「以前は優しいおじいちゃんだったのに、認知症になってから頑固になってしまった…」
このような変化に戸惑いを感じている方は少なくないのではないでしょうか?
実は認知症によって脳機能が変化すると、感情のコントロールが難しくなり今まで見られなかった「頑固さ」が現れることがあります。
本記事では認知症のタイプ別の症状と対応策に加え、認知症の方と穏やかに過ごすためのコミュニケーションのコツを紹介します。
認知症は決して他人事ではありません。 正しく理解し適切な対応をとることで、大切な家族との穏やかな時間を守っていきましょう。
認知症の「頑固さ」の正体と対処法
「今まで優しい人だったのに、認知症になってから頑固になってしまった…」 ご家族の方から、このようなお悩みを耳にすることは少なくありません。
愛する家族の変化は、戸惑いを感じずにはいられないものです。 しかし、その「頑固さ」は、認知症によって脳の機能が変化したために起こっている可能性があります。
そしてご自身も自分の変化に戸惑い、不安を感じているかもしれません。
「頑固さ」は病気のサイン?認知症で起こる変化
認知症は、単に物忘れがひどくなる病気ではありません。 脳全体の働きが衰える病気であるため、記憶力や判断力が低下するだけでなく感情をコントロールすることが難しくなる場合があります。
その結果、今まで穏やかだった人が些細なことで怒りっぽくなったり、イライラしやすくなったりすることがあります。
例えば、いつもは優しいおじいちゃんがテレビのリモコンが見つからないだけで大声で怒鳴り始めたり、食事の際に箸の置き方が違うと激怒したりするといった行動が見られることがあります。
このような変化は認知症の進行に伴い、より顕著に現れる可能性があります。
認知症によって起こる可能性のある変化
- 感情の起伏が激しくなる
- 怒りっぽくなる
- 些細なことでイライラする
- 不安感が強くなる
- 抑うつ状態になる
- 周りの人への関心が薄れる
- 今までできていたことができなくなり、自信を失う
これらの変化は、認知症の方自身が自覚していない場合も多くあります。 周りの人は頭ごなしに叱ったり、否定したりするのではなく「もしかしたら、病気のせいでつらい思いをしているのかもしれない」と、まずは相手の気持ちに寄り添うことが大切です。
タイプ別の対応方法|アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、認知症の中でも最も多いタイプです。 脳に「アミロイドβ」という異常なタンパク質が蓄積することで、神経細胞が壊れていく病気です。
主な症状としては記憶障害が挙げられますが、進行するにつれて中核症状である認知機能の障害に加え周辺症状として行動・心理症状(BPSD)が現れることがあります。
BPSDの例
- 徘徊:目的もなく歩き回ってしまう
- せん妄:意識がもうろうとした状態になる
- 暴力・暴言:周囲の人に暴力を振るったり、暴言を吐いたりする
- 抑うつ:気分が落ち込み、何をする気力も起きなくなる
- 不安:強い不安感に襲われる
- 幻覚:実際にはいないものが見えたり、聞こえたりする
- 妄想:事実ではないことを事実だと信じ込んでしまう
- 睡眠障害:眠れない、日中に強い眠気に襲われるなど
- 摂食障害:食べなくなったり、逆に過食になったりする
- 異食:食べ物ではないものを口に入れてしまう
- 介護抵抗:介護を拒否する
- 収集癖:物を必要以上に集めてしまう
これらの症状は認知症が進行する過程で一時的に現れる場合もあれば、慢性的に続く場合もあります。
アルツハイマー型認知症では初期の段階では、本人も自分の変化に戸惑い不安を感じています。 そのため周囲の人が否定的な言葉をかけたり無理強いをしたりすると、反発したり頑なに拒否したりすることがあります。
具体的な例を挙げると
- いつものように服を着ようとしても、ボタンをかけられずにイライラして怒り出す
- 「今日はデイサービスに行く日だよ」と伝えると「私はどこにも行かない!」と頑なに拒否する
このような場合は頭ごなしに叱ったり無理強いするのではなく、まずは落ち着いて相手の気持ちに寄り添うことが大切です。
アルツハイマー型認知症の方への対応
- 否定せず共感する 「そうだね」「大変だったね」など、相手の言葉に耳を傾け、共感の姿勢を示すことが大切です。
- 昔の思い出話をする アルツハイマー型認知症では、最近の記憶は曖昧でも昔の記憶は比較的保たれていることが多いです。 昔のアルバムを見せながら思い出話をすることで、心が安らぐことがあります。
- 環境調整をする 生活環境を安全で過ごしやすくすることで、認知症の方の不安や混乱を軽減することができます。 例えば、転倒しやすい場所にはマットを敷いたり、手すりを設置したりする、照明を明るくする、温度や湿度を適切に保つなど、細かい配慮が大切です。
タイプ別の対応方法|前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することで行動や性格、言語などに変化が現れる病気です。 アルツハイマー型認知症に比べて記憶障害は軽度であることが多くありますが、行動や性格の変化が顕著に現れるのが特徴です。
前頭側頭型認知症は40代や50代といった比較的若い世代でも発症することがあり、進行も早い傾向があります。
前頭側頭型認知症の症状
- 性格の変化(頑固になる、無関心になる、攻撃的になるなど)
- 行動の異常(同じ行動を繰り返す、万引きなどの反社会的な行動をとるなど)
- 言語障害(言葉が出にくい、意味不明な言葉を発するなど)
- 食事への執着(過食、偏食、異食など)
- 常同行動(決まった手順や習慣に固執する)
前頭側頭型認知症の方への対応
- 周囲の理解と協力が不可欠 前頭側頭型認知症は、周囲の理解と協力が不可欠な病気です。 認知症の方の行動を「わがまま」と捉えず、「病気のせい」と理解することが重要です。
- 環境調整と見守り 危険な行動を未然に防ぐために、環境調整や見守りを徹底する必要があります。 例えば、刃物や火を使う際には、必ず付き添うようにしましょう。
- 専門医のサポート 症状が進行すると、在宅での介護が困難になる場合もあります。 専門医や医療機関と連携し、適切なサポートを受けることが大切です。
タイプ別の対応方法|レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症に次いで患者数が多い認知症です。 脳内に「レビー小体」という異常なタンパク質が溜まることで神経細胞の働きが阻害され、さまざまな症状を引き起こします。
レビー小体型認知症では認知機能の低下に加え、パーキンソン病のような運動症状や幻視、妄想などの精神症状が現れるのが特徴です。
レビー小体型認知症の主な症状
- 認知機能の変動(日によって、時間帯によって、症状が良くなったり悪くなったりする)
- 幻視(実際にはいないものが見える)
- パーキンソン症状(動作緩慢、歩行障害、姿勢反射障害など)
- レム睡眠行動障害(夢の内容に合わせて手足を動かしたり、大声を出したりする)
- 自律神経症状(便秘、立ちくらみ、発汗異常など)
レビー小体型認知症の方への対応
- 薬物療法 レビー小体型認知症の治療には、薬物療法が有効な場合があります。 症状に応じて、抗認知症薬、抗パーキンソン病薬、抗精神病薬などが処方されます。
- 非薬物療法 薬物療法に加えて、リハビリテーション、生活指導、環境調整などの非薬物療法も重要です。
- 安全対策 転倒や事故のリスクが高いので、家の中や外出先での安全対策を徹底する必要があります。
認知症以外の原因|うつ病の可能性
高齢者の頑固さは認知症だけでなく、うつ病が隠れている可能性もあります。うつ病になると気分の落ち込みや意欲の低下、疲労感、食欲不振、不眠などの症状が現れます。
うつ病になると思考力や集中力が低下し、決断力や実行力が衰えてしまうため「何もする気が起きない」「何をするのも面倒くさい」と感じやすくなります。
うつ病の可能性がある場合の対応
- 医療機関への受診 「もしかしたら、うつ病かもしれない」と感じたら、早めに医療機関を受診することが大切です。
- 休養と睡眠 うつ病の治療には、休養と睡眠が非常に大切です。 十分な睡眠をとり心身ともに休ませるようにしましょう。
- 服薬 うつ病の治療には、抗うつ薬が処方されることがあります。 医師の指示に従って、きちんと服薬することが大切です。
認知症の方と穏やかに過ごすためのコミュニケーションのコツ
認知症の方は、周囲の言葉や態度に非常に敏感です。認知症の方と接する際には以下の点に注意することで、より穏やかにコミュニケーションをとることができます。
- 相手のペースに合わせる 認知症の方は情報処理能力が低下しているため、ゆっくりと話すことが大切です。 早口でまくし立てたり一度にたくさんの情報を伝えようとすると、混乱してしまう可能性があります。
- 否定的な言葉を使わない 「そんなことはないよ」「なんでできないの?」など否定的な言葉を投げかけると、認知症の方は自尊心を傷つけられたと感じたり反発したりすることがあります。
- 過去の成功体験や得意なことを話題にする 認知症の方は、昔の記憶は比較的保たれていることが多くみられます。 過去の成功体験や得意なことを話題にすることで、自尊心や自信を取り戻し穏やかな気持ちになることができます。
- スキンシップをとる 優しい笑顔で話しかけたり、手を握ったり肩をポンポンと叩いたりするなどスキンシップをとることで、安心感や信頼感を与えることができます。
- 忍耐強く接する 認知症の方は同じことを何度も聞いたり、言ったりすることがあります。 しかし、それは病気による症状であり、本人に悪気はありません。 イライラしたり怒鳴ったりするのではなく、忍耐強く接することが大切です。
認知症の方と接することは、決して簡単なことではありません。しかし相手の気持ちに寄り添い、根気強くコミュニケーションをとることで、より良い関係を築くことができます。
まとめ
認知症の方は、記憶力や判断力の低下に加え、感情のコントロールが難しくなり「頑固」と捉えられやすい行動変化が現れます。しかし、それは病気によるものであり本人に悪気はありません。周囲は頭ごなしに否定するのではなく、認知症の種類に応じた適切な対応と、忍耐強く寄り添うコミュニケーションを心がけましょう。加えて、高齢者の頑固さは認知症だけでなく、うつ病の可能性もあることを認識しておくことが重要です。
当院は物忘れ(認知症)外来を行っております。また。認知対応型通所介護センター(デイサービス)も併設しておりますので、気になる症状等がある方は当院にご相談ください。
大石内科循環器科医院
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