骨粗鬆症は、高齢者に多い病気というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。しかし、若い世代でも注意が必要な疾患で、”サイレント・ディジーズ(静かな病気)”と呼ばれることがあります。自覚症状がないまま進行し、軽い衝撃でも骨折するリスクが高まる可能性があります。
日本骨粗鬆症学会(2024年12月)によると、国内で1,590万人が骨粗鬆症と推定されています。この記事では、骨粗鬆症の症状や検査方法、最新の治療・予防法まで、徹底的に解説します。将来の健康のために、今からできる対策を知り、骨粗鬆症という影から大切な体を守りましょう。
大石内科循環器科医院では、骨密度検査を実施しています。骨粗鬆症は早期発見・早期治療が重要ですので、お悩みの方はお気軽にご相談ください。
骨粗鬆症とは、骨密度が低下し、骨の強度が減少することで骨折しやすくなる疾患です。骨は常に新陳代謝を行っており、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成のバランスによって維持されています。骨形成のバランスが崩れ、骨を壊すスピードが骨を作るスピードを上回ると、骨の密度が低下し、骨粗鬆症へと進行します。
加齢と共に骨を作る骨芽細胞の働きが弱まることが主な原因ですが、女性ホルモンの減少や生活習慣なども大きく影響します。骨粗鬆症は「静かなる骨の病気」とも呼ばれ、初期には自覚症状がないことがほとんどです。知らないうちに病気が進行し、骨折して初めて骨粗鬆症だと診断されるケースも少なくありません。骨粗鬆症は早期発見と適切な治療・予防が重要です。
骨粗鬆症を放置すると、骨がもろくなり、くしゃみや軽い転倒などの日常的な動作でも骨折するリスクが高まります。背骨や太ももの付け根(大腿骨近位部)、手首は骨折しやすい部位なので注意が必要です。
骨粗鬆症が原因で起こる骨折で最も多いのは、背骨の圧迫骨折です。骨が弱くなった背骨は、自身の体重を支えきれずに潰れてしまいます。比較的軽い負荷でさえも骨折の引き金になりえます。背骨の骨折は背中や腰に激しい痛みを引き起こし、姿勢が悪くなり身長が縮む原因となります。
酷い場合は神経を圧迫し、足の痺れや排尿障害などの深刻な症状が現れるので放置は避けましょう。
骨粗鬆症の症状として、以下の内容を解説します。
骨粗鬆症の初期は、自覚できる症状がほとんどありませんが、初期の小さなサインに気づくことができます。注意する点は、以下のとおりです。
上記のような変化を感じたら、骨粗鬆症の初期症状の可能性を疑いましょう。これらの症状は他の病気でも起こり得るため、必ずしも骨粗鬆症が原因とは限りません。しかし、少しでも気になる症状がある場合は医療機関を受診し、検査を受けることをおすすめします。
骨粗鬆症が進行すると、背骨の骨折(脊椎圧迫骨折)のリスクが高まります。くしゃみや咳、重い物を持ち上げたときなど、日常生活の些細な動作がきっかけで骨折することもあります。脊椎圧迫骨折の主な症状は、以下のとおりです。
上記のような痛みは、日常生活に大きな支障をきたします。骨折によって姿勢が悪くなったり(猫背)、身長が縮んだりすることもあります。重症の場合は、神経を圧迫し、足のしびれや排尿障害などの深刻な症状が現れることもあります。
太ももの付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)は、骨粗鬆症が原因で起こる骨折の中でも特に注意が必要です。転倒などがきっかけで発生しやすく、多くの場合、手術が必要になります。主な症状は以下のとおりです。
高齢者の場合、大腿骨近位部骨折は寝たきりや要介護状態につながるリスクが高く、生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性があります。迅速な治療と適切なリハビリテーションが重要です。
手首の骨折も、骨粗鬆症が原因で起こりやすい骨折の一つです。転倒した際に、とっさに手をついた衝撃で骨折することがよくあります。手首の骨折による主な症状は以下の通りです。
上記のように日常生活の動作に大きな支障が出てしまいます。これまで何気なく行っていた動作ができなくなることで、精神的な負担も大きくなる可能性があります。
骨粗鬆症の検査と治療法について、以下の内容を解説します。
骨密度検査は、骨の強さを測る検査です。骨の強さは骨の中にカルシウムなどのミネラルがどれくらい詰まっているか、つまり骨密度によって決まります。骨のミネラルの密度を測ることで、骨の強度を推定できます。
骨密度検査で最もよく用いられるのは、DXA法(デキサ法:二重エネルギーX線吸収測定法)とMD法と呼ばれる方法です。検査時間はわずか数分で、痛みもなく体への負担も少ないため、安心して受けることができます。
薬物療法は骨粗鬆症の進行を抑制し、骨折リスクを低減するための重要な治療法です。
代表的な薬として、ビスフォスフォネート製剤があります。破骨細胞の働きを抑制することで、骨吸収を抑制し骨量減少のスピードを緩やかにします。内服薬や注射薬があり、患者さんの状態に合わせて処方されます。RANKL阻害薬という注射薬もあります。RANKLは破骨細胞の形成に関わる物質であり、RANKL阻害薬は破骨細胞の形成を抑制し、骨密度の改善が期待できます。
他にも、骨形成を促進する副甲状腺ホルモン製剤や、女性ホルモンに似た働きをする選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)など、さまざまな種類の薬があります。どの薬が適しているかは、患者さんの年齢や健康状態、骨粗鬆症の進行度、合併症の有無などによって異なります。
骨粗鬆症の治療法は常に進化を続けており、近年では新しい薬や治療法が開発され、より効果的で副作用の少ない治療が可能になってきています。新しい治療薬の開発も進められており、骨形成を促進する作用機序を持つ薬剤なども研究されています。副甲状腺ホルモン製剤(PTHアナログ製剤)は骨形成促進薬であり、骨形成を促進する作用があります。
毎日注射するタイプと週に1回注射するタイプがあります。さまざまな治療選択肢があり、治療は長期にわたることも多いため、医師とよく相談し、ご自身のライフスタイルや希望に合った治療法を選択しましょう。薬物療法以外の改善方法は以下のとおりです。
生活習慣を改善することが骨粗鬆症の治療効果を高め、健康な骨を維持するために不可欠です。
骨粗鬆症の予防法について、以下の内容を解説します。
骨の健康を保つためには、カルシウムとビタミンDが欠かせません。カルシウムは骨の主要成分であり、骨の形成に重要な役割を果たします。ビタミンDは、カルシウムの腸管からの吸収を促進する栄養素です。つまり、丈夫な骨を作るには、両方の栄養素をバランス良く摂取することが重要です。
カルシウムは、牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品、小松菜やほうれん草などの緑黄色野菜、豆腐や納豆などの大豆製品、しらす干しやいわしなどの魚介類に豊富に含まれています。ビタミンDは、鮭やマグロなどの魚類、卵黄、きのこ類に多く含まれています。
カルシウムが多く含まれる食品の、100gあたりのカルシウム含有量の目安は以下のとおりです。
ビタミンDが多く含まれる食品の、100gあたりのビタミンD含有量の目安は以下のとおりです。
上記はあくまで目安であり、食品によって含有量は異なる場合があります。毎日の食事で積極的に摂り入れるように心がけましょう。特に、成長期の子供や、閉経後の女性は、カルシウムの必要量が増加します。食事からの摂取が難しい場合は、補助的な栄養補給について医師や薬剤師にご相談ください。過剰摂取は逆効果になる場合もあるので、必ず経験豊富な医師の指導を仰いでください。
腎機能が低下すると、カルシウムやリンのバランスが崩れ、骨密度の低下を招くことがあります。腎機能の状態を把握することは、骨粗鬆症の予防にもつながります。腎機能を測る指標の一つであるクレアチニンについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
>>高齢者のクレアチニンが基準値より高いのは危険?原因やリスク、合併症について
骨は、適度な刺激を受けることで強くなります。運動は、骨に刺激を与え、骨密度を高める効果があります。特に、ウォーキングやジョギング、階段の上り下りなど、自分の体重を支える運動は効果的です。丈夫な骨は骨折を防ぎ、健康な体を維持するうえで重要です。
運動は、週に3回以上、1回あたり30分程度行うのが理想的です。急に激しい運動を始めると、かえって怪我をするリスクが高まります。ご自身の体力に合わせた運動を選び、無理なく継続しましょう。軽い散歩から始めて、徐々に強度を上げていくと良いです。
運動中に痛みを感じた場合は、すぐに運動を中止し、医師に相談してください。適切な運動は、骨の健康だけでなく、生活習慣病の予防にも効果的です。
骨粗鬆症になると、骨がもろくなり、ちょっとした転倒でも骨折しやすくなります。高齢者の場合、転倒による骨折は大腿骨近位部骨折につながりやすく、寝たきりや要介護状態のリスクを高めるだけでなく、生命に関わる危険性もあります。転倒予防は、骨粗鬆症対策において重要な要素です。家の中の環境を見直し、転倒の危険性を減らせるように以下のような工夫をしましょう。
バランス能力を高める運動も効果的です。バランス運動(片足立ちや太極拳、ヨガなど)を取り入れることで、転倒予防につながります。運動を始める際は医師に相談することをおすすめします。
外出時にも気を配る必要があります。段差のある場所や滑りやすい場所には特に注意し、歩きやすい靴を履くようにしましょう。
喫煙は、骨粗鬆症のリスクを高める大きな要因の一つです。タバコに含まれる有害物質は、骨を作る細胞の働きを阻害し、骨を壊す細胞の働きを活性化させるため、骨密度が低下しやすくなります。禁煙は、骨粗鬆症の予防だけでなく、さまざまな病気のリスクを軽減するためにも重要です。
過剰なアルコール摂取は、骨の健康に悪影響を及ぼします。アルコールはカルシウムの吸収を阻害し、骨の形成を妨げるため骨密度が低下する原因となります。アルコールの過剰摂取は、転倒のリスクも高めます。骨粗鬆症予防のためには、適度な飲酒を心がけ過剰な摂取は控えましょう。
1日あたりの適度な飲酒量は以下のとおりです。
骨粗鬆症は、加齢や生活習慣の影響を受けやすい病気です。日頃から予防を意識することで、発症リスクを低減し、健康な骨を維持できます。
骨粗鬆症は、気づかないうちに骨を脆くしてしまう病気です。自覚症状がないまま進行し、骨折して初めて気づくことも少なくありません。特に高齢の方は、骨折が寝たきりの原因となることもあるため、早期発見・早期治療が大切です。骨粗鬆症予防のポイントは以下のとおりです。
骨粗鬆症は、決して他人事ではありません。日々の生活習慣を少し見直すだけで、将来の骨折リスクを大きく減らすことができます。ご自身の骨の健康にも気を配り、健やかな毎日を送りましょう。