日本では、糖尿病患者数は増加傾向にあり、厚生労働省の糖尿病診療の現状報告によると、糖尿病が強く疑われる人と予備軍を合わせると約2000万人と推測されています。中でも、血糖値が急激に下がる低血糖は、意識消失やけいれんといった重篤な症状を引き起こす可能性があり注意が必要です。
空腹感や冷や汗、手の震えといった、普段見過ごしてしまうような些細な症状が、低血糖の初期症状である可能性があります。この記事では、低血糖の重症度別の症状や緊急時の対処法7つ、長期的な血糖コントロールの維持方法など具体的な対策を解説します。ご自身やご家族の健康を守るために、低血糖の危険性と適切な対処法を理解しましょう。
大石内科循環器科医院では、糖尿病に関する検査と丁寧な診療を行っています。症状が気になる方はもちろん「ちょっと不安かも…」という段階でも、早めのチェックが何より大切です。地域のかかりつけ医として、あなたの健康を全力でサポートいたします。どうぞお気軽にご相談ください。
低血糖は、血液中の血糖値(ブドウ糖濃度)が低すぎる状態です。一般的には、血糖値が70mg/dL以下になると低血糖と診断されます。糖尿病の治療薬(インスリン注射や経口血糖降下薬など)を使用している方は、低血糖のリスクが高まります。
薬の効果で血糖値が下がりすぎることや、食事のタイミング・量が適切でない、激しい運動などが原因で起こる場合があります。空腹時の飲酒も低血糖を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。低血糖の重症度に沿った症状の内容を解説します。
血糖値が70mg/dL程度まで下がると、軽度の低血糖症状が現れる場合があります。軽度の低血糖の代表的な症状や感覚は、以下の内容があげられます。
症状に気づいた場合は、糖分の補給を意識することが大切です。
こうした症状に早く気づくためには、「血糖値の正常範囲」を正しく知っておくことが重要です。以下の記事では、血糖値の基準値や、異常値が引き起こす健康リスク、そして日常生活でできる対策について詳しく解説していますので、参考にしてください。
>>血糖値の正常範囲とは?異常値が引き起こすリスクと対策を解説
血糖値が50mg/dL程度まで低下すると、中等度の低血糖症状が現れる場合があります。中等度の低血糖は、脳へのエネルギー供給が不足し、機能が低下するため、以下の症状が現れやすくなります。
中等度の症状が現れた場合も、速やかに糖分を摂取し、安静にする必要があります。
血糖値が30mg/dL以下まで低下すると、重度の低血糖状態となる場合があります。重度の低血糖では、脳へのエネルギー供給が著しく低下し、機能障害を来し生命に関わる危険性があります。主な症状は以下の内容があげられます。
重度の低血糖症状が現れた場合は、すぐに救急車を呼ぶ必要があります。医師から処方されたグルカゴン製剤がある場合は、使用方法の指導に従った応急処置が行えます。糖尿病の患者さんは、低血糖の症状と対処法を家族や周囲の人に説明しておくことが重要です。
低血糖と似たような注意が必要な状態として「血糖値スパイク」があります。血糖値スパイクは食後に血糖値が急上昇し、その後急降下する現象で、放置すると動脈硬化や心血管疾患のリスクを高めるとされています。以下の記事では、血糖値スパイクの詳しい症状や健康リスク、予防するための具体的な対策について解説していますので、あわせてご覧ください。
>>血糖値スパイクの症状と健康リスク!知っておくべき対策法
重度の低血糖を放置すれば命に関わる危険な状態に陥る場合もあるため、適切な対処が重要である内容が研究でも発表されています。以下の対処法をご家族や周囲の方にも共有し、緊急時に備えておきましょう。
低血糖の自覚症状がある場合、最も迅速な対処法はブドウ糖の摂取です。ブドウ糖は、脳や体のエネルギー源として即効性があります。ブドウ糖が手元にない場合は、砂糖でも代用可能です。
砂糖が消化・吸収される過程でブドウ糖に分解されるため、砂糖を摂取する場合は、ブドウ糖の約2倍の量を摂取するようにしましょう。ブドウ糖や砂糖を摂取したら、約15分安静にし症状の改善を待ちましょう。
ブドウ糖や砂糖がすぐに用意できない場合は、糖分を含むジュースや清涼飲料水も有効です。150~200ml程度を飲み、安静にしましょう。糖分の吸収が遅いスポーツドリンクや、糖分を全く含まないお茶などは避けて、糖分が速やかに吸収される飲み物を選ぶようにしましょう。
ブドウ糖や砂糖、ジュースなどを摂取して約15分経過しても症状が改善しない場合は、同じ量をもう一度摂取します。2回目の摂取後も改善が見られない場合は、ためらわず医療機関に連絡するか、救急車を要請してください。
意識がぼんやりしている、言葉が出にくいといった症状が続く場合は、重度の低血糖に進行している可能性があります。早期の対応が命を守ることにつながるため、無理をせず速やかに周囲へ助けを求めましょう。
糖分を摂取したら、安全な場所で安静にすることが重要です。激しい運動や作業を続けると、血糖値がさらに低下するリスクがあります。落ち着いて、体内のブドウ糖濃度が回復するまで待ちましょう。
周囲に人がいる場合は、念のため体調の変化を見守ってもらいましょう。再び低血糖症状が出る可能性もあるため、15分程度は無理をせず、横になるなどして静かに過ごすことをおすすめします。
重度の低血糖で意識がない場合、医師から処方されたグルカゴン点鼻薬や自己注射キットを指示された内容で使用する場合があります。事前に医師から使用方法の説明を受け、緊急時に備えましょう。グルカゴン製剤の使用は、一時的な対処法のため、意識が回復したら速やかに医療機関を受診する必要があります。
低血糖で意識がない場合は、直ちに救急車を呼びましょう。救急車が到着するまでの間、患者さんを横向きに寝かせ、嘔吐物による窒息を防いでください。意識がない状態で糖分を摂取するのは誤嚥する危険性があるため、無理に食べさせたり、飲ませたりしないようにします。
低血糖は、時間や場所を選ばず突然、起こる可能性があります。日頃から、家族や同僚に低血糖の症状や対処法を詳しく説明しておきましょう。
意識を失った場合の対応、グルカゴン点鼻薬や自己注射キットの使い方を具体的に伝えておくことが重要です。糖尿病であることを示すIDカードや、緊急連絡先を記載したメモなどを携帯すると第三者や救急隊員に気付いて対処してもらえる可能性があります。
低血糖は適切な対処でリスクを最小限に抑えられます。正しい知識を身につけ、日頃から対策を講じておきましょう。
低血糖は、糖尿病の患者さんにとって常に付きまとうリスクです。正しい知識と適切な対策を身につけると、低血糖のリスクを最小限に抑え、安心して日常生活を送れるようになります。以下の内容は、低血糖の予防と長期的な血糖コントロールの両方に役立ちます。
ご自身の状況に合わせて、対策を積極的に実践し、より健康的な生活を目指しましょう。
外出先で低血糖症状が現れた場合に備えて、ブドウ糖や砂糖などの糖分を常に携帯しましょう。ブドウ糖が手元にない場合は、角砂糖や飴玉でも代用できますが、吸収速度がブドウ糖に比べて遅いため、必要に応じて多めに摂取する場合があります。
チョコレートやクッキーなどは、脂肪分が多く含まれているため糖分の吸収が遅く、低血糖時の対処には適していません。緊急時の対処法として、消化吸収しやすい糖分を携帯するように心がけましょう。
血糖値の乱高下を防ぎ、安定した血糖コントロールを維持するためには、規則正しい食生活が不可欠です。毎日同じ時間に、同じくらいの量の食事を摂るように心がけましょう。
朝食は、一晩の絶食後に体内のエネルギーが枯渇している状態であるため、低血糖を予防するために大切です。朝食を抜くと、低血糖のリスクが高まるだけでなく、日中の活動にも悪影響を及ぼす可能性があります。
食事の内容にも気を配る必要があります。炭水化物やタンパク質、脂質をバランスよく摂取することで、血糖値の急上昇や急降下を防ぎ、安定した血糖コントロールに役立ちます。
こうした食生活の見直しをはじめ、日常的に取り入れられる工夫を知っておくことが血糖値管理の鍵となります。以下の記事では、血糖値を下げるために効果が期待できる7つの生活習慣改善法について、具体的に解説していますので、ぜひ参考にしてください。
>>血糖値を下げる7つの効果が期待できる方法!生活習慣改善のポイント
運動は健康維持に不可欠な要素ですが、糖尿病の患者さんにとっては低血糖のリスクを高める可能性があるため、注意が必要です。普段からインスリン注射や経口血糖降下薬を使用している方は、運動前に血糖値を確認し、必要に応じて糖分を補給するようにしましょう。
激しい運動をする場合は、運動中もこまめに血糖値を測定し、低血糖の兆候が現れたらすぐに運動を中断して、糖分を摂取することが重要です。医師や栄養士に相談し、適切な運動方法や糖分の補給量について指導を受けましょう。
アルコールは、肝臓での糖新生(体内でブドウ糖を新しく作り出すこと)を阻害するため、血糖値を低下させる作用があります。空腹時に飲酒すると、低血糖のリスクがさらに高まります。
飲酒する際は、必ず食事と一緒に摂るようにし、空腹時の飲酒は避けましょう。過度な飲酒は肝臓への負担を増大させるだけでなく、血糖コントロールにも悪影響を及ぼすため、適量を守ることが大切です。
定期的な血糖値測定は、低血糖の早期発見・早期対応につながるだけでなく、長期的な血糖コントロールにおいて重要です。血糖自己測定器を使用すれば、自宅で簡単に血糖値を測定できます。医師の指示に従って、食前や食後、就寝前など、適切なタイミングで血糖値を測定しましょう。
測定結果を記録しておけば、血糖値の変化を客観的に把握でき、治療方針の決定にも役立ちます。自身の血糖値の傾向を把握できると、低血糖になりやすいタイミングや状況を予測することも可能になります。
低血糖のサインは人それぞれであり、同じ人でも状況が異なる場合があります。代表的な症状としては、空腹感や冷や汗、手の震えなどがありますが、必ずしも症状が現れるとは限りません。自覚症状がほとんどないまま重度の低血糖に陥ってしまうケースもあります。
ご自身の低血糖のサインを把握し、記録しておくことで、低血糖の早期発見に役立ちます。少しでも異変を感じたら、血糖値を測定し、必要に応じて糖分を補給しましょう。以下のような情報を低血糖の症状が出現したときに一緒に記録しておくと、低血糖の原因を特定しやすくなります。
糖尿病治療に使用される薬の中には、低血糖のリスクを高める可能性があるものがあります。お使いの薬について理解し、医師の指導に従った正しい服用が重要です。薬の種類や組み合わせによる影響については、担当医にご相談ください。
低血糖は、重症化すると意識消失や痙攣など命に関わる危険な状態を引き起こす可能性があります。軽度であっても、集中力や判断力の低下を招き、日常生活に支障をきたすため、サインを見逃さず、迅速かつ適切な対処が大切です。
ブドウ糖の摂取や安静など緊急時の対処法や、日頃から低血糖を起こさないために以下の対策も重要です。
低血糖の知識を身につけ症状を早期に認識し、適切に対処できるようになって安心した日常生活を送りましょう。
糖尿病がもたらす影響は低血糖だけにとどまらず、心臓や血管にも深刻なリスクを及ぼすことがあります。以下の記事では、糖尿病による心血管系の合併症とその予防策について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
>>糖尿病による合併症リスク|心臓と血管に与える影響と対策方法
Paulina Cruz.Inpatient Hypoglycemia: The Challenge Remains.J Diabetes Sci Technol,2020,14,3,p.560-566
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