬化症は、Fontaine分類という基準を用いて、重症度を4つのステージに分類します。
これは、建物の老朽化度合いに例えるとわかりやすいでしょう。
自覚症状はありませんが、足の血管が狭くなっている状態です。 ⇒ 建物の外壁にわずかなヒビが入っているものの、まだ誰も気づいていない状態です。
歩行すると足の痛みやしびれが現れますが、しばらく休むと症状は改善します。この段階を「間欠性跛行」と呼びます。 ⇒ 建物の老朽化が進み、床が傾いたり、壁に亀裂が入ったりし始め、住人が住みにくさを感じるようになった状態です。
安静時にも足の痛みやしびれがあり、夜間に症状が悪化する傾向があります。 ⇒ 建物の老朽化が深刻化し、雨漏りがしたり、柱が傾いたりして、住み続けるのが困難になった状態です。
足の組織に潰瘍や壊死が生じており、最悪の場合は足の切断が必要になることもあります。 ⇒ 建物が倒壊の危機に 直面し、もはや住むことができない状態です。
ステージ | 名称 | 症状 |
---|---|---|
Ⅰ | 潜伏期 | 無症状 |
Ⅱ | 間欠性跛行 | 歩行時の痛みやしびれ、安静により改善 |
Ⅲ | 安静時疼痛 | 安静時にも痛みやしびれ、夜間増悪 |
Ⅳ | 潰瘍・壊死 | 足の潰瘍や壊死 |
早期発見・早期治療によって、症状の進行を抑え、「建物の老朽化」を遅らせるように、より良い状態を保つことが期待できます。足の症状が気になる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
下肢閉塞性動脈硬化症は動脈硬化が原因で足の血管が狭くなったり詰まったりする病気ですが、放置すると様々な合併症を引き起こし中には命に関わる危険な合併症もあります。
下肢閉塞性動脈硬化症が進行すると、次のような合併症を引き起こす可能性があります。
血管が狭窄・閉塞することで血液の流れが悪くなり、足の組織に十分な酸素や栄養が供給されなくなります。 例えば、畑に水を引くための水路が詰まってしまうと、畑の作物は十分な水を吸収できずに枯れてしまいますよね。
これと同じように私たちの体でも血液という「栄養満点の水」が体の隅々まで届かないと、細胞が傷つき傷が治りにくくなったり潰瘍ができたり最悪の場合、組織が壊死する壊疽を引き起こすことがあります。
壊疽は細菌感染を起こしやすく、重症化すると命に関わることもあります。下肢閉塞性動脈硬化症においても、足の傷は早期に治療することが重要です。
動脈硬化によって狭くなった血管内に血栓(血の塊)が詰まることで、急に血管が閉塞し、激しい痛みや冷感、しびれなどを引き起こします。 これは、工場に部品や材料を運ぶための道路が、突然の土砂崩れで通行止めになってしまう様子に似ています。
工場と同じように私たちの体でも血液という「運搬車」が、血栓という「土砂崩れ」によって道を塞がれてしまうと、必要な酸素や栄養が細胞に届かなくなり細胞がダメージを受けてしまいます。 急性動脈閉塞は緊急を要する状態で、直ちに治療が必要となります。
下肢閉塞性動脈硬化症の予後は、病気の重症度や合併症の有無、治療のタイミングや内容によって大きく異なります。 早期発見・早期治療が重要であり、適切な治療を行えば、症状の改善や進行の抑制が期待できます。
下肢閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化が原因で起こる病気ですが、動脈硬化は、全身の血管で起こる可能性があり、下肢だけでなく、心臓や脳などの血管でも起こることがあります。
下肢閉塞性動脈硬化症に関連する他の疾患としては、以下のようなものがあります。
心臓の血管である冠動脈に動脈硬化が起こることで、心臓の筋肉に十分な血液が供給されなくなり、胸の痛みや圧迫感などの症状が現れます。 心臓は、体中に血液を送り出すポンプの役割を果たしています。 この心臓の血管である冠動脈が動脈硬化で狭くなったり詰まったりすると、心臓自身が必要とする血液が不足し、胸の痛みや圧迫感が生じます。 さらに症状が進むと、心臓の筋肉が壊死してしまう心筋梗塞を引き起こす可能性もあります。
脳の血管に動脈硬化が起こることで脳の組織に十分な血液が供給されなくなり、麻痺やしびれ、言語障害などの症状が現れます。 脳は私たちの体全体の司令塔であり考えたり、感じたり体を動かしたりなど様々な機能をコントロールしています。 この脳の血管が動脈硬化で詰まってしまうと、脳細胞に酸素や栄養が行き渡らなくなり脳梗塞を発症します。 また、動脈硬化で血管がもろくなっているところに、血圧の変動などが加わって血管が破れると脳出血が起こります。
これらの疾患は、いずれも命に関わる危険性のある病気です。 下肢閉塞性動脈硬化症と同様に動脈硬化が原因となるため、下肢閉塞性動脈硬化症と診断された場合、これらの疾患のリスクも高くなると考えられます。
これらの疾患を予防するためには、動脈硬化のリスク因子となる生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)の管理や禁煙、適度な運動、バランスの取れた食事など、健康的な生活習慣を心がけることが重要です。
下肢閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化によって足の血管が狭くなったり、詰まったりする病気です。まるで、体中の血液を運ぶ「道路」である血管に、コレステロールや脂肪などが溜まって渋滞を起こしているような状態です。進行すると、歩行時に痛みを感じたり、最悪の場合は足の壊疽や切断に至ることもあります。しかし、適切な予防と改善策を講じることで、病気の進行を遅らせたり、症状を和らげたりすることができます。
下肢閉塞性動脈硬化症の予防には、動脈硬化のリスク因子を減らすことが重要です。動脈硬化は、血管の中にコレステロールや脂肪などが溜まって、血管が硬く狭くなることです。これは、水道管に長い年月をかけてサビが溜まっていく様子に似ています。サビが溜まると水の流れが悪くなるように、血管も狭くなって血液の流れが悪くなってしまうのです。
食事は、体を作るための大切な材料です。しかし、偏った食事や脂っこい食事ばかりしていると、血管の中にコレステロールや脂肪が溜まりやすくなってしまいます。
塩分の摂り過ぎは血管を収縮させ、血圧を上昇させるため、動脈硬化のリスクを高めます。塩分の多い食事は血管に負担をかけるだけでなく、高血圧の原因にもなります。高血圧は血管に常に高い圧力がかかっている状態なので、血管を傷つけやすく動脈硬化を進行させてしまいます。
コレステロールは細胞膜やホルモンの材料となる重要な栄養素ですが、摂り過ぎると血管に溜まり、動脈硬化の原因となります。血管が脂肪で詰まると、血液の流れが悪くなり、様々な体の不調につながります。
野菜、果物、魚、大豆製品など、様々な食材をバランス良く食べることが大切です。バランスの取れた食事は、体にとって、様々な栄養素をバランスよく摂取するために重要です。色々な食材を食べることで、血管を健康に保つ効果も期待できます。
運動不足は、肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病のリスクを高め、動脈硬化を促進する要因となります。1日30分程度のウォーキングなどの軽い運動を習慣化することで、血行を促進し、動脈硬化の予防に繋がります。運動は、血管のポンプ機能を高める効果があります。運動不足は、このポンプ機能を低下させ、血流が悪くなる原因となります。
下肢閉塞性動脈硬化症と診断された場合、生活習慣の改善は病気の進行を抑制し症状を和らげるために非常に重要です。
タバコは、血管を収縮させ、血圧を上昇させるだけでなく、血液中の酸素運搬能力を低下させるため、動脈硬化を急速に進行させる原因となります。禁煙することで、これらのリスクを減らし、症状の改善を期待できます。タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させる作用があり、血流を悪くします。また、タバコの煙には、その他にも多くの有害物質が含まれており、これらが血管の内壁を傷つけ、動脈硬化を引き起こしたり、悪化させたりします。
医師の指示に従って、処方された薬をきちんと服用することが大切です。自己判断で服薬を中断したり、量を変更したりすることは大変危険です。疑問点や不安なことがあれば、必ず医師に相談しましょう。服薬は症状を改善するためだけでなく、病気の進行を抑制するためにも非常に重要です。
医師の指示に従い、しっかりと服薬を続けることで、より良い治療効果を得ることができます。
下肢閉塞性動脈硬化症は、足の血管が老化し血液の流れが悪くなる病気です。歩行時の痛みやしびれ、冷感などが主な症状で、進行すると潰瘍や壊疽を引き起こす可能性があります。
原因は動脈硬化であり、喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病がリスクを高めます。
治療は、症状の程度によって生活習慣改善、薬物療法、血管内治療、外科手術などがあります。
早期発見・早期治療が重要で、適切な治療と生活習慣改善によって症状の進行を抑え、快適な日常生活を送ることができます。