大石内科循環器科医院

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心筋症

心臓は、私たちが生きていく上で欠かせない重要な臓器です。しかし、その心臓の筋肉である心筋に異常が起こりポンプ機能が低下してしまう「心筋症」という病気をご存知でしょうか?

心筋症は心臓の構造や機能に様々な影響を及ぼし、息切れや動悸、むくみなど、日常生活に支障をきたす症状を引き起こす可能性があります。近年、心筋症の患者数は増加傾向にあり、その原因や症状、治療法について理解しておくことは、自身の健康を守る上で非常に重要です。

この記事では心筋症の種類や特徴、早期発見のためのサイン、そして最新の治療法について詳しく解説していきます。心筋症は、適切な治療と生活習慣の改善によって、症状の進行を抑え、より良い生活を送ることが可能です。ぜひ、この記事を参考にして心筋症について理解を深めてください。

心筋症の主な種類とその特徴

心臓は毎日休むことなく全身に血液を送り続ける、まさに働き者の臓器です。しかし、その心臓の筋肉である心筋に異常が起こり、ポンプとしての機能が低下してしまう病気があります。それが「心筋症」です。

心筋症は、大きく分けて「拡張型心筋症」「肥大型心筋症」「拘束型心筋症」の3つの種類に分類されます。これは心臓の筋肉がどのように変化しているか、という点で大きく異なり、それぞれで症状や治療法も変わってきます。

拡張型心筋症の症状とリスク

拡張型心筋症は心臓の部屋である心室が、まるで風船のように薄く伸びて大きくなり心臓のポンプ機能が低下する病気です。

健康な心臓はギュッと力強く収縮して全身に血液を送り出していますが、拡張型心筋症の心臓は大きく伸びてしまっているため十分に収縮することができません。そのため全身に十分な血液を送ることが難しくなり、様々な症状が現れます。

症状

  • 疲れやすい、動悸、息切れ: これは心臓が十分な血液を送り出せないため、体が酸素不足の状態になるために起こります。階段を上ったり少し歩いたりしただけでも息が切れてしまう、という場合は注意が必要です。
  • 食欲不振、吐き気: 心臓の機能低下により胃腸への血流も悪くなるため、消化不良を起こしやすくなります。
  • 足のむくみ: 心臓のポンプ機能が低下すると血液の循環が悪くなり、足に水分が溜まりやすくなります。夕方になると靴がきつくなる、といった場合は要注意です。
  • めまい、失神: 脳に十分な血液が送られないことで、一時的に意識を失うことがあります。

リスク

拡張型心筋症は様々な要因によって引き起こされる可能性がありますが、主なリスク因子としては下記のようなものが挙げられます。

  • 遺伝: ご家族に心筋症の方がいる場合は、遺伝的に発症リスクが高まる可能性があります。
  • ウイルス感染: かぜやインフルエンザなどのウイルス感染がきっかけで、心筋が炎症を起こし拡張型心筋症を引き起こすことがあります。
  • アルコールの過飲: 長期間にわたる過度の飲酒は心臓に負担をかけ、心筋を傷つける原因となります。
  • 高血圧: 高血圧は心臓に常に負担をかけている状態であり、心筋症のリスクを高めます。
  • 妊娠・出産: 妊娠・出産は、心臓に大きな負担がかかります。特に妊娠中に高血圧や糖尿病などの合併症がある場合は、注意が必要です。

専門医の診断基準と対処法

心筋症は様々な検査を通して診断されます。問診では患者さんの自覚症状や生活習慣、家族歴などを詳しく伺います。身体診察では心臓の音や呼吸音、足のむくみなどを確認します。

さらに心臓の状態を詳しく調べるためには、以下の検査が行われます。

  • 血液検査: 心臓の機能や炎症の程度などを調べます。
  • 心電図検査: 心臓の電気的な活動の様子を記録し、不整脈や心筋の異常などを調べます。
  • 心臓超音波検査: 超音波を使い、心臓の動きや構造をリアルタイムで観察します。心筋の厚さや動き、弁の状態などを評価することができます。
  • 心臓MRI検査: 磁場と電波を使い、心臓の断層画像を撮影します。より詳細な心臓の構造や、機能を評価することができます。

これらの検査結果に基づいて、心筋症かどうか、またどのタイプの心筋症かを診断します。

診断基準

  • 心臓の大きさや形の異常: 拡張型心筋症の場合、心臓の左心室と呼ばれる部分が大きく拡張していることが特徴です。
  • 心臓のポンプ機能の低下: 心臓が十分な血液を送り出せていないかどうかを、心臓超音波検査などで評価します。
  • その他の病気の可能性を除外: 心臓弁膜症や虚血性心疾患など、心筋症と似た症状が出る他の病気を除外する必要があります。

対処法

心筋症と診断された場合は、その症状や進行度合い、患者さんの状態に合わせて、適切な治療法を選択します。

  • 薬物療法: 心臓の負担を軽減し、症状を改善する薬を服用します。利尿剤や強心剤、β遮断薬などが用いられます。
  • 心臓リハビリテーション: 専門スタッフの指導のもと運動療法や生活指導を通して、心臓の機能を維持・改善します。
    大石内科循環器科医院内科の心臓運動プログラム
  • 食事療法: 塩分や水分の摂取量を制限し、心臓への負担を軽減します。
  • 生活習慣の改善: 禁煙、節酒、適度な運動など、心臓に良い生活習慣を身につけます。

肥大型心筋症の特異な症状と影響

肥大型心筋症は、心臓の壁が異常に厚くなってしまい、心臓の部屋である心室が狭くなってしまう病気です。

健康な心臓は、内部の圧力変化に応じて柔軟に壁の厚さを変え、効率よく血液を送り出していますが、肥大型心筋症の場合、壁が厚くなりすぎて柔軟性を失っているため、心臓が十分に拡張することができず、血液の流れが悪くなります。

特異な症状

  • 運動時の胸の痛みや動悸: 運動などで心臓に負担がかかると、心臓の筋肉に十分な酸素が供給されなくなり胸の痛みや動悸が起こることがあります。
  • 失神: 心臓から脳に十分な血液が送られないことで、意識を失うことがあります。特に、運動中に起こりやすいのが特徴です。
  • 突然死: 肥大型心筋症は、心臓突然死の原因となることがあります。

影響

  • 遺伝的な影響: 肥大型心筋症は、遺伝的な要因が大きい病気です。親から子に遺伝する可能性があり、遺伝子検査で診断できる場合もあります。
  • 運動制限: 症状によっては、運動を制限する必要があります。
  • 心臓突然死のリスク: 肥大型心筋症は、心臓突然死のリスクが高い病気です。

心筋症の兆候を見極めるための8つのサイン

皆さんは、心臓からのSOSサインに気づいていますか?

心臓は1日約10万回も脈打って全身に血液を送る、驚くべきスタミナを持つ臓器です。しかし、そんな心臓も常にフル稼働しているがゆえに、疲労やダメージが蓄積しやすい場所でもあります。

自覚症状が出にくいとされる心筋症だからこそ、初期症状を見逃さずに早期発見・早期治療につなげることが非常に重要です。

今回は、まるで「体のささやき」のように現れる、心筋症の初期症状を見つけるための8つのサインについて詳しく解説していきます。

体力の低下や運動時の息切れ

「最近、階段を上るだけで息切れがする」「少し走ると動悸が激しくなる」など以前は平気だった運動や動作で、息苦しさや動悸を感じることはありませんか?

若い頃は難なく登れていた階段を、今は途中で休憩しないと息苦しくて登れない、ましてや子どもと全力で走り回ることができない、という経験はありませんか?

これは心臓のポンプ機能が低下し、全身への血液循環が悪くなっているサインかもしれません。

私たちの体は、心臓から送り出される血液によって酸素や栄養を供給されています。しかし心筋症によって心臓のポンプ機能が低下すると、全身に十分な酸素を送り届けることができなくなり息切れや動悸が起きやすくなってしまうのです。

例えば私の患者さんの中には趣味のテニスで以前は2時間続けても平気でしたが、最近は30分も経たないうちに息切れがするようになり診察したところ心筋症と診断された方がいました。

日常生活でチェックしてみましょう

  • 階段の上り下り:息切れを覚える回数が増えたり、途中で休憩が必要になったりしていませんか?
  • 早歩きや軽いジョギング:以前と同じ距離を歩いても息苦しさを感じたり、ペースダウンしたりしていませんか?
  • 重い荷物を持つ:以前は平気だった重さでも息切れがしたり、動悸がしたりするようになっていませんか?

これらの動作で以前よりも息切れや動悸がする場合は、心臓からのSOSサインかもしれません。

胸の痛みや不規則な心拍

心臓は規則正しいリズムで収縮と拡張を繰り返すことで、血液を全身に送り出しています。まるで正確なリズムを刻む、オーケストラの指揮者のようなものです。

しかし心筋症によって心臓の筋肉がダメージを受けると、この美しいハーモニーが乱れてしまい、胸の痛みや不規則な心拍(動悸)を感じることがあります。指揮者のタクトが乱れて、演奏がバラバラになってしまうようなものです。

こんな症状は要注意

  • 胸の締め付け感や圧迫感:「重苦しい」「締め付けられる」といった感覚は、心臓からの重要なサインです。
  • チクチクとした痛み:心臓の神経が刺激されることで、チクチクとした痛みを感じることがあります。
  • ドキドキと脈打つような感覚:自分の心臓の鼓動が聞こえるような感覚、脈が速く打つ感覚は、要注意です。
  • 脈が飛ぶ、脈が速くなる:脈のリズムが乱れる、脈が速くなるなどは、心臓が正常に機能していないサインです。

これらの症状は心臓からのSOSサインかもしれません。放置せずに、早めに医療機関を受診しましょう。

むくみや倦怠感の増加

「夕方になると足がむくむ」「疲れやすい」「だるさが取れない」といった症状も、心筋症のサインとして現れることがあります。

心臓は、体内のポンプとして、血液を循環させています。しかし、心筋症によって心臓のポンプ機能が低下すると、この循環が滞ってしまい、体内の水分が溜まりやすくなることがあります。

特に心臓から遠い足に水分が溜まりやすく、むくみとして現れやすいのです。

また血液循環が悪くなることで全身に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなり、疲れやすさやだるさを感じやすくなることもあります。

こちらのブログ記事も参考にご覧ください。

こんな症状が出ていませんか?

  • 靴や指輪がきつくなる:夕方になると靴がきつくなったり、指輪が抜けにくくなったりする経験はありませんか?
  • 顔や手足がむくむ:朝はスッキリしているのに夕方になると顔がむくんだり、手足がパンパンになったりしていませんか?
  • 朝起きた時から体がだるい:十分な睡眠をとっているはずなのに、朝起きた時から体が重だるく感じませんか?
  • 十分に睡眠を取っても疲れが取れない:休日にゆっくり休んでも、疲れがなかなか取れず体がだるく感じることが多くなっていませんか?

これらの症状が続く場合は、一度医療機関を受診してみましょう。

心筋症の治療法と予後について知るべきこと

心筋症と診断されると、これからどうなるのか不安な気持ちでいっぱいになると思います。治療は長期間にわたる場合も多く、生活習慣の見直しも必要となるため戸惑う方も少なくありません。

しかし心筋症は適切な治療と生活管理を行うことで、症状の進行を抑制し生活の質を維持できる病気です。まずは病気について正しく理解し、医師と相談しながら治療を進めていきましょう。

ここでは心筋症の治療法と日常生活で注意すべき点について、私の経験を交えながら具体的に解説します。

薬物療法の種類と効果

心筋症の治療では心臓にかかる負担を減らし、症状を和らげるために、いくつかの種類の薬が組み合わせて使われます。弱ってしまった心臓を、色々な薬で優しく支えるイメージです。

薬の種類や量は患者さん一人ひとりの症状や病気の進行度合いによって異なり、まさにオーダーメイドの治療といえます。

ここでは心筋症の治療でよく使われる薬とその効果について、具体例を交えながら詳しく説明します。

利尿薬: 体の中の余分な水分を排出

利尿薬は体の中に溜まった余分な水分を尿として排出することで、心臓の負担を軽減する薬です。むくみの改善にも効果があります。

心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしていますが、心筋症になると、このポンプ機能が低下してしまいます。すると血液の流れが滞り、体内の水分が血管の外に漏れ出てしまい、むくみが生じます。

利尿薬はこの余分な水分を尿として排出することで、むくみを改善し心臓への負担を軽減する効果があります。

具体例

  • ラシックス(一般名:フロセミド):作用時間が短く、効果が早く現れるタイプの利尿薬です。むくみが強い場合や、緊急を要する時に使用されることが多くあります。
  • アルダクトンA(一般名:スピロノラクトン):カリウム保持性利尿薬と呼ばれるタイプの薬で、体内のカリウムを保持しながら余分な水分を排出する効果があります。

強心薬: 心臓のポンプ機能を強化

強心薬は心臓のポンプ機能を強めることで、血液を効率的に全身に送り出すことを助ける薬です。心筋症によって弱った心臓の働きを助ける、いわば「心臓の応援団」のような役割を果たします。

心筋症が進行すると心臓の収縮力が低下し、全身に十分な血液を送ることが難しくなります。強心薬は心臓の筋肉に直接作用し、その収縮力を高めることで全身への血液循環を改善します。

具体例

  • ジゴキシン:古くから使われている強心薬で、心臓の収縮力を高め、心拍数を抑える効果があります。
  • ドブタミン:心臓のβ1受容体に作用し、心筋の収縮力を高める効果があります。主に、急性心不全などで心臓の機能が著しく低下している場合に、点滴で投与されます。

β遮断薬: 心臓の負担を軽減

β遮断薬は心臓の拍動を抑え、心臓の負担を軽減する薬です。興奮や運動時に増加する心拍数を抑え、心臓を休ませることで心臓への負担を減らす効果があります。

β遮断薬は心臓にあるβ受容体という場所に作用することで、心臓の拍動数を抑え心筋の収縮力を抑制します。これにより心臓の仕事量が減り酸素消費量が抑制されるため、心臓への負担軽減につながります。

具体例

  • カルベジロール:β遮断薬とα遮断薬の両方の作用を持つ薬です。心臓の負担を軽減するだけでなく、血管を拡張することで血圧を下げる効果もあります。
  • ビソプロロール:心臓のβ1受容体を選択的に遮断することで、心臓の拍動を抑え心臓の負担を軽減します。

これらの薬は患者さんの症状や病状に合わせて、単独または組み合わせて使用されます。副作用が出る場合もあるため、医師の指示に従って服用することが大切です。

心臓リハビリテーションの重要性

心臓リハビリテーションとは、心臓病の患者さんが安全かつ効果的に運動能力を高め、日常生活の活動レベルを向上させるための医療プログラムです。

心筋症と診断された患者さんにとって、心臓リハビリテーションは症状の改善や再発予防、そして生活の質の向上に大きく貢献します。

心臓リハビリテーションには、大きく分けて以下の3つの柱があります。

  • 運動療法: 専門スタッフの指導のもと、患者さん一人ひとりの体力や症状に合わせた運動プログラムを作成し実施します。ウォーキング、自転車エルゴメーター、水中運動など、様々な運動療法があります。
  • 食事療法: 管理栄養士による栄養指導を通して減塩食を中心とした、心臓に負担をかけない食事について学びます。
  • 生活習慣の改善: 禁煙指導、服薬指導、ストレス管理など、心臓病の再発予防に繋がる生活習慣を身につけます。

日常生活での注意点

心筋症と診断された後も、多くの人が日常生活を送っています。

大切なことは心臓に負担をかけずに、自分らしく生き生きと過ごすことです。規則正しい生活習慣を心がけ医師と連携を取りながら、うまく病気と付き合っていきましょう。

日常生活で注意すべきこと

  • 定期的な通院と服薬: 自己判断で通院や服薬を中断せず、医師の指示をきちんと守りましょう。
  • バランスの取れた食事: 塩分を控えた栄養バランスの良い食事を心がけましょう。インスタント食品や加工食品は塩分が多いので注意が必要です。
  • 適度な運動: 無理のない範囲で、ウォーキングなどの軽い運動を継続しましょう。
  • 十分な睡眠と休息: 睡眠不足や疲労は心臓に負担をかけるため、十分な睡眠と休息をとりましょう。
  • ストレスをためない: ストレスは心筋症の症状を悪化させる可能性があります。趣味やリラックスできる活動を見つけ、ストレスを上手に発散しましょう。
  • アルコールとタバコは控えめに: アルコールとタバコは心臓に悪影響を与えるため、控えましょう。

まとめ

心筋症は心臓の筋肉に異常が起こる病気で、拡張型、肥大型、拘束型の3種類に分類されます。

拡張型心筋症は心臓が風船のように膨らんでポンプ機能が低下する病気です。疲れやすい、息切れ、むくみなどが症状として現れます。遺伝やウイルス感染などが原因として考えられます。

肥大型心筋症は心臓の壁が厚くなる病気です。運動時の胸の痛みや動悸、失神などが起こることがあります。遺伝的な要因が大きい病気です。

心筋症の初期症状を見つけるために体力の低下、胸の痛み、むくみなどに注意が必要です。

心筋症の治療には利尿薬、強心薬、β遮断薬などの薬物療法、心臓リハビリテーション、食事療法などがあります。

心筋症と診断された場合は医師の指示に従い、定期的な通院、服薬を行い、生活習慣を改善することが重要です。

心筋症に限らず動悸や息切れ、胸の痛みなど気になる症状がある方は循環器専門医の当院へご相談ください。



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