「まさか、うちの親が・・・」そう思っていませんか?
認知症の症状の一つに「徘徊」があります。徘徊は、認知症によって時間や場所の見当がつかなくなることで起こり、迷子や事故に繋がる危険性も孕んでいます。
この記事では、認知症の徘徊の原因や特徴、そして予防策まで詳しく解説しています。もし、あなたの身の回りに認知症の方がいらっしゃるなら、他人事ではありません。認知症の方と、そのご家族が安心して生活できるよう必要な知識を身につけましょう。
認知症の方に見られる行動として「徘徊」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。徘徊は、認知症によって引き起こされる症状の一つで、周りの人にとっては心配な行動です。
例えば、こんな場面を想像してみてください。
このような行動は、認知症による徘徊の可能性があります。認知症の方にとって、徘徊は決して「ただの散歩」ではありません。本人の中では何かしらの目的意識を持って行動している場合がほとんどです。しかし認知症によって思考や判断能力が低下しているため、その行動は周囲の人にとって理解し難く、不安や危険を伴うものとなってしまうのです。
この見出しでは、認知症の徘徊とは何か、その原因や特徴、そして認知症の種類によってどのような点に注意すべきかについて、より具体的に解説していきます。
認知症の方が徘徊をする原因は、決して一つではありません。まるで糸が絡み合うように、複数の要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。
主な原因として下記が挙げられます。
「今日は何曜日か」「ここは自宅なのか、それとも病院なのか」「目の前にいる人は誰なのか」といった、私たちが普段当たり前のように理解していることが分からなくなってしまうのです。
長年住み慣れた家から施設に入居したり配偶者を亡くしたりすることで、精神的に不安定な状態に陥りやすくなります。
例えば「家に帰りたい」と思っても正しい道を判断することができず、無意識のうちに歩き続けてしまうことがあります。
また認知症のタイプによっては特定の行動を繰り返してしまう、という症状が現れることもあります。例えば「探し物をする」「服を着替える」といった行動を何度も繰り返してしまうのです。このような症状は、脳の前頭葉という部分が萎縮することで起こると考えられています。
徘徊には、いくつかの特徴が見られます。
例えば私が以前担当していた患者さんで毎日午後になると自宅から近くの公園まで歩き、同じベンチに座って時間を過ごすという方がいました。ご家族に話を伺うと、その方は現役時代、毎日その公園で昼食をとっていたそうです。
これは「日が暮れると不安な気持ちになる」「夜になると体内時計が乱れやすい」など、様々な要因が考えられます。
認知症にはいくつかの種類があり、種類によって徘徊の症状や注意点が異なります。
認知症の種類 | 特徴 | 徘徊時の注意点 |
アルツハイマー型認知症 | 物忘れが主な症状として現れ、徐々に進行していく。 | 記憶障害が強く、徘徊中に迷子になるリスクが高い。自宅の住所や電話番号などを書いたメモを持たせたり、GPS機能付きの携帯電話を持たせるなどの対策が有効です。 |
血管性認知症 | 脳卒中などが原因で起こる認知症。症状は段階的に現れることが多い。 | 身体機能にも障害が現れることがあり、転倒のリスクが高いです。杖や歩行器の使用を検討したり、段差をなくすなどの環境調整が重要となります。 |
レビー小体型認知症 | 幻視やパーキンソン症状が見られる。 | 幻視や妄想によって、突発的な行動をとることがあります。危険な場所には近づかないように、周囲が見守れる環境を整えることが大切です。 |
前頭側頭型認知症 | 行動や感情をコントロールすることが難しくなる。 | 反社会的な行動をとったり、周囲とトラブルになるリスクがあります。徘徊が始まる前に、周囲の人が事前に地域住民に状況を説明しておくなど、周囲の理解と協力が不可欠です。 |
例えば、レビー小体型認知症の患者さんは、「知らない人が家の中にいる」といった幻視や、「誰かに追いかけられている」といった妄想によって、急に家を飛び出してしまうことがあります。
このように認知症の種類によって徘徊の症状や注意点が異なるため、それぞれのタイプに合わせた対応が必要となります。
認知症の方が徘徊をすることは、ご本人だけでなく、ご家族にとっても大きな不安材料となります。徘徊は時に重大なリスクを伴う可能性があり、決して軽視できるものではありません。
例えば、真夏の炎天下の中、徘徊によって道に迷ってしまった認知症のお年寄りが、熱中症で倒れてしまうケースは後を絶ちません。
また、夜間に徘徊し、交通量の多い道路を横断中に車にはねられてしまうという痛ましい事故も発生しています。
認知症の症状が出ている方ご本人はもちろんのこと、周囲で支えるご家族も、徘徊によって引き起こされるリスクについて、正しい知識を持つことが重要です。
徘徊によって起こるトラブルは、迷子、事故、トラブル、健康問題の大きく4つに分類されます。
このような状態に陥ると、徘徊中に自宅への帰り道が分からなくなり、迷子になってしまうリスクが高まります。
実際に、私が診察している患者さんの中にも、徘徊中に自宅の場所が分からなくなり、警察に保護されるケースが少なくありません。ご家族は、「まさかうち的老人は・・・」と思いがちですが、決して他人事ではありません。徘徊は、誰にでも起こり得るということを、まずはしっかりと認識する必要があります。
例えば、道路を横断する際に、車の接近に気付かなかったり、信号を見落としてしまったりすることがあります。
また、自宅周辺の地理に不慣れな場所で徘徊した場合、段差や障害物に気付かず、転倒したり、怪我を負ったりする可能性もあります。
特に高齢になると身体機能が低下し、骨も脆くなりがちです。転倒は骨折などの大きな怪我に繋がりかねないため、注意が必要です。
例えばコンビニエンスストアで店内をうろうろしたり、商品を無断で触ったりすることで店員に誤解されトラブルになることがあります。
また見当識障害によって他人の家を自分の家と勘違いしてしまい、敷地内に侵入してしまうケースも少なくありません。このような場合、警察に通報されたり、トラブルに発展したりする可能性があります。
長時間歩き続けることで、疲労が蓄積し、脱水症状や熱中症を引き起こすリスクがあります。また、冬場の寒い時期に徘徊した場合、低体温症になる危険性もあります。特に、心臓や肺に持病を持っている方にとっては、命に関わる危険性もあるため、注意が必要です。
認知症の症状が悪化すると、徘徊を完全に防ぐことは難しい場合もあります。しかし、事前に対策を講じることで、リスクを減らし、安全性を高めることは可能です。
ここでは、具体的な対策方法を5つご紹介します。
近年、小型軽量なGPS端末が数多く販売されています。これらの端末を衣服や持ち物に装着することで、認知症の方がどこにいるのかをリアルタイムで把握することができます。万が一、徘徊してしまっても、居場所を特定しやすくなるため、早期発見・保護に繋がります。
また一部のGPS端末には、あらかじめ設定したエリアから出ると家族に通知される機能も搭載されています。徘徊の予兆をいち早く察知し迅速に対応することで、重大な事故やトラブルを未然に防ぐことが可能となります。
地域によっては、認知症の方の見守りサービスを提供している場合があります。これらのサービスを利用することで、徘徊している認知症の方を地域住民が見守ってくれます。
見守りサービスには、以下のようなものがあります。
サービス内容や費用は、地域やサービス提供者によって異なります。利用を検討する場合は、事前に地域の窓口やサービス提供者に問い合わせてみましょう。
外出時に目立つ色の服装をさせることは、万が一迷子になった場合の発見率を高める効果が期待できます。例えば、明るい色の服を着せる、反射材のついた服を着せる、蛍光色の帽子を被らせるなどが効果的です。
また、衣服に名前や連絡先を刺繍することも有効です。刺繍であれば、洗濯しても消えることがなく、万が一、徘徊中に発見された際、迅速に家族のもとへ帰ることができます。
自宅から出にくくする工夫をすることも、徘徊対策として有効です。例えば、玄関や門扉に二重ロックをかける、センサーライトを設置するなどの方法があります。二重ロックにすることで、認知症の方が、無意識のうちに外出してしまうことを防ぐことが期待できます。
またセンサーライトを設置することで夜間、認知症の方が外出する際に、周囲を明るく照らし転倒や事故のリスクを軽減することができます。
さらに自宅の周囲に、背の高いフェンスを設置することで、物理的に外出を制限する方法もあります。ただしフェンスの設置は景観を損ねたり近隣住民とのトラブルに発展したりする可能性もあるため、注意が必要です。設置する場合は、事前に近隣住民に説明し、理解を得るようにしましょう。
認知症の方が「探し物をする」「トイレに行く」などの目的があって徘徊している場合は、その原因を取り除くことが重要です。
例えば、探し物をしやすいように整理整頓をしたり、トイレの場所を分かりやすく表示したりすることで、徘徊を減らすことができます。
また、「家に帰りたい」という気持ちが強い場合は、自宅の写真や地図を目につく場所に置くことも有効です。さらに、過去に住んでいた場所や、よく訪れていた場所を散歩コースに取り入れることも、徘徊を落ち着かせる効果が期待できます。
もし、徘徊している認知症の方を見かけたら、どのように対応すれば良いのでしょうか。まずは焦らず、落ち着いて接することが重要です。そして、ゆっくりと近づきながら優しく声をかけるようにしましょう。
この時、急に後ろから近づいたり大声を出したりすると、驚かせてしまい抵抗される可能性があるため、注意が必要です。「こんにちは」「今日はいい天気ですね」など、普通の挨拶から始めると、警戒心を解きほぐしやすくなります。
そして、話しかける際は、目線を同じ高さにするように心がけましょう。認知症の方は相手の表情や態度から、感情を読み取ることが難しくなっています。そのため優しい表情で、穏やかな口調で話しかけることが重要です。
話しかける内容は、できるだけ短く、簡単な言葉を選びましょう。認知症の方は、一度に多くの情報を処理することが難しくなっています。そのため、長い文章や難しい言葉は理解できない可能性が高く、混乱させてしまう可能性があります。
もし認知症の方が何か訴えている場合は、否定したり無視したりせず耳を傾けることが大切です。「そうなんですね」「大変でしたね」などと相槌を打ちながら、最後まで話を聞くようにしましょう。
そして落ち着いて話を聞いた上で、困っている様子であれば「何かお手伝いしましょうか?」と優しく尋ねてみましょう。もし自宅が分かるようであれば、自宅まで送り届けてあげましょう。
ただし夜間など一人では危険だと判断した場合は、無理に自宅まで送り届けることは避け警察に連絡するなど適切な対応を取りましょう。
認知症の進行を抑えることはできても、完全に治すことは難しい病気です。しかし、だからといって諦める必要はありません。認知症の症状の一つである徘徊は、事前の対策をしっかりと行うことで、防ぐことができる可能性があります。
徘徊は、認知症の方本人にとっても、家族にとっても大きな負担や不安、そして危険が伴います。「まだ症状は軽いから」「うちは大丈夫」と安易に考えて対策を怠ると、取り返しのつかない事態を招いてしまう可能性も否定できません。
認知症と診断されたその日から、ご本人とご家族が安心して生活を送れるよう、予防策について一緒に考えていきましょう。
認知症の方は私たちが普段当たり前のように感じている空間や時間の感覚が、少しずつ失われていきます。例えば、いつも通っていた道で自宅の場所が分からなくなったり、夕方になると急に不安な気持ちになったりするケースがあります。
このような症状は脳の機能低下によって引き起こされるものであり、ご本人の意志ではコントロールすることができません。ご本人の努力不足や怠慢が原因で起こるわけではないということを、まずは周囲の人が理解することが大切です。
その上で認知症の方が、より安全に安心して過ごせるように自宅やその周辺の環境を工夫してみましょう。
ここでは、具体的な例を3つご紹介します。
徘徊の多くは、玄関から始まります。認知症の方が、外に出ようとするのを防ぐために、玄関ドアの色や形を変えることは有効な手段の一つです。
例えばドアの色を周囲の壁の色と同じにすることで、ドアの存在感を薄くし認知症の方がドアだと認識しにくくする効果が期待できます。また、ドアノブを普段見慣れないものに変えることも効果的です。
最近の認知症の方の中には、スマートフォンやタブレット端末を使いこなせる方も少なくありません。しかし認知機能が低下しているため、複雑な操作方法を覚えることは容易ではありません。
そこでドアノブをデジタル式の鍵にすることで、認知症の方が簡単にドアを開けられないようにする対策も考えられます。
認知症の方は見慣れない場所や変化の多い場所にいると、不安を感じやすくなる傾向があります。自宅であっても家具の配置が変わっていたり、新しいものが置いてあったりすると落ち着いて過ごすことが難しくなることがあります。
そのため、部屋には、認知症の方が安心できるような目印を置くことが重要です。いつも座っている椅子に目立つ色のクッションを置いたり、よく見るテレビの近くに家族写真や思い出の品を飾ったりすることで安心できる空間を作ることができます。
庭がある場合は転倒防止のために、段差をなくしたり手すりを設置したりするなどの工夫をしておきましょう。
また、庭木の手入れも重要です。伸びすぎた枝葉は視界を遮り転倒の原因となるだけでなく、認知症の方が不安を感じやすくなる要因の一つともなります。定期的に剪定を行い、見通しの良い状態を保つことが大切です。
特に夜間は視界が悪くなるため、足元が見えづらくなり転倒のリスクが高まります。夜間でも歩きやすいように、足元を照らす照明を設置することも効果的です。
認知症の方は生活のリズムが乱れやすく、睡眠障害や食欲不振などの症状が現れやすい傾向があります。睡眠障害や食欲不振は認知症の症状を悪化させる要因となるだけでなく、体力や免疫力の低下にも繋がり健康面にも悪影響を及ぼします。
そのため、認知症の方が、健康的に生活するためには、規則正しい生活習慣を身につけることが重要です。
ここでは、具体的な例を3つご紹介します。
毎日、決まった時間に起床し太陽の光を浴びることで、体内時計がリセットされ質の高い睡眠をとるために必要なホルモン分泌が促されます。
夜は、寝る前にパソコンやスマートフォンの画面を見ないようにしましょう。これらの機器から発せられるブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制し睡眠の質を低下させることが知られています。
食事は、1日3食、決まった時間に摂ることが大切です。特に、朝食は、体内時計をリセットし、1日を活動的に過ごすために重要な役割を果たします。
また、栄養バランスの取れた食事を摂ることも重要です。認知症の予防に効果が期待できる栄養素としては、DHAやEPAなどのn-3系脂肪酸、ビタミンE、ビタミンB群などが挙げられます。
n-3系脂肪酸は、青魚(サバ、イワシ、サンマなど)や魚油に多く含まれています。ビタミンEは、アーモンドやほうれん草などに、ビタミンB群は、豚肉や大豆製品などに多く含まれています。これらの食品を積極的に食事に取り入れてみましょう。
運動は認知症の予防だけでなく生活習慣病の予防や改善、ストレス解消、うつ症状の改善など、様々な効果が期待できます。
厚生労働省、「健康づくりのための身体活動基準2013」の中で、18~64歳の成人は、1日あたり60分の中強度の運動を週2日以上行うことを推奨しています。
中強度の運動とは、「息が弾む程度の運動」のことです。具体的には、早歩き、軽いジョギング、サイクリング、水泳などが挙げられます。
運動が苦手な方は、まずは、1日10分から始めて、徐々に時間や強度を上げていくようにしましょう。無理のない範囲で、体を動かす習慣を身につけることが大切です。
認知症は、早期発見・早期治療が重要です。認知症の症状に気付いたら、できるだけ早く医療機関を受診し、適切な治療を開始することが大切です。
認知症の治療には、大きく分けて薬物療法と非薬物療法の2種類があります。薬物療法は認知症の進行を抑えたり、症状を緩和したりするために、薬を使用します。
非薬物療法は薬物療法以外の方法で認知症の症状を改善したり、生活の質を向上させたりすることを目的とした治療法です。
ここでは、具体的な例を2つご紹介します。
薬物療法は、認知症のタイプや症状、進行度合いなどに応じて、医師が適切な薬を処方します。
認知症の治療薬には、大きく分けて以下の4つのタイプがあります。
代表的な薬剤としては、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなどがあります。
主に、中等度~高度のアルツハイマー型認知症に対して使用されます。
これらの薬剤は症状を緩和することで、認知症の方が落ち着いて生活できるようサポートします。ただし、これらの薬剤は副作用として、眠気やふらつき、口の渇きなどを引き起こす可能性があります。
服用を開始する際は、主治医とよく相談し、メリットとデメリットを理解しておくことが大切です。
ただし、漢方薬の効果や安全性については、まだ十分に解明されていない部分も多いです。
自己判断で服用するのではなく、必ず医師に相談の上、使用してください。
非薬物療法には、以下のようなものがあります。
非薬物療法は認知症の方だけでなく、介護者の方の負担軽減にも繋がる可能性があります。積極的に取り入れていきましょう。認知症の進行を遅らせるためには、早期発見・早期治療に加え、ご本人とご家族が協力し適切なケアを継続していくことが重要です。
認知症の徘徊は、見当識障害や不安、ストレス、脳機能の低下などが原因で起こり、自宅から出にくくする、GPSなどの位置情報機器を活用するなどの対策が有効です。認知症は早期発見・早期治療が重要であり徘徊などの症状に気付いたら、医療機関を受診し薬物療法や非薬物療法などの適切な治療を開始することが大切です。また、規則正しい生活習慣や環境調整などのケアも重要です。
当院は物忘れ外来を行っております。また。認知対応型通所介護センター(デイサービス)も併設しておりますので、気になる症状等がある方は当院にご相談ください。
大石内科循環器科医院
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