大石内科循環器科医院

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大動脈瘤

心臓から伸びる大動脈の一部が風船のように膨らむ「大動脈瘤」。あなたは、この病気についてどれほど知っていますか?

大動脈瘤は初期症状がほとんどなく、気づかないうちに進行してしまう「サイレントキラー」とも呼ばれる恐ろしい病気です。2020年には日本における大動脈瘤の患者数は150万人を超え、増加傾向にあります。特に喫煙や高血圧など、生活習慣と密接に関係していることが分かっています。

この記事では大動脈瘤の種類や原因、症状、そして治療法について詳しく解説します。自分の健康状態を見直すきっかけにしてください。

大動脈瘤の種類とそれぞれの特徴

大動脈瘤は瘤ができる場所や形、症状の出方などによって、いくつかの種類に分けられます。

胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤の違い

大動脈瘤は心臓から伸びる大動脈のどこにできるかによって、大きく「胸部大動脈瘤」と「腹部大動脈瘤」の二つに分けられます。

  • 胸部大動脈瘤:心臓に近い胸の部分の大動脈にできる瘤です。心臓から血液が流れ出した直後の血管に負担がかかりやすい場所で、動脈硬化が起きやすいという特徴があります。
  • 腹部大動脈瘤:お腹の部分の大動脈にできる瘤です。動脈硬化に加えて、遺伝や生活習慣などが関係していると考えられています。

例えば私のクリニックでは長年喫煙習慣のあった70代の男性が、腹部大動脈瘤で通院されています。この方は初期には自覚症状がほとんどありませんでしたが、健康診断でお腹のエコー検査を受けた際に偶然、腹部大動脈瘤が見つかりました。

このように腹部大動脈瘤は自覚症状が出にくいことが多いため、知らないうちに進行しているケースも少なくありません。早期発見のためにも、定期的な検査が重要です。

部位胸部大動脈瘤腹部大動脈瘤
好発年齢50~70歳代60~80歳代
性別男性に多い男性に多い
症状胸や背中の痛み、咳、声のかすれなど腹痛、背中の痛み、腹部膨満感など
破裂率高い比較的低い

閉塞性大動脈瘤の特徴

閉塞性大動脈瘤は、大動脈瘤の中に血の塊(血栓)ができてしまう病気です。血管が狭くなったり詰まったりすることで、血液の流れが悪くなってしまいます。

閉塞性大動脈瘤は進行すると足の冷えやしびれ、歩行時の痛みなどの症状が現れることがあります。さらに血栓が心臓や脳に流れてしまうと、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす可能性もあり、大変危険です。

動脈硬化が進むと、血管の内壁が傷つきやすくなります。すると、その傷を修復しようと、血小板が集まってきて血栓が作られます。閉塞性大動脈瘤は、このようなメカニズムで発症すると考えられています。

大動脈解離との関連性

大動脈解離とは大動脈の壁に亀裂が入り、血管壁に血液が流れ込んでしまう病気です。大動脈瘤があると血管の壁が薄くなっていたり、もろくなっていたりするため大動脈解離が起こりやすくなることがあります。

大動脈解離は突然の激しい胸や背中の痛みを伴うことが多く、命に関わる危険な状態です。

例えば大動脈を水道管に例えてみましょう。水道管に亀裂が入ると、そこから水が漏れ出してしまいますよね。さらに水圧が高ければ高いほど、亀裂は広がりやすくなります。

大動脈解離もこれと同じで血管に亀裂が入ると、そこから血液が漏れ出してしまいます。高血圧の状態だと血管にかかる圧力が高いため、解離を起こしやすく、また、進行も早い傾向があります。

大動脈瘤の原因と発症メカニズム

大動脈瘤は心臓から血液を送り出すホースのような役割を持つ「大動脈」の一部が、風船のように膨らんでしまう病気です。まるで古くなって薄くなったゴムホースに、水圧がかかって膨らんでしまう様子を想像してみてください。

この大動脈瘤、実はある日突然発症する病気ではありません。長年の生活習慣や体質などが複雑に絡み合って発生する、いわば「生活習慣病」の一つと言えます。

主なリスク因子とその影響

大動脈瘤の発症には、いくつかの危険因子(リスク因子)が関与していると考えられています。

  • 加齢
  • 喫煙:血管を傷つけ、動脈硬化を促進します。
  • 高血圧:血管に常に高い圧力がかかるため、血管を傷つけやすくします。
  • 高脂血症(高コレステロール血症):血管の内側にコレステロールが溜まり、動脈硬化を進行させます。
  • 糖尿病:血管を脆くし、動脈硬化のリスクを高めます。
  • 遺伝的要因(家族歴):両親から受け継いだ体質が影響することがあります。

一つ一つは小さな要因でも、重なることで大動脈瘤のリスクは加速度的に高まります。

例えば私のクリニックには、長年トラック運転手をされている60代の男性が腹部大動脈瘤で通院されています。この方は喫煙習慣があり高血圧の治療も受けていましたが、食事は気にせず運動不足気味でした。長年の生活習慣が積み重なり、腹部大動脈瘤のリスクを高めてしまったと考えられます。

加齢や遺伝的要因の関与

大動脈瘤は、加齢とともに発症率が高くなる病気です。これは血管も私たちと同じように、年齢を重ねることで老化し弾力性を失いやすくなるためです。若い頃はピンと張っていた血管も年齢を重ねるにつれて、徐々に柔軟性を失い傷つきやすくなってしまうのです。

また遺伝的な要因も、大動脈瘤の発症に大きく関わっています。家族に大動脈瘤の方がいる場合は、そうでない方に比べて大動脈瘤を発症するリスクが高くなることが知られています。これは血管の構造や強度に関わる遺伝子が、親から子へと受け継がれるためと考えられています。

高血圧とコレステロールの重要性

高血圧は血管に常に高い圧力がかかり続ける状態であるため、血管の内壁を傷つけやすく動脈硬化を促進させる大きな要因となります。これは細い水道管に強い水圧をかけ続けると、水道管が傷んでしまう様子に似ています。

動脈硬化とは血管の内側にコレステロールなどが溜まって、血管が硬く狭くなってしまう状態です。動脈硬化が進むと血管の弾力性が失われ、大動脈瘤のリスクが高まります。

コレステロールは私たちの体にとって必要な成分ですが血液中のコレステロール値が高い状態が続くと、血管の内壁にコレステロールが溜まりやすくなり動脈硬化を引き起こしやすくなります。高血圧と高コレステロールは、どちらも動脈硬化の促進因子であるため大動脈瘤の予防のためには、これらの数値を適切に管理することが非常に重要です。食事の内容や運動習慣を見直し、必要であれば医師の指導のもと薬物療法も検討する必要があります。

大動脈瘤の症状と診断方法

大動脈瘤は、初期には自覚症状がほとんどないため「サイレントキラー」とも呼ばれています。静かに進行し、ある日突然、命に関わるような状態を引き起こす可能性もある怖い病気です。

血管を水道管に例えると、イメージしやすいのではないでしょうか?水道管は、長い間使用していると、サビついたり老朽化してひび割れが入ったりすることがありますよね。

大動脈も加齢や生活習慣の影響で、同じように老朽化していきます。そして血管の一部が弱くなってしまい、風船のように膨らんでしまうのが大動脈瘤なのです。

一般的な症状:痛みやしびれ

大動脈瘤は、初期にはほとんど自覚症状がありません。健康診断でたまたま発見される、というケースも多い病気です。しかし、大動脈瘤が大きくなってくると、周囲の臓器を圧迫し始めます。その結果、様々な症状が現れてくるのです。

例えば、胸部大動脈瘤の場合、胸や背中に痛みを感じることがあります。これは瘤が大きくなることで、周囲の神経や骨を圧迫するためです。また、咳や声のかすれ、呼吸困難などの症状が出ることもあります。これは、瘤が気管や肺を圧迫するためです。

一方、腹部大動脈瘤の場合は腹部や背中に痛みを感じることがあります。これは瘤が大きくなることで、周囲の神経や筋肉を圧迫するためです。また、食欲不振や吐き気、体重減少などの症状が出ることもあります。これは、瘤が胃や腸などの消化器官を圧迫するためです。

これらの症状は、大動脈瘤によって引き起こされる場合もありますが、他の病気でも見られることがあります。そのため、自己判断は非常に危険です。

「最近、何となく体調が優れない」「もしかして、どこか悪いところがあるのかも…」と感じたら、迷わず当院へご相談ください。

診断に必要な検査方法

「もしかしたら、大動脈瘤かもしれない…」そう感じたら、医療機関を受診し適切な検査を受ける必要があります。
大動脈瘤の検査方法には、以下のようなものがあります。

  1. 触診: まず、医師が患者のお腹や胸などを触診します。これは瘤の有無や大きさ、硬さなどを確認するためです。
  2. 聴診: 次に、聴診器を使って、心臓の音や血流の音を確認します。これにより、心臓や血管の状態を把握することができます。
  3. 胸部・腹部レントゲン検査: 胸部や腹部のレントゲン写真を撮影することで、大動脈瘤の有無や大きさ、形などを確認できます。簡易的に行える検査ですが、小さな大動脈瘤を見つけることは難しい場合があります。
  4. 超音波検査(エコー検査): 超音波検査は、妊婦さんの検査などでも用いられる、体に負担の少ない検査です。超音波を使って、大動脈瘤の大きさや形、血流の状態などを詳しく調べることができます。
  5. CT検査: CT検査は、X線を使って体の断面を撮影する検査です。大動脈瘤の大きさや形、位置、周囲の臓器との関係などをより詳細に把握することができます。
  6. MRI検査: MRI検査は、磁気と電波を使って体の断面を撮影する検査です。CT検査よりも鮮明な画像が得られるため、大動脈瘤の診断に非常に有用な検査です。
  7. 血管造影検査: 血管造影検査は、カテーテルと呼ばれる細い管を血管に通して造影剤を注入し、血管の状態をレントゲンで撮影する検査です。大動脈瘤の正確な位置や大きさ、形状、血流の状態などを詳細に評価することができます。

これらの検査結果に基づいて、医師は大動脈瘤の診断を下します。

早期発見の重要性と定期検査のすすめ

大動脈瘤は破裂すると命に関わる危険な病気です。しかし早期に発見し適切な治療を行うことで、破裂のリスクを抑制し健康な生活を送ることができます。

大動脈瘤は自覚症状が出にくい病気であるため、早期発見のためには、定期的な検査が非常に重要です。特に高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙などのリスク因子をお持ちの方や、家族に大動脈瘤の既往がある方は定期的に検査を受けるように心がけましょう。

また健康診断などで腹部超音波検査を受ける機会があれば、積極的に受診することをおすすめします。

まとめ

大動脈瘤は、大動脈の一部が風船のように膨らむ病気です。加齢や喫煙、高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病が原因で起こることが多く、初期には自覚症状がないため、定期的な検査が重要です。

大動脈瘤は、胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤に分けられ、それぞれ症状やリスクが異なります。また、閉塞性大動脈瘤は血栓が詰まることで血管が狭くなり、足の冷えやしびれなどの症状が現れます。大動脈瘤は破裂すると命に関わるため、早期発見と適切な治療が必要です。

健康診断で生活習慣病を指摘された方や禁煙外来にご興味がある方、何か気になる症状がある方は当院にご相談ください。



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