心臓の健康、あなたは大丈夫?実は、心臓の弁に異常が起こり、血液が逆流する「大動脈弁閉鎖不全症」という病気が存在します。初期症状は気づきにくく進行すると息切れや胸痛、めまい、さらには失神といった深刻な事態を招くことも。
日本人の約400万人が悩んでいると言われる心臓病の中で、大動脈弁閉鎖不全症は増加傾向にあります。高血圧や加齢、遺伝、感染症など、様々な原因が潜んでいるこの病気は放置すると外科手術が必要になるケースも。
この記事では循環器専門医が解説する大動脈弁閉鎖不全症の原因、症状、そして近年の治療法までを詳しくご紹介します。胸の違和感を感じる方や、ご自身の健康状態を再確認したい方にも必読です。早期発見・早期治療が鍵を握るこの病気について、今すぐ理解を深め、安心できる未来を手に入れましょう。
心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を担っており、その中には血液の逆流を防ぐための重要な弁が存在します。この弁の一つである大動脈弁に異常が生じ血液が逆流してしまう病気が、大動脈弁閉鎖不全症です。
この病気はなぜ起こるのでしょうか?主な原因とリスク要因を4つに分けて詳しく解説します。
高血圧とは、血管に常に高い圧力がかかっている状態です。心臓から押し出された血液が最初に通る大動脈にも大きな負担がかかり、その付け根に位置する大動脈弁にもダメージを与えてしまいます。
この持続的な圧力により、弁がしっかりと閉じなくなり、大動脈弁閉鎖不全症を引き起こすリスクが高まります。高血圧の状態が長期間続くと、大動脈弁の組織が硬化したり変形したりする可能性があり、症状の悪化につながります。
正常な血圧を維持することは、心臓の健康を守る上で非常に重要です。
マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群といった結合組織疾患は、生まれつき体の組織が弱くなっている病気です。結合組織は体の様々な部位を支える役割を担っており、心臓の弁も例外ではありません。
これらの疾患では、大動脈弁を含む心臓の組織も弱いため、大動脈弁閉鎖不全症のリスクが上昇します。結合組織が弱いと、弁が正常な形状を保てなくなり、血液の逆流を効果的に防ぐことができなくなります。
年齢を重ねるにつれて体の様々な機能が低下するように、心臓の弁も老化し硬くなったり柔軟性を失ったりします。そのため、加齢は大動脈弁閉鎖不全症の大きなリスク要因の一つです。
また、家族に大動脈弁閉鎖不全症の患者がいる場合、遺伝的な要因も考えられます。家族歴がある方は、定期的な検査を受けるなど、早期発見・早期治療に努めることが重要です。
細菌性心内膜炎などの感染症は、心臓の弁に炎症を引き起こし、弁の機能を損なうことがあります。炎症は、身体の防御反応の一つですが、過剰な炎症は組織を傷つけ、弁の変形につながる可能性があります。
また、交通事故などによる胸部への強い衝撃などの外傷も、大動脈弁に直接的なダメージを与え、閉鎖不全症を引き起こす可能性があります。これらの感染症や外傷は、稀なケースではありますが、決して無視できないリスク要因です。
大動脈弁閉鎖不全症は、重症化すると外科的治療が必要になる場合もあります。早期発見・早期治療が予後を大きく左右するため、上記の危険因子に当てはまる方は、一度循環器内科を受診し、専門医の診察を受けることをお勧めします。大動脈弁閉鎖不全症は、適切な治療を行うことで症状の進行を抑制し、生活の質を維持することが可能です。
大動脈弁閉鎖不全症は、心臓の弁の不具合によって引き起こされる病気です。初期段階では自覚症状が乏しく、気づかないうちに病気が進行することもあります。しかし、病気が進行すると日常生活に支障をきたす様々な症状が現れる可能性があります。早期発見・早期治療のためにも、大動脈弁閉鎖不全症の代表的な症状について理解しておくことが大切です。
健康な心臓は、全身に血液を送り出すポンプとしての機能をスムーズに行っています。しかし、大動脈弁閉鎖不全症になると、心臓から送り出された血液の一部が大動脈弁の隙間から心臓に戻ってきてしまい、心臓に負担がかかり、全身へ送られる血液量が減少します。
その結果、体に十分な酸素が行き渡らなくなり、息切れや疲労感を覚えやすくなります。具体的には、少し動いただけですぐに息が切れたり、慢性的な倦怠感に悩まされたりします。
例えば、階段の上り下りや少し早歩きをしただけで息苦しくなったり、朝起きた時から体が重だるく感じたりする場合は、大動脈弁閉鎖不全症の可能性も考慮する必要があります。
初期は運動時など特定の状況でのみ息切れや疲労感を感じることもありますが、病気が進行すると安静時にも症状が現れるようになり、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
大動脈弁閉鎖不全症では、心臓の負担が増大することで、胸の痛みや不整脈などの症状が現れることがあります。胸の痛みは、締め付けられるような感覚や圧迫感、鈍痛など、症状の現れ方は様々です。
また、動悸やめまい、失神なども併発する可能性があります。動悸は、ドキドキと心臓が速く鼓動する、脈が飛ぶ、脈が速くなるなど、様々な形で自覚されます。不整脈は、脈のリズムが乱れる状態です。
胸の痛みは、狭心症のような激しい痛みではなく、比較的軽い痛みであることが多いですが、放置すると心不全のリスクが高まるため注意が必要です。特に、安静時や夜間にも症状が現れる場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
健康な状態では、心臓から送り出された血液は全身を巡り、再び心臓に戻ってきます。しかし、大動脈弁閉鎖不全症によって心臓のポンプ機能が低下すると、血液の循環が悪くなり、静脈を介して心臓に戻るはずの血液が滞りやすくなります。その結果、体内の水分が血管外に漏れ出し、足などの末梢に溜まりやすくなります。
特に、重力によって水分が溜まりやすい足首やふくらはぎにむくみが現れやすく、靴がきつくなったり、夕方になると症状が悪化したりします。また、体内に水分が過剰に溜まることで体重が増加することもあります。足のむくみは、横になると重力の影響が軽減されるため、一時的に改善することが多いですが、むくみが続く場合は医療機関への受診が必要です。
むくみ関連ブログ記事へリンク
大動脈弁閉鎖不全症では、心臓から送り出される血液量が減少するため、脳への血流も不足しやすくなります。その結果、脳が酸素不足に陥り、めまいやふらつき、意識消失などの症状が現れることがあります。
めまいは、回転性めまいのように周囲がぐるぐる回るように感じる場合や、立ちくらみのように目の前が暗くなる場合など、症状の現れ方は様々です。失神は、一時的に意識を失う状態で、数秒から数分で自然に回復することがほとんどです。めまいや失神は、一時的なものから繰り返し起こるものまで様々です。
症状が現れたら、すぐに安全な場所に移動し安静にすることが重要です。また繰り返し症状が現れる場合や、失神を伴う場合は大動脈弁閉鎖不全症の進行が疑われますので、速やかに医療機関を受診してください。
大動脈弁閉鎖不全症の症状は、日常生活に様々な影響を及ぼす可能性があります。息切れや疲労感により、階段の上り下りや歩行、入浴などの日常的な動作が困難になることがあります。また、仕事や家事に集中できなくなったり、趣味やスポーツを楽しめなくなったりすることもあります。
胸痛や不整脈は、運動や活動を制限するだけでなく、精神的な不安感やストレスを増大させる可能性があります。足のむくみは、靴がきつくなるだけでなく、歩行が困難になることもあります。めまいや失神は、転倒の危険性が高まるだけでなく、自動車の運転などができなくなることもあります。
大動脈弁閉鎖不全症は進行性の疾患であるため、適切な治療を行わないと症状が悪化し、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。早期発見・早期治療のためにも、少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診するようにしてください。
大動脈弁閉鎖不全症と診断された後、治療方針について悩まれる患者さんも多いと思います。ご自身の状態に合った治療法を選択するために、それぞれの治療法の特徴を一緒に理解していきましょう。
治療法は、症状の重さや全身状態、年齢、合併症の有無などを考慮して決定されます。大きく分けて、外科的治療、カテーテル治療、薬物療法の3つの選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、医師とよく相談することが重要です。
外科的治療の代表的なものは、弁置換術です。これは、傷んでいる大動脈弁を人工弁に取り替える手術です。人工弁には、機械弁と生体弁の2種類があります。
機械弁は耐久性に優れており、半永久的に機能します。しかし、血液が固まりやすくなるため、一生涯、抗凝固薬(血液をサラサラにする薬。ワーファリンなど)を服用する必要があります。この抗凝固薬の管理は、定期的な血液検査が必要となるなど、患者さんにとって負担となる場合もあります。
一方、生体弁はブタやウシの心臓弁から作られており、抗凝固薬の服用期間が短い、もしくは不要な場合もありますが、機械弁に比べると耐久性が劣り、10~15年程度で再手術が必要になる可能性があります。若い患者さんの場合は、生涯のうちに複数回の再手術が必要になる可能性も考慮しなければなりません。
弁置換術は、大動脈弁閉鎖不全症が重症化し、心臓の機能が低下している場合(例えば、息切れや胸痛などの症状が強い場合や、心不全の兆候が見られる場合)、あるいは他の心臓手術(例えば、冠動脈バイパス術)と同時に行う場合に適応となります。
手術の方法としては、胸を開いて行う開心術と、小さな切開で行う低侵襲手術があります。低侵襲手術は、傷が小さく、回復も早いというメリットがありますが、適応が限られます。
近年、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVR)というカテーテル治療が注目されています。TAVRは、足の付け根や胸の小さな切開部からカテーテルという細い管を挿入し、心臓の大動脈弁まで到達させ、風船を使って人工弁を留置する治療法です。
TAVRは、全身麻酔や大きな手術を必要とせず、患者さんの負担が少ないため、高齢者や手術のリスクが高い患者さん(例えば、他の臓器に重い病気がある場合など)にも適応できます。入院期間も開心術に比べて短く、早期に社会復帰できる可能性が高いです。
TAVRは低侵襲治療として大きな進歩を遂げ、大動脈弁閉鎖不全症の治療における重要な選択肢となっていますが、人工弁の耐久性や合併症のリスクなど、長期的な成績についてはまだデータが蓄積されつつある段階です。
薬物療法は、大動脈弁閉鎖不全症の根本的な治療法ではありませんが、症状を和らげ、病気の進行を遅らせる効果が期待できます。具体的には、高血圧や心不全などの症状をコントロールするために、降圧薬、利尿薬、血管拡張薬などが使用されます。
薬物療法は、軽症の患者さんや、手術やTAVRのリスクが高い患者さんに適応されます。また、手術やTAVRを受けるまでの間のつなぎの治療としても用いられます。薬物療法は、外科的治療や経カテーテル治療と比較して、身体への負担が少ないというメリットがありますが、薬の種類や服用量、服用期間などは、患者さんの状態に合わせて慎重に決定する必要があり、定期的な検査や診察が必要です。
どの治療法を選択するかは、患者さんの状態や希望を考慮して、医師とよく相談して決定することが重要です。
大動脈弁閉鎖不全症は、心臓の弁の異常で血液が逆流する病気です。原因は高血圧、結合組織疾患、加齢、感染症・外傷など様々で、初期症状は自覚しにくいことも。息切れ、疲労感、胸痛、むくみ、めまいなどが現れたら注意が必要です。治療法は、症状の重さや患者さんの状態によって異なります。重症の場合は弁置換術(人工弁への交換手術)、近年では低侵襲な経カテーテル治療も選択肢として加わっています。軽症の場合は薬物療法で症状の進行を遅らせることも可能です。いずれの治療法も、医師とよく相談して最適な方法を選びましょう。気になる症状がある方は、早めに循環器内科を受診し、専門医の診察を受けてください。早期発見・治療で、生活の質を維持することが可能です。
当院では循環器専門医院として詳しい検査や診察を行っています。息切れや疲労感、胸痛や胸の違和感などを感じたら、お気軽にご相談ください。
参考文献
追加情報
[title]: Aortic regurgitation: from mechanisms to management.,
大動脈弁閉鎖不全症:メカニズムから治療まで
【要約】
[quote_source]: Baumbach A, Patel KP, Rudolph TK, Delgado V, Treede H and Tamm AR. “Aortic regurgitation: from mechanisms to management.” EuroIntervention : journal of EuroPCR in collaboration with the Working Group on Interventional Cardiology of the European Society of Cardiology 20, no. 17 (2024): e1062-e1075.