「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という呼吸音を聞くと、あなたは喘息を連想するかもしれません。喘息の症状は風邪と似ていて、見過ごされることも少なくありません。しかし、喘息は放置すると命に関わる危険性も。
この記事では喘息の症状と原因、そして治療法について詳しく解説します。
喘息は、気道が狭くなり呼吸困難を引き起こす病気です。症状は人それぞれで咳や痰、息苦しさ、喘鳴、胸苦しさなどが現れます。
原因も多岐にわたりダニやハウスダストなどのアレルゲン、タバコの煙や大気汚染などの環境因子、遺伝や体質などが考えられます。
喘息は完治が難しい病気ですが、適切な治療と日常生活での注意によって、症状をコントロールし、健康的な生活を送ることが可能です。ご自身や周りの方の健康のために、ぜひこの記事をご一読ください。
喘息の症状と原因を詳しく解説
「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と息苦しそうな様子を見て「あ、喘息発作かな?」と、あなたは思ったかもしれません。
実は喘息の症状は風邪と似ているものが多く、患者さん自身も「ただの風邪だ」と勘違いしてしまうケースが少なくありません。
しかし、喘息は放置すると命に関わることもある病気です。「たかが風邪」と安易に考えて放置しないように、まずは喘息の症状について一緒に見ていきましょう。
喘息の代表的な症状5つ
喘息の代表的な症状は以下の5つです。
- 咳(せき): 特に夜間や早朝に咳が出やすく、なかなか止まらないことがあります。単なる風邪だと思って放っておくと、咳がひどくなり眠れない日が続いてしまうケースもあります。
- 痰(たん): 気道の炎症によって痰が出やすくなります。風邪のときのように、痰が絡んで出しにくいと感じる方もいます。
- 息苦しさ: 呼吸をするときに「息が吸えない」「空気を吸っても肺に届かない」といった息苦しさや、胸が締め付けられるような感覚を覚えます。重症になると少し動いただけで息切れがしたり、話をするのもつらくなったりすることがあります。
- 喘鳴(ぜんめい): 呼吸をするときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった音が聞こえてきます。これは、空気の通り道である気道が狭くなっているために起こる音です。特に息を吐く時に音が聞こえやすいですが、重症になると息を吸う時にも聞こえるようになります。
- 胸苦しさ: 胸が圧迫されるような、重苦しい感覚に襲われます。「重たい石が乗っているようだ」「誰かに胸を締め付けられているようだ」と表現する患者さんもいます。
これらの症状は、すべての人に当てはまるわけではなく、症状の出方や強さは人それぞれです。
例えば咳だけが出る人もいれば、息苦しさと喘鳴が同時に出る人もいます。
また症状は一日中続くわけではなく、時間帯や日によって変化することもあります。
喘息を引き起こす原因・誘因
喘息は様々な原因や誘因が複雑に絡み合って発症すると考えられており、そのメカニズムは完全には解明されていません。
しかし、これまでの研究で、いくつかの原因・誘因が喘息の発症に関与していることが明らかになっています。
ここでは、代表的なものを3つのカテゴリーに分けて詳しく見ていきましょう。
カテゴリー | 原因・誘因 | 具体的な例 |
---|
アレルゲン | アレルギー反応を引き起こす物質 | ダニ、ハウスダスト、ペットの毛やフケ、花粉(スギ、ヒノキ、ブタクサなど)、カビ、特定の食品や食品添加物 |
環境因子 | 周りの環境による影響 | たばこの煙、大気汚染、気温や湿度の変化、風邪やインフルエンザなどのウイルス感染、運動、ストレス、職場環境(化学物質を扱う工場など) |
その他 | 体質や遺伝、その他の要因 | アスピリンや他の鎮痛剤、特定の食品添加物、胃食道逆流性疾患 (GERD)、ホルモンバランスの変化(月経周期や妊娠など)、遺伝的要因、肥満、精神的なストレス |
これらの原因・誘因にさらされることで、気道に炎症が起こり、喘息の症状が現れます。
喘息のメカニズム
では、具体的に、喘息は体の中でどのように起こるのでしょうか?
「気道が狭くなるのはわかるけれど、なぜ狭くなるの?」
そう思われる方もいると思いますので、複雑なメカニズムを、3つのステップに分けて、できるだけわかりやすく解説します。
- 気道に炎症が起こる: 喘息の原因・誘因にさらされると、気道(鼻から肺まで空気の通り道のこと)に炎症が起こります。炎症によって、気道の内側が腫れ上がり、空気の通り道が狭くなってしまいます。
- 気道が過敏になる: 炎症によって、気道が過敏な状態になります。その結果、少しの刺激(アレルゲン、たばこの煙、冷気など)にも過剰に反応しやすくなってしまいます。
- 呼吸困難に陥る: 気道が狭くなることで十分な酸素を取り込むことができなくなり、呼吸困難に陥ります。その結果咳、痰、息苦しさ、喘鳴などの症状が現れるのです。
例えばスギ花粉症の人がスギ花粉を吸い込むと、気道に炎症が起こり気道が狭くなってしまいます。すると呼吸をするたびに「ヒューヒュー」という喘鳴が聞こえたり、息苦しさを感じるようになります。このように喘息は、アレルギー反応と気道の炎症が密接に関係している病気なのです。
喘息の治療法~発作時の対処法まで~
「喘息は、きちんと治療すればコントロールできる病気」
そう言われても、具体的なイメージってなかなか湧きづらいですよね。実際、私のクリニックにも「薬はずっと飲み続けないといけないの?」「運動はしちゃダメなの?」といった不安や疑問を抱えた患者さんが多くいらっしゃいます。
そこで、ここからは喘息の治療法について、患者さんからよくいただく質問を交えながら詳しく解説していきます。
喘息の治療で大切なこと
喘息の治療で最も重要なことは患者さん一人ひとりに合った治療計画を立て、医師と患者さんが二人三脚で長期的に取り組んでいくことです。
そのためにも患者さんご自身もご自身の病気についてよく理解し、治療に積極的に参加することが大切です。
具体的には、以下の3つのポイントを意識してみてください。
- 自己管理: 喘息は症状が出ていない時でも、気道に炎症が起きている病気です。そのため、普段からの自己管理が非常に大切になります。
具体的には毎日、症状や使用した薬を記録する「喘息日記」をつけたりピークフローメーターを使って息を吐く力を測ったりすることで、ご自身の状態を客観的に把握することができます。
その他にも規則正しい生活、十分な睡眠、バランスの取れた食事を心がけ、健康的なライフスタイルを維持することも大切です。
- 薬の正しい服用: 喘息の治療には、さまざまな種類の薬が使われます。しかし、自己判断で服用を止めたり、量を変えたりすることは大変危険です。処方された薬は、医師の指示通りに正しく服用するようにしてください。
薬の効果や副作用、注意点など、疑問があれば、遠慮なく医師や薬剤師に相談しましょう。
- 定期的な医師の診察: 喘息の症状は、季節や体調、環境などによって変化することがあります。定期的に医師の診察を受けることで、症状の変化を把握し、治療計画の見直しなど、適切な対応を受けることができます。
診察の際には、気になることや不安なことを、どんな些細なことでも医師に伝えてください。
喘息の治療薬の種類と効果
喘息の治療薬は、大きく分けて、「発作を予防する薬」と「発作が起きた時に症状を和らげる薬」の2つに分けられます。
薬の種類 | 効果 | 使用方法 |
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発作を予防する薬 | | |
吸入ステロイド薬 | 気道の炎症を抑え、喘息発作を予防します。 | 毎日決まった時間に吸入します。 |
抗アレルギー薬 | アレルギーの原因物質に対する反応を抑え、喘息発作を予防します。 | 毎日決まった時間に内服します。 |
抗IgE抗体製剤 | 重症のアレルギー性喘息の患者さんに用いられます。 | 2~4週間ごとに注射します。 |
長時間作用性気管支拡張薬 | 気管支を広げる作用が長く持続し、発作を予防します。 | 1日1~2回吸入します。 |
ロイコトリエン受容体拮抗薬 | アレルギー反応に関与するロイコトリエンの働きを抑え、気道の炎症や収縮を抑制します。 | 1日1~2回内服します。 |
発作が起きた時に症状を和らげる薬 | | |
短時間作用性気管支拡張薬 | 気管支を広げ、呼吸を楽にします。 | 喘息発作が起きた時に吸入します。効果は数時間で、発作を予防する効果はありません。 |
テオフィリン徐放製剤 | 気管支をゆっくりと広げ、夜間や早朝の喘息発作を予防します。 | 毎日決まった時間に内服します。 |
全身性ステロイド薬 | 重症の喘息発作時に使用され、強力な抗炎症作用で症状を鎮めます。 | 内服または点滴で投与します。 |
喘息発作が起きた時の対処法
喘息発作は、突然起こるため、誰でも不安になってしまうものです。しかし、落ち着いて対処することが大切です。周りの方も、患者さんが落ち着いて対処できるよう、サポートしてあげてください。
- 落ち着いて、楽な姿勢をとる: まずはパニックにならず、落ち着きましょう。
- そして椅子に座ったり壁に寄りかかったりして、呼吸が楽な姿勢をとります。
- 服をゆるめる: 首元やお腹周りの服が締め付けている場合は、ゆるめて呼吸をしやすくします。
- 医師の指示に従い薬を使用する: 日頃から医師に指示されている吸入薬などがあれば、指示に従って使用しましょう。
- 改善しない場合は救急車を呼ぶ: 上記の対処法を試みても症状が改善しない場合、または呼吸困難がひどく話せない場合は、かかりつけの医療機関に相談しましょう。
喘息は、毎日のセルフケアと適切な治療を続けることで、症状をコントロールできる病気です。医師とよく相談し、自分に合った治療法を見つけていきましょう。
喘息と上手に付き合うために
喘息は完治が難しい病気ですが、治療を継続することで、ほとんど症状が出ない状態(寛解)を目指すことができます。しかし「症状が落ち着いてきたから」「薬を飲み続けるのが面倒だから」といった理由で、自己判断で治療を中断してしまう患者さんも少なくありません。喘息は、症状が落ち着いている時こそ、油断せずに治療を続けることが大切です。
「先生、喘息を繰り返さないために、日常生活で何かできることはありますか?」
診察室で、このように質問してくる患者さんは少なくありません。そこで、ここからは、喘息と上手に付き合っていくために、日常生活で気を付けること、再発予防と悪化を防ぐ方法について、具体的に見ていきましょう。
喘息の日常生活で気を付けること
喘息は、空気の通り道である気道が狭くなってしまう病気でしたね。気道が狭くなる原因は様々ですが、日常生活の中で、少し意識するだけで、喘息の症状を悪化させずに済むケースも少なくありません。ここでは、普段の生活の中で気を付けるべきポイントを4つお伝えします。
- 家の掃除はこまめに!
喘息の患者さんにとって、家は安心できる空間であるはずですが、実は、家の中には、喘息の症状を悪化させる原因物質(アレルゲン)が潜んでいることが多いのです。
代表的なアレルゲンは、ダニやハウスダストです。ダニは高温多湿の環境を好み布団やカーペット、ぬいぐるみなどに潜んでいます。一方、ハウスダストはダニの死骸やフン、ペットの毛、カビなどが混ざり合ったものです。
これらのアレルゲンを吸い込むことで、気道に炎症が起こり、喘息の症状が悪化してしまうことがあります。
「先生、毎日掃除をするのは大変です・・・」そう感じられる方もいるかもしれません。
毎日家中を隅々まできれいにするのは難しいですが、少なくとも週に2~3回は掃除機をかけ寝室など長時間過ごす部屋は、こまめに換気をするように心がけましょう。
- タバコの煙は厳禁!
「先生、タバコは吸っていないから大丈夫ですよね?」このように質問してくる患者さんもいますが実はタバコの煙は喫煙していないとしても、副流煙や三次喫煙によっても喘息の症状を悪化させる可能性があります。
副流煙とは喫煙者が直接吸い込む煙ではなく、タバコの先から立ち上る煙や喫煙者が吐き出す煙のことです。一方、三次喫煙とはタバコの煙に含まれる有害物質が壁やカーテン、家具などに付着し、そこから再び空気中に放出されることをいいます。
喫煙者だけでなく、非喫煙者にとっても、これらの煙は有害であり、喘息発作のリスクを高めるだけでなく、肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患、心臓病、脳卒中などの循環器疾患、がんなどのリスクを高めることが知られています。
「タバコは百害あって一利なし」です。自分自身の健康を守るためにも、周囲の人の健康を守るためにも、禁煙を強くおすすめします。
- 外出時はマスクを着用!
「先生、花粉症じゃないけど、マスクってした方がいいんですか?」
このように質問される患者さんもいますが喘息の患者さんにとってマスクの着用は、花粉症対策だけでなく喘息の症状悪化の予防にも効果があります。
マスクは空気中のホコリやダニ、花粉、ウイルスなどを物理的にブロックしてくれるため、これらのアレルゲンを吸い込んでしまうリスクを減らすことができます。
特に外出時や人混みの中にいる時、掃除をする時などは、マスクを着用するようにしましょう。
- 適度な運動を習慣化!
「先生、運動すると、息切れがしてしまうんですけど・・・」
このように不安を口にする患者さんもいますが、喘息だからといって、運動を避ける必要はありません。むしろ、適度な運動は、心肺機能を高め、体力向上にもつながるため、喘息の症状を改善する効果も期待できます。
ただし、激しい運動は、逆に喘息発作の引き金になる可能性があるため、避けるようにしましょう。ウォーキングや軽いジョギング、水泳など、無理のない範囲で、自分に合った運動を見つけ、継続することが大切です。
喘息の再発予防と悪化を防ぐ方法
喘息の再発予防には日常生活における注意点を守ること以外にも、医学的な管理が重要になります。
具体的な方法を3つご紹介しましょう。
- 自己管理を徹底しよう!
喘息の患者さんにとって、自分の症状を把握し、適切にコントロールしていく自己管理は非常に重要です。そこでおすすめなのが、「喘息日記」をつけることです。
喘息日記とは、毎日の症状や服薬状況、ピークフロー値などを記録していくものです。ピークフロー値とは、ピークフローメーターという機器を使って測定する、息を勢いよく吐き出す力のことで、気道の状態を客観的に評価することができます。
喘息日記をつけることで、自分の症状がどのように変化しているのか、どんな時に症状が悪化しやすいのかなどを把握することができます。
この記録を、医師の診察時に持参することで、より的確なアドバイスを受けることができます。
- お薬は自己判断で使用を中止しない!
喘息の治療薬には、大きく分けて、発作を抑える薬と発作を予防する薬の2種類があります。発作を抑える薬は、発作時に気管支を拡張し、呼吸を楽にする効果があり、即効性があるのが特徴です。
一方、発作を予防する薬は、気道の炎症を抑え、発作が起こりにくい体質を作る効果があり、長期的に使用することで、喘息の症状をコントロールしていくことを目的としています。
「症状が落ち着いてきたから」「薬を飲み続けるのが面倒だから」といった理由で、自己判断で治療を中断してしまうと、喘息が再発し、さらに症状が悪化してしまう可能性があります。
処方された薬は、医師の指示通りに、きちんと服用を継続するようにしましょう。
- 定期的な診察で医師に相談!
喘息は、その時の症状や状態に合わせて、治療法や薬の種類、量などを調整していく必要があり、自己判断は非常に危険です。
「最近、少し症状が良くなってきたから」「仕事が忙しくて、なかなか病院に行けないから」
このように考えてしまう患者さんもいるかもしれませんが、自己判断で治療を中断したり、薬の量を変えたりせず、定期的に医師の診察を受け、治療方針について相談することが大切です。医師に相談することで、不安や疑問を解消し、安心して治療を継続していくことができます。
まとめ
喘息は気道が狭くなり、咳や息苦しさを引き起こす病気です。症状は風邪に似ていますが、放置すると重症化する可能性があります。喘息の治療には、発作を予防する薬と発作時に症状を和らげる薬があり、自己管理、薬の服用、定期的な医師の診察が重要です。日常生活では、アレルゲンの除去、禁煙、マスク着用、適度な運動を心がけましょう。
喘息は完治が難しい病気ですが、適切な治療と自己管理によって、症状をコントロールし、日常生活を送ることができます。