アルツハイマー型認知症は、誰でも発症する可能性がある身近な病気です。日々の生活習慣や高血圧、糖尿病などが間接的に発症リスクを高めやすくします。食事や運動だけでなく「腸と脳の関係」や「過去にかかった感染症」などの要因も脳の健康に関わっているのです。
本記事では、今日から実践できる具体的な予防法から、注意すべきリスクまでを解説します。ご自身と家族のためにできることから始め、認知症への進行を緩やかにする方法を知りましょう。
静岡市にお住いの方やご家族様で違和感を感じたら、当院の「もの忘れ外来」をご予約ください。日常生活から改善できることを始めると、進行を遅らせることができる場合もあります。ご家族の方が負担にならないよう医療面のサポートを受けながら向き合っていきましょう。
アルツハイマー型認知症の予防法について、以下を解説します。
腸内環境を整える食事は、脳の健康維持が期待されます。具体的な食事法は、以下のとおりです。
地中海食は、腸内の善玉菌をサポートし、脳の炎症を抑える働きが期待できます。マインド食は、研究によりアルツハイマー型認知症の発症リスク低下との関連が報告されています。以下の食品を、日々の食事に少しずつ加えてみましょう。
ご自身で調理することも、日常の活動としておすすめです。献立を考え、段取りを立て、指先を使う一連の作業は、脳の前頭葉を刺激する良いトレーニングになります。
運動習慣は、脳の血流改善や神経細胞の保護に寄与し、認知機能の維持に役立つ可能性があります。研究では、運動によって脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質が増え、認知と気分の改善に役立つことが報告されています。激しい運動は必要なく、以下の運動を日々に取り入れましょう。
少し息が弾むペースを心がけましょう。頻度は週に3回以上、1回あたり30分程度が目安です。運動は一人で行うよりも、家族や友人と一緒に行うのがおすすめです。
会話を楽しみながら体を動かすことで、脳への刺激と社会的な交流にもつながります。
脳の健康維持には、知的な活動や社会的刺激も大切です。「楽しい」と感じながら、少しだけ「難しい」ことに挑戦することが大切です。具体的には、以下の活動が挙げられます。
日常生活でできる工夫は、以下のとおりです。
「興味があったけれど手を出せなかった」ことに、挑戦してみましょう。
人との交流は、脳への刺激になります。会話は、脳のさまざまな部分を同時に使う、高度な知的活動になります。具体的には、以下の流れで会話をしています。
研究では、社会的接触の少なさや孤独が将来の認知症発症との関連が報告されています。社会とつながるポイントは、以下のとおりです。
無理のない範囲で、人と関わる機会を意識的に作ることが大切です。
アルツハイマー型認知症の発症リスクを高める要因について、以下の6つを解説します。
生活習慣病は、動脈硬化を招き、脳血流を低下させることで、神経細胞の機能障害や認知機能の低下に関与する可能性があります。高血圧は、脳構造や微小血管系に直接影響を及ぼし、動脈硬化を進行させます。血液中の悪玉コレステロールが多い脂質異常症も、動脈硬化を進行させる一つです。
研究では、高血圧の人は認知症のリスクが高いと報告されています。糖尿病においても、認知症のリスクを高める報告があります。肥満は、高血圧や糖尿病などを引き起こしやすく、間接的に認知症のリスクを高めるのです。
生活習慣病は、日々の食事や運動で予防、改善が期待できます。健康診断などで数値を指摘された場合は、放置せず治療に取り組みましょう。
以下の記事では、認知症の進行を緩やかにする方法や最新の治療法、日常生活でできる工夫について医師の監修のもと詳しく解説しています。
>>【医師監修】認知症の進行を止める方法はある?症状悪化を防ぐ治療や対策を解説
「アポリポ蛋白E(APOE)」遺伝子が発症リスクに関わることがわかっています。ε4(イプシロンフォー)」の型を持つ人は、持たない人と比べ、発症リスクの上昇と早期発症に関連があると報告されています。
遺伝がすべてを決めるわけではなく、APOEのε4を持っていても、必ず発症するわけではありません。ε4を持っていなくても発症する方はいます。遺伝は、リスク因子の一つにすぎません。遺伝子検査でご自身の型を知ることもできます。結果に一喜一憂するのではなく、リスクを知るきっかけと捉えることが大切です。
以下の記事では、認知症の遺伝リスクや関係する要因、日常生活でできる予防策について詳しく解説しています。
>>認知症は遺伝する?考えられる要因や発症リスク、予防法を解説
食生活の乱れやストレスなどで、腸内環境が乱れると発症リスクを高めやすいです。研究では、腸と脳は互いに影響し合う(腸脳相関)と報告されています。腸内の細菌バランスが乱れると、腸での軽い炎症や細菌由来の有害物質が増え、血液中を巡ります。
血液脳関門(血液中の有害物質や細菌が脳に入り込むのを防ぐ場所)の働きが乱れ、脳で小さな炎症が起きやすくなります。慢性的な炎症は、アルツハイマー型認知症の原因物質の蓄積を促すリスクが示唆されています。腸内環境を健やかに保つことは、脳の健康を守るために大切です。
肺炎やインフルエンザなどの感染症も、発症リスクを高める要因の一つです。感染により体で炎症が強まると、脳にも炎症(神経炎症)が起こる可能性があります。研究では、肺炎による入院は認知症リスクの増加と関連していると報告されています。
高齢者にとって、肺炎は体力を奪うだけでなく、脳にも長期的な影響を与える可能性があります。日頃から手洗いやうがいを徹底し、免疫力を保つことが大切です。感染症を予防するために、肺炎球菌ワクチンの接種を検討しましょう。
長期的なストレスや睡眠不足は、脳に影響を及ぼす要因です。睡眠中は、アミロイドβなど、脳内で老廃物の排出が行われています。睡眠不足や質が悪いと、老廃物の排出が不十分となり、脳に有害物質がたまりやすくなります。
慢性的なストレス下では、ストレスホルモン(コルチゾール)が過剰に分泌されます。コルチゾールは、記憶を司る脳の「海馬(かいば)」部分を傷つけ、縮小させる傾向があります。海馬は、アルツハイマー型認知症で早期にダメージを受ける部位です。慢性的なストレスは、脳の働きに影響します。
認知症予防には、意識的に休息時間をとり、心と体を休ませ、脳をリフレッシュさせる時間の確保が大切です。
社会とのつながりや、頭を使う機会が減ると、脳への刺激が少なくなり、リスク要因となります。誰かと会話をするとき、脳は活発に働いています。会話は、脳のさまざまな部分を同時に使う高度な知的トレーニングです。人との交流が減る「社会的孤立」は、脳の活動を低下させます。
新しいことを学んだり、趣味に没頭したりするなど、脳を使い続ける活動を続けましょう。「認知予備能(にんちよびのう)」は、脳の神経ネットワークの維持に寄与する可能性があります。予備能があるほど、脳に多少の変化が起きても、認知機能を維持しやすくなります。
日々の生活に「楽しい」と感じられる活動を取り入れ、楽しみながら脳を使い続けましょう。
認知機能の低下が気になった際に取るべき行動は、以下のとおりです。
もの忘れは2種類あり、違いは以下のとおりです。
もの忘れセルフチェックリストは、以下のとおりです。
当てはまる項目があり、ご家族の様子で気になる点があれば、一人で抱え込まず専門の医療機関へ相談しましょう。
もの忘れの相談は「もの忘れ外来」や「認知症外来」が専門です。「脳神経内科」や「精神科」でも相談できます。医療機関では、さまざまな検査を通してもの忘れの原因を詳しく調べます。主な検査は、以下のとおりです。
研究では、過去のつらい体験による心の傷(PTSD)が、認知機能に影響を与える可能性を示唆しています。問診では過去のストレス体験を聞くこともあり、心の状態も含め、認知機能の状態を定期的に確認していきます。
検査の結果、健康な状態と認知症の中間にあたる「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれる段階があります。日常生活に大きな支障はないものの、もの忘れを自覚している状態です。MCIと診断されても、必ず認知症が進行するわけではありません。適切な対策で進行を緩やかにし、認知機能の維持や改善が期待できる場合があります。
対策は、以下のとおりです。
医師と相談しながら、できることから取り組んでいきましょう。以下の記事では、認知症になりやすい人の特徴や傾向について、最新の知見をもとにわかりやすく解説しています。
>>認知症になりやすい人の特徴とは?
アルツハイマー型認知症の発症リスクは、それぞれが影響し合うことが判明しています。食事や運動、人との交流など日々の生活習慣を見直すことで、発症リスクの低下が期待できます。「一駅多く歩いてみる」「趣味の仲間と話す時間を作る」など、日常生活の中で楽しみながら続けられる工夫が大切です。
ご自身やご家族で気になる症状がある場合は、現在の状態を知るためにもチェックリストを活用しましょう。MCIの段階では、適切な対策で進行を遅らせ、認知機能の維持や改善が期待できる場合があります。一人で抱え込まず、もの忘れ外来などの専門家へ相談し、医療面のサポートを受けながら症状に向き合いましょう。
以下の記事では、認知症の検査内容や受診のタイミング、検査の流れについて詳しく解説しています。
>>認知症の検査内容で行うことは?受ける目安や検査の種類・流れも解説
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