大石内科循環器科医院

静岡市葵区鷹匠2-6-1 新静岡駅より 徒歩3分 駐車場あり

静岡市葵区鷹匠2-6-1
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糖尿病

糖尿病

糖尿病は生活習慣病のひとつで、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が慢性的に高くなる病気です。
糖尿病の初期や軽症のうちは、自覚症状がありません(無症状)。しかし高血糖状態を放置していると血管が傷つき、目・腎臓・神経の深刻な合併症や、動脈硬化の進行に伴う脳梗塞・心筋梗塞・狭心症などの命にかかわる病気、認知症を招く可能性があります。
糖尿病は「早期発見・早期治療開始」が大切となる一方、特効薬はないので根気よく自己管理を必要とする病気でもあります。

当院では、薬物療法だけでなく、運動療法士(インストラクター)による運動教室、管理栄養士による食事・栄養指導など総合的な治療を行っております。健康診断・人間ドックなど血液検査で血糖値が高いと指摘された方、ご家族に糖尿病の方がいて心配な場合には、お気軽に当院までご相談ください。

糖尿病の基礎知識

糖尿病に関連してよく聞く言葉に「血糖値」「インスリン」があります。糖尿病を理解するには、この2つのキーワードは欠かせません。どういったものかをご説明します。

血糖値とインスリン

血糖値:血液中のブドウ糖の量

私たちがごはん・パン・麺類などの炭水化物を食べると、胃や十二指腸などの消化器官を経由しながら、消化酵素によって分解されていきます。最終的に小腸で「ブドウ糖(糖)」に変換・吸収されると、血液中のブドウ糖の量(血糖値)が高くなります(図➀)。つまり、食事をすれば、健康な人でも血糖値は一時的に上がります

インスリン:血液中の血糖値を一定範囲に調節するホルモン

インスリンとは、すい臓から分泌されるホルモンです。食事などで増えたブドウ糖を減らす唯一の存在です。すい臓のβ(ベータ)細胞が、血糖値の上昇を感知すると血中に「インスリン」を放出します(図②)。インスリンはブドウ糖を必要とする細胞や組織に糖を送ったり余ったブドウ糖を肝臓に運んで「グリコーゲン」に変えたりして、血液中に糖があふれないよう作用します(図③)。

血糖の流れ

しかし何らかの原因でインスリンが正常に分泌されない、あるいはインスリンの働きが弱い場合には血液中の糖が減らず増えたままの状態になります。これが慢性的に続くことで「糖尿病」となります。

糖尿病の疫学

糖尿病罹患者は日本のみならず、世界的にも増え続けています。2014年の段階では3億8,670万人とされていましたが、2035年には5億9,000万人以上に上ると予測されています。
一方、日本では糖尿病患者数(予備軍の人も含む)は、約2,000万人と推計されています*1。

*1平成30年版 厚生労働白書 糖尿病患者数の状況|厚生労働省

糖尿病になりやすい人

日本人を含むアジア人のインスリン分泌能力は、欧米人の”約半分”とされています。
日本人は体質的に糖尿病になりやすいことに加えて、近年は高脂肪食といった洋食中心の食生活に変わってきたため、糖尿病を発症する人が右肩上がりで増加しています。

以下に思い当たる項目が多い程、糖尿病になりやすい傾向があるので注意が必要です。

  • 甘いもの・脂っぽい食べ物が好き
  • 野菜・海藻類はあまり食べない
  • 日頃から車移動が多く、ほとんど運動していない
  • 外食が多い
  • 食事時間が不規則
  • 肥満/最近太ってきた(BMI*2≧25)
    *2BMI:体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)。BIM値25以上を肥満と定義しています。
  • アルコールをよく飲む/食べ過ぎることが多い
  • 日頃からストレスを感じることが多い/ストレスを溜めやすい
  • 睡眠不足
  • 家族・親族に糖尿病の人がいる

糖尿病の症状

糖尿病は「サイレントキラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれ、知らない間に発症・進行します。
初期や軽症のうちは、自覚症状として現れませんが、水面下では高血糖によって少しずつ血管が傷つき、動脈硬化を促進させます。
高血糖状態が続くと、以下のような症状がみられる場合があります。

  • のどがよく渇く
  • よく水を飲む
  • 尿の回数が増える
  • 食べているのにやせる
  • 体がだるい・疲れやすい
  • 目がかすむ
  • 陰部がかゆい
  • 手足がしびれる 

また糖尿病がかなり進行すると、次のような症状が現れることもあります。

  • 尿から甘いにおいがする
  • 頭痛
  • めまい
  • 肩こり

ただし、頭痛・めまい・肩こりなどの症状は必ずしも「糖尿病が原因」とは言い切れないので、普段と違う症状に気づいたら早めに医師に相談しましょう。

糖尿病の合併症

糖尿病特有の合併症として「細小血管合併症」があります。高血糖状態が長く続くと、目や腎臓・神経などの細い血管からダメージを受けていきます。

糖尿病の三大合併症

代表的な細小血管合併症として、次の3つの病気があります。

糖尿病神経障害【神経】

糖尿病の早い段階から現れる合併症です。手足(特に足)の神経から侵されていくので、靴ずれ・やけど・怪我などに気づきにくくなります。さらに高血糖状態では細菌感染を招きやすいので足の傷が治りにくく、最悪の場合には足の切断が必要になることもあります。自律神経に障害が起こると、胃もたれ、便秘、下痢、立ちくらみなどが現れます。

【発症時期】糖尿病発症(高血糖状態)から5年経過頃
【主な症状】足の指・足の裏のしびれ、痛み、違和感、冷えなどの感覚障害

糖尿病網膜症【目】

網膜の血管が傷むことにより光の感知が悪くなり、次第に視力が落ちてきます。最悪の場合、失明に至る場合があり、網膜症は成人の主な失明原因となっています。年間約4,000人の方が糖尿病により失明しています。
【発症時期】糖尿病発症(高血糖状態)から8年経過頃
【主な症状】目がかすむ、まぶしく感じる、眼底出血、黄斑症、白内障、失明など

糖尿病腎症【腎臓】

高血糖状態が長期間続くと、次第に血液をろ過する細い血管の塊である「腎糸球体(じんしきゅうたい)」が傷んで、尿中にタンパク質が漏れ出てきます。
最悪の場合、人工的に血液をろ過する「人工透析(とうせき)」が必要となり、毎年1万人以上の方が腎症によって透析を開始しています。ただし、腎症の初期はほとんど無症状で、症状が現れてくる頃には腎臓病が進行しているケースも多いです。きちんと定期的に検査を受けて腎機能を確認しておくことで、早期発見が期待できます。

【発症時期】糖尿病発症(高血糖状態)から10~15年経過頃
【主な症状】足がむくむ、血圧が上がる、だるい、貧血など

一方、動脈硬化によって太い血管に障害が起こると、以下のような命に関わる病気を引き起こす場合があります。

脳梗塞

脳の血管内に血栓(塊)ができて詰まることで、部分的に血流が滞り、その先の細胞に酸素・栄養が届かなくなる病気です。3時間以内に血流を戻さないと脳細胞が壊死*3(えし)するため、後遺症や死に至るケースもあります。

【主な症状】麻痺(まひ)、しびれ、呂律(ろれつ)が回らないなど
*3壊死:細胞が死ぬこと。一度細胞が死んでしまうと、二度と元には戻らないため、死んでしまった部分の機能を失う。

心筋梗塞

心臓に血液を送っている動脈(冠動脈)が完全に詰まり、心臓の筋肉が壊死を起こします。症状は安静にしても治らず、30分以上続きます。最悪の場合、命を落とす場合もあります。

【主な症状】激しい胸の痛み、ショック状態、動悸、冷や汗、焼けつくような感じなど

末梢動脈疾患(下肢慢性動脈閉塞症、閉塞性動脈硬化症)

足の血管が詰まったり細くなったりして、血流が悪くなります。

【主な症状】間欠性跛行*4(かんけつせいはこう)、痛みで長く歩けない、安静時にも痛みなど
*4間欠性跛行:歩いていると、お尻・太ももなどに痛みが出るが、少し休むと再び歩けるようになる状態。

糖尿病の新しい合併症

近年、糖尿病の合併症として新たに注目されている病気に「がん」「認知症」があります。

がん

糖尿病とがんでは発症要因となる生活習慣が共通していたり、インスリン抵抗性(インスリンが十分に作用しないこと)によって、がん細胞の増殖が促進されたりすると考えられています。糖尿病ではない方と比べて、肝臓がん2.0倍、すい臓がん1.9倍、大腸がん1.4倍発症リスクが高まるとされます。

認知症

インスリン抵抗性がアルツハイマー型認知症の原因物質であるたんぱく質(アミロイドβ)の蓄積を引き起こすことによって、アルツハイマー型認知症の発症リスクが2.1倍高まると報告*5されています。

*5 プレスリリース(2019/4/12)|東京大学大学院医学系研究科・医学部



糖尿病の原因と種類

通常は、血糖を下げるホルモン「インスリン」と、血糖を上昇させる様々なホルモンによって、血糖値が一定範囲内に保たれています。
しかし、インスリンと血糖値を上昇させるホルモンのバランスが崩れると、血糖値が高くなります。

糖尿病には、原因から4つのタイプがあります。

1型糖尿病

小児~青年期に突然発症する糖尿病で、病状は急速に悪化します。すい臓でインスリンが作れなくなることが原因なので、「インスリン依存性糖尿病」とも呼ばれます。発症には肥満や生活習慣は関係なく、自己免疫との関連性が指摘されています。自力でインスリンを作れなくなるので、体外からインスリンを補う必要があります。

【原因】すい臓のβ細胞の破壊により、急にインスリンを作れなくなる「インスリン欠乏」
【患者傾向】子ども~青年(20歳以下)・痩せ型 ※ただし、幅広い年代で発症します。
【発症率】糖尿病患者の約3~5%
【発症の仕方】突然発症
【治療法】体外からのインスリン製剤(注射薬)の補充、薬物療法、移植手術(日本では稀)

2型糖尿病

日本の糖尿病の大部分を占めます。自覚症状はほとんど現れなく、気づかないうちに発症して、病状はゆっくりと進行します。
「生活習慣病」のひとつとされていますが、生活習慣などの環境要因だけでなく、「糖尿病になりやすい体質」といった遺伝因子も関与して発症すると考えられています。

【原因】遺伝因子+生活習慣などの環境因子による「インスリン抵抗性」または「インスリン分泌障害」
【患者傾向】中高年(40歳以降)、男性にやや多い
【発症率】糖尿病患者の約90~95%
【発症の仕方】気づかぬうちに発症
【治療法】生活習慣の見直し、薬物療法(経口血糖降下薬、インスリン製剤)

インスリン抵抗性(作用障害)

生活習慣の悪化に伴って、インスリン自体は作られていても、十分に作用していない状態です。インスリンの働きが不十分なので、増えすぎた糖が細胞や筋肉などに運ばれなくなり、血液中にあふれて血糖値が下がらなくなります。内臓脂肪が多い肥満の方、筋肉量が少ない方に多くみられます。

インスリン分泌障害

遺伝的要因や加齢が影響して、すい臓の機能低下が起こり、十分にインスリンが作れなくなってしまう状態です。近年、ゲノムワイド関連解析が盛んに進められており、いくつかの原因遺伝子(KCNQ1、EIF2AK4など)が日本人の2型糖尿病発症に強く関連していることが分かってきています。

二次性糖尿病

何らかの病気や薬の副作用により、血糖を上昇させるホルモンが過剰になることで血糖の上昇が引き起こされます。

【原因】血糖を上昇させるホルモンの過剰分泌 発症要因となる病気・薬剤には、次のようなものがあります

  • 内分泌系疾患(クッシング症候群、先端巨大症など)
  • すい炎
  • 肝疾患
  • 感染症など糖尿病以外の疾患
  • ステロイド、インターフェロン、一部の抗がん剤など薬剤

【発症率】発症要因となる疾患患者の約半数以上
【治療法】原疾患の治療、薬物療法

妊娠糖尿病

厳密には「糖尿病1歩手前」の状態で、妊娠時に初めて確認された場合を指します。妊娠中は軽い糖代謝異常であっても、母体だけでなく胎児にも大きな影響を及ぼすことがあるので、特別な配慮が必要となります。ただし、妊娠糖尿病と診断されても、高血糖状態は出産後に戻るケースがほとんどですが、妊娠糖尿病を経験された方は、経験されていない方に比べて将来の糖尿病発症リスクが高くなります。

2型糖尿病の発症要因

日本人の糖尿病のほとんどは、遺伝因子と環境因子が影響し合って発症する「2型糖尿病」です。
2型糖尿病の発症リスクを高める要因として、次のようなものがあります。

①遺伝的要因

そもそも日本人は人種的にインスリン分泌能力が低い傾向にあります。さらに、血糖値を下げる作用を持つホルモン「インスリン」が分泌されにくい体質の方がいます。
両親も糖尿病である場合、子どもが糖尿病を発症する確率は約40~50%とされています。ただし、あくまでも「体質的になりやすい」だけで、糖尿病が親から子へ遺伝する訳ではありません。発症には、加えて環境的要因が深く関わっています。

②加齢

加齢によって、すい臓からのインスリン分泌は減少していきます。さらに、筋肉や活動量の低下、内臓脂肪の増加によって、インスリン作用効果も落ちていきます。男女とも1歳年を取るごとに糖尿病の発症リスクが2%上昇するという報告*6があります。

③肥満

糖尿病発症の大きな要因となるのが「肥満」です。肥満になると、インスリンの働きが鈍くなるため、血糖値が下がらなくなります。特に内臓周囲に脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満」では糖尿病を発症しやすい傾向があります。
BMIが1(kg/m²)増えると、男性・女性ともに糖尿病発症リスクは17%上昇します。
特に20代のときから5kg以上増えた場合には、そうでない方と比べて糖尿病発症リスクが2.6倍に上昇する報告*7があります。

*6・7(参考)糖尿病リスクを高める要因は?|財団法人 国際協力医学研究振興財団

<内臓脂肪型肥満の目安>
腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上

④喫煙

たばこを吸うと、交感神経を刺激して血糖値を上昇させ、さらに体内のインスリンの働きも妨げるので、タバコを吸っていない人と比べて、2型糖尿病の発症リスクが1.4倍高いと報告されています*8。また、喫煙者では、糖尿病合併症の発症リスクも高まり、結果として死亡リスクも上昇することが分かっています。

*8喫煙と糖尿病|厚生労働省 e-ヘルスネット

⑤飲酒

1日1合(180ml)以上飲酒する方は飲酒しない方に比べて、男性では約1.3倍発症リスクが高まるという報告*9があります。

*9アルコールと糖尿病|厚生労働省 e-ヘルスネット

⑥運動不足

筋肉はブドウ糖を取り込んで、血糖をコントロールしています。運動不足が続くと、インスリンが効きにくくなるだけでなく、体力や基礎代謝量の低下を引き起こします。その結果、ますます活動量が低下して、血糖値の上昇ならびに内臓脂肪が増加してインスリン抵抗性をより促進させたりすることに繋がります。

他にも、睡眠不足・疲労などの不規則な生活習慣や精神的ストレスは、2型糖尿病の発症に影響を及ぼします。

糖尿病の検査

当院では、日本糖尿病学会の糖尿病治療ガイドラインに準拠した検査を行っています。

問診

自覚症状の有無、体重(過去最大体重、20歳頃の体重を含む)、高血圧や脂質異常症などの既往症、喫煙・飲酒・運動といった生活習慣、ご家族に糖尿病の方はいるか、糖尿病治療歴などについて詳しくお伺いします。
※健康診断の結果などありましたら、お持ちください。

血液検査

糖尿病では、以下の2つの成分が重要です。

血糖値

血糖値は血液中の糖の濃度です。血糖値は食事の前後で異なるため、以下の2つの指標からインスリンの働きを確認します。

  • 空腹時血糖
    空腹時の血糖値です。食事の影響を受けずに病的な変動のみ捉えられるので、軽度の耐糖能異常が分かります。
    ※午前中に測定する場合には、朝食を食べずにご来院ください。通常、前日の夕食から10~14時間ほど絶食した上で検査する必要があります。
  • 食後2時間後血糖
    誰でも食後には血糖値が上がりますが、食後約2時間で自然に正常値に戻るため、耐糖能異常の有無が分かります。
HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)

赤血球のヘモグロビンにブドウ糖が結合した割合から、検査より約1~2か月前の血糖状態を把握できます。高血糖状態が続くと高値になります。

耐糖能検査(経口ブドウ糖負荷試験/75gOGTT)

10時間以上絶食後、空腹時に75gのブドウ糖を飲んで、1時間後・2時間後にそれぞれ採血して、血糖値の変化を測定します。
空腹時の血糖値は正常もしくは少し高いだけだったが、実は食後の血糖値が高い糖尿病(食後高血糖)だったということもよくあります。血糖値が境界型、糖尿病の疑いが否定できない方に実施します。

尿検査

尿中の糖やタンパクを調べます。血糖値がかなり高くなると尿に糖が出ます(160~180mg/dl以上)。また、糖尿病によって腎障害が起きると、尿にタンパクが出るようになります。

診断時以外にも、尿糖による血糖の推移や合併症の早期発見のため、糖尿病診断後も定期的に尿検査は行います。

糖尿病の診断

問診・血液検査を中心に、必要に応じて様々な検査を組み合わせ、糖尿病の診断を行います。

血糖値の分類

日本糖尿病学会では、血糖値を「空腹時血糖」「ブドウ糖負荷(75gOGTT)後2時間値」の2つの指標から「糖尿病型」「境界型」「正常型」の3つに分類しています。
糖尿病と診断するには、一定の条件があります。

糖尿病型

次の①~④のうち、いずれか1つでも当てはまれば「糖尿病型」と判断されます。

  1. 空腹時血糖値:126mg/dL以上
  2. ブドウ糖負荷(75gOGTT)後2時間値:200mg/dL以上
  3. 随時血糖値(食事と採血時間の関係を問わず測定した値):200mg/dL以上
  4. HbA1c(血中の糖化ヘモグロビンの割合):6.5%以上
境界型

糖尿病型と正常型のどちらにも属さない、「耐糖能異常」と呼ばれる状態です。
さらに、2つに分けられます。

  • 空腹時だけ異常値、負荷後2時間は正常値「空腹時高血糖(IFG)」
  • 負荷後2時間血糖値だけ異常値、空腹時は正常値「食後高血糖(IGT)」
正常型

空腹時血糖値:110mg/dL未満およびブドウ糖負荷2時間後血糖値:140mg/dL未満

(表)空腹時血糖値および負荷後2時間血糖値による判定区分

糖尿病の診断

糖尿病と診断するには、慢性的な高血糖、症状、家族歴、体重などを踏まえた上で、検査によって次の3つのうち、いずれかに当てはまる必要があります。

糖尿病型を2回確認した場合

※血糖値での確認が1回以上必要。
ただし、1回の採血で血糖値とHbA1cそれぞれが糖尿病型を確認できれば、1回の検査だけでも糖尿病と診断します。

(表)糖尿病型の判定区分
血糖値での糖尿病型判定+慢性高血糖症状の存在が確認される場合

以下のいずれかの慢性高血糖症状がみられる場合には、血糖値が糖尿病型であれば、1回の検査で確定診断となります。

  • 糖尿病の典型的な症状(多飲・多尿・喉の渇き・体重減少など)
  • 確実な糖尿病網膜症
過去に糖尿病と診断されている場合

現時点での血糖値が糖尿病型の基準値以下であっても、過去に上記2つのいずれかで糖尿病型を確認している場合には、「糖尿病」として扱います。

糖尿病の治療

糖尿病の治療は1型・2型にかかわらず、生活習慣(食事・運動療法)の改善を基本として、必要に応じてお薬を使用して、適正な血糖値を目指します。
適切な血糖コントロールは血糖値の低下だけでなく、合併症の予防にも期待できるので、糖尿病がない方と同じように健康寿命*10を保つことが可能となります。

*10健康寿命:健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間。2019年の調査では男性72.68歳、女性75.38歳です。

当院では薬物療法だけでなく、食事・運動・体重管理などを含めた総合的な治療を通して、患者様が無理なく続けられるようサポートしています。不安や疑問点などありましたら、お気軽にご相談ください。

血糖コントロール目標

糖尿病の治療では、高血糖による代謝異常の改善と、合併症や糖尿病に起こりやすい併発病の発症・増悪(状態の悪化)を防ぐことを目的として、HbA1c(%)値の指標を使い、血糖コントロールをしていきます。

血糖正常化を目指す際の目標……6.0%未満

【主な対象】食事療法・運動療法だけで達成可能な場合、薬物療法中でも副作用なく達成可能な場合

合併症予防のための目標……7.0%未満

【主な対象】空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満

治療強化が困難なときの目標……8.0%未満

【主な対象】低血糖*11などの副作用、その他の理由で治療強化が難しい場合

*11低血糖:血糖が下がり過ぎて、手足の震え、動悸、異常な空腹感、場合によっては意識障害など引き起こします。その際は、速やかにブドウ糖・砂糖・ジュースなどで糖分摂取を行う。

ただし、実際の血糖コントロール目標値は、年齢、罹患期間、臓器障害、低血糖*7の危険性など、患者様に合わせて設定します。

なお、65歳以上の高齢者では心身機能の個人差が激しい上、加齢に伴い重症低血糖の危険性も高くなるため、次の目標値となります。※実際には患者様に合わせた目標値を設定します。

(表)高齢者糖尿病の血糖値コントロール目標(HbA1c値)

生活習慣の改善(食事療法・運動療法)

糖尿病治療の基本は、食事や運動による生活習慣の改善です。
当院では院長をはじめとして日本循環器学会 循環器専門医が在籍しているので、糖尿病治療に注力しており、管理栄養士による食事指導、運動療法士による運動教室など総合的治療を行っています。

食事療法

食事療法の基本は「必要以上にカロリーを摂り過ぎないこと」です。

一日の摂取カロリーを管理することにより、肥満を防いでインスリンの効きやすい身体を作ります。逆に食事療法を疎かにしてしまうと、薬物療法をしていても効果が落ちる、体重増加や合併症に繋がるなどの悪影響があります。

食事療法のポイント

糖尿病の食事療法では、栄養素のバランス、食事時間、食べる順序、食べる速度などに注意が必要です。血糖コントロールを継続することが大切なので、できるところから少しずつ工夫しましょう。頑張り過ぎても、長続きが難しくなります。

適正なエネルギー量を守る

肥満は糖尿病発症の危険因子です。食べ過ぎや必要以上のカロリー摂取は高血糖に繋がります。適正体重を維持しつつ、日常生活に必要なエネルギーを摂りましょう。
一般的な適正エネルギー摂取量の目安は、男性1,400~1,800カロリー、女性1,200~1,600カロリーです。ただし、患者様の年齢、性別、肥満度、血糖値などから、1日に必要なカロリー量の目安を計算します。

食べる順番を考える

  1. 食物繊維が多い食材(海藻・キノコ・野菜類)
    まずは、サラダ・海藻から食べましょう。食物繊維は糖の吸収を遅らせ、食後の血糖値の急激な上昇(血糖値スパイク)を防ぎます。また、噛み応えのある食材から食べると、食事に時間がかかるので食べ過ぎ防止に繋がり、全体量を減らすことができます。
  2. 肉類・魚介類・卵類・大豆・乳製品などたんぱく質
    炭水化物よりも先に食べましょう。消化管ホルモンの分泌が増えて、胃の運動が抑えられるので、インスリンの効きが良くなり、食後の血糖値上昇を抑えられます。
  3. 最後に炭水化物(米・パン・麺類)
    炭水化物は最後に食べましょう。主食には雑穀米・玄米・押し麦・全粒粉パンなど選ぶと、食後の血糖値が上昇しにくくなります。

規則正しい食生活を目指す

痩せたいからと夕食を抜いたり、極端な食事をしたりすると、逆に痩せにくくなります。栄養が偏らないように、炭水化物・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラルをバランスよく摂りましょう。特にたんぱく質は不足すると、筋肉が落ちて基礎代謝が低下します。朝・昼・晩、きちんとバランスよく食べましょう。

よく噛んでゆっくり時間をかけて食べる

早食いは、急激な血糖値上昇を招いて、すい臓に負担をかけます。よく噛んでゆっくり食べるようにすると、満腹中枢を刺激して食欲が抑えられます。

腹八分目を意識する

食べ過ぎ・カロリーオーバーを防ぐには、腹八分目を意識しましょう。
食べ過ぎ防止にオススメなのが、「ご飯茶碗を一回り小さいものにする」ことです。同じ量でも、小さい茶碗ではたっぷり入っているように見えます。

間食を控える

できる限り間食はしないようにしましょう。間食すると、血糖値を下げるためのインスリン分泌が必要となり、すい臓に負担がかかります。頻繁に間食すれば、すい臓が疲弊してきて、インスリン分泌の低下やインスリンの効きが悪くなり、血糖値の悪化に繋がります。

夕食は早めに、寝る3時間前まで食事を摂る

食べ物の消化には約2~3時間かかります。そのため、食べてすぐ寝ると、消化されず脂肪に吸収されてしまい、肥満に繋がります。

運動療法

運動、つまり筋肉が動き続けるには、燃料として血液中のブドウ糖(血糖)が必要になるため、運動すれば、血糖値の低下の効果がすぐに現れます(急性効果)。
また、一定以上運動すると、筋肉や肝臓に貯めてあった糖分も消費することになります。消費した分の補充が完了するまで、血液中の糖分は筋肉・肝臓に送り込まれるので、血糖値が低い状態が1日~2日続きます(持続効果)。
さらに運動を続けることで、インスリンの働きをよくするだけでなく、細胞に糖分を取り込むたんぱく質を増やす効果(慢性的効果)も期待できます。
身体活動量の増加は血糖値の低下以外に、体重・体脂肪・ウエスト周囲の減少、インスリン感受性、コレステロール・中性脂肪の改善など身体の健全化にも効果的であることが判明しています。
特に高齢者の場合には、近年問題となっている筋肉量の減少による転倒・骨折・寝たきりの原因となる「サルコペニア」の予防や気分転換に効果があります。
  ※持病がある方など患者様によっては、運動療法が逆効果になるケースもあります。
必ず運動の可否、適切な運動量などについて、事前に医師のメディカルチェックを受けましょう。

運動量の目安

1日15分~30分程度、週3回
※特に食後1時間後に運動すると、食後高血糖状態の改善に繋がるとされています。

運動種目

有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳などの全身運動)とレジスタンス運動(腹筋・ダンベル・腕立て伏せ・スクワットなど)の併用はより効果的です。
なお、肥満糖尿病患者様には、膝への負担の少ない「水中運動」がおすすめです。また、高齢者では片足立位保持、ステップ練習などバランス運動も有用です。普段運動していない方は、「できるだけ歩く」「階段を使う」「自転車で買い物に行く」「ラジオ体操」「バランス運動」など、日常生活の中で身体活動量を増やすことから始めると良いでしょう。

運動強度

ややきつい、汗ばむ程度

当院では運動教室を開設しています。見学は大歓迎です。お気軽にお問い合わせください。

薬物療法

1型糖尿病の方や、生活習慣の見直しだけでは血糖値の下がりが不十分な2型糖尿病の方では、薬物療法(内服薬・注射薬)を行います。
お薬は、患者様ごとの病態(インスリン分泌能力の低下・インスリン抵抗性など)により総合的に判断して選択します。

糖尿病治療薬は作用の仕方から、次の4タイプがあります。

  • インスリンの作用を良くする内服薬(インスリン抵抗性改善薬)
    -ビグアナイド薬……第一選択薬(最初に選択する薬)
    -チアゾリンジン薬
  • インスリンの分泌を増やす内服薬(インスリン分泌促進薬)
    -スルホニル尿素薬(SU薬)
    -DPP-4阻害薬
    -速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
    -GLP-1受容体作動薬
  • 糖の吸収、排泄を調節する薬
    -αグルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
    -SGLT2阻害薬
  • インスリンを体外から補充する薬(インスリン療法)
    インスリン製剤は注射薬となります。

糖尿病のお薬は、自己判断で中止したり減量したりすることは大変危険です。副作用や服用方法など気になる点がある場合には、医師までお気軽ご相談ください。

よくあるご質問

①  糖尿病は遺伝しますか?

2型糖尿病では遺伝傾向がみられます。そうでない方と比べると、両親が2型糖尿病では子どもの発症リスクは3~4倍高く、兄弟・姉妹が2型糖尿病では、2~3倍発症リスクが高まるとされます。
ただし、遺伝因子があるから、必ずしも糖尿病を発症するわけではなく、あくまで「なりやすい体質」が遺伝するだけです。2型糖尿病では、生活習慣の乱れなどの環境因子が加わることで発症するため、遺伝素因のある方は生活習慣に注意しましょう。

② 糖尿病を予防するには、どうすれば良いでしょうか?

突然発症する1型糖尿病は、原因や予防法ははっきりと分かっていません。しかし、糖尿病のほとんどを占める2型糖尿病では、生活習慣の乱れが発症要因と分かっています。発症予防には「生活習慣の見直し」が効果的です。
日常生活の中で次の予防ポイントを意識して、健康的な生活習慣を身につけましょう。

規則正しい食生活
  • 栄養バランスの良い食事と適切なエネルギー量を守る
  • 朝・昼・晩、できるだけ決まった時間に食べる
  • 朝ごはんをしっかり食べて、夕食はほどほどに
  • まずは野菜から食べ始め、ゆっくりよく噛んで、腹八分目で止める
  • アルコールは控えめに
  • 間食や夜遅い時間は食べない
身体を動かす
  • 歩ける距離なら積極的に歩く
  • 食後、家の周りなど軽く散歩をする
  • 少しの時間でもよいので、こまめに身体を動かす
適正体重を保つ
  • 適正体重を維持する
  • BMI25以下を目指す
  • 若くても(20代~)生活習慣に気を付ける

①  糖尿病ですが、別の病気にかかったときは、薬はどうすればいいですか?

糖尿病のある方が風邪・胃腸炎やストレス・ケガなどの要因によって、いつもの通り食事が摂れず、血糖コントロールが不安定になる日のことを「シックデイ(病気の日)」と呼びます。
いつシックデイになるかは、誰にも分かりません。そうなった時に慌てないために、日頃からかかりつけ医とシックデイの時の薬や食事の扱いについて事前に確認しておくと安心です。

一般的なシックデイの対処法は、次の通りとなります。

  • 水分を十分に摂る
    スープやお味噌汁などで、水分だけでなくミネラルも摂るようにするとよいでしょう。
  • 絶食状態にならないようにする
    エネルギー不足を回避するため、おじや・煮込みうどん・アイスクリームなど口当たりの良いものを食べましょう。食欲がなければ、一時的に味を濃くすると、食べやすくなります。
  • インスリン療法(注射)は基本的に続ける
    可能であれば血糖値を測りながら打つとよいでしょう。
  • こまめに血糖値を測る
    経験したことがない高血糖値のときは、すみやかに医療機関に連絡しましょう。
  • 飲み薬については、かかりつけ医の指示に従い服用しましょう。


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