ご家族の「もの忘れ」や「歩き方の変化」に、認知症の不安を感じていませんか。認知症には種類があり、脳梗塞や脳出血が原因で起こる「血管性認知症」は、アルツハイマー型とは症状の現れ方が異なります。認知症の症状の悪化や、できることとできないことの差が激しい「まだら認知症」になることが特徴です。
この記事では、血管性認知症の特有のサインや原因、進行を抑えるための治療法まで解説します。早期発見と適切な対応が、その後の生活の質を大きく左右します。ご自身やご家族の気になる変化と照らし合わせながら、正しい知識を身につけましょう。
以下の記事では、認知症の進行を緩やかにする方法や最新の治療法、日常生活でできる工夫について医師の監修のもと詳しく解説しています。
>>【医師監修】認知症の進行を止める方法はある?症状悪化を防ぐ治療や対策を解説
血管性認知症に見られる特徴的な症状は、以下の4つです。
「急な悪化」と「一時的な安定」を繰り返すのが、血管性認知症の典型的な経過です。脳梗塞や脳出血などの脳の血管トラブルが起こるたびに、認知機能が一段階低下します。次のトラブルが起こるまでは、しばらく症状が安定した状態が続きます。
昨日まで自分でできていた買い物や料理が、脳梗塞をきっかけに急に難しくなる変化が見られます。症状の進み方は、原因となる脳血管障害の場所や大きさによってさまざまです。小さな脳梗塞が繰り返し起きている場合は、アルツハイマー型認知症のように、ゆっくりと症状が進んで見えることもあります。
ご本人やご家族が「最近、急にできなくなったことがある」と感じたときは、医師による診断が必要な場合があります。
血管性認知症では、脳がダメージを受けた部分と、受けていない健康な部分がはっきりと分かれていることが多いです。失われた脳の機能と、保たれている機能が混在し、できることとできないことの差が大きくなります。脳の色がまだら模様になっている様子から「まだら認知症」と呼ばれています。
まだら認知症の具体的な特徴は、以下のとおりです。
昔の出来事は鮮明に覚えているのに、物事を計画して段取り良く進めることが苦手になります。金銭の計算はしっかりできるのに、服を正しく着ること、道具をうまく使うことができません。「昨日はできなかったのに、今日はできる」こともあります。
ご本人の状態をよく観察し、できることを見つけて、苦手な部分をサポートすることが大切です。
血管性認知症の症状として、感情のコントロールが難しくなる「感情失禁(かんじょうしっきん)」が見られることがあります。感情をコントロールする脳の部分の血流が悪くなることで起こりやすい症状です。脳がダメージを受けることで、感情のブレーキが効きにくくなるイメージです。以下の様子が見られます。
血管性認知症は、感情の起伏が激しくなります。ご本人も、なぜ強い感情が湧き上がってくるのかわからず、戸惑いやつらさを感じていることが多いです。「これは病気の症状なのだ」と理解し、冷静に受け止めることが重要です。
ご本人が落ち着くまでそばに寄り添い「大丈夫だよ」と安心できる言葉をかけてあげましょう。
血管性認知症は、記憶や判断力といった認知機能の症状だけでなく、身体の動きに関わる症状が現れやすい特徴があります。血管性認知症で見られやすい身体症状は、以下のとおりです。
身体症状は、脳のどの部分の血管がダメージを受けたかによって、現れ方が異なります。ご家族に身体の変化が見られた場合は、単なる加齢のせいと考えず、血管性認知症の可能性も考えましょう。気になる症状があれば、できるだけ早く専門の医療機関に相談することをおすすめします。
主な認知症は、血管性認知症とアルツハイマー型認知症で、原因が違うため、症状の現れ方や進行の仕方も変わります。ご本人やご家族の症状がどちらに近いか比べてみましょう。血管性認知症の特徴は、以下のとおりです。
アルツハイマー型認知症の特徴は、以下のとおりです。
アルツハイマー型認知症は、脳全体がゆっくりと変化します。初期には、忘れたことを隠すために無意識に話を作る「取り繕い」という行動が見られることがあります。進行すると、自分の失敗を他人のせいにする「物盗られ妄想」などが現れることも特徴です。
気になる症状があれば、自己判断せずに専門の医療機関へご相談ください。以下の記事では、認知症の検査内容や受診のタイミング、検査の流れについて詳しく解説しています。
>>認知症の検査内容で行うことは?受ける目安や検査の種類・流れも解説
血管性認知症の主な原因は、以下のとおりです。
血管性認知症の最も直接的な原因は「脳血管障害」で、一般に「脳卒中」とも呼ばれる病気です。脳血管障害は、脳の血管が詰まったり、破れたりすることで起こります。脳血管障害の主な種類は、以下の3つです。
脳血管障害で脳細胞が壊れると、壊れた部分が担っていた機能が失われます。手足の麻痺などが残る大きな脳卒中だけが原因ではありません。小さな脳梗塞(多発性脳梗塞)が繰り返し起こることでも、認知機能は少しずつ低下していきます。
小さな障害であっても、記憶や思考に重要な部分(戦略的部位)に起こると、重い認知症症状が現れることもあります。
脳血管障害は、長年の生活習慣病が潜んでいることがほとんどです。以下の生活習慣病は、自覚症状がないまま静かに血管を傷つけるため「サイレントキラー」とも呼ばれます。
上記の病気は、血管を硬くもろくする「動脈硬化」を進行させ、脳血管障害のリスクを高めるのです。高血圧は、血管の壁を傷つけ、血管のしなやかさを失わせ、動脈硬化を進めます。糖尿病は、高い血糖値が血管の内側を傷つけ、血液がドロドロになり、血の塊ができやすくなります。
脂質異常症は、増えすぎた悪玉コレステロールなどが、血管の壁にこびりつき、血管を狭くして詰まらせます。生活習慣病を早期に発見し、治療を続けることは、脳血管障害の予防や血管性認知症の発症・進行の抑制において重要です。
治療が必要な病気だけでなく、日々の生活習慣も血管の健康に影響します。血管性認知症のリスクを高める生活習慣は、以下のとおりです。
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、血圧を上げます。タバコの多くの有害物質が血管の壁を直接傷つけ、動脈硬化を強力に進めます。アルコールの飲みすぎは高血圧や脂質異常症を悪化させ、心臓の病気(心房細動)を招くこともあり、脳梗塞のリスクを高めます。以下の2つは、脳梗塞のリスク要因になります。
日々の生活習慣病は、ご自身の意思で改善が可能なので、1つでも見直して未来の脳の健康を守りましょう。
脳の奥深くにある髪の毛よりも細い血管が傷つく「脳小血管病(のうしょうけっかんびょう、cSVD)」も重要な原因の一つです。脳小血管病は、アルツハイマー型認知症に次いで多い認知症の原因とも言われています。両方の病気が同時に起こる「混合型認知症」も多いです。
主に加齢や長年の高血圧によって、脳の細い血管が硬くなったり、もろくなったりする病気です。脳小血管病が進むと、脳の広い範囲で血流が慢性的に悪くなります(脳灌流低下)。脳灌流(のうかんりゅう)低下の結果、脳がじわじわと酸素や栄養不足の状態に陥ります。ゆっくりと脳の働きが低下するため、ご本人も周りも気づきにくいのが特徴です。
初期には、以下の変化が先に現れることもあります。
血管性認知症の根本的な原因を考えるうえで、目に見えない細い血管の状態を良好に保つことが、大切になります。
一度ダメージを受けた脳の細胞を元に戻すことは、現在の医療では難しいとされています。適切な治療により、病気の進行を抑制し、今ある能力を長く保つことが期待できます。近年の研究では「健康な心臓は、健康な脳をつくる」という考え方が重要視されています。
脳だけでなく全身の血管の健康を守ることが、認知機能の維持に直結します。血管性認知症の進行を抑える治療法は、以下のとおりです。
血管性認知症の薬物療法は、症状を直接治すためというより、最大の原因である脳血管障害の「再発を防ぐ」ことが一番の目的です。未来に起こりうる次の脳卒中から脳を守るための、大切な「守りの治療」と言えます。脳梗塞や脳出血の引き金となる生活習慣病を、薬でコントロールすることが中心になります。
主な薬は以下のとおりです。
抗血栓薬は、脳梗塞の原因となる「血栓(けっせん)」という血の塊の形成抑制に用いられる薬です。以下の症状に対して、気持ちを安定させる、睡眠を整える薬を使うこともあります。
医師の指示通りに薬をきちんと飲み続けることは、脳の健康維持と穏やかな生活継続のために重要とされています。
薬物療法は、失われた機能の回復を目指すとともに「今できること」の維持・向上により、生活の質の改善が期待されます。リハビリテーションを通して健康的な生活習慣を身につけることは、脳血管障害の再発予防にもつながります。専門家のサポートを受けながら、ご自身の状態に合わせて行いましょう。
リハビリテーションの種類については、以下の3つです。
理学療法の具体的な例は、以下のとおりです。
作業療法の具体的な例は、以下のとおりです。
言語聴覚療法の具体的な例は、以下のとおりです。
リハビリテーションは、病院だけでなく、介護保険サービスを利用してご自宅やデイサービスなどでも受けられます。大切なのは「やらされる」のではなく、ご本人が楽しみながら主体的に取り組むことです。無理のない範囲で続けることが自信と意欲につながり、より良い生活を送るための支えとなります。
血管性認知症の診断後の生活ポイントは、以下のとおりです。
血管性認知症の進行を抑えるには、脳の血管にこれ以上ダメージを与えないことが大切です。健康的な行動習慣は脳血管障害の再発を防ぎ、認知機能の低下をゆるやかにすることが期待できます。脳の血管を守る食事の基本は、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の予防・改善です。食事で気をつけたいことは、以下のとおりです。
漬物や汁物、練り物などの加工食品は塩分が多いので控えめにしましょう。野菜や果物、魚(特にDHAやEPAが豊富な青魚)の積極的な摂取がおすすめです。さまざまな栄養素をバランス良く摂ることは、血管の健康維持に重要とされています。
お肉の脂身やバターに多い「飽和脂肪酸」や、マーガリンに含まれる「トランス脂肪酸」は、血液をドロドロにしやすいです。飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂りすぎには注意が必要です。
身体を動かすことは、血流改善や血管の健康維持、気分転換や意欲の向上に良いとされています。運動で心がけたいことは、以下のとおりです。
健康的な習慣は、脳血管障害のリスク軽減に重要とされています。ご自身でできることから少しずつ始めてみましょう。
ご家族は「できなくなったこと」に目が行きがちですが「まだできること」に目を向け、ご本人の意思を尊重することが大切です。自分で考えて決める、誰かの役に立つ感覚は、ご本人の自尊心と生活の質(QOL)を保つうえで大きな意味を持ちます。関わり方のポイントは以下のとおりです。
何かを忘れたり、うまくできなかったりしても、責めずに「大丈夫だよ」と声をかけましょう。ご家族だけで介護のすべてを抱え込む必要はありません。負担やストレスを感じたら、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談しましょう。
デイサービスなどの介護保険サービスを上手に活用し、ご家族が心と身体の健康を保つことが、ご本人を支えます。
脳の血管トラブルが原因で起こるため、一度ダメージを受けた脳細胞は元に戻りませんが、進行を穏やかにすることは可能です。大切なのは、高血圧などの治療をしっかり続け、新たな脳卒中を防ぐことです。塩分を控えた食事や無理のない運動など、日々の生活を見直すことが、脳の健康を守ることに直結します。
ご家族は「できなくなったこと」より「まだできること」に目を向け、ご本人の気持ちを尊重してあげてください。血管性認知症と感じる変化があれば、決して一人で抱え込まず、早めに専門の医療機関に相談しましょう。
以下の記事では、認知症になりやすい人の特徴や傾向について、最新の知見をもとにわかりやすく解説しています。
>>認知症になりやすい人の特徴とは?
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