熱中症とは高温多湿な環境に長時間いる事で、体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温の調節機能が働かくなり、体内に熱がこもった状態のことをいいます。
重度の熱中症では命に関わることもあり、大変危険ですが、正しい知識を身に付け、予防法や応急処置を行えば発症を防ぐことができます。
人は体温を調節する機能が備わっているため、普段36℃から37℃くらいに保たれています。体温が上がりそうになった時には、人間の身体は体温を下げるため体内の熱を体外へと放散しようとします。その際に、対流・伝導・輻射・蒸発の4つの方法で熱を下げていきます。
伝導:ものとものが触れ合うと、熱いものは冷たいものへと移動します。
例)氷を触ると指は冷たくなり、氷は溶けます。
対流:液体や気体を通じて熱は移動します。
例)温かいお湯の熱が冷たい身体に移動することで身体が温まります。
放射・輻射:物体から発せられた「遠赤外線」により熱が移動します。
例)太陽は何かに触れていませんが、気温を上昇させます。
蒸発:汗をかくことで、その汗が皮膚から蒸発し、熱が体外へ出ていきます。
この伝導・対流・輻射による熱移動を起きやすくするために、血液は体内の熱とともに皮膚の表面の方へ移動します。暑くなった際に皮膚が赤く見えるのはこのためです。
その熱を体外に放出して血液の温度を下げ、冷えた血液が体内に戻っていくことで身体を冷やします。しかし真夏などの高温時では、
などの理由から体内の熱を上手く放散できず、その状態が長く続く事で熱中症になってしまいます。
このように気温が高い日では伝導・対流・輻射の機能があまり働かなくなってしまいます。そこで大切になってくるのが発汗です。
(1)30~35℃の皮膚表面では1mL当たり0.58kcalの蒸発熱を奪います。人体の比熱は約0.83なので、体重70kgの方ならば100mLの蒸発で体温を約1℃下げることができます。
(1)出典:厚生労働省 職場における熱中症予防対策より
しかし湿度が高い環境では、空気中の水分が多く汗が蒸発しにくくなります。蒸発しない汗は熱を体外には放散できないため、身体はただ水分と塩分を失う状態になります。そして熱が放散できていない為、身体はがんばって体温を下げようと、さらに大量に汗をかくようになりますが、この状態で真水や塩分濃度の低い飲み物を摂取すると、血液中の塩分濃度が低下し、筋肉の痛みを伴う熱けいれんを起こすようになります。
大人より地面に近い子ども、ペットは日差しの照り返しにより、特に高温にさらされた場所にいるので注意が必要です。
また、救急要請時の発生場所で最も多いのが、住居(全体の39.9%)です。次いで道路(16.6%)屋外(12.8%)仕事場(10.2%)の順になっています。
このデータからもわかるように、室内にいるから安全ではありません。それではなぜ室内で熱中症を発症してしまうか、その主な原因として以下が挙げられます。
出典:一般財団法人 日本気象協会より
※1新生児や乳幼児は体重に占める水分の割合が、新生児で80%、乳幼児で70%とかなり多くしめています。(成人の体重に占める水分の割合は60%です。)さらに、新生児や乳幼児は汗腺や体温調整機能が未熟のため、大人よりも脱水しやすい状況にあります。小さなお子様がいるご家庭は汗のかきかたや顔色などをよく注意して見守ってあげてください。
高齢者は若者に比べて体の熱を周囲に逃がす熱放散能力が低く、深部体温が上昇しやすくなります。それ以外にも、高齢者は温度に対する感覚が弱くなり「暑い」と感じにくくなったり、のどの渇きを感じにくくなったりすることで、熱中症を発症しやすくなっています。
熱中症の症状は、軽度・中度・重度の3種類に分けられます。
Ⅰ度は現場での応急処置で対応できる軽症、Ⅱ度は病院への搬送を必要とする中等症、Ⅲ度は入院して集中治療の必要性のある重症に分類されます。
重症度を判定する時に重要な点は、意識がしっかりしているかどうかです。
また、以下の症状は熱中症の危険信号です。
・高い体温 ・赤い・熱い・乾いた皮膚(全く汗をかかない、触るととても熱い)
・ズキンズキンとする頭痛
・めまい、吐き気
・意識の障害(応答が異常、呼びかけに反応がない等)
少しでも意識がおかしい場合には、 Ⅱ度(中等症)以上と判断し病院へ搬送してください。「意識がない」場合は、全てⅢ度(重症)に分類し、絶対に見逃さないことが重要です。
熱中症を疑った時には、放置すれば死に直結する緊急事態であることを認識しなければなりません。重症の場合は救急車を呼ぶことはもとより、現場ですぐに体を冷やし始めることが必要です。
☑意識はしっかりしている
☑水を自分で飲むことができる
☑めまいや立ち眩み、生あくびがでるなどの症状があるが、徐々に改善している
☑筋肉痛やこむら返りの症状があるが、徐々に改善している
このような場合は現場の応急処置と見守りで大丈夫です。
ただし、意識がおかしい、自分で水分・塩分を摂れない、応急処置を施しても症状の改善が見られない時は、すぐに病院へ搬送しましょう。
熱中症を疑った際は、まず現場ですぐに身体を冷やし始めることが必要です。
風通しのよい日陰や、できればクーラーが効いている室内等に避難します。
スポーツや労働の場等での熱中症で重症(意識障害など)が疑われる場合は、救急車を要請すると同時に、全身を氷水(冷水)につけることが最も体温低下率が高く、救命につながることが知られています。そのような準備ができない際は、水道でつないだホース等で全身に水をかけ続けることが推奨されています。
屋内で意識障害等の重症な熱中症が疑われる場合は、できる限り冷房の効いた涼しい場所へと移動し、体表冷却を続け、なるべく早く医療機関へ搬送しましょう。冷却はできるだけ早く行う必要があり、とても大切な行動です。
意識があり、自分で水分補給ができる程度であれば、皮膚を濡らしてうちわや扇風機で扇ぐ、氷やアイスパックなどで冷やすのもよいでしょう。これで良くなれば、軽症ということになります。
まず自動販売機やコンビニで冷えたペットボトル・氷等を手に入れ、上記の部分に広く当てて、皮膚直下を流れる血液を冷やしてください。
発熱の際に額に貼る市販のジェルタイプのシートがありますが、これは体を冷やす効果はありませんので熱中症の治療に効果はありません。
応答が明瞭で、意識がはっきりしているなら、自分で冷えた水分を飲んでもらうか、冷やした水分を口から与えてください。 冷たい飲み物は胃の表面から体の熱を奪います。
また、大量の汗とともに、塩分やミネラルも失うため、ただ水分を補給するのではなく、塩分も一緒に補給することが重要です。
手早く塩分・糖分補給ができるものとして、スポーツドリンクや経口補水液も有効ですが、カフェインの入った飲み物は利尿作用が強くなるので避けてください。
1ℓの水に対して1~2gの食塩を加えた食塩水もおすすめです。
ただし意識障害がある、呼びかけに対する応答がおかしい時などは、誤って水分が気道に流れ込む可能性があり口から水分を飲ませるのは禁物です。すぐに病院での点滴が必要なため、緊急で医療機関へ搬送してください。
熱中症の応急処置としてまとめているものがあるので、参考にしてください。
暑い日が続くと、体が次第に慣れて暑さに強くなります。このことを暑熱順化といいます。暑熱順化は「やや暑い環境」において「ややきつい」と感じる強度で、毎日30分程度の運動(ウォーキング等)を約2週間程度継続することで獲得できるといわれています。汗をかかないような季節からでも、ウォーキング等で汗をかく機会を増やし、夏の暑さに負けない体をより早く準備していきましょう。
熱中症はその日の体調に大きく関わってきます。睡眠不足・二日酔い・風邪等の体調不良で下痢をしている・朝食を食べない等、万全でない体調のまま暑い環境に行くことは非常に危険です。体調が回復するまでは暑いところでの活動は控えましょう。
また、急に暑くなった日に屋外で過ごした人や、久しぶりに暑い環境で活動した人、涼しい地域から暑い地域へ旅行した人は、暑さに慣れていないため熱中症を発症しやすくなります。無理しない行動をとりましょう。
熱中症は重症化すると命を脅かすこともありますが、しっかりと正しい知識をもち、予防と対策を行うことで防ぐことのできる症状です。
普段からバランスの良い食事を心がけ、十分な水分補給を行い、睡眠をしっかりと摂って体力をつけ、今年の夏も楽しく過ごしていきましょう。
めまいや立ち眩み、筋肉痛などの症状がでた場合はすぐに涼しい場所へと移動してください。またわからないこと等ありましたら、お気軽に当院へご相談ください。