夜中に何度も目が覚めてしまう、朝起きてもスッキリしない、日中に強い眠気を感じるという方は、「睡眠時無呼吸症候群」の可能性が高いです。文献によると、2019年には、睡眠時無呼吸症候群の日本の成人は、900万人ほど存在することがわかっています。睡眠中に呼吸が何度も止まってしまうため、健康面だけでなく、日常生活にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、睡眠時無呼吸症候群を疑った場合、何科を受診すれば良いのか、各診療科の特徴や役割について詳しく解説していきます。多くの場合、自分ではなかなか気づくことができません。もし心当たりがある方は、放置せずに早めに医療機関を受診しましょう。
睡眠時無呼吸症候群の診断と治療は、さまざまな診療科で対応可能です。下記は、各診療科の役割と特徴です。
睡眠時無呼吸症候群は、高血圧や心疾患、脳血管疾患のリスクを高めます。循環器内科では、血圧や血管にかかる負担を軽減し、心筋梗塞や脳梗塞といった疾患の予防も考慮しながら、患者さんを総合的に診断・治療します。
呼吸器内科は、肺や気管支といった呼吸に関する臓器を専門に扱います。特に閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の多くは、気道の閉塞が原因で発生するため、呼吸器内科で気道の診断と治療を行います。主に終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)などの精密検査を使用します。
PSG検査では、脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸状態、いびきの有無、血中酸素飽和度など、さまざまなデータを記録し、睡眠中の無呼吸や低呼吸の回数、血液中の酸素飽和度の低下などを調べます。この検査により、SASの確定診断を行うことができます。睡眠中の気道閉塞による呼吸停止症状に対しては、持続的陽圧呼吸療法(CPAP)という治療法が有効です。
耳鼻咽喉科は、鼻や喉の疾患を扱っています。扁桃腺肥大やアデノイド肥大など、耳鼻咽喉科領域の異常が原因で気道が狭くなり、無呼吸が起きる場合も多く、手術や治療が必要になることがあります。構造的な問題が睡眠時無呼吸の要因となっている場合は、耳鼻咽喉科での検査が有効です。
睡眠時無呼吸症候群は、ストレスや不眠症によって悪化する場合もあります。精神的な問題が原因で症状が出ている場合には、精神科や心療内科での治療が推奨されることもあります。特に睡眠障害の改善に向け、他の診療科と連携しながら治療を進めます。
顎の形状や歯並びの影響で気道が狭くなり無呼吸が起きる場合、歯科や口腔外科でマウスピースを作成して気道を広げる治療を行います。マウスピース療法は、軽度の閉塞性睡眠時無呼吸に効果的とされ、気道の確保をサポートします。
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)とは、睡眠中に呼吸が断続的に止まる病気です。自分で気づくことは難しい病気ですが、主な症状は以下のとおりです。
睡眠中の無呼吸:いびき、呼吸停止
日中の強い眠気:集中力の低下、倦怠感
睡眠の質の低下:熟睡感の欠如、中途覚
SASの最も特徴的な症状は、睡眠中の無呼吸です。呼吸が完全に止まる「無呼吸」状態と、呼吸が浅くなる「低呼吸」状態の2種類があります。無呼吸は10秒以上呼吸が止まることで、低呼吸は呼吸が浅くなり空気の出入りが50%以上減少すること、あるいは10秒以上呼吸が浅くなった後に血中の酸素濃度が3%以上低下することを指します。無呼吸や低呼吸が一晩に何度も繰り返されることが、SASの大きな問題です。
大きないびきも、SASの特徴的な症状の一つです。いびきは空気の通り道が狭くなっているために起こります。SASの人はのどの筋肉がゆるんで気道が狭くなるため、大きないびきをかきやすくなります。時折呼吸が止まって静かになった後、再びいびきをかき始める場合はSASの可能性があるので、一度検査を受けることを推奨します。
寝ている間に何度も呼吸が止まると、身体はしっかりと酸素を取り込めません。脳も酸素不足に陥り、熟睡できなくなります。SASの人は日中に強い眠気を感じることが多く、日常生活にさまざまな支障をきたすことがあります。日中の強い眠気以外にも、集中力の低下や倦怠感(だるさ)に悩まされる方も多いです。仕事や学業のパフォーマンス低下につながるだけでなく、生活の質を著しく低下させる可能性があります。
SASの人は、睡眠の質が低下しているため、朝起きたときにスッキリしない、熟睡感がない、といった症状もよく訴えます。いくら寝ても疲れが取れない、目覚めが悪く布団から出られない、夜中に何度も目が覚めてしまう(中途覚醒)などの症状が続くと、心身に大きな負担がかかります。日中の活動にも影響が出て、さらに睡眠の質が低下する悪循環に陥ってしまうのです。心身の健康を損なうリスクが高まります。
上記の症状に心当たりがある方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があるので、医療機関へ相談してください。
睡眠時無呼吸症候群を放置すると、以下のような深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
無呼吸により血中酸素濃度が低下すると、身体は酸素供給を維持するため血圧を上昇させます。慢性化すると高血圧のリスクが高まります。特に、夜間の血圧変動が大きくなることで、心血管系への負担が増す可能性があります。
無呼吸による血液中の酸素不足が心臓や脳に負担をかけ、冠動脈疾患や脳卒中のリスクを増加させます。整脈が引き起こされる可能性もあり、心停止など致命的な状態に至る危険性も高まります。
睡眠の質の低下はインスリン抵抗性を悪化させ、糖尿病の発症リスクを高めます。夜間に頻繁に目覚めることで食欲を司るホルモンのバランスが崩れ、過食や肥満の原因になる場合もあります。
睡眠時無呼吸症候群は、高血圧や心臓病、糖尿病など深刻な合併症を引き起こし、健康リスクを増大させます。早めに医療機関を受診し、リスクを最小限に留めましょう。
以下の記事では、睡眠時無呼吸症候群の症状や原因、治療方法について網羅的に説明しているので、ぜひチェックしてみてください。
>>もしかして睡眠時無呼吸症候群(SAS)?症状と原因、治療方法について解説
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療法は、症状の重さや原因によってさまざまです。自分に合った治療法を見つけることが大切なので、治療法の特徴を理解して、最適な方法を選択しましょう。
CPAP療法は、持続陽圧呼吸療法の略で、睡眠中に鼻にマスクを装着し、空気を送り込み続けることで、気道を広げて閉塞を防ぐ治療法です。空気が気道を広げ、スムーズな呼吸をサポートします。
睡眠の質が向上し、日中の眠気が軽減されるだけでなく、高血圧や心臓病などの合併症のリスクを減らす効果が期待できます。
一方で、マスクを装着するため、慣れるのに時間がかかるうえ、鼻詰まりや乾燥、皮膚への刺激などが生じます。加湿器付きのCPAP装置を使用したり、マスクのサイズを調整したりすることで、副作用を軽減できます。近年は小型のCPAP装置もあるため、自宅はもちろん、お出かけの際の心配もいりません。
マウスピースは、寝ている間に装着することで、下顎(あご)を少し前に出して気道を広げ、無呼吸を予防する治療法です。SAS用のマウスピースは、下顎の位置を調整することで気道を確保できます。軽度〜中等度のSASの方に適しています。
特徴として、CPAP療法に比べて手軽で、持ち運びがしやすい点が挙げられます。また、比較的安価でマスク装着による不快感が少ないのが特徴です。
あごの痛みや違和感だけでなく、最悪の場合、歯並びが悪化する可能性があります。装着時間を徐々に長くしたり、定期的に歯科医師の診察を受けたりすることで、顎への負担を軽減できます。また、重症のSASには効果が薄い場合があります。
手術療法は、気道の閉塞を引き起こしている原因を取り除く治療法です。扁桃腺が大きい場合は扁桃摘出術、口蓋垂(のどちんこ)が長い場合は口蓋垂形成術、下顎が後退している場合は顎矯正手術など、さまざまな種類の手術があります。
他の治療法で効果がない場合や、特定の原因が明らかな場合の治療手段であるため、原因を根本から取り除くことができます。小児のSASでは、扁桃肥大やアデノイド肥大が原因であることが多いので、耳鼻咽喉科での診察と手術療法が有効な場合があります。
すべての患者さんに適しているわけではないため、効果が保証されていません。手術に伴うリスクや合併症もあるため、手術前に医師からしっかりと説明を受け、納得したうえで手術を受けることが大切です。
肥満はSASの大きなリスク要因の一つです。減量することで、首周りの脂肪が減り、気道が狭くなるのを防ぎ、症状を改善できる可能性があります。また、規則正しい睡眠習慣を身につけ、飲酒や喫煙を控えたり、横向きで寝るようにしたりするなど、生活習慣を改善することも重要です。生活習慣の改善は、他の治療法と並行して行うことで、より効果を高めることができます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は見過ごせない睡眠障害です。主な受診科は「循環器内科」「呼吸器内科」「耳鼻咽喉科」「精神・心療内科」「歯科口腔外科」の5つがあります。睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、早期発見・早期治療が重要です。気になる症状がある場合は、迷わず症状に合った受診科へ相談しましょう。
大石内科循環器科医院
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静岡市葵区鷹匠2-6-1
TEL:054-252-0585
Mohammadieh A, Sutherland K, Cistulli PA.:Sleep disordered breathing: management update Internal medicine journal 47, no. 11 (2017): 1241-1247.