大石内科循環器科医院

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肥満症

「肥満」はよく耳にする言葉ですが、実際どんな状態のことを指しているの?と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。

肥満は単なる見た目の問題ではなく、さまざまな健康リスクを引き起こす可能性があります。この記事では、肥満の定義や基準、健康への影響、そして個々に合わせた治療法を組み合わせ、無理のない範囲で健康的なサポートを行います。健康的な生活を送るための第一歩として、肥満に関する正しい知識を身に付けましょう。

肥満とは体の中に脂肪が過剰に蓄積した状態

肥満は単に体重が多い状態を指すのではなく、「体の中に脂肪が過剰に蓄積した状態」のことです。 食べ過ぎや運動不足などが原因でエネルギーの摂取量と消費量のバランスが崩れると、余分なエネルギーが脂肪として体に蓄えられます。この状態が続くと、肥満につながってしまうのです。

BMI(Body Mass Index)による肥満の分類

肥満度を測る指標として、BMI(Body Mass Index)がよく用いられます。BMIは、体重と身長から算出される数値で、国際的な基準として広く採用されています。

計算式は、「BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で表されます。例えば、身長160cm、体重60kgの人のBMIは、60÷1.6÷1.6=23.44となります。

BMIの値によって、肥満の程度は以下のように分類されます。

分類BMI
低体重(やせ)18.5未満
普通体重18.5以上25未満
肥満度1(肥満)25以上30未満
肥満度2(肥満)30以上35未満
肥満度3(肥満)35以上40未満
肥満度4(肥満)40以上

BMIが25以上の状態が肥満とされており、数値が大きくなるほど肥満の程度が重症化するとされています。

肥満による健康への影響

肥満は見た目の問題だけでなく、健康にもさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。肥満は「生活習慣病」と呼ばれる、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの病気のリスクを高めます。

また、肥満は睡眠時無呼吸症候群・脂肪肝・一部の癌などのリスクを高めることも知られています。さらに関節への負担が増加し、腰痛や膝痛などを引き起こすこともあります。

肥満は健康的な生活を送るうえで大きなリスク因子となる可能性があることを、しっかりと認識しておくことが大切です。特にBMIが高い状態が続くと、妊娠しにくくなるという研究結果も出ています。健康的な生活を送るためにも、肥満の予防と改善に積極的に取り組むことが重要です。

肥満の主な原因と種類

肥満は単なる外見上の問題ではなく、体内の脂肪蓄積が原因でさまざまな健康リスクを引き起こす可能性があります。ここでは肥満の原因と種類について、詳しく見ていきましょう。

遺伝的な要素

肥満になりやすいかどうかに、遺伝が関係していることがあります。両親が肥満の場合、子どもも肥満になりやすいという研究結果もあり、生まれつき脂肪を溜め込みやすい体質を受け継いでいる可能性を示唆しています。

しかし、遺伝的な要素があっても、必ずしも肥満になるわけではありません。日々の生活習慣を改善することで、肥満を予防・改善できる可能性は十分にあります。

生活習慣

肥満の大きな原因の一つに、生活習慣があります。毎日食べるものや運動習慣によって、肥満のリスクは大きく変わります。
例えば、甘いお菓子やジュースばかり飲んでいると、体はエネルギー過多の状態になります。この余分なエネルギーは、使われずに脂肪として蓄積され、肥満につながってしまうのです。
また、運動不足も肥満の原因となります。運動不足になると、消費エネルギーが減少し、エネルギーの摂取と消費のバランスが崩れ、肥満のリスクが高まります。

食生活の乱れや運動不足だけでなく、睡眠不足やストレス、過度な飲酒なども肥満につながることがあります。睡眠不足は食欲を抑えるホルモンの分泌を低下させ、食欲増進ホルモンの分泌を増加させるため過食につながりやすい状態を引き起こします。

精神的要因

ストレスを感じると、ストレスホルモン(コルチゾール)の影響で、甘いものや脂っこいものへの欲求が増しやすくなります。また、ストレスや不安、抑うつ状態などが続くと、自律神経のバランスが乱れ、代謝機能が低下し、肥満につながることがあります。

下記に肥満の原因となる習慣の具体例をまとめたので参考にしてください。

要因具体的な例
食習慣甘いお菓子やジュースの摂り過ぎ、インスタント食品やファストフードの食べ過ぎ、食事量が多い、早食いをする、朝食を抜く
運動習慣運動不足、デスクワーク中心の生活、車移動が多い
その他の習慣睡眠不足、ストレス、過度な飲酒

肥満の健康への影響と合併症

肥満は見た目の問題だけでなく、私たちの体にさまざまな負担をかけ、健康を脅かすリスク因子となります。

心血管疾患との関連性

肥満は、心臓と血管の病気である心血管疾患のリスクを大幅に増加させます。肥満が引き起こす代表的な心血管疾患には、以下のものがあります。

  • 虚血性心疾患
    心臓に栄養や酸素を供給する冠動脈が、動脈硬化によって狭窄したり、閉塞したりすることで起こります。狭心症や心筋梗塞などの深刻な病気を引き起こす可能性があります。
  • 脳血管疾患
    脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こり、脳梗塞や脳出血を引き起こします。命に関わるだけでなく、後遺症が残る可能性も高い病気です。

糖尿病との関連性

肥満は糖尿病、特に2型糖尿病のリスクを飛躍的に高めます。2型糖尿病はインスリンというホルモンの働きが低下することで、血液中の糖(ブドウ糖)がうまく利用されなくなり血糖値が慢性的に高くなる病気です。
糖尿病は初期には自覚症状が出にくいことが多く、気づかないうちに病気が進行しているケースも少なくありません。しかし、放置すると失明や足の切断、人工透析が必要となるなど深刻な合併症を引き起こすリスクがあります。

高血圧との関連性

肥満は、高血圧のリスクも高めることがわかっています。高血圧は、血管に常に高い圧力がかかっている状態であり、血管を傷つけ、動脈硬化を進行させる大きな要因です。
高血圧は“サイレントキラー”と呼ばれるように、自覚症状が乏しいことが多いです。しかし、放置すると心筋梗塞や脳卒中、慢性腎臓病など、命に関わる疾患を引き起こすリスクがあります。

呼吸器疾患との関連性

肥満は、呼吸器の病気のリスクも高めます。肥満になると気道の周囲に脂肪が蓄積し、気道が狭くなるため、呼吸が困難になることがあります。

肥満と関連性の高い呼吸器疾患には、以下のようなものがあります。

  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
    睡眠中に呼吸が止まる、または浅くなる病気です。肥満の人は首周りの気道が狭くなるため、SASのリスクが高くなります。
  • 肥満低換気症候群
    重度の肥満によって、慢性的な呼吸不全を引き起こす病気です。

癌との関連性

肥満は大腸癌、乳癌、子宮体癌など、いくつかの癌のリスクを高めることが知られています。肥満は慢性的な炎症状態を引き起こし、これが細胞のDNA損傷を引き起こして、癌のリスクを高める可能性があります。また、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる状態)や、ホルモンバランスの乱れも、癌のリスクを高める要因と考えられています。

成長と発達における肥満の影響

子どもの頃から肥満である場合、成長痛や姿勢が悪くなるなど、成長や発達に影響が出る可能性があります。また、肥満は、子どもの成長ホルモンの分泌にも影響を及ぼすため、思春期の発達が早まったり、遅れることがあるとされています。

さらに子どもの頃から肥満の状態が続くと、大人になってからも肥満が継続し生活習慣病のリスクが高くなる可能性があります。子どもの肥満は将来的に健康上の問題を引き起こすリスクが高まるだけでなく、精神的なストレスや自己肯定感の低下にもつながる可能性があります。

肥満はさまざまな病気のリスクを高め、健康を脅かす深刻な問題です。健康的な生活を送るためには、肥満の予防と改善がつな重要です。

肥満の検査と診断基準

医療機関では肥満の検査を受けることができます。肥満の検査は、身長や体重を測るだけではありません。体組成計や血液検査などさまざまな方法を組み合わせて、あなたの体の状態を詳しくチェックします。

BMI測定と診断基準

BMIの数値を見ることで、肥満度合いを客観的に知ることができます。
BMIが25以上の場合「肥満」と定義しますが、スポーツ選手のように筋肉量が多い方は、BMIが高くても肥満とは限りません。これは、筋肉は脂肪よりも重いからです。

よって、BMIだけで肥満と決めつけるのではなく、医師の診察も受けることが重要です。

体脂肪率測定と診断基準

体脂肪率とは、体重に占める体脂肪の割合のことです。体脂肪率は家庭用の体組成計でも測定できますが、医療機関ではより正確な体脂肪率を測定することができます。
体脂肪率が高いということは、体に脂肪が多く蓄積されている状態です。脂肪はエネルギーを蓄えるために必要なものですが、過剰に蓄積されると肥満や生活習慣病のリスクを高めます。
体脂肪率の目安は、年齢や性別によって異なります。

性別年齢体脂肪率の目安
男性20~39歳15~19%
男性40~59歳17~22%
男性60歳以上20~24%
女性20~39歳20~24%
女性40~59歳22~27%
女性60歳以上24~29%

一般的に、男性よりも女性の方が体脂肪率が高めです。これは、女性ホルモンの影響で皮下脂肪がつきやすいからです。また、年齢を重ねるにつれて基礎代謝が低下し、体脂肪率が増加しやすくなる傾向があります。

血液検査と肥満の関連性

血液検査では、肥満に関連するさまざまな項目を調べることができます。例えば、血糖値が持続的に高い状態は、2型糖尿病のリスクを高めます。また、中性脂肪やコレステロール値が高い状態が続くと、動脈硬化や心血管疾患のリスクが高まります。
肥満と関連性の高い血液検査の項目と、その異常値が示唆する病気には以下のものがあります。

項目異常値示唆する病気
血糖値高血糖糖尿病
中性脂肪高脂血症動脈硬化・筋梗塞・脳梗塞
コレステロール値高コレステロール血症動脈硬化・筋梗塞・脳梗塞

これらの検査結果をもとに、医師が適切な治療法や生活習慣改善のアドバイスを行います。

画像検査と肥満の関連性

画像検査では、お腹の中の様子を画像で確認できます。内臓脂肪の蓄積状態を評価するのに役立ちます。
内臓脂肪は、内臓の周りについている脂肪のことです。皮下脂肪のように、見た目ですぐにわかるわけではありませんが、過剰に蓄積すると糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病のリスクを高めることが知られています。

代表的な画像検査には、CT検査やMRI検査などがあります。これらの検査では、内臓脂肪の量や分布を詳しく調べることができます。肥満の診断は、これらの検査結果と問診や身体診察の結果などを総合的に判断して行われます。

肥満治療の選択肢と方法

肥満治療は、大きく分けて食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法、外科的治療の5つの選択肢があります。これらの治療法は、患者さん一人ひとりの状況や希望に合わせて組み合わせます。
ここでは5つの選択肢について解説します。

食事療法

食事療法は、肥満治療の基礎となる大切な要素です。食事療法で大切なのは、無理なく続けられる食習慣を身に付けることです。
毎日甘いジュースを飲んでいる人は、水やお茶に変えるだけで、摂取カロリーを大幅に減らすことができます。ご飯をたくさん食べてしまう人は、お茶碗を少し小さめなものに変えるだけで、無意識のうちに食べる量を減らすことができます。
食事療法では栄養バランスを意識しながら、摂取カロリーを抑えることが重要です。具体的には、以下のポイントを心がけましょう。

野菜低カロリーでビタミンやミネラルが豊富なので、健康的に体重を減らすために効果的です。食物繊維も豊富なので、血糖値の上昇を抑えたり、便秘を解消したりする効果もあります。
タンパク質タンパク質は、筋肉の維持や代謝アップに役立ちます。筋肉量が増えると基礎代謝が上がり、太りにくい体作りにもつながります。肉、魚、大豆製品など、良質なタンパク質を積極的に摂りましょう。
炭水化物ご飯やパンなどの炭水化物はエネルギー源として必要ですが、摂りすぎると体脂肪として蓄積されます。玄米や全粒粉パンなど精製度の低いものは食物繊維が豊富で、血糖値の上昇が緩やかになるため肥満予防に効果的です。
脂質脂質はエネルギー源として重要な栄養素ですが、摂りすぎると肥満の原因になります。揚げ物や脂肪分の多い肉などは控え、魚やオリーブオイルなど良質な脂質を摂りましょう。

運動療法

運動は消費カロリーを増やし、基礎代謝を向上させることで体重減量を促進します。また運動にはストレス解消や生活習慣病の予防など、さまざまな健康効果も期待できます。
運動療法で大切なのは、無理なく続けられる運動習慣を身に付けることです。

まずはウォーキングなどの軽い運動から始め、近所の公園を散歩したり、買い物に行く際に遠回りしたりしましょう。慣れてきたらジョギングや水泳など、運動強度を徐々に上げましょう。運動の種類はこだわる必要はありません。自分が楽しく続けられる運動を見つけることが大切です。

行動療法

行動療法は、医師や管理栄養士などの専門家のサポートを受けながら、食生活や運動習慣などの生活習慣を見直し、改善することで、肥満を治療する方法です。最近の研究では肥満および過体重の女性に対して、生活習慣への介入を行うことで体重・ウエストサイズ・BMIの減少といった効果が見られ、不妊の改善にもつながることが示唆されています。

夜遅くに食事をしてしまう場合は夕食の時間を早めたり、寝る前に軽いストレッチや読書をする習慣をつけたりすることで、空腹感を抑えます。間食が多い場合は間食の内容をヘルシーなものに変えたり、間食をする時間帯を決めたりすることで、摂取カロリーを抑えます。ストレスを感じると食べ過ぎてしまう場合、食べること以外の方法でストレスを発散したりすることが大切です。

薬物療法

薬物療法は、食事療法や運動療法などの生活習慣改善を基本としつつ、医師の判断のもとで適用される治療法です。肥満に伴う症状を改善したり、体重減量を促進したりする効果が期待できます。薬物療法は、あくまで補助的な治療法であり、薬だけに頼るのではなく、生活習慣の改善と組み合わせることが重要です。

肥満治療薬についての詳細な説明や効果、副作用については、専門医師の指導のもとで行われる診察にてご確認ください。

外科的治療

外科的治療は、食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法などの治療を行っても十分な効果が得られない場合に検討されます。胃の大きさを縮小する手術や、栄養吸収を制限する手術など、複数の外科的治療法がありますが、合併症のリスクも伴います。専門医と十分に相談し、慎重な判断を行うことが重要です。

肥満は、放置するとさまざまな合併症を引き起こすリスクがあります。肥満治療は、決して楽なものではありませんが、専門家のサポートを受けながら、自分にあった治療法を見つけていくことが大切です。

当院では、患者様一人ひとりの状態や目標に合わせて、行動療法、食事療法、薬物療法を組み合わせた肥満(ダイエット)外来を行っております。医師が丁寧にサポートいたしますので、ご興味のある方はぜひご相談ください。

肥満に関するよくある質問

肥満に関するよくある質問をFAQ形式でまとめています。勘違いしやすい誤解が解決できるので、ぜひチェックしてみてください。

Q1.太っている人は意志が弱いのですか?

太っている=意志が弱いというのは、大きな誤解です。肥満には、遺伝的な体質、生活環境、ストレス、病気など、さまざまな要因が関係します。決して、本人の努力不足だけが原因ではありません。

Q2.「ダイエット=食事制限」は本当ですか?

過度な食事制限は、栄養不足やリバウンドのリスクを高める可能性があります。健康的に体重を減らすためには、バランスの取れた食事と適度な運動、そして十分な睡眠が重要です。無理のない範囲で生活習慣を見直しましょう。

Q3.運動すれば好きなだけ食べても大丈夫ですか?

運動をすれば好きなだけ食べても良いわけではありません。摂取カロリーが消費カロリーを上回ると体重は増加します。運動の効果を最大限に活かすためには、運動前後の適切な栄養摂取が大切です。

Q4.肥満は自然に治りますか?

肥満は、自然に治るものではありません。放置すると、糖尿病や心血管疾患など、さまざまな健康リスクが高まる可能性があります。肥満治療は、専門医の指導のもとで行うことが大切です。極端な食事制限によって栄養失調やホルモンバランスの乱れが生じたり、リバウンドを繰り返すことで体重が減りにくい体質になってしまうなど、自己流ダイエットで健康を害するケースも少なくありません。

Q5.少し太っているくらいなら大丈夫ですか?

肥満はさまざまな病気のリスクを高めることがわかっています。少し体重が増えただけでも、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病のリスクが高まります。「まだ大丈夫」と油断せず、早めの対策が大切です。

まとめ

肥満は単に体重が多い状態ではなく、体の中に脂肪が過剰に蓄積した状態であり、遺伝、生活習慣、精神的な要因などさまざまな要因が複雑に絡み合って起こります。放置すると糖尿病、高血圧、心臓病、脳卒中、癌などの深刻な合併症を引き起こす可能性があります。肥満治療には食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法、外科的治療などさまざまな選択肢があり、患者さんの状況に合わせて最適な治療法が選択されます。

当院では行動療法、食事療法、薬物療法を組み合わせた肥満(ダイエット)外来を行っております。ご興味のある方はぜひ当院にご相談下さい。

参考文献

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