身近な人が”昨日の夕食”を忘れてしまったり、”今日が何曜日か”分からなくなってしまった場面に遭遇したら、あなたはどう感じますか?
実は、こうした症状は認知症の初期段階で現れる可能性があります。認知症は、誰にでも起こりうる身近な病気です。この記事では、記憶障害や見当識障害をはじめとする認知症の中核症状について、具体的な例を交えながら分かりやすく解説していきます。
早期発見・早期治療によって症状の進行を遅らせ、その人らしい生活を長く続けることができる可能性もあります。ご自身やご家族のために、ぜひ最後まで読んでみてください。
認知症の中核症状とは脳の働きが衰えることで、日常生活に支障が出てくる症状のことです。
これまで出来ていたことができなくなる不安は、想像するのも辛いものです。しかし認知症は早期発見・早期治療によって症状の進行を遅らせ、その人らしい生活を長く続けることができる可能性があります。
今回は5つある中核症状について、それぞれ詳しく解説していきます。ご自身や、ご家族に当てはまるものがないか確認しながら読み進めてみてください。
記憶障害は、認知症の初期段階から現れやすい症状の一つです。
「あれ、さっき何をしようとしたんだっけ?」
誰もが一度は経験するような、このような軽い物忘れは加齢によるものや単なる疲労によるものなど、認知症以外の原因で起こることも多くあります。
しかしそれが認知症によるものの場合、単なる物忘れの頻度をはるかに超え日常生活に支障をきたすレベルになります。例えば朝ご飯に何を食べたか全く思い出せなかったり、数分前に聞いた話の内容を忘れてしまったりすることが頻繁に起こるようになります。
さらに症状が進むと数十年前に起きた出来事のように、昔の記憶は鮮明に覚えていられるにも関わらず、今日会った人の顔や名前を覚えられないといった、新しいことを記憶することが特に困難になるという特徴も出てきます。
このように認知症による記憶障害は、単なる物忘れとは質が異なることを理解しておくことが重要です。
見当識障害とは、時間、場所、人物など、自分が置かれている状況が分からなくなることです。
「今日は何月何日?」
「ここはどこ?」
「あなたは誰?」
このような状態になってしまうのです。例えば今日が何月何日か分からなくなったり、自宅にいるにも関わらず、そこが自分の家だと認識できなくなったりするケースがあります。また家族や親しい友人に対しても「あなたは誰?」と、まるで初対面の人に見えてしまうこともあるのです。
このように見当識障害は、時間、場所、人物など、様々な状況認識に影響を及ぼします。症状が進行すると自分が置かれている状況が全く分からなくなり、不安や混乱が強くなり周囲の人を混乱させてしまうことも少なくありません。
理解・判断力の低下とは物事を理解したり、状況に応じて適切な判断をすることが難しくなることです。
例えばテレビのニュースやドラマの内容を理解することが困難になったり、友人との会話の内容が掴めずに相槌を打つのが精一杯になってしまうことがあります。
また料理や掃除、洗濯などの家事全般において、手順が分からなくなったり以前は簡単にこなせていた作業に時間がかかってしまうようになることもあります。
さらに金銭管理や買い物など日常生活における判断力が低下することで、詐欺の被害に遭いやすくなったり高額な商品を必要以上に購入してしまったりするケースも少なくありません。
実行機能障害とは料理や着替え、入浴など、これまでスムーズに行えていた一連の動作を順序立てて行うことが難しくなることです。
例えば料理を作ろうと思っても何から手をつければ良いのか分からず途方に暮れてしまったり、洋服のボタンをかけ違えたり服を前後逆に着てしまったりすることが増えてきます。
このような状態は脳内で複数の情報を処理し、行動を計画・実行する機能が低下しているために起こると考えられています。実行機能障害は、日常生活の様々な場面で支障をきたすため、周囲のサポートが不可欠になります。
言語障害は言葉を発する、理解する、文字を書く、読むといった言語機能全般に障害が現れることです。例えば「あれ」「それ」といった指示代名詞が多用したり、会話の中で何度も同じ話を繰り返すようになったりすることがあります。
また症状が進むと相手の話している内容を理解することが困難になったり、自分の伝えたいことを言葉で表現することができなくなりコミュニケーションを取ること自体が困難になることもあります。
認知症といっても、その原因や症状の出方は実に様々です。
例えば、もの忘れがひどくなったからといって、すぐにアルツハイマー型認知症だと決めつけることはできません。認知症の中核症状は、全ての認知症に共通して見られる症状ですが、その現れ方には認知症の種類によってそれぞれ特徴があります。
認知症を正しく理解し適切な治療やケアにつなげていくためには、それぞれの認知症の特徴を知ることがとても重要です。ここでは代表的なアルツハイマー型認知症と血管性認知症を例に挙げながら、症状の違いについて詳しく解説していきます。
アルツハイマー型認知症は、ゆっくりと、しかし確実に進行していく病気です。
初期症状として、物忘れが目立ち始めます。最初は「あれ、さっき何をしようとしたんだっけ?」といった程度の軽いものですが、次第に「昨日の夕食に何を食べたか思い出せない」「朝はしっかり挨拶したはずなのに家族に『挨拶がない』と怒られる」といったように日常生活に支障をきたすようになっていきます。
中期になると、時間や場所が分からなくなる見当識障害が現れます。「今日は何曜日だっけ?」「ここはどこ?」と何度も同じことを聞いてしまうようになるため、周囲の人は変化に気づくようになります。
さらに進行すると、日常生活を送ることが困難になるほどの記憶障害や理解力の低下が見られるようになります。例えば以前は得意だった料理の作り方が分からなくなったり、服を着ることさえも難しくなってしまったりすることがあります。
末期になると家族の顔さえも分からなくなってしまうこともあり、常に介護が必要な状態となります。
アルツハイマー型認知症は、まるで霧がゆっくりと広がっていくように脳の機能が少しずつ失われていく病気と言えるでしょう。
血管性認知症は脳卒中などが原因で、脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こります。血管がダメージを受けることで脳への血液の流れが悪くなり、酸素や栄養が不足することで脳細胞が損傷を受けてしまいます。
特徴的なのは、症状が段階的に悪化する点です。脳卒中の発症がきっかけで、ある日突然、症状が現れることが多いです。その後、一時的に症状が改善したように見えても再び脳卒中を起こすと、さらに症状が悪化してしまうこともあります。
症状としてはアルツハイマー型認知症と同様に、記憶障害や見当識障害などがみられます。
しかし血管性認知症の場合は、これらの症状に加えて体の麻痺やしびれ、ろれつが回らないなどの身体症状を伴う場合が多い点が大きく異なります。
例えば、「昨日まで普通に歩けていたのに、今日は足がうまく動かない」「言葉が出てこない」といった症状が突然現れたら、血管性認知症の可能性を疑う必要があります。
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症に次いで患者数が多い認知症です。特徴的な症状として「幻視」と「パーキンソニズム」があります。
幻視とは実際にはいない人が見える、虫や小動物が見えるなどの症状です。認知症の患者さんの中には、この幻視によって強い不安や恐怖を感じ混乱してしまう方も少なくありません。
パーキンソニズムとは、パーキンソン病と同じような症状がみられることを指します。具体的には体が硬直したり、動作が遅くなったり手足が震えたりといった症状です。
これらの症状は日によって変動することが多く、比較的意識がはっきりしている時間帯もあるのが特徴です。
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉という部分が萎縮することで起こります。特徴的なのは、行動や性格に変化が現れる点です。
例えば以前は温厚だった人が、些細なことで怒りっぽくなったり周囲の人に暴言を吐いたりするようになることがあります。また周りの人の気持ちを考えずに、衝動的な行動をとってしまうこともあります。
例えば万引きや無謀運転など、反社会的な行動をとってしまい周囲を困惑させてしまうケースも少なくありません。症状が進行すると意欲や自発性が低下し、感情が乏しくなり無気力な状態になってしまうこともあります。
前頭側頭型認知症は比較的若い世代に発症することが多く、初期には周りの人に「怠けている」「わがままになった」と誤解されてしまうこともあります。しかし本人の意志が弱いのではなく、脳の病気によってこのような症状が現れているということを理解することが大切です。
認知症の中核症状は本人の人格を変えてしまうだけでなく、周囲の人間関係にも大きな影響を与える可能性があります。しかし、これらの症状は適切な対応を取ることで、その影響を最小限に抑え穏やかな日々を送れる可能性が広がります。
ここでは医療現場で多くの患者さんと接してきた経験を元に、ご家族ができる具体的な対処法についてお伝えします。
認知症によって患者さんは、今まで当たり前にできていたコミュニケーションに困難が生じ強いストレスを感じています。例えば「さっき言ったでしょう!」と周囲が怒鳴ってしまえば、患者さんはさらに混乱し恐怖心や不安感を抱えてしまうかもしれません。
このような状況を避けるためには、まずは私たちが患者さんの立場に立ち共感に基づいたコミュニケーションを心がけることが重要です。具体的には早口でまくし立てるのではなく、ゆっくりとした口調で話しかける難しい言葉や専門用語は避け分かりやすい表現を使うなどの配慮が大切です。
また「今日は何月何日ですか?」と記憶力を試すような質問は、患者さんをさらに追い詰めてしまう可能性があります。「今日は何曜日ですか?」のように、より答えやすい質問に置き換えるなど状況に合わせた柔軟な対応が求められます。
さらに言葉だけでなく笑顔を見せる、優しく手を握るなどの非言語的なコミュニケーションも有効です。患者さんの表情や仕草をよく観察し言葉以外の方法も使いながら、気持ちを理解しようと努めましょう。
徘徊や幻覚、妄想などの行動症状は周囲の人々にとって、大きな不安や負担となるだけでなく患者さん自身にとっても危険が伴う可能性があります。
例えば真夏の炎天下を歩き続けて熱中症になってしまったり、車通りの多い道路に飛び出して事故に遭ってしまうケースも少なくありません。このような事態を防ぐためには、まず自宅内の環境調整が重要です。
患者さんが転倒したり怪我をしたりする危険がある箇所には、クッション材を敷いたり家具の配置を工夫したりするなどの対策をとりましょう。また玄関や窓には鍵をかけ、勝手に外出できないようにするなどの対策も有効です。
万が一患者さんが徘徊してしまったら、焦って無理に連れ戻そうとせず、まずは落ち着いてください。大声で叱責したり無理やり拘束したりすると、患者さんはパニックを起こし症状が悪化する可能性があります。まずは安全を確保した上で、優しく声をかけながら落ち着いて自宅へ誘導することが大切です。
認知症の介護は肉体的にも精神的にも、ご家族にとって大きな負担となります。毎日、24時間体制で介護を続けることは決して容易ではありません。介護疲れやストレスから、ご自身の体調を崩してしまっては元も子もありません。
介護負担を軽減するためには、周囲のサポートを積極的に活用することが重要です。例えば訪問介護サービスを利用すれば入浴や排泄の介助、食事のサポートなどを専門のスタッフに依頼することができます。
またデイサービスを利用すれば日中、施設でレクリエーションや機能訓練を受けながら他の利用者と交流することができます。ご家族は、その間、介護から解放され、休息をとったり、自分の時間を過ごしたりすることができます。
介護保険制度を利用すれば、これらのサービスを、比較的安価に利用することができます。
認知症の方でもご利用いただける認知対応型 大石内科デイサービス
認知症の中核症状は記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、言語障害の5つに分類され日常生活に支障をきたす。
これらの症状は認知症の種類によって特徴が異なり、アルツハイマー型認知症はゆっくりと進行するのに対し血管性認知症は脳卒中などをきっかけに段階的に悪化する。
認知症の症状に合わせたコミュニケーションや、徘徊などの行動症状への適切な対処、介護サービスの利用が重要となる。
当院は物忘れ外来を行っております。また。認知対応型通所介護センター(デイサービス)も併設しておりますので、気になる症状等がある方は当院にご相談ください。
大石内科循環器科医院
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