健康診断で「脂質再検査」の通知が届くと、多くの人が不安を感じます。コレステロールや中性脂肪は生命維持に欠かせません。コレステロールや中性脂肪が過剰になると自覚症状がないまま動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞など重篤な疾患の危険性が高まります。
現在は食生活の変化と高齢化の影響で、脂質異常症の患者数が以前より増加している状況です。本記事では脂質再検査の主な原因や放置リスク、再検査後にとるべき行動を具体的な数値とともに解説します。ご⾃⾝の健康管理にお役⽴てください。
脂質異常症の基礎知識について、以下の2つを解説します。
脂質異常症は、血液中の脂質バランスが崩れた状態です。主なタイプは次の3種類です。
高コレステロール血症はコレステロール値が高い状態です。LDL(悪玉)コレステロールが過剰に増えると動脈硬化を引き起こすリスクが高まります。自覚症状に乏しく、健康診断で初めて指摘されることが多い病態です。
高中性脂肪血症とは中性脂肪値が高い状態です。高カロリー食や運動不足、過度の飲酒などにより中性脂肪が上昇し、動脈硬化や急性膵炎のリスクが高まります。高中性脂肪血症も自覚症状が現れにくい病態です。
低HDLコレステロール血症はHDL(善玉)コレステロールが少ない状態です。HDLは、血管内にたまったLDL(悪玉)コレステロールを回収して肝臓に運ぶ働きをしています。HDLが不足すると、LDL(悪玉)コレステロールが体内に残りやすくなり、動脈硬化のリスクが高まります。
脂質異常症は75歳以上の高齢者にとっても重要な問題です。脂質異常症と認知症や生存率との関連を検証する研究が現在実施されています。最終結果は公表されていませんが、高齢者の治療指針が更新される可能性があります。
健康診断でチェックされる主な検査項目は、次の4項目です。
基準値は年齢や性別、既往歴で異なるため医師の診断が必要です。健康診断の結果を確認し、脂質異常症の疑いがあれば医療機関を受診しましょう。
健康診断で脂質が再検査となる原因は以下の5つです。
脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪が基準値を超えている状態です。数値が基準値を超えている場合、脂質異常症の疑いがあると判断され再検査が必要になります。基準値の目安は以下のとおりです。
基準値は年齢や持病で変わるため医師に相談しましょう。
以下の記事では、健康診断で脂質の異常値が出た際に考えられる原因や、生活習慣の見直しを含めた改善策、医療機関で行われる治療法について詳しく解説しています。放置せず早めの対策を検討したい方は確認してみてください。
>>健康診断の脂質検査で異常値が出たら?改善のための対策や治療法を解説
脂質の検査は空腹時に行うことが重要です。検査前に高脂肪食やアルコールを摂取すると中性脂肪の値が一時的に上昇し、正確な検査結果が得られなくなる可能性があります。検査前日は、高脂肪食とアルコールを控え10時間以上の絶食を行いましょう。水分は、水かお茶であれば摂取しても問題ありません。
ピル(経口避妊薬)やステロイド薬、利尿剤などは脂質の値に影響を与える可能性があります。脂質の値に影響を与える薬を内服している場合は、薬の影響を考慮したうえで、再検査が必要となる場合があるため注意が必要です。薬を内服している方は検査前に必ず医師に伝えましょう。必要に応じて適切なアドバイスを受けられます。
体質や遺伝によって脂質の値が変動しやすい人もいます。家族に脂質異常症の人がいる場合は遺伝的に値が高くなりやすく、注意が必要です。体質的要因では、生活習慣の改善だけで脂質値をコントロールしにくいことがあります。遺伝的な要因が疑われる場合は、医師に相談し必要に応じて遺伝子検査などの精密検査を検討しましょう。
体調不良や強いストレス、激しい運動なども脂質値を変動させる要因です。風邪をひいているときなどは脂質の値が一時的に上昇することがあります。運動後も一時的に中性脂肪値が上昇することがあります。一時的な変動であることが多いため、体調が落ち着いてから再検査すると、より正確に判定できるケースが多いです。
再検査が必要になったとしても過度に心配せず、まずは医師に相談して具体的な原因と対処法を確認してください。
脂質異常症の放置によるリスクは以下のとおりです。
脂質異常症は自覚症状に乏しく進行するため、注意が必要な疾患です。放置すると血管が徐々に傷つき、将来の重大疾患リスクが高まります。健康診断の結果を確認し、異常があれば医師に相談してください。
LDL(悪玉)コレステロールが高い状態が続くと、血管の内壁にコレステロールが蓄積し動脈硬化が進みます。動脈硬化は全身の血管で起こります。冠動脈で起こると、狭心症や心筋梗塞のリスクが高まるため適切な処置が必要です。冠動脈が硬く狭くなると、運動時やストレスを感じた際に、胸部圧迫感や息苦しさなど狭心症症状が出現しやすくなります。
手足の血管でも動脈硬化が進むと血流が不足し、歩行時の痛みや冷感、しびれを来す末梢動脈疾患につながる恐れがある状態です。重症化すれば潰瘍や壊疽を起こし、切断に至る例もあります。
動脈硬化が進むと、血管の内壁に付着したコレステロールの塊(プラーク)が破裂し血栓が形成されます。血栓ができ、血管が詰まると心筋梗塞や脳梗塞を発症します。心筋梗塞は激しい胸痛や呼吸困難、意識消失などを引き起こし、突然死に至ることもある病気です。
脳梗塞は、片側麻痺やしびれ、ろれつが回らない、激しい頭痛といった症状が現れます。後遺症が残る可能性も高い病気です。脂質異常症は心筋梗塞や脳梗塞の大きな危険因子になります。特に家族に心筋梗塞や脳梗塞の方がいる場合は、より注意が必要です。
脂質異常症は糖尿病や高血圧と相互に悪影響を及ぼします。糖尿病になると、血糖値が高い状態が続き、血管の内側が少しずつ傷ついていきます。高血圧は血管に強い圧力をかけるため、血管の壁に負担がかかり、動脈硬化が進みやすくなる原因です。
脂質異常症は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を合併すると、リスクが増すため、生活習慣の改善と治療が不可欠です。
脂質異常症は、血管だけでなく肝臓や腎臓にも悪影響を及ぼす可能性があります。中性脂肪が高い状態が続くと、肝臓に脂肪が蓄積し、脂肪肝を引き起こします。放置すれば肝機能障害や肝硬変といった深刻な病気へ進行する恐れがあるため注意が必要です。
腎臓の細動脈が動脈硬化で傷つくと腎機能が低下し腎不全に至る可能性があります。腎不全は、人工透析が必要になることもあるため早期対策が不可欠です。
脂質再検査後に取るべき行動は以下の4つです。
再検査までの期間は生活習慣を見直す好機です。生活改善のポイントは以下の3つです。
脂質異常症の要因の一つは、脂肪分の多い食事です。飽和脂肪酸が多い肉の脂身や加工肉、バターなどを控えます。魚介類や野菜、大豆製品、海藻やきのこを中心にし、オメガ脂肪酸を含む青魚(イワシやサバ、サンマなど)を毎食取り入れましょう。過剰な糖質摂取により、肝臓で中性脂肪が合成されやすくなるため主食の量を適量に調整します。
適度な運動は、脂質値の改善に効果が期待できます。ウォーキングや軽いジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動を週3回、1回30分以上行うのが理想です。筋トレを加えると基礎代謝が上がり、脂質管理に役立ちます。アルコールは中性脂肪を一時的に上げるため、再検査までは控えます。
少量でも中性脂肪値が上がる場合があるため注意が必要です。再検査のために行う対策は再検査の数値改善だけでなく、健康的な生活習慣の一環として推奨されます。
運動療法については以下の記事で詳細に解説していますので、あわせて読んでみてください。
>>高血圧の運動療法のおすすめの方法や効果を高血圧治療ガイドラインをもとに解説!
再検査の結果、脂質異常症と診断された場合は、医師の指導のもと、必要に応じて治療を検討します。治療は以下のとおりです。
脂質異常症の治療薬はさまざまな種類があるため、医師が状態に合わせ最適な薬剤を選択します。
脂質異常症は改善しても、食事の乱れや運動不足が続くと再び悪化するおそれがあります。治療後も3〜6か月おきに血液検査を行い、コレステロールと中性脂肪の値を定期的に確認しましょう。早期に変化をチェックすれば再発予防と迅速な対処が可能となります。
脂質の値が基準値から外れる原因はさまざまです。基準値から外れていたとしても必ずしも深刻な疾患を示すとは限りません。高脂肪食やアルコール摂取、服用中の薬剤や一過性の体調不良など生活習慣や体質が値に影響することが多くあります。再検査までの期間は、生活習慣を見直すタイミングです。
再検査後は医師と相談し、必要に応じて食事療法や運動療法、薬物療法を組み合わせることで脂質値は管理が可能になる場合があります。脂質異常症は自覚症状が乏しく、放置すると動脈硬化などを引き起こす可能性が高くなります。再検査をきっかけに継続的な検査と生活改善を習慣化し、将来の健康リスクを低減しましょう。
健診で異常があった際の再検査について、詳しい情報は下記ページをご覧ください。
>>健康診断で異常があったらどうする?|静岡市にお住まいの方へ
acob Joseph et al.Pragmatic evaluation of events and benefits of lipid lowering in older adults (PREVENTABLE): Trial design and rationale.Journal of the American Geriatrics Society,2023,71,6,p.1701-1713
大石内科循環器科医院
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