大石内科循環器科医院

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認知症とせん妄の違いとは?

2024.11.30

「最近、物忘れがひどくなった…」「急に現実感が薄れてきた…」そんな不安を抱えているあなたへ。

もしかしたら、それは認知症かせん妄かもしれません。どちらも「様子がおかしい」と感じる症状を引き起こしますが、実は全く異なる病気なのです。

認知症は、脳細胞の徐々に進む不可逆的な変化によるゆっくりとした進行性の病気。一方、せん妄は感染症や薬の副作用などにより脳機能が一時的に低下することで起こり、適切な治療で回復の可能性があります。まるで、なだらかな丘を下るのと急な崖から落ちる違いです。

2025年には高齢者の約7人に1人が認知症になると推計されています。その一方で、せん妄は高齢者の入院や手術後などに多くみられ、見過ごされやすい病気です。

この記事では、認知症とせん妄の根本的な違いを分かりやすく解説します。それぞれの症状、診断方法、治療法を具体例を交えて説明することで、ご自身の状況を理解し、適切な対応に繋げるための知識を提供します。早期発見・早期治療が鍵となる両疾患について、今すぐ知っておきましょう。

認知症とせん妄の基本的な違いと特徴

認知症とせん妄。どちらも「なんだか様子がおかしい」といった状態に繋がることがあり、一見すると同じような病気と思われがちです。しかし実際には全く異なる病気であり、その違いを正しく理解することは適切な治療とケアのために非常に重要です。

認知症は、例えるならなだらかな丘をゆっくり下っていくような病気です。脳の細胞が徐々に壊れていくことで、ゆっくりと、そして不可逆的に症状が進んでいきます。一方、せん妄は急な崖から落ちてしまうようなイメージです。感染症や薬の影響などで脳の機能が一時的に低下することで起こり、比較的早く症状が現れます。しかし適切な治療を受ければ回復する可能性があるという点で、認知症とは大きく異なります。

認知症の主な症状と進行の特徴

認知症の初期症状は、もの忘れが中心です。「あれ、さっき何をしようと思ったんだっけ?」と、ついさっきのことを忘れてしまうといった程度の軽いものから始まります。

例えば財布をどこに置いたか忘れてしまったり、スーパーでいつもの調味料を買い忘れてしまったりといった日常生活にちょっとした支障が出る程度です。この段階では単なる物忘れと区別がつきにくく、ご本人も周囲もなかなか気づかないことが多いです。

しかし病気が進行するにつれて、もの忘れだけでなく時間や場所がわからなくなったり「今日は何月何日だっけ?」「ここはどこ?」と混乱したり道に迷ってしまうこともあります。

さらに進むと周りの人が誰だかわからなくなったり、家族の顔を見ても誰かわからなくなってしまったりといった深刻な状況になることもあります。

また感情のコントロールが難しくなり、些細なことで怒りっぽくなったり逆に急に泣き出してしまったり、感情の起伏が激しくなることもあります。

認知症の進行速度は人によって大きく異なり、ゆっくりと進む人もいれば、比較的早く進む人もおりその症状は様々です。

せん妄の急性症状とその持続時間

せん妄は認知症とは異なり突然意識が混乱したり幻覚や妄想が現れたりするなど、急激に症状が現れるのが特徴です。

例えば入院中の高齢の患者さんで、夜中に突然「部屋に虫がいる!」と叫び出したり「誰かが自分を監視している」と思い込んだりといったケースをしばしば経験します。また昼夜が逆転してしまったり、ぼーっとして反応が鈍くなったり普段とは全く異なる言動が見られることもあります。

せん妄の症状は数時間から数週間続くことがありますが、原因となっている病気が治ったり薬の影響がなくなったりすると多くの場合、症状は改善します。

ただし高齢者や持病のある方の場合、せん妄が長引いたり、後遺症が残ってしまう場合もあります。特に、認知症の初期段階にある方がせん妄を併発すると、認知症の進行を早めてしまう可能性もあるため、注意が必要です。

認知症とせん妄の発症メカニズムの相違点

認知症とせん妄は症状の出方だけでなく、発症のメカニズムも大きく異なります。

認知症はアルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体型認知症など、様々な原因で脳の細胞がダメージを受け徐々に機能が失われていくことで起こります。これは道路が、少しずつ崩れていくようなイメージです。

一方、せん妄は、感染症や高熱、脱水症状、薬の影響、手術後、環境の変化など、様々な要因によって脳の機能が一時的に低下することで起こります。これは、道路に一時的な障害物が置かれて通行止めになるようなイメージです。障害物が取り除かれれば、再び通行できるようになるのと同じように、せん妄の原因が解消されれば、脳の機能は回復する可能性があります。

特徴   認知症        せん妄            
進行   ゆっくりと進行する   突然発症する         
意識   意識は清明      意識障害を伴う        
症状の変動比較的安定している   時間帯によって変動する     
原因   脳の器質的な変化    薬、感染症、身体疾患など   
経過   不可逆的(元に戻らない)可逆的(元に戻る可能性がある)

このように認知症とせん妄は、症状の出方、経過、原因などが大きく異なります。どちらの病気も早期発見と適切な対応が重要ですので、気になる症状がある場合は、医療機関に相談することが大切です。

認知症とせん妄の症状を比較

認知症とせん妄、どちらも「あれ?なんだかおかしいな」と感じさせる症状が現れるため、混同されることも少なくありません。しかし、実際には全く異なる病気です。

早期発見・早期対応のためにも、それぞれの症状の違いを正しく理解することが重要です。

認知症に見られる具体的な症状の例

認知症は脳の機能が徐々に衰えていく病気で、症状もゆっくりと現れ時間をかけて進行します。初期症状はもの忘れです。

例えば毎日のように通っていた道で迷子になったり、いつも置いてある場所に鍵が無かったりといった些細な物忘れから始まります。

先日も70代の女性が診察に来られたのですが「お財布が見当たらない」と訴えていました。よく話を聞いてみると、お財布を冷蔵庫に入れてしまっていたとのこと。ご本人も「まさか冷蔵庫に入れているとは思わなかった」と苦笑していました。

このような、日常生活に支障が出るほどの物忘れが頻繁に起こるようになったら、認知症の初期症状の可能性も疑う必要があります。

認知症が進行すると、物忘れだけでなく、時間や場所が分からなくなったり、「今日は何曜日だっけ?」「ここはどこ?」と混乱したりするようになります。

さらに進むと、家族の顔や名前が分からなくなったり、自分が置かれている状況が理解できなくなったりするケースもあります。

また、感情のコントロールが難しくなり、些細なことで怒り出したり、逆に理由もなく泣き出したりするなど、感情の起伏が激しくなることもあります。以前、80代の男性の患者さんで、奥様に「夕飯は何?」と何度も同じ質問を繰り返し、奥様が答える度に「まだ聞いてないよ!」と怒り出す、といった症状が見られたケースがありました。

せん妄に特有の症状とその発現状況

せん妄は感染症や薬の副作用などをきっかけに脳の機能が一時的に低下し意識が混濁したり、幻覚や妄想が現れたりする状態です。

認知症とは異なり急激に症状が現れるのが特徴で、数時間から数週間持続します。

例えば入院中の患者さんが、夜中に突然「天井から蛇が降ってくる!」と叫び出したり「看護師さんが毒を盛ろうとしている」と思い込んだりする、といったケースがよく見られます。

また昼夜が逆転してしまったり、ぼーっとして反応が鈍くなったり普段とは全く異なる言動が見られることもあります。

先日、肺炎で入院していた90代の女性が、夜中に急にベッドから起き上がり、「家に帰らないと!」と繰り返し訴えるようになりました。家族に電話をかけようとしたり点滴を引き抜こうとしたり、非常に興奮した状態でした。これがせん妄の状態です。

せん妄の原因となっている病気が治ったり、薬の影響がなくなったりすると多くの場合、症状は改善します。この90代の女性も肺炎の治療が進むにつれて、せん妄の症状も徐々に落ち着いていきました。

症状の時間的な変化や傾向の違い

認知症とせん妄は、症状の現れ方や変化にも違いがあります。

認知症は何年もかけてゆっくりと進行していくのに対し、せん妄は急激に症状が現れ数時間から数週間で変動します。

特徴認知症せん妄
発症緩やか急激
経過進行性一過性
意識状態清明混乱
記憶長期記憶は保たれるが、短期記憶が障害されるせん妄中の記憶が欠落する
思考緩慢支離滅裂
注意力維持されることが多い低下しやすい
症状の変動比較的安定している時間や日によって変化しやすい
睡眠症状によって様々昼夜逆転しやすい

例えば認知症の患者さんは最初は「昨日の夕食を思い出せない」といった軽度の物忘れから始まり、徐々に症状が進行し最終的には「家族の顔も名前も分からない」といった状態になることもあります。

一方、せん妄の患者さんは感染症などをきっかけに急激に症状が現れますが、原因となる病気が治れば、せん妄の症状も改善し元の状態に戻る可能性があります。

このように、認知症とせん妄は全く異なる病気です。気になる症状があれば早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。

認知症とせん妄の診断と治療の違い

認知症とせん妄は症状が似ていることから混同されがちですが、原因や経過、治療法が全く異なる病気です。早期発見と適切な対応のために、それぞれの特徴を理解し的確な診断と治療につなげることが重要です。ここでは認知症とせん妄の診断と治療の違いについて、具体的な症例を交えながら解説します。

診断方法とチェックポイント

認知症とせん妄の診断は、問診、診察、そして必要に応じて各種検査を通して行います。問診では患者さんご本人だけでなく、ご家族からも日常生活の様子や症状の変化について詳しくお話を伺います。記憶力や判断力の変化、時間や場所の認識、幻覚の有無など多角的な視点から情報を集めます。

例えば80代のお母様を心配して来院されたご家族から「最近、日付が分からなくなったり、同じことを何度も聞いたりするようになった」というお話がありました。このような場合は、認知症の初期症状が疑われます。

また70代の男性が、入院中に急に「知らない人が部屋にいる」と言い出し、落ち着きがなくなり点滴を抜こうとするなどの行動が見られました。これは、せん妄の典型的な症状です。

このように症状の現れ方や経過、意識の状態などを総合的に判断することで認知症とせん妄を鑑別していきます。

項目認知症せん妄
始まり方緩やかに、徐々に突然
意識状態清明混乱、もうろう
症状の変動比較的安定時間帯により変動(特に夜間悪化)
記憶新しい記憶が困難記憶の混乱、健忘
思考緩慢支離滅裂、不合理
幻覚まれしばしば出現
経過進行性一過性、変動性

これらのチェックポイントはあくまでも目安であり、確定診断には医師による診察と検査が必要です。血液検査、画像検査(CT、MRI)、認知機能検査などを用いて、脳の状態や他の疾患の有無を確認します。

薬物療法のアプローチの違い

認知症とせん妄では、薬物療法のアプローチも異なります。

認知症の薬物療法は、根本的な治療ではなく症状の進行を抑制したり、認知機能の低下を緩やかにしたりすることを目的としています。現在、使用されている薬にはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬などがあり、個々の症状や進行状況に合わせて選択します。例えばアルツハイマー型認知症の初期段階では、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が有効な場合があります。

一方、せん妄の薬物療法は原因となっている疾患の治療が最優先です。感染症が原因であれば抗菌薬、脱水であれば輸液を行います。せん妄の症状自体を抑えるためには、抗精神病薬が用いられることもありますが副作用のリスクも考慮しながら慎重に投与する必要があります。

生活環境や介護方針における対応の違い

認知症とせん妄では、生活環境の整備や介護方針も異なってきます。

認知症の場合は、安全で落ち着いた環境づくりが重要です。転倒防止のための家屋改修や生活リズムを整えるための支援、記憶障害への対応など患者さんの状態に合わせた工夫が必要です。例えば認知症の患者さんが迷子にならないように、GPS機能付きの機器を活用したり徘徊行動への対策としてセンサーマットを設置したりするのも有効です。

せん妄の場合は原因となっている疾患の治療に加えて、せん妄の症状を悪化させないための環境調整が重要です。入院中の患者さんであれば、昼夜のリズムを保つために日中はカーテンを開けて日光を取り入れたり、夜間は照明を落として静かな環境を作るなどの配慮が必要です。また、せん妄の症状が出ている時は患者さんの不安を和らげるために、優しく声をかけ安心感を与えることが大切です。

認知症とせん妄は症状が似ている部分もありますが、原因や経過、治療法が大きく異なります。ご家族がこれらの違いを理解することで、患者さんに適切なケアを提供し、より良い生活を送るサポートができるはずです。少しでも気になる症状があれば早めに医療機関に相談し、専門医の診断を受けることをお勧めします。

まとめ

認知症とせん妄は、共に精神状態の変化を示すものの、全く異なる疾患です。認知症は脳細胞の漸進的な破壊により、ゆっくりと不可逆的に症状が進行するのに対し、せん妄は感染症や薬物などにより脳機能が一時的に低下することで、急速に発症し、適切な治療で回復の可能性があります。

認知症は初期段階では物忘れから始まり、徐々に時間・場所の認識障害、人物識別困難、感情の起伏の激しさなどに進行します。一方、せん妄は意識の混濁、幻覚・妄想、昼夜逆転、反応の鈍化などが突然現れ、数時間から数週間で症状の変動が見られます。

診断は問診、診察、検査を通して行われ、認知症は進行抑制を目的とした薬物療法、せん妄は原因疾患の治療が優先されます。生活環境の整備も重要で、認知症では安全で落ち着いた環境、せん妄では原因疾患の治療と症状悪化防止のための環境調整が求められます。いずれも早期発見・治療が重要であり、気になる症状があれば医療機関への相談が不可欠です。

当院は、認知症(物忘れ)外来を行っております。また、認知症の方でも通える認知対応型通所介護センター(デイサービス)も併設しておりますので、気になる症状等がある方は当院にご相談ください。





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