慢性腎不全とは慢性的に腎機能が低下する「慢性腎臓病(CKD)」が進行して、特に腎臓のろ過能力が正常時の30%以下になった状態をさす病名です。
ただし腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、腎障害がかなり進行しないと自覚症状が現れません。腎不全が進行すると就寝中の頻尿、尿の色の変化(透明・赤色・コーラ色など)、むくみ、息切れ、疲れやすくなるなどの症状が現れます。
腎不全の主な原因は糖尿病性腎症、高血圧による腎硬化症、慢性糸球体腎炎、多発性のう胞腎といった腎臓の病気のほか、生活習慣病や加齢・喫煙・遺伝など様々な因子によって引き起こされます。
腎機能の低下が進んで尿として老廃物を出すことができなくなると、体内に毒素が溜まるため骨がもろくなる、心血管疾患の発病リスクを高めるなど、命に関わる危険な状態を招く恐れがあります。
さらに慢性腎不全に進行すると回復が見込めないケースがほとんどで、腎機能が著しく低下すると「人工透析」などの腎代替療法が必要になります。そのため、腎臓病は「早期発見・早期治療」が重要となります。
健康診断・人間ドックで指摘された方、ご自身の尿が気になり始めた方、ご家族に腎臓病の方がいて心配のある方など、お気軽に当院までご相談ください。
腎臓は「血液のろ過装置」として、人が生きていく上で欠かせない大事な役割を担っています。
腎臓は背中側の腰骨の少し上あたりに左右1個ずつあり、健康な腎臓ではそら豆のような形をしており、握りこぶしくらいの大きさです。
腎臓内には、毛糸玉のような毛細血管の塊である糸球体(しきゅうたい)と尿細管から構成される血液のろ過装置の役割を果たす「ネフロン」が1つの腎臓につき約100万個備わっています。
腎臓には、「尿を作る」以外にも様々な働きがあります。
腎臓では糸球体で血しょうをろ過して最初にできる尿(原尿)として、1日あたり150L作られています。そのうち99%は尿細管で再吸収され、約1%(約1.5L)の不要物が尿として排泄されます。
体内の水分やナトリウム、カリウム、カルシウム、リン・塩素といった電解質の濃度・量を調整して、一定に保ちます。また、血液を弱アルカリ性に保つため代謝に伴って作られる酸を「尿」として排泄したり、重炭酸イオン(アルカリ性物質)を放出したりします。
血圧を一定に調節する酵素「レニン」を分泌します。
カルシウムやリンのバランスを整え、正常な骨を維持するのに必要なホルモン「ビタミンD」を活性化させます。
造血を促すホルモンエリスロポエチンを分泌して、赤血球を作ります。
何らかの原因により、腎機能の低下が長期間持続している場合を「慢性腎臓病」と呼びます。
さらに腎機能低下が進行して、腎臓のろ過能力が正常時の30%以下になると「慢性腎不全」となります。慢性腎不全になると、基本的に失われた腎機能の回復は難しくなります。
以下の項目に思い当たる数が多いほど、慢性腎不全(慢性腎臓病)になりやすい傾向があります。何か気になることがありましたら、お気軽に当院までご相談ください。
個人差がありますが、初期の腎不全では自覚症状が現れず、健康診断や他の病気の検査などで初めて病気に気づくことがあります。
腎臓病が進行すると、次のような症状が現れます。
慢性腎不全は、主に腎臓の病気によって引き起こされますが、生活習慣病なども腎臓病を引き起こす要因になります。透析導入に繋がりやすい、特に注意したい原因には次のようなものがあります。
※原因となる病気によって、予後(病気の経過・結末)は異なります。
そのほか、腎不全の前段階である「慢性腎臓病」の発症に大きく影響を与えると考えられている要因として、次の2点があります。
生活習慣病は動脈硬化に繋がりやすく、腎臓病を進行させやすい傾向があります。
生活習慣の乱れや生活習慣病を改善することが、腎臓病の予防となります。
当院では、日本腎臓学会による最新の慢性腎臓病(CKD)診療ガイドに準拠した検査・診断を行っています。
血尿・たんぱく尿・尿糖・比重(≒密度)、pH(ペーハー/ピーエイチ:酸性・アルカリ性の酸塩基バランス)などを調べます。特に「たんぱく尿・血尿」は慢性腎臓病の早期発見に繋がります。
腎機能が低下すると、尿で排泄されるはずの物質が血液中に溜まっていくため、血液検査では「腎機能の異常」「障害の程度」が分かります。主に血清クレアチニン(Cr)と尿素窒素(BUN)の値を確認します。
そのほか腎機能障害が認められるなど必要に応じて、以下の検査を行う場合があります。
※必要に応じて、対応病院をご紹介します。
腎臓の形、尿の通り道の異常を確認します。腎萎縮(じんいしゅく)、多発性のう胞腎などが分かります。
腎臓の一部を採取して、顕微鏡で異常を調べる検査です。他の検査で慢性腎臓病の原因が分からない場合などに行います。
尿検査および血液検査から、腎臓の重症度を調べて診断しています。
以下の①②のどちらか、もしくは両方が3か月以上続くと慢性腎臓病と診断します。
慢性腎不全では、腎機能によって病態を5つのステージに分けています。
※下記表は目安です。なおeGFR値は筋肉量の影響を受けるため、筋肉が多い方や痩せて少ない方は正確に評価できないことがあります。詳しくは医師までご相談ください。
慢性腎臓病では治療で腎機能を回復させることは難しいため「残っている腎機能の維持」を基本とし、少しでも人工透析療法への移行を遅らせ心血管疾患などの合併症予防を目的としています。
薬物療法と並行して食事療法によって、腎臓の負担を下げるような生活習慣の改善を目指します。
「食事療法」を中心に生活習慣の改善を進めていきます。慢性腎臓病患者様の食事では、「たんぱく質」「塩分」「カリウム」の摂取量に注意が必要となります。患者様によっては「リン」「水分」制限が必要となることもあります。
※摂取制限の程度は、慢性腎臓病の原因となる病気や合併症の有無、年齢により個人差があります。
なお、当院では管理栄養士による「食事・栄養指導」を行い、お一人お一人の身体の状況や栄養状態に応じたご提案をしています。
つい栄養素の摂取制限に気を取られてしまい、カロリー摂取が疎かになってしまうケースもよくあります。特にご高齢の方では、低栄養が問題となります。
小さな実践の積み重ねが長期的な食生活のコントロールに繋がっていきますので、お気軽にご相談ください。
私たちは誰でも塩分を取れば、のどが渇いて水分を取りたくなるようになっています。塩分を過剰摂取すると、血液量・体重(水による)の増加、むくみ、血圧の上昇を引き起こすため、腎臓に負荷がかかります。
特に慢性腎臓病患者様は、高血圧で腎臓への負担が増すと腎臓障害がさらに悪化し、ろ過しきれずに体液・血液量が増えて、ますます高血圧を引き起こす、という悪循環が生まれる可能性があります。
腎疾患の食事療法では、「食塩管理」が基本中の基本となります。厚生労働省の報告によると、1日あたりの塩分摂取量は平均10.1g*2となっていますが、治療ガイドラインによると、慢性腎臓病の方では1日あたり、3g~6g未満とされています。
※実際の制限の程度は患者さんの重症度(ステージ)によって異なりますので、詳しくは医師にご確認ください。
*2(参考)令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要 P.23|厚生労働省
ただし急激に厳しい減塩を行うと体調を崩したり、味気なくて食欲が落ちたりすることもあります。調理方法など工夫して、少しずつ塩分摂取量を落とすようにすると良いでしょう。
尿にたんぱく質が含まれていること自体が、腎臓の組織に障害を与え腎臓の働きを低下させます。慢性腎臓病の進行を食い止めるには、少しでもたんぱく尿を減らす必要があります。
通常、標準体重1kgあたり0.6~0.8gに制限します。
※実際の制限値は、患者様ごとの尿たんぱく排泄量・クレアチニン値によって異なります。
カリウムは体に重要な電解質の一つで、血圧の調整や酸塩基バランスの調整などを行っています。腎機能が低下しているとカリウムが尿から排出されず、血中のカリウム濃度が高くなる「高カリウム血症」を引き起こすことがあります。
血性カリウム地5.5mEq/L以下を目標として、1日当たりのカリウム摂取量を1500mg以下に制限します。
症状に合わせて、摂取制限が必要な場合があります。
リンは、肉(特にレバー)、魚、卵、乳製品(牛乳・チーズなど)といった「たんぱく質」の多い食品に含まれています。リンの少ない食品を選んだり、食品添加物入りの加工食品はできるだけ避けたりした方が無難です。リンが多く含まれるものは、ゆでこぼしたり水にさらしたりしてから調理すると良いでしょう(ゆで汁・さらした水は捨てる)。
合わせて、適度に運動する、疲れを溜めない、感染症を予防する、体の冷えに注意する、嗜好品の摂取はほどほどにする、といったことも心がけましょう。
当院では患者さんとよく話し合いながら、無理なく治療を進めていけるよう心がけています。
継続的な運動は、慢性腎臓病患者さんのQOL(生活の質)・ADL(日常生活動作)を改善させると考えられています。肥満の解消だけでなく、糖尿病や高血圧といった生活習慣病の発症・悪化を抑える効果も期待できます。
さらに近年では適度な有酸素運動によって、尿たんぱくが減少したなどの効果がみられたとする報告もあります*3。無理のない範囲で積極的に運動療法を取り入れましょう。
*3(参考)慢性腎臓病(CKD)への運動療法のエビデンス|日児腎誌 Vol.25 No.1
※患者様の年齢・合併症の有無・体調などによって、運動が推奨されない場合もあります。必ず医師と相談してから始めることが大切です。
当院では、インストラクターによる運動教室を開催しています。
運動強度(レベル)は身体のバランスを整える軽い運動から、全身の筋肉と関節を使ったやや強度を上げた運動まで、患者様の体力づくりをサポートしています。
また、患者様の身体状態・ご要望に合わせた個別トレーニングのご提案も行っております。お気軽にご相談ください。
残念ながら、今のところ慢性腎臓病を治す特効薬はありません。
しかし、降圧薬・リン吸着薬・カリウム吸着薬・利尿剤などのお薬を使って、慢性腎臓病の原因となっている病気の治療や現れる症状を軽くしたり、慢性腎臓病の進行や合併症を予防したりすることは可能です。
患者さんの血圧・血糖レベル・合併症の有無など総合的に判断して、組み合わせて使用します。
糖尿病の合併がある方/軽度たんぱく尿を認める方の第一選択薬となります。
慢性腎臓病では血圧管理が非常に重要であり、進行を遅らせるためには血圧を130/80mmHg以下に管理する(可能であれば、さらに下げる)ことが必要です。
降圧剤の中には、尿たんぱくを減らす効果を持つ薬もあります。
上記のARB、ACE阻害薬など「RAS阻害薬」は、すべての腎臓病ステージで投薬可能です。しかしステージ4および5、高齢者の場合では投薬開始時に腎機能の悪化、高カリウム血症が起こる可能性もあるので少量から開始します。
ネフローゼ症候群・IgA腎症など、たんぱく尿が現れる糸球体腎炎には、抗炎症作用のあるお薬を使用します
慢性腎臓病により造血ホルモン(エリスロポエチン)が分泌されにくくなると、血液が十分に作られないため貧血になります(腎性貧血)。
貧血が進行すると倦怠感が現れたり、心臓への負担をかけるため心不全を悪化させたりすることがあります。ガイドラインの中で、血中ヘモグロビン濃度を10~12g/dlに保つよう推奨されています。
腎機能低下により、血液中の老廃物が体内に溜まると、生命の危険がある「尿毒症」を引き起こします。
腎機能が低下すると、カリウムやリンの排泄も低下します。
腎臓では、カルシウム吸収に必要な「活性型ビタミンD」を作っています。
腎機能の低下でビタミンDの活性化ができず、さらに血清リン値の上昇を防ぐため、のどから副甲状腺ホルモン(PRH)が活発に分泌されるようになると、骨代謝(骨を壊して新しい骨を作る「骨の新陳代謝」)の回転が高まり、骨がもろくなります。
また、骨の変化以外にも血管の石灰化、脳梗塞や狭心症・心筋梗塞といった命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。
慢性腎臓病が進行してくると、尿によって老廃物を排出できなくなり、体中に水分が貯留するため、「むくみ」が出てきます。むくみを取るには食事による塩分制限のほか、お薬を使用することがあります。
人間の体は弱アルカリ性(ph7.4程度)に保たれています。しかし腎機能の働きが悪くなると、酸性に傾きます。この「アシドーシス状態」になると骨がもろくなったり、栄養状態が悪化したり腎機能低下に影響を及ぼす場合があります
なお自己判断で薬を中止したり、減らしたりすることは大変危険です。近年では、配合薬も登場しています。内服薬が多い方、また薬で気になる点がある方は医師までお気軽ご相談ください。
腎機能が正常時と比べて10%以下、もしくは薬でコントロールできない高度の尿毒症症状、体液過剰、高カリウム血症などとなったら透析または腎移植を準備します。
透析および腎移植は、相補的な役割があります。患者様の病態だけでなく、ライフスタイル・性格・体調などから総合的に選択することが大切です。
人工透析とは、人工的に血液を浄化して腎臓を代行する治療法です。
透析をすることで生命維持できるようになり、ある程度普通に生活できるようになります。しかし腎機能を回復させたり、腎機能を完全に補ったりするものでありません。腎移植をしない限り生涯継続する必要があります。また長期継続によって、合併症を引き起こすこともあります。
人工透析には以下の2種類あります。
家族・配偶者などから2つある腎臓のうち1つを提供してもらう「生体腎移植」と、脳死・心臓死された方から腎臓を提供してもらう「献腎移植」があります。
まずは「塩分」を控えましょう。
塩分摂取量が増えると体は水分を取り込んで塩分を薄めようとするため、のどが渇きます。水分量が増えると「むくみ」として現れることがあります。
また、体内の水分量が増えすぎると血管が圧迫されるため、血圧が上昇して心臓に負担をかけます。心不全などの病気が原因となって、むくみが生じることもあるので、むくみが全身に現れた場合には速やかにご相談ください。
「慢性腎臓病」という大きな枠組みの中に、腎臓病の原因になっている病名、現れている現象、腎臓の状態などで色々な呼び方があります。
患者様ごとに、慢性腎臓病の原因となる疾患や状態によっても違いますので「必ず人工透析を回避できる」とは断言できません。しかし早期からしっかりと治療に取り組んでいけば、腎機能の低下を遅らせることは期待できます。
腎臓は、一度壊れると元に戻らないからこそ、早期発見・早期治療開始が重要です。
腎臓や尿で気になることがありましたら、早めに当院へご来院ください。