「夜中に何度も目が覚める」「朝起きても疲れが取れない」そんな経験はありませんか?実は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサインである可能性があります。SASは、睡眠中に呼吸が何度も止まることで質の高い睡眠を妨げ、日中の眠気や集中力低下、さらには高血圧や心臓病のリスクを高める恐れがある病気です。
本記事では、SASの症状や原因、診断方法や治療法、そして予防法について詳しく解説します。記事を読めば、自分や大切な人の健康を守るための第一歩を踏み出すことができます。質の高い睡眠は、健康的で充実した毎日を送るための基盤なので、ぜひ参考にしてください。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸が繰り返し停止または減少する疾患です。この病気は一般的に考えられているよりも広く蔓延しており、日本では推定200〜300万人が罹患していると言われています。SASの主要な症状について解説します。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の最も顕著な症状の一つは、日中の過度の眠気です。夜間の睡眠が断片化され、深い睡眠(徐波睡眠)が減少することに起因します。具体的には以下の症状が現れます。
上記の症状は、睡眠の質の低下による脳機能の低下が原因です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の特徴的な症状には、大きないびきと呼吸停止(無呼吸)があります。いびきは、上気道の狭窄により発生し、しばしば大きく不規則な音となります。無呼吸は、10秒以上の呼吸停止が1時間に5回以上、または7時間の睡眠中に30回以上発生する場合にSASと診断されます。
上記の症状は、睡眠中の上気道の閉塞や狭窄によって引き起こされます。重症度の指標として使用される無呼吸低呼吸指数(AHI)は、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数で定義されます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に繰り返し呼吸が停止または減少する疾患です。SASの主要な原因は、睡眠中の上気道の閉塞または狭窄です。上気道は鼻腔から喉頭までの空気の通路を指し、呼吸において重要な役割を果たします。以下の解剖学的特徴がSASのリスクを高めます。
上記の要因により、睡眠中に上気道の筋緊張が低下した際に気道が容易に閉塞しやすくなります。小顎症*の場合、下顎が後方に位置するため、舌根が後方に落ち込みやすく、気道を狭窄させる可能性が高くなります。
*小顎症:下あご(下顎骨)が上あご(上顎骨)に対して後退している状態
睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスク因子は以下のとおりです。
リスクになりうる要因を事前に把握しておきましょう。
肥満は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の最も重要なリスク因子の一つです。肥満がSASのリスクを高める理由は以下のように挙げられます。
そのため、体重減少はSASの症状改善に効果的です。
加齢に伴い、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の有病率は増加します。上気道の筋緊張低下や軟部組織の弛緩が原因と考えられています。
男性は女性の2〜3倍SASのリスクが高いとされています(睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020)。男性ホルモンの影響や体脂肪分布の違いが関係していると考えられています。
以下の生活習慣要因も睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスクを増加させる可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)には遺伝的素因も関与しています。遺伝子レベルでは、以下のような関連が示唆されています。
ただし、遺伝的要因は単独でSASを引き起こすわけではなく、環境要因や生活習慣と相互作用して発症リスクを高めると考えられています。
甲状腺機能低下症や先端巨大症などの内分泌疾患も、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスクを高めることが知られています。
甲状腺機能低下症は、粘液水腫による上気道の狭窄と呼吸中枢の抑制がSASのリスクを高めます。甲状腺機能低下症患者の30%程度がSASを合併するという報告もあります。
先端巨大症は、成長ホルモンの過剰分泌により、舌や軟部組織の肥大が起こり、上気道の狭窄を引き起こします。先端巨大症患者の60〜70%がSASを合併するとされています。
原因とリスク因子の多くは相互に関連しており、複合的に作用してSASの発症と重症化につながります。リスク因子(肥満、喫煙、アルコール摂取など)に対する生活習慣の改善が、SASの予防と治療の基本です。肥満傾向のある中高年の方は、SASのスクリーニング検査を受けることを推奨します。
症状が疑われる場合は、自己診断や自己治療に頼らず、専門医の診断と指導を受けることが最も重要です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に繰り返し呼吸が停止または減少する疾患です。適切な治療を受けることで、症状の改善や合併症リスクの低減が期待できます。SASの主要な治療法と選択基準について解説します。
持続陽圧呼吸療法(CPAP)は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療法の一つです。中等度から重度のSAS患者さんに最初に検討される治療法で、睡眠中にマスクを装着して使用します。
CPAPの仕組みは、マスクを通じて気道に常に空気圧をかけることで、上気道が塞がるのを防ぐというものです。呼吸が止まったり浅くなったりするAHIが大きく減少し、日中の眠気も改善されます。
さらに、血圧を下げる効果や心臓病のリスクを減らす効果もあることが、多くの研究で示されています。効果を得るには、毎晩4時間以上使用することが重要です。
CPAPは効果的な治療法ですが、長期的に継続して使用することが課題となっています。患者さんの半数〜7割程度が継続使用できているという報告があります。
軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群(SAS)、またはCPAPに不耐性の患者さんに対して考慮されます。下顎を前方に移動させることで、上気道の開存性を改善します。口腔内装置の効果は以下のとおりです。
ただし、顎関節症や歯周病などの副作用に注意が必要です。また、定期的な歯科受診による調整が必要となります。
CPAPや口腔内装置が効果的でない場合、または解剖学的異常が明確な場合に考慮されます。主な手術方法には以下があります。
手術の効果は個人差が大きく、長期的な効果についてはさらなる研究が必要です。また、手術には合併症のリスクがあるため、慎重な適応判断が必要です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、適切な治療を受けることで症状の改善や生活の質の向上が期待できる疾患です。SASの主要な治療法と効果について解説します。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療の主な目的は、睡眠中の呼吸障害を軽減し、睡眠の質を向上させることです。睡眠の質とは、単に睡眠時間だけでなく、睡眠の深さや連続性、目覚めた後の爽快感なども含む総合的な概念です。SAS治療の睡眠の質に対する効果は以下のとおりです。
以上の内容を改善することにより、患者さんは朝まで途切れずにぐっすり眠れ、起床時の爽快感が増すことが期待できます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は、夜間の睡眠の質を改善するだけでなく、日中の症状にも大きな影響を与えます。治療することで、以下が改善する可能性があります。
上記の内容を改善することにより、患者さんは日中により活動的に過ごせるようになり、仕事や学業での集中力が向上することが期待できます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、高血圧や心血管疾患のリスク因子として知られています。適切な治療は、高血圧や心血管系のリスクを軽減する効果があります。
上記の効果により、SAS患者の長期的な心血管健康が改善することが期待できます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は、睡眠や日中の症状だけでなく、総合的な生活の質(QOL)を向上させる効果があります。SASはうつ症状のリスクを高めますが、治療によって症状が改善します。日中の眠気や集中力低下の改善により、社会的な活動や対人関係が向上できます。
SASによる日中の眠気や集中力の低下は、交通事故のリスクを高めますが、治療を受ければリスク低減を図れます。生活習慣の改善により、患者さんはより充実した日常生活を送ることができるようになります。
CPAP療法は効果的な治療法ですが、いくつかの不快な症状を引き起こす可能性があります。適切な対策で軽減できることが多いです。よくある症状と対策は以下のとおりです。
治療時の症状で困ったときは、医療スタッフに相談しましょう。多くの場合、適切な調整で改善します。調整後も違和感などが続く場合は、他の治療法を検討することもできます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の予防と管理において、生活習慣の改善は重要な要素です。特に以下の点に注目する必要があります。
肥満はSASの主要なリスク因子です。適切な体重管理を行うことは、SAS予防にも効果的です。体重管理のための具体的な対策は以下のとおりです。
喫煙はSASのリスクを高めます。タバコに含まれる有害物質は上気道の炎症を引き起こし、気道の狭窄を悪化させます。禁煙のための具体的な対策は以下のとおりです。
当院では禁煙外来も行っておりますのでご相談ください。
就寝前のアルコール摂取は上気道筋の緊張を低下させ、SASの症状を悪化させる可能性があります。アルコール摂取の管理は以下にもとづいて行いましょう。
適切な睡眠環境は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の予防と管理に重要な役割を果たします。以下の点に注意を払いましょう。
その他の予防策として、おすすめしたいのは以下のとおりです。
生活習慣の改善や睡眠環境の最適化、定期的な健康管理を組み合わせることで、SASのリスクを低減し、症状を改善できます。ただし、予防策や対策だけでは十分でない場合もあります。持続的な症状がある場合や、リスクが高いと思われる場合は、専門医の診断を受け、適切な治療(CPAP療法、口腔内装置など)を検討することが重要です。
SASの予防と管理は、単に睡眠の質を改善するだけでなく、全体的な健康と生活の質の向上にもつながります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の正確な診断は、適切な治療計画の立案と患者さんの生活の質の向上に不可欠です。SASの診断プロセスと主要な検査方法について詳細に解説します。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断プロセスは通常、詳細な問診と身体検査から始まります。問診では、医師は以下のような質問を通じて、患者さんの症状や生活習慣を評価します。
身体検査で行われるのは以下の項目です。
上記の初期評価により、SASの可能性が示唆された場合、さらに詳細な検査が行われます。
PSGは睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断における最も信頼性の高い検査方法です。この検査では、一晩を通じて以下のパラメータを同時に記録します。
PSGの結果から、AHIが算出されます。AHIは1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数で、以下の表のようにSASの重症度分類に使用されます。
1時間あたりの無呼吸と低呼吸 | 基準 |
5回未満 | 正常範囲内 |
5〜15回未満 | 軽度睡眠時無呼吸症候群 |
15〜30回未満 | 中度睡眠時無呼吸症候群 |
30回以上 | 重度睡眠時無呼吸症候群 |
当院には、いびき・睡眠無呼吸外来があります。このポリソムノグラフィー検査をご希望の方は、ご相談ください。
PSGを受ける際は、病院での一晩の入院が必要となります。そのため、初期スクリーニングや軽症例の診断には、携帯型睡眠検査装置が使用されることがあります。携帯型も呼吸気流や酸素飽和度、心拍数などの主要なパラメータを測定でき、手軽に自宅で使用できます。
携帯型装置はPSGほど詳細なデータを提供できないため、結果の解釈には注意が必要です。重症例や複雑な睡眠障害が疑われる場合は、PSGによる確定診断を推奨します。
他にも、補助的な検査として以下があります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断は、上記の検査結果を総合的に評価して行われます。症状が疑われる場合は、早期に専門医の診察を受けることが重要です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は見過ごせない重大な健康問題です。主な特徴は以下のとおりです。
症状が気になる方は専門医への相談をおすすめします。生活習慣の改善や適切な治療を行うことで、質の高い睡眠を取り戻し、健康的な日々を送ることができます。
当院は、いびき・睡眠無呼吸外来を行っており、豊富な治療経験があります。気になる症状がある方はぜひ当院へご相談ください。
Huang J, Qin M, Lu W and Shen X. Dexmedetomidine Improved Sleep Quality in the Intensive Care Unit After Laryngectomy.. Drug design, development and therapy 17, no. (2023): 1631-1640.
大石内科循環器科医院
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