心臓は、私たちが生きていく上で欠かせない重要な臓器です。しかし、その心臓の筋肉である心筋に異常が起こりポンプ機能が低下してしまう「心筋症」という病気をご存知でしょうか?
心筋症は心臓の構造や機能に様々な影響を及ぼし、息切れや動悸、むくみなど、日常生活に支障をきたす症状を引き起こす可能性があります。近年、心筋症の患者数は増加傾向にあり、その原因や症状、治療法について理解しておくことは、自身の健康を守る上で非常に重要です。
この記事では心筋症の種類や特徴、早期発見のためのサイン、そして最新の治療法について詳しく解説していきます。心筋症は、適切な治療と生活習慣の改善によって、症状の進行を抑え、より良い生活を送ることが可能です。ぜひ、この記事を参考にして心筋症について理解を深めてください。
心臓は毎日休むことなく全身に血液を送り続ける、まさに働き者の臓器です。しかし、その心臓の筋肉である心筋に異常が起こり、ポンプとしての機能が低下してしまう病気があります。それが「心筋症」です。
心筋症は、大きく分けて「拡張型心筋症」「肥大型心筋症」「拘束型心筋症」の3つの種類に分類されます。これは心臓の筋肉がどのように変化しているか、という点で大きく異なり、それぞれで症状や治療法も変わってきます。
拡張型心筋症は心臓の部屋である心室が、まるで風船のように薄く伸びて大きくなり心臓のポンプ機能が低下する病気です。
健康な心臓はギュッと力強く収縮して全身に血液を送り出していますが、拡張型心筋症の心臓は大きく伸びてしまっているため十分に収縮することができません。そのため全身に十分な血液を送ることが難しくなり、様々な症状が現れます。
拡張型心筋症は様々な要因によって引き起こされる可能性がありますが、主なリスク因子としては下記のようなものが挙げられます。
心筋症は様々な検査を通して診断されます。問診では患者さんの自覚症状や生活習慣、家族歴などを詳しく伺います。身体診察では心臓の音や呼吸音、足のむくみなどを確認します。
さらに心臓の状態を詳しく調べるためには、以下の検査が行われます。
これらの検査結果に基づいて、心筋症かどうか、またどのタイプの心筋症かを診断します。
心筋症と診断された場合は、その症状や進行度合い、患者さんの状態に合わせて、適切な治療法を選択します。
肥大型心筋症は、心臓の壁が異常に厚くなってしまい、心臓の部屋である心室が狭くなってしまう病気です。
健康な心臓は、内部の圧力変化に応じて柔軟に壁の厚さを変え、効率よく血液を送り出していますが、肥大型心筋症の場合、壁が厚くなりすぎて柔軟性を失っているため、心臓が十分に拡張することができず、血液の流れが悪くなります。
皆さんは、心臓からのSOSサインに気づいていますか?
心臓は1日約10万回も脈打って全身に血液を送る、驚くべきスタミナを持つ臓器です。しかし、そんな心臓も常にフル稼働しているがゆえに、疲労やダメージが蓄積しやすい場所でもあります。
自覚症状が出にくいとされる心筋症だからこそ、初期症状を見逃さずに早期発見・早期治療につなげることが非常に重要です。
今回は、まるで「体のささやき」のように現れる、心筋症の初期症状を見つけるための8つのサインについて詳しく解説していきます。
「最近、階段を上るだけで息切れがする」「少し走ると動悸が激しくなる」など以前は平気だった運動や動作で、息苦しさや動悸を感じることはありませんか?
若い頃は難なく登れていた階段を、今は途中で休憩しないと息苦しくて登れない、ましてや子どもと全力で走り回ることができない、という経験はありませんか?
これは心臓のポンプ機能が低下し、全身への血液循環が悪くなっているサインかもしれません。
私たちの体は、心臓から送り出される血液によって酸素や栄養を供給されています。しかし心筋症によって心臓のポンプ機能が低下すると、全身に十分な酸素を送り届けることができなくなり息切れや動悸が起きやすくなってしまうのです。
例えば私の患者さんの中には趣味のテニスで以前は2時間続けても平気でしたが、最近は30分も経たないうちに息切れがするようになり診察したところ心筋症と診断された方がいました。
これらの動作で以前よりも息切れや動悸がする場合は、心臓からのSOSサインかもしれません。
心臓は規則正しいリズムで収縮と拡張を繰り返すことで、血液を全身に送り出しています。まるで正確なリズムを刻む、オーケストラの指揮者のようなものです。
しかし心筋症によって心臓の筋肉がダメージを受けると、この美しいハーモニーが乱れてしまい、胸の痛みや不規則な心拍(動悸)を感じることがあります。指揮者のタクトが乱れて、演奏がバラバラになってしまうようなものです。
これらの症状は心臓からのSOSサインかもしれません。放置せずに、早めに医療機関を受診しましょう。
「夕方になると足がむくむ」「疲れやすい」「だるさが取れない」といった症状も、心筋症のサインとして現れることがあります。
心臓は、体内のポンプとして、血液を循環させています。しかし、心筋症によって心臓のポンプ機能が低下すると、この循環が滞ってしまい、体内の水分が溜まりやすくなることがあります。
特に心臓から遠い足に水分が溜まりやすく、むくみとして現れやすいのです。
また血液循環が悪くなることで全身に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなり、疲れやすさやだるさを感じやすくなることもあります。
こちらのブログ記事も参考にご覧ください。
これらの症状が続く場合は、一度医療機関を受診してみましょう。
心筋症と診断されると、これからどうなるのか不安な気持ちでいっぱいになると思います。治療は長期間にわたる場合も多く、生活習慣の見直しも必要となるため戸惑う方も少なくありません。
しかし心筋症は適切な治療と生活管理を行うことで、症状の進行を抑制し生活の質を維持できる病気です。まずは病気について正しく理解し、医師と相談しながら治療を進めていきましょう。
ここでは心筋症の治療法と日常生活で注意すべき点について、私の経験を交えながら具体的に解説します。
心筋症の治療では心臓にかかる負担を減らし、症状を和らげるために、いくつかの種類の薬が組み合わせて使われます。弱ってしまった心臓を、色々な薬で優しく支えるイメージです。
薬の種類や量は患者さん一人ひとりの症状や病気の進行度合いによって異なり、まさにオーダーメイドの治療といえます。
ここでは心筋症の治療でよく使われる薬とその効果について、具体例を交えながら詳しく説明します。
利尿薬は体の中に溜まった余分な水分を尿として排出することで、心臓の負担を軽減する薬です。むくみの改善にも効果があります。
心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしていますが、心筋症になると、このポンプ機能が低下してしまいます。すると血液の流れが滞り、体内の水分が血管の外に漏れ出てしまい、むくみが生じます。
利尿薬はこの余分な水分を尿として排出することで、むくみを改善し心臓への負担を軽減する効果があります。
強心薬は心臓のポンプ機能を強めることで、血液を効率的に全身に送り出すことを助ける薬です。心筋症によって弱った心臓の働きを助ける、いわば「心臓の応援団」のような役割を果たします。
心筋症が進行すると心臓の収縮力が低下し、全身に十分な血液を送ることが難しくなります。強心薬は心臓の筋肉に直接作用し、その収縮力を高めることで全身への血液循環を改善します。
β遮断薬は心臓の拍動を抑え、心臓の負担を軽減する薬です。興奮や運動時に増加する心拍数を抑え、心臓を休ませることで心臓への負担を減らす効果があります。
β遮断薬は心臓にあるβ受容体という場所に作用することで、心臓の拍動数を抑え心筋の収縮力を抑制します。これにより心臓の仕事量が減り酸素消費量が抑制されるため、心臓への負担軽減につながります。
これらの薬は患者さんの症状や病状に合わせて、単独または組み合わせて使用されます。副作用が出る場合もあるため、医師の指示に従って服用することが大切です。
心臓リハビリテーションとは、心臓病の患者さんが安全かつ効果的に運動能力を高め、日常生活の活動レベルを向上させるための医療プログラムです。
心筋症と診断された患者さんにとって、心臓リハビリテーションは症状の改善や再発予防、そして生活の質の向上に大きく貢献します。
心臓リハビリテーションには、大きく分けて以下の3つの柱があります。
心筋症と診断された後も、多くの人が日常生活を送っています。
大切なことは心臓に負担をかけずに、自分らしく生き生きと過ごすことです。規則正しい生活習慣を心がけ医師と連携を取りながら、うまく病気と付き合っていきましょう。
心筋症は心臓の筋肉に異常が起こる病気で、拡張型、肥大型、拘束型の3種類に分類されます。
拡張型心筋症は心臓が風船のように膨らんでポンプ機能が低下する病気です。疲れやすい、息切れ、むくみなどが症状として現れます。遺伝やウイルス感染などが原因として考えられます。
肥大型心筋症は心臓の壁が厚くなる病気です。運動時の胸の痛みや動悸、失神などが起こることがあります。遺伝的な要因が大きい病気です。
心筋症の初期症状を見つけるために体力の低下、胸の痛み、むくみなどに注意が必要です。
心筋症の治療には利尿薬、強心薬、β遮断薬などの薬物療法、心臓リハビリテーション、食事療法などがあります。
心筋症と診断された場合は医師の指示に従い、定期的な通院、服薬を行い、生活習慣を改善することが重要です。
心筋症に限らず動悸や息切れ、胸の痛みなど気になる症状がある方は循環器専門医の当院へご相談ください。