足のむくみや痛みは多くの人が経験するありふれた症状ですが、その裏に隠れる病気として深部静脈血栓症があります。これは足の静脈に血栓ができてしまう病気で、放置すると命に関わる肺塞栓症などの合併症を引き起こす可能性もあります。長時間座りっぱなしの飛行機のエコノミークラス症候群も、深部静脈血栓症の一種です。
あなたは深部静脈血栓症のリスクを知っていますか?ここでは深部静脈血栓症の原因や症状・治療法・そして日常生活での予防方法について詳しく解説していきます。
深部静脈血栓症は、体の奥深くにある太い静脈に血栓(血液の塊)ができてしまう病気です。
皆さんはケガをして出血した時、しばらくすると血が止まりますよね?これは血液中に含まれる成分が複雑に作用しあって、出血を止めるシステムが働くためです。 しかし、このシステムが過剰に働いてしまうと、体にとって不都合な場所にまで血の塊ができてしまうことがあります。これが血栓です。
深部静脈血栓症は主に足の太い静脈に血栓ができやすく、その結果、足の痛みや腫れを引き起こします。
例えば長時間座りっぱなしのデスクワークや、飛行機での長旅などを想像してみてください。このような状態が続くと、足の血液の流れが滞り血栓ができやすくなるのです。
「エコノミークラス症候群」という言葉を耳にしたことはありますか? 長時間、飛行機のエコノミークラスのような狭い座席に座り続けることで発症することから、この名前がつきました。
エコノミークラス症候群は、実は深部静脈血栓症と深い関係があります。長時間足を動かさないでいると、足の静脈で血流が滞り血栓ができやすくなります。この血栓が肺に移動すると肺の血管が詰まり、呼吸困難などの深刻な症状を引き起こすことがあります。これがエコノミークラス症候群の正体であり、医学的には「肺塞栓症」と呼ばれます。
つまりエコノミークラス症候群は、深部静脈血栓症が原因で起こる病気の一つなのです。
深部静脈血栓症は、様々な要因が重なって発症すると考えられています。その中でも特に、血液の流れが滞りやすい状態が続くことが大きなリスクとなります。
例えば、手術後に安静状態が長引いたり、骨折などでギプスを装着して足を動かせなかったりする場合、血液の流れが滞りやすくなるため注意が必要です。
また、血液が固まりやすい体質も、深部静脈血栓症のリスクを高めます。 遺伝的に血液が固まりやすい体質の方や、妊娠中やピル服用などでホルモンバランスが変化し、血液が固まりやすくなっている方も注意が必要です。
さらに、血管の内側に傷がある場合も、血栓ができやすい状態となります。血管は、動脈硬化や糖尿病などの病気によって傷つきやすくなるため注意が必要です。
深部静脈血栓症は、決して他人事ではありません。 普段から、自身の生活習慣や健康状態に気を配し、予防を心がけることが重要です。
足のむくみや痛みは、多くの人が経験するありふれた症状です。しかし、その裏に深部静脈血栓症という病気が隠れている可能性もあります。「たかが足のむくみ」と安易に考えて放置してしまうと、命に関わる事態に発展することもあります。
ここでは、深部静脈血栓症の症状と診断方法について、詳しく解説していきます。
深部静脈血栓症は、体の奥深くにある静脈に血の塊(血栓)ができる病気です。血栓は血液の流れを悪くするため、様々な症状を引き起こします。例えるならば、体内の道路に「渋滞」を引き起こしてしまう病気と言えるでしょう。
深部静脈血栓症で最も血栓ができやすいのは足の静脈です。足の静脈にできた血栓によって血液の流れが滞ると、以下のような症状が現れます。
血栓ができている部分の皮膚が、赤みや青紫色に変色することがあります。
血栓ができている部分は、周囲の皮膚よりも熱く感じることがあります。
これらの症状は、必ずしも全てが現れるわけではありません。また、これらの症状は他の病気でも見られることがあります。
例えば足のむくみは、心臓や腎臓、肝臓などの病気でも起こります。また長時間立ちっぱなしの仕事や、妊娠なども足のむくみの原因となります。足の痛みも腰椎椎間板ヘルニアや坐骨神経痛、筋肉や靭帯の損傷など様々な原因で起こります。
そのため自己判断はせず、少しでも気になる症状があれば早めに当院にご相談下さい。
深部静脈血栓症の診断には、下記のような検査が行われます。
医師が、症状や病歴、生活習慣などについて詳しく聞き取ります。
医師が患部を触診したり、足の脈拍などを確認します。
血管の状態を詳しく調べるために超音波検査(エコー)や、必要に応じて造影CT検査などが行われます。
ゼリーを塗ったプローブを皮膚に当てて、超音波を使って血管の状態を画像化します。痛みはなく、体に害もありません。深部静脈血栓症の診断に最もよく用いられる検査です。血栓の有無だけでなく、血栓の大きさや位置、血管の詰まり具合などを確認することができます。
造影剤を静脈注射し、CTスキャンを行うことで、血管の状態をより詳細に調べます。超音波検査だけでは診断が難しい場合や、肺塞栓症が疑われる場合などに実施されます。
これらの検査結果を総合的に判断し、深部静脈血栓症かどうかを診断します。
深部静脈血栓症は、早期発見・早期治療が非常に大切です。そのためにもまずは自分の体のサインを見逃さず、異変を感じたら早めに医療機関を受診することが重要です。
深部静脈血栓症と診断されると「この病気って放っておいても大丈夫なの?」「どんな治療をするの?」「治療期間はどれくらい?」「日常生活に影響はあるの?」といった疑問や不安を抱く方が多いでしょう。
ここでは深部静脈血栓症の治療方法や予防方法について、わかりやすく解説していきます。
深部静脈血栓症の治療は、血栓の大きさや位置、症状、そして患者さんの状態によって、まるでオーダーメイドのように一人ひとりに合った治療法が選択されます。
例えば、血栓が小さく、症状が軽い場合は、飲み薬で治療を行うことができます。一方、血栓が大きく、症状が重い場合は、入院して点滴治療を行う必要がある場合もあります。
主な治療方法には、大きく分けて薬物療法とカテーテル治療の二つがあります。
薬物療法は、深部静脈血栓症の治療の基本となる治療法です。例えるなら血液は道路、血栓は道路にできた渋滞のようなものと考えてみてください。薬を使って血液をサラサラにすることで、この渋滞を解消しスムーズな流れを取り戻そうとするのが薬物療法の目的です。
よく使われる薬には、以下のようなものがあります。
ヘパリンなどの注射や内服薬があります。これらの薬は血液を固まりにくくすることで、血栓が大きくなるのを抑え、肺塞栓症などの合併症を予防します。
こちらは、より強力な薬で、血栓を直接溶かしてしまう薬です。重症の場合や血栓ができてから間もない場合に使用されます。
カテーテル治療は足の付け根などの血管から細い管(カテーテル)を挿入し、血栓を直接治療する方法です。これはまるで掃除機のようにカテーテルを使って血栓を吸引したり、薬剤を血栓に直接注入して溶解したりします。
カテーテルの先端に血栓を砕く装置や吸引する装置を備え、血栓を物理的に除去する方法です。
カテーテルを用いて血栓溶解薬を血栓に直接注入し、血栓を溶解する方法です。
深部静脈血栓症は治療も大切ですが、予防が非常に重要です。日々の生活の中で、少しの工夫を取り入れることで発症リスクを低減することができます。
飛行機のエコノミークラス症候群も、この深部静脈血栓症の一種です。長時間座りっぱなしの状態だと、足の静脈に血液が滞りやすく血栓ができやすくなります。
デスクワークや長距離移動の際は1時間ごとに立ち上がったり、軽いストレッチをするなど定期的に体を動かすようにしましょう。こまめな休憩は、血液の循環を良くし血栓の予防に効果的です。
座ったままでも足首を上下に動かしたり、つま先立ちを繰り返したりすることで、ふくらはぎの筋肉がポンプのような働きをして血液の循環を促します。
水分不足になると血液がドロドロになり、血栓ができやすくなります。これは泥水が流れにくいことからも想像できますよね。こまめに水分補給をするように心がけましょう。
水やお茶など、ノンカフェインの飲み物を積極的に飲むようにしましょう。
アルコールは利尿作用があるため、水分不足になりやすいので注意が必要です。
弾性ストッキングは足を締め付けることで静脈の血流を促し、血栓の発生を予防する効果があります。
特に飛行機での長旅や手術後などは弾性ストッキングを着用することで、深部静脈血栓症のリスクを軽減できます。
深部静脈血栓症は血管の中にできた血のかたまり(血栓)が原因で、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。ここでは深部静脈血栓症によって起こる可能性のある合併症と、その後遺症について詳しく解説していきます。
深部静脈血栓症の合併症として、特に注意が必要なのは肺塞栓症です。これは足の静脈にできた血栓が剥がれて血流に乗って肺に到達し、肺の血管を詰まらせてしまう病気です。例えるなら足の血管で渋滞を起こしていた車が、流れに乗って肺の血管まで移動しそこで完全に道を塞いでしまうような状態です。肺の血管が詰まると血液が心臓に戻りにくくなり、息苦しさや胸の痛みや動悸などの症状が現れます。重症になると呼吸困難に陥り、命に関わることもあります。
深部静脈血栓症を発症した方の約10~20%に肺塞栓症が起こると言われています。肺塞栓症は緊急を要する病気であるため深部静脈血栓症と診断された場合は、速やかに適切な治療を受けることが重要です。
その他にも、深部静脈血栓症が原因で起こる合併症としては、以下のようなものがあります。
血栓によって静脈の血流が悪くなると足に栄養や酸素が行き渡りにくくなります。そのため足のむくみや皮膚の色が変化したりするだけでなく、痛みやかゆみを感じるようになります。
静脈うっ滞性皮膚炎が悪化すると皮膚に栄養が行き届かなくなり、傷ができやすくなったり治りにくくなったりします。さらに悪化すると皮膚が壊死し、潰瘍(かいよう:皮膚にできた深い傷)ができることがあります。
肺塞栓症を繰り返すことで肺の血管が硬くなり、心臓に負担がかかって肺高血圧症になることがあります。これは度重なる道路の渋滞によって迂回ルートが整備されず、常に交通量が多い状態となり道路が傷んでしまうことに似ています。
深部静脈血栓症は命に関わるような合併症を引き起こす可能性がある病気ですが、適切な治療を行うことで多くの場合は症状は改善します。しかし治療後も足の痛みやしびれ、むくみなどの後遺症が残ることがあります。このような後遺症を 深部静脈血栓症後症候群(PTS) と呼びます。PTSは血栓によって静脈の弁が損傷し、血液の逆流を防ぐ機能が低下してしまうことで起こります。
PTSの症状を和らげるためには弾性ストッキングの着用や、足を高くして休むなどのセルフケアが有効です。弾性ストッキングは足の静脈を圧迫することで血液の逆流を防ぎ、むくみを軽減する効果があります。また足を高くして休むことで重力によって血液が心臓に戻りやすくなり、足のむくみが軽減されます。
その他にも医師の指導のもと、リハビリテーションを行うことも大切です。リハビリテーションでは足の筋肉を鍛え血液循環を改善することで、症状の改善を目指します。
深部静脈血栓症は再発のリスクもあるため後遺症の予防も兼ねて、日常生活の中で予防を心がけることが大切です。具体的には長時間同じ姿勢を続けない、こまめな水分補給と適度な運動などを心掛けるようにしましょう。
深部静脈血栓症は足の静脈に血栓ができる病気で、エコノミークラス症候群の原因の一つです。長時間同じ姿勢を続けたり、血液が固まりやすい体質であったりすると発症リスクが高まります。
足のむくみや痛みなどの症状が見られる場合は、深部静脈血栓症を疑い早めに医療機関を受診することが重要です。治療には薬物療法やカテーテル治療などがあり、血栓の大きさや症状に合わせて選択されます。
深部静脈血栓症は予防が大切で長時間同じ姿勢を避ける、水分を十分に摂り弾性ストッキングを着用するなどの対策が有効です。深部静脈血栓症は、放置すると肺塞栓症などの合併症を引き起こす可能性があります。日頃から予防を心がけ、早期発見・早期治療が重要です。
気になる症状がある方は、ぜひ当院にご相談下さい。