「お腹周りが気になる」「健康診断で指摘されたけど、よくわからない…」そんなあなたは、もしかしたらメタボリックシンドロームかもしれません。メタボリックシンドロームは、放置すると心臓病や脳卒中といった命に関わる病気を引き起こす可能性がある状態です。しかし、適切な治療と生活習慣の改善によって、健康を取り戻せる病気でもあります。
メタボリックシンドロームの定義から診断基準、原因、症状、合併症、予防方法、治療法まで、わかりやすく解説していきます。
当院ではメタボリックシンドロームの診療も行っています。体型にお悩みの方、ぜひお気軽にご相談ください。
メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満を基盤として、高血圧や高血糖、脂質異常症のうち2つ以上を合併した状態を指します。日本では、男性の腹囲が85cm以上、女性が90cm以上で、かつ血圧、血糖、脂質のうち2つ以上が基準値を超えると診断されます。この状態は動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳卒中などの重大な疾患リスクを高めます。
メタボリックシンドロームは、不適切な食生活や運動不足などの生活習慣が主な原因であり、適切な生活習慣の改善により予防・改善が可能です。早期発見と対策が重要で、特定健診(メタボ健診)などを通じて、自身の健康状態を把握し、必要に応じて生活習慣の見直しを行うことが推奨されています。
メタボリックシンドロームは特定の病気の名前ではなく、いくつかの病気にかかりやすい危険な状態のことを指します。メタボリックシンドロームの原因を解説します。
メタボリックシンドロームの主な原因は、私たちの日々の生活習慣が大きく関係しています。原因になるのは主に以下の生活習慣です。
メタボリックシンドロームの発症メカニズムには、内臓脂肪の蓄積とインスリン抵抗性が深く関わっています。内臓に脂肪が過剰に蓄積すると、アディポネクチンなどの善玉因子の分泌が減少し、TNF-αやIL-6などの悪玉因子の分泌が増加します。これらの変化がインスリン抵抗性を引き起こします。
インスリン抵抗性が起こると、血液中にブドウ糖が溜まり血糖値が上昇します。すると体はより多くのインスリンを分泌して血糖値を下げようとしますが、そのうちインスリンを作る膵臓が疲弊してますます血糖値が上がりやすくなってしまいます。このような状態が続くと、糖尿病などの生活習慣病を引き起こすリスクが高まります。
インスリン抵抗性は高血糖だけでなく、高血圧や脂質異常症などの原因にもなります。内臓脂肪からは遊離脂肪酸も多く放出され、肝臓での中性脂肪やコレステロールの合成を促進し、脂質異常症を引き起こします。インスリン抵抗性により腎臓でのナトリウム再吸収が増加し、高血圧の原因にもなります。
メタボリックシンドロームは放っておくと将来、心臓病や脳卒中などの大きな病気を引き起こす可能性があります。今回はメタボリックシンドロームの予防方法と生活改善策について、具体的に説明していきます。
メタボリックシンドロームの予防は、毎日の生活習慣を見直すことが重要です。
野菜炒めや魚の煮付けなど、野菜や魚を中心とした食事を心がけましょう。野菜や魚は体の調子を整え血管を掃除してくれる、いわば「体の掃除屋さん」です。揚げ物や甘いものは、食べすぎないように注意しましょう。これらの食べ物は脂肪や糖分が多く、血管を詰まらせる原因となります。
毎日30分程度のウォーキングや軽いジョギングなど、無理のない範囲で体を動かすようにしましょう。運動は体の中の「ゴミ」を燃やし、血管を掃除してくれる「掃除機」のような役割を果たします。
運動が苦手な人はエスカレーターではなく階段を使う一駅分歩くなど、日常生活の中で体を動かす機会を増やしてみましょう。日常生活の中でこまめに体を動かすことは「小さな掃除」をこまめに行うようなものです。
睡眠不足は食欲を増進させるホルモンの分泌を促し、食べすぎの原因となります。睡眠は体を休ませるだけでなく、食欲をコントロールする「司令塔」の役割も担っています。睡眠不足になると、この「司令塔」が正常に機能しなくなり食べすぎてしまうのです。
毎日決まった時間に寝起きするなど、規則正しい生活リズムを心がけ質の高い睡眠を十分にとりましょう。
ストレスは自律神経のバランスを乱し、代謝を低下させる原因となります。ストレスは体のさまざまな機能を低下させる「目に見えない敵」です。
趣味の時間を楽しんだりリラックスできる音楽を聴いたり、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。ストレスを解消することで「目に見えない敵」を倒すことができます。
健康診断ではメタボリックシンドロームの危険因子となる、体重・腹囲・血圧・血糖値・脂質値などをチェックすることができます。健康診断は、体の中を覗き込む「体の定期点検」です。
定期的に健康診断を受けることで、自分の体の状態を把握し早期発見・早期治療に繋げましょう。
メタボリックシンドロームと診断された場合は、医師の指導のもと生活習慣を改善していくことが重要です。
生活習慣改善のポイント | 具体的な方法 |
食事 | 野菜を先に食べる、よく噛んで食べる、腹八分目を心がける |
運動 | 毎日30分歩く、階段を使う、エレベーターを使わない |
睡眠 | 毎日7時間睡眠、寝る前にスマホを見ない |
ストレス | 趣味を楽しむ、リラックスする時間を作る |
飲酒 | 飲酒量を減らす、禁酒する |
喫煙 | 禁煙する |
これらの生活習慣改善策は、メタボリックシンドロームの予防だけでなく、健康的な生活を送る上でも非常に大切です。ご自身の生活習慣を見直し、できることから始めてみましょう。
メタボリックシンドロームの初期症状は以下のとおりです。
日常生活で感じるちょっとした不調と似ているため見過ごしてしまうことが多くあります。
「最近、仕事で疲れているから…」と、これらの症状を軽く考えていると危険であり、 メタボリックシンドロームのサインかもしれません。メタボリックシンドロームが進行すると動悸・息切れ・手足のしびれ・むくみなど、より具体的な症状が現れるようになります。
メタボリックシンドロームは、まるで体の中で静かに進むドミノ倒しのようにさまざまな病気を引き起こすリスクを高めます。メタボリックシンドロームは単独で出現するよりも、他の病気と手を組んで現れることが多いのが特徴です。
発症しやすい3つの疾患として、高血圧・脂質異常症・糖尿病が挙げられます。生活習慣病とは切っても切れない関係にあるのです。それぞれの症状の特徴を以下で解説します。
これらの病気は、いずれも血管をボロボロにしてしまう動脈硬化を進行させる大敵です。メタボリックシンドロームの人はこれらの病気を併発しないように、より一層注意する必要があるのです。
メタボリックシンドロームは、動脈硬化を進める危険因子である高血圧・脂質異常症・糖尿病などが複雑に絡み合った状態です。ドミノ倒しのように、病気が次々と連鎖していくイメージです。
動脈硬化とは血管の壁が硬く、もろくなる状態です。血管が老朽化した水道管のようにボロボロになると、血液の流れが悪くなりさまざまな臓器にダメージを与えてしまいます。
メタボリックシンドロームが引き起こす可能性のある主な合併症として、以下のようなものが挙げられます。
これらの合併症は、命に関わるような深刻な病気を引き起こす可能性もあります。
メタボリックシンドロームは、自覚症状がないまま進行してしまう場合も多い病気です。そのため、定期的な検査で自分の状態を把握することが重要です。
メタボリックシンドロームの検査は血液検査・尿検査・身体測定など、いくつかの項目を組み合わせて行います。これらの検査は、皆さんが普段健康診断などで受けているものとほとんど同じです。
お腹周りの脂肪の量を測ったり血圧を測ったり、血液中の糖やコレステロールの値を調べたりします。検査結果は「メタボ予備軍」か、「メタボの危険ゾーン」に突入しているかを知るための重要な手がかりです。
メタボリックシンドロームの検査では、具体的に以下の項目を調べます。
検査項目 | 内容 | 基準値 |
腹囲 | お腹周り(おへその高さ)を測ります | 男性 85cm 以上、女性 90cm 以上 |
血圧 | 心臓が血液を送り出すときの圧力を測ります | 最高血圧 130mmHg 以上 または 最低血圧 85mmHg 以上 |
血糖値 | 血液中のブドウ糖(エネルギー源)の量を測ります | 空腹時血糖値 110mg/dL 以上 |
脂質検査 | 血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪など)の量を測ります | 中性脂肪値 150mg/dL 以上 または HDLコレステロール値 40mg/dL 未満 |
その他 | 尿検査、心電図、画像検査(レントゲン、CT、MRIなど) |
これらの検査項目のうち腹囲の基準値を超え、かつ他の検査項目のうち2つ以上の基準値を超えている場合にメタボリックシンドロームと診断されます。
これらの検査は、メタボリックシンドロームの早期発見・早期治療のために非常に大切です。検査を受けることで自分自身の健康状態を正しく理解し、生活習慣病の予防・改善に役立てることができます。
メタボリックシンドロームは放っておくと、心臓病や脳卒中などの重い病気につながる可能性があります。しかし治療と生活習慣の改善を続けることで、健康な状態を取り戻せる可能性があります。その治療法は大きく分けて「生活習慣の改善」と「薬物療法」の2つがあり、この2つを車の両輪のようにバランス良く進めていくことが大切です。
メタボリックシンドロームの治療の基本は、生活習慣の改善です。これはメタボリックシンドロームの根本原因である内臓脂肪の蓄積を減らし、体重をコントロールすることが目的です。
食事療法では野菜や魚などを中心としたバランスの取れた食事を心がけ、塩分や糖分の摂りすぎに注意することが大切です。例えば甘いお菓子やジュースを控える、ラーメンのスープを全部飲み干さないなどちょっとした心がけが大きな違いを生みます。
運動療法ではウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を1日30分程度、週に3回以上行うことが推奨されています。毎日忙しい方でも通勤時間に一駅分歩く、エスカレーターではなく階段を使うなど、日常生活の中に運動を取り入れる工夫をしてみましょう。
これらの生活習慣の改善を数ヶ月間試みても効果が不十分な場合や、すでに動脈硬化などが進行している場合は薬物療法が検討されます。薬物療法はあくまで補助的な役割であり、生活習慣の改善と並行して行うことが重要です。
メタボリックシンドロームの治療薬は高血糖・高血圧・脂質異常症などの個々の症状に合わせて、医師が適切なものを選択し処方します。
薬の種類 | 効果 | 注意点 |
血糖値を下げる薬 | 高血糖を改善する | 低血糖に注意が必要 |
血圧を下げる薬 | 高血圧を改善する | めまいやふらつきに注意が必要 |
コレステロールを下げる薬 | 脂質異常症を改善する | 肝機能障害に注意が必要 |
これらの薬はあくまで疾患をコントロールするための対症療法であり、根本的な治療ではありません。自己判断で服用したり中止したりすることは大変危険なので、必ず医師の指示に従ってください。
例えば糖尿病の治療薬には血糖値を下げるホルモンであるインスリン製剤や、インスリンの分泌を促進したり効果を高めたりする経口血糖降下薬などさまざまな種類があります。これらの薬剤は患者さんの病状や生活習慣などを考慮して、適切なものが選択されます。
また高血圧の治療薬には血管を広げて血圧を下げる降圧剤や、心臓の負担を軽減する薬剤などがあります。脂質異常症の治療薬には血液中の悪玉コレステロールを減らす薬剤や、善玉コレステロールを増やす薬剤などがあります。
これらの治療薬は患者さんの状態に合わせて、医師が適切なものを選択し処方します。
メタボリックシンドロームは内臓脂肪型肥満・高血圧・脂質異常症・高血糖など複数の要素が重なり、動脈硬化や心臓病・脳卒中などのリスクを高める状態です。原因は食べすぎ・運動不足・ストレス・遺伝・加齢などさまざまです。
診断基準は腹囲に加え、血圧・中性脂肪・HDLコレステロール・空腹時血糖値のいずれか2つ以上が基準値を超えている場合です。
治療法は生活習慣の改善が基本で、食事療法・運動療法が重要です。食事はバランスよく野菜中心に、塩分や糖分を控えましょう。そして、運動は週に3回以上、1回30分程度の軽い運動を心がけましょう。
薬物療法は、生活習慣の改善だけでは効果が不十分な場合に補助的に用いられます。
メタボリックシンドロームは、早期発見・早期治療が大切です。気になる症状があれば、ぜひ当院にご相談下さい。
また当院には、肥満(ダイエット)外来がございます。ご希望があればご相談下さい。
Stine JG, Hummer B, Smith N, Tressler H, Heinle JW, VanKirk K, Harris S, Moeller M, Luzier G, DiJoseph K, Hussaini Z, Jackson R, Rodgers B, Schreibman I, Stonesifer E, Tondt J, Sica C, Nighot P, Chinchilli VM, Loomba R, Sciamanna C, Schmitz KH and Kimball SR. AMPED study: Protocol for a randomized controlled trial of different doses of aerobic exercise training.. Hepatology communications 8, no. 7 (2024): .