子宮とは女性の下腹部にあり、洋ナシを逆さにしたような形の袋状の臓器のことです。通常は鶏卵くらいの大きさですが、子宮筋層という筋肉により伸び縮みすることができるため、妊娠時には大きく変形します。
上部は左右の卵管に、下部にある子宮口は腟につながっており、上部2/3を子宮体部、下部1/3を子宮頸部とよびます。(下図参照)
子宮がんには2種類があり、子宮頚部に発生するがんを「子宮頚がん」、子宮体部に発生するがんを「子宮体がん」といいます。
女性ホルモンにエストロゲンとプロゲステロンというホルモンがあります。エストロゲンは子宮内膜を増殖させる作用があり、プロゲステロンには子宮内膜の増殖を抑える作用があります。
この2つのホルモンが何かしらの理由で崩れ、プロゲステロンの分泌が減少しエストロゲンの割合が増加すると子宮内膜が異常に増殖してしまいます。まれに増殖した子宮内膜に発がん性の異型細胞が含まれることがあり、この場合は「子宮内膜異型増殖症」という病気に分類されます。子宮内膜異型増殖症の一部は、子宮体がんに進行すると言われています1)
1)Kurman RJ, et al.: Cancer 1985;56:403-12.
子宮体がんは、初期から症状が現れるケースが多くあります。
まず不正出血がみられ(出血量には個人差があります)、がんの進行に伴い、おりものの異常や下腹部痛、排尿痛等の症状が現れます。このような症状を感じた場合はすぐに婦人科へ受診してください。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
子宮体がんは、40歳代後半から60歳代の女性に多くみられます。(上グラフ参照)
これは閉経前後で女性ホルモンのバランスが崩れやすいことが要因と考えられます。
また閉経が遅い人や、月経不順、不妊症、妊娠・出産経験がないなども発症要因とされますが、これらは自分では改善しにくいものです。
しかし、生活習慣の改善で回避できそうなリスク要因の一つに肥満が挙げられます。これはエストロゲンが脂肪細胞からも産生されるためで、BMIが27以上だと、子宮体がん発症リスクが統計的に高まるという研究結果もあります。2)
2)Kawachi A, et al.: Eur J Cancer Prev. 2019;28(3):196-202.
肥満解消はがん予防だけではなく、生活習慣病予防にもなります。
当院では食事・栄養指導や運動教室も行っており、生活習慣病予防にも積極的に力を入れています。ぜひ一度当院へご相談ください。
子宮頚がんはヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの持続的感染が原因です。
HPVは皮膚や粘膜に存在するありふれたウイルスですが、性的接触により子宮頸部に感染します。男女ともに生涯で80%以上の人がHPVに感染する機会があるといわれています。
通常はHPVに感染しても、約90~95%の方は免疫の力で自然に排除されますが、約5~10%の人は何らかの原因でHPV感染が持続してしまいます。(持続的感染に性交渉の回数は関係ありません)その感染が1年以上持続すると、一部の細胞が正常ではない形に変化して、前がん病変細胞となります。(前がん病変細胞はすべてががん細胞になるわけではありません。)
この前がん病変細胞の一部が周囲に広がると、子宮頚がんとなります。前がん病変細胞が、がんまで進行するのには5~10年かかるといわれています。
よって子宮頸がんになる前の段階で、子宮頸がんの検診を受けることがとても大切です。(子宮頸がん検診では前がん病変細胞を発見します)
子宮頸がんの症状は子宮体がんとは異なり、初期症状はほとんどありません。
子宮頸がんが進行すると、不正出血、性交時・性交後の出血、おりものの増加、下腹部や腰、背骨、下肢の痛みなどの症状が現れます。
子宮頸がんの発症要因はHPVの持続的感染です。
その他のも喫煙と免疫力の低下、出産回数の多さ、ピルの長期服用も、子宮頸がんと関連があるとされています。
子宮頸がんは20~30代の若い女性に増えています。(下グラフ参照)
1975年から1995年では、子宮頸がんの罹患率は25歳以降で高くなっていました。しかし2000年代に入ってからは、20歳代前半からの罹患が急激に増加しています。これは若い女性の性行動が変化し、初めて性交を行う年齢が低くなっていることによるものと考えられます3)。
国内において子宮頸がんで亡くなる方は、年間2,900人程度(2021年)と報告されています。年代別の死亡率は、30代前半から年代が上がるにつれ高くなっていく傾向にあります。なお、日本では、25~40歳の女性のがんによる死亡の第2位は、子宮頸がんによるものです。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
子宮頸がんは予防が可能ながんです。
子宮頸がんには予防ワクチン(HPVワクチン)があり、HPV感染、及びHPV感染による子宮頸部の異形成を予防する効果が確認されています。
日本での予防接種率は30~40%と低いのが現状ですが、世界保健機関(WHO)がHPVワクチンの接種を推奨しており、2022年12月時点では、120か国以上で公的な予防接種が行われています。カナダ・イギリス・オーストラリアなどの接種率は80%以上です。
アメリカ | 61% |
カナダ | 87% |
イギリス | 83% |
イタリア | 32% |
ドイツ | 47% |
フランス | 37% |
オーストリア | 82% |
※出典:WHO/UNICEF Joint Reporting Form on Immunization
また下記の表よりワクチンを導入した場合、ワクチンなしの場合に比べて子宮頸がん罹患患者数、死亡者数が有意に下がっていることがわかります。
出典:Donna Debickia, Nicole Ferkoa, et al; Comparison of detailed and succinct cohort modelling approaches in a multi-regional evaluation of cervical cancer vaccination; Vaccine 26S (2008) F16-F28
日本でも子宮頸がん予防ワクチンの国内で販売開始以降、予防接種により回避する ことができた子宮頸がん罹患者数は13,000人~20,000人と推計されます。 また現在までの予防接種により回避することができた子宮頸がんによる死者数は3,600人~5,600人と推計されます。
参照:厚生労働省結核感染症 子宮頸がん予防ワクチンの有効性についてより
子宮頸がんワクチンは小学校6年~高校1年相当の女性を対象に予防接種法に基づく定期接種として、公費によりHPVワクチンを接種することができます。
また、平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)の女性の中で、定期接種の対象年齢(小学校6年~高校1年相当)の間に接種を逃した方には、改めて接種を受けることができるキャッチアップ接種というものがあります。詳しくは「厚生労働省キャッチアップ接種のご案内」をご覧ください。
また、対象者に該当しない方でも、任意接種としてHPVワクチンを接種することは可能です。ただし接種費用は全額自己負担となります。
子宮頸がんのワクチンは3種類あります。
※「~価」とは「~種類」のウイルス感染を予防できるということです。
1か月以上の間隔をあけて2回接種し、1回目の接種から5か月以上かつ2回目の接種から2か月半以上の間隔をあけ3回目を接種します。
1か月以上の間隔をあけて2回接種し、2回目の接種から3か月以上の間隔をあけ3回目を接種します。4価ワクチンでは、尖圭コンジローマ(良性のいぼ)の原因となるタイプのHPVの感染も予防することができます。
これらのワクチンは、HPVの中でも子宮頸がんを起こしやすい種類である16型と18型の感染を防ぐことができ、子宮頸がんの原因の50~70%を防ぐことができます。
●初回接種が15歳未満の場合
2回接種:初回から5か月以上(標準的には6か月)あけて2回目。
3回接種:初回から1か月以上5か月未満(標準的には2か月)あけて2回目。2回目から3か月以上(標準的には4か月)あけて3回目。
●初回接種が15歳以上の場合
3回接種:初回から1か月以上(標準的には2か月)あけて2回目。2回目から3か月以上(標準的には4か月)あけて3回目。
このワクチンで子宮頸がんの原因の80~90%を防ぐことができます。
当院では、HPVワクチン接種を行っております。
ワクチン接種ご希望の方は、お電話(054-252-0585)にてお問合せ下さい。