健康診断で「異常なし」でも安心できない、糖尿病の隠れた脅威をご存知ですか?糖尿病は見逃されやすいケースが存在し、知らないうちに進行している可能性があります。糖尿病は自覚症状が出にくい病気であり、早期発見・早期治療が重要です。
本記事では、健康診断で見逃される糖尿病の5つのケースを解説します。放置した場合の恐ろしいリスクや初期症状、今日から始められる予防法も紹介します。糖尿病を正しく理解し、日々の健康管理に役立ててください。
健康診断で糖尿病が見逃される5つの理由は以下のとおりです。
食後高血糖とは、食後に血糖値が異常に高くなる状態です。通常の健康診断では、空腹時の血糖値を測定するため、食後高血糖を見逃してしまう可能性があります。空腹時血糖値が正常範囲内でも、食後に血糖値が急上昇する「隠れ糖尿病」の可能性もあるため、注意が必要です。
食後高血糖は、初期段階では自覚症状がない場合が多いです。しかし、放置すると糖尿病へ進行するリスクが高まり、心筋梗塞や脳梗塞などの合併症を引き起こすこともあります。
糖尿病の診断には「75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)」と呼ばれる検査が有効です。負荷検査では、ブドウ糖液を飲んで一定時間ごとに血糖値を測定することで、糖代謝の状態を詳しく調べられます。糖代謝とは、食事で摂取した糖質が分解され、エネルギー源として利用されたり、余分な糖が蓄えられたりする一連の仕組みです。
健康診断では、費用や時間などの制約から、負荷試験が実施されないケースが多いです。負荷試験が行われないと、境界型の糖尿病を見つけることが難しく、見逃される可能性があります。空腹時血糖値が正常範囲でも、食後高血糖が疑われるときは、負荷試験を受けることでより正確な診断が可能です。
1型糖尿病は、インスリンをほとんど、あるいは全く産生できないことが原因で発症する糖尿病です。自己免疫疾患などが原因で膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンが分泌されなくなることで発症します。1型糖尿病は、子供や若い人に多く発症することから、若年性糖尿病とも呼ばれます。
1型糖尿病は急激に発症し、進行も速いため、健康診断のタイミングによっては見逃される可能性があるため注意が必要です。過去1〜2か月の平均血糖値を反映する「HbA1c」の上昇よりも先に症状が現れることから、健康診断の結果だけでの判断は危険です。
健康診断を受けた数日後に、喉の渇きや頻尿、体重減少などの症状が急に現れた場合、1型糖尿病の可能性があります。健康診断の結果が正常であっても、急な体重減少などの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。
妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて発見または発症する糖代謝異常のことです。妊娠中は胎盤から出るホルモンの影響で、インスリンの働きが低下し、血糖値が上がりやすくなります。ほとんどの場合は出産後に血糖値は正常に戻りますが、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高くなるため、注意が必要です。
妊娠糖尿病は、妊婦健診で行われる専用のスクリーニング検査で発見されますが、通常の健康診断では見逃される可能性があります。妊娠の進行に伴い、血糖値が上がりやすくなるため、妊娠初期・妊娠中期に専用の検査を行います。妊娠中は、特に血糖値管理に気を配りましょう。
血糖値は、食事や運動などの影響を受けて変動します。健康診断の直前に激しい運動を行うと、一時的に血糖値が低下し、糖尿病と診断されないケースがあります。検査前には、激しい運動を避け、普段通りの生活を送ることが大切です。検査を受ける際は、医師の指示に従い適切な準備を行いましょう。
健康診断は、あくまでスクリーニング検査であり、検査時点での体の状態を把握するものです。健康診断の結果だけで安心するのではなく、日頃からご自身の生活習慣や体調の変化に気を配りましょう。
糖尿病の管理においては「低血糖」のリスクにも注意が必要です。以下の記事では、低血糖の主な症状や、もしものときの緊急対応について7つの対処法を紹介しています。備えておくことで、安心して日常生活を送るための助けになります。
>>【要注意】糖尿病の低血糖症状と緊急時の対処法7つ
糖尿病を放置するリスクは以下のとおりです。
動脈硬化とは、動脈の血管が硬くなり、弾力性を失う状態です。糖尿病を放置して高血糖が続くと、血管の内壁が傷つきやすくなります。血管が傷つくと、コレステロールなどが血管壁に蓄積しやすくなり、動脈硬化を進行させます。動脈硬化が進むと、血管が狭窄・閉塞し、血液の流れが悪くなるため注意が必要です。
動脈硬化は全身の血管で起こる可能性があり、さまざまな病気の原因です。心臓の血管で起こると狭心症や心筋梗塞、脳の血管で起こると脳梗塞、足の血管で起こると閉塞性動脈硬化症などを引き起こします。狭心症などの病気は命に関わることもあるため、糖尿病の放置は危険です。
糖尿病網膜症は、高血糖が原因で網膜の血管が損傷を受けて発症する病気です。高血糖の状態が続くと、以下の影響が生じることがあります。
血管の変化は網膜に酸素や栄養を供給する毛細血管を壊死させ、視力低下や失明につながる場合があります。糖尿病網膜症は、初期段階では自覚症状がほとんどありません。定期的な眼科検診と適切な血糖コントロールによって早期発見・早期治療に努めることが重要です。
糖尿病網膜症は、放置すると失明に至る危険性もある深刻な合併症です。初期の段階では自覚症状がないため、定期的な検査が重要になります。
糖尿病腎症も、糖尿病の重篤な合併症の一つです。高血糖の状態が続くと、腎臓で血液を濾過する「糸球体」と呼ばれる毛細血管の塊が傷つき、腎臓の機能が低下します。腎症が進行すると、体内の余分なものを排出する機能が徐々に損なわれていきます。
初期の糖尿病腎症には自覚症状がほとんどありません。定期的な尿検査や血液検査が必要です。腎症が進行すると、最終的には人工透析が必要な場合もあります。人工透析は週に数回、病院に通って血液を浄化する必要があり、生活の質に大きな影響を与えるため、初期のうちの適切な対処が重要です。
神経障害とは、手足のしびれや痛み、感覚の鈍化、自律神経の機能障害など、さまざまな症状を引き起こす病気です。糖尿病による神経障害は、高血糖によって神経がダメージを受けることで起こります。神経障害で自律神経に影響が出ると、便秘や下痢、立ちくらみ、排尿障害など、体のさまざまな機能に影響が出ます。
糖尿病神経障害の症状は多岐にわたり、放置すると日常生活に支障をきたす可能性があるため、適切な対処が必要です。手足のしびれによって細かい作業が困難になったり、バランス感覚が低下して転倒したりするケースもあります。血糖コントロールを良好に保つことで、神経障害の発症や進行を遅らせることが期待できます。
以下の記事では、糖尿病によって心臓や血管にどのような影響が及ぶのか、具体的な合併症のリスクとその対策方法について解説しています。心血管系への影響が気になる方は、ぜひご覧ください。
>>糖尿病による合併症リスク|心臓と血管に与える影響と対策方法
糖尿病の初期症状は以下のとおりです。
健康な状態では、体内の水分量は適切に調節されています。血糖値が高い状態が続くと、腎臓は血液中の余分な糖分を尿と一緒に排出するため、通常より多くの水分が体外に出ていきます。結果、喉の渇きや頻尿といった症状が現れるのです。最近やたらと喉が渇く、夜中に何度もトイレに起きる、などの変化には注意が必要です。
尿の量や排尿回数は、気温や食事内容など、さまざまな要因で変動します。しかし、頻尿などの症状が続くようであれば、糖尿病の初期症状の可能性も考慮し、医療機関に相談しましょう。
以下の記事では、尿に泡が立つ原因や、泡立ちが病気のサインである可能性、どのようなときに受診すべきかの目安を詳しく解説しています。日々の排尿に気になる変化がある方は参考にしてください。
>>尿の泡立ちは病気のサイン?原因と受診の目安を解説
食事量は変わっていないのに体重が減ってきた場合も、糖尿病の初期症状の一つです。糖尿病になると、体内でエネルギー源として利用されるブドウ糖がうまく細胞に取り込めなくなります。体はエネルギー不足を補うため、脂肪や筋肉を分解してエネルギーを作り始めます。エネルギー不足による脂肪や筋肉の分解が、体重減少の主な原因です。
体重の減少は、糖尿病以外にもさまざまな病気のサインである可能性があります。急激な体重減少は特に注意が必要なため、原因を特定するために医療機関を受診してください。
体がだるい、疲れやすい、やる気が出ないといった倦怠感も、糖尿病の初期症状として現れることがあります。ブドウ糖がエネルギーとして利用されにくく、体が慢性的なエネルギー不足に陥っていることが原因です。特に、以下の症状が当てはまる場合は注意が必要です。
気になる症状がある場合は、早めに医療機関に相談しましょう。
食後に強い眠気に襲われる場合も、糖尿病のサインの一つです。食後に血糖値が急激に上昇すると、血糖値を下げるためにインスリンが大量に分泌されます。インスリンの過剰分泌が、眠気を引き起こす原因の一つです。食後高血糖を放置すると、将来的に2型糖尿病へ進行するリスクも高まります。
食後の眠気自体は、誰にでも起こりうる症状です。糖尿病の他の初期症状と同タイミングで現れる場合は、医療機関を受診し、糖尿病の検査を受けましょう。精密検査で食後の血糖値の推移を確認することで、より正確な診断が可能です。
手足のしびれやピリピリとした痛み、感覚の鈍化といった症状も、糖尿病の初期症状です。高血糖の状態が続くと、血管や神経が損傷を受け、手足のしびれなどの症状を引き起こします。初期段階ではしびれも軽微な場合が多いですが、放置すると悪化し、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。
手足のしびれを感じたら、早めに医療機関を受診し、適切な検査と治療を受けましょう。
今日からできる糖尿病の対策は以下のとおりです。
糖尿病予防の食事療法で大切なのは、血糖値の急上昇を抑えることです。食後の血糖値が高い状態が続くと、血管が傷つき、動脈硬化が進行しやすくなります。西太平洋地域では糖尿病の有病率が約12%と高く、医療費も莫大な負担となっている報告があります。医療費が逼迫している現状を改善するためにも、食生活の見直しは重要です。
血糖値の急上昇を抑えるためには、以下の3つのポイントを意識しましょう。
朝食ではご飯・味噌汁・野菜のおかず・卵焼きなどを組み合わせることで、栄養バランスが整い、血糖値の急上昇も抑えられます。間食は、ナッツ類やヨーグルト、果物など、血糖値を上げにくいものを選びましょう。
運動不足は糖尿病のリスクを高める大きな要因です。適度な運動は、筋肉が糖を取り込むのを助け、血糖値を下げるインスリンの働きを良くする効果が期待できます。ウォーキングや軽いジョギング、サイクリング、水泳など、無理なく続けられる運動を見つけ、日常生活に取り入れましょう。
1回に長時間行うよりも、毎日30分程度の運動を継続することが重要です。エレベーターやエスカレーターではなく階段を使う、一駅前で降りて歩くなど、日常生活の中で体を動かす機会を増やす工夫も有効です。
睡眠不足は、ホルモンバランスを崩し、血糖値のコントロールに悪影響を及ぼすため注意が必要です。成長ホルモンは、睡眠中に分泌され、体の修復や成長を促す働きがあります。質の高い睡眠を確保することで、成長ホルモンの分泌が促進され、血糖値の安定にもつながります。質の高い睡眠をとるために、以下の点に注意しましょう。
睡眠時間は個人差がありますが、一般的には7時間程度の睡眠が適切とされています。少しずつ自分に合った睡眠習慣を身につけましょう。
糖尿病は初期段階では自覚症状が現れにくい病気です。定期的な健康診断で血糖値やHbA1cを測定し、早期発見に努めることが重要です。健康診断では、空腹時血糖値だけでなく、HbA1cも測定することで、より正確な状態を把握できます。
特に40歳以上の方は、年に一度の健康診断を必ず受けましょう。健康診断の結果で血糖値やHbA1cの値が基準値よりも高くなくても、食後高血糖などが見逃されているケースもあります。日頃からご自身の生活習慣や体調の変化に気を配り、必要に応じて追加の検査を受けることが大切です。
健康診断の結果はあくまで過去の状態を示すものであり、現在の状態を正確に反映しているとは限りません。日々の生活習慣の見直しと合わせて、定期的な健康診断を有効活用しましょう。
以下の記事では、糖尿病の疑いがあるときに何科を受診すべきか、受診のタイミングや診療の流れについて詳しく解説しています。医療機関への相談を考えている方に役立つ内容です。
>>糖尿病の相談は何科が適切?受診のタイミングと診療の流れを解説
食後高血糖や妊娠糖尿病などの場合、健康診断では見逃されてしまう場合があります。糖尿病は自覚症状が出にくいため、健康診断の結果が良くても油断は禁物です。食後高血糖や検査項目によっては見逃される場合もあり、放置すると動脈硬化や網膜症、腎症、神経障害といった合併症を引き起こすリスクがあります。
喉の渇きや頻尿、体重減少など、普段の生活で現れる小さな変化を見逃さず、気になることがあれば、医療機関に相談しましょう。日々の生活習慣を少し見直すだけでも、糖尿病の予防や進行抑制につながります。バランスの良い食事や適度な運動、質の高い睡眠、そして定期的な健康診断を心がけ、健康な毎日を送りましょう。
健診で異常があった際の再検査について、詳しい情報は下記ページをご覧ください。
>>健康診断で異常があったらどうする?|静岡市にお住まいの方へ
Boon-How Chew, Pauline Siew Mei Lai, Dhashani A/P Sivaratnam, Nurul Iftida Basri, Geeta Appannah, Barakatun Nisak Mohd Yusof, Subashini C Thambiah, Zubaidah Nor Hanipah, Ping-Foo Wong, Li-Cheng Chang. Efficient and Effective Diabetes Care in the Era of Digitalization and Hypercompetitive Research Culture: A Focused Review in the Western Pacific Region with Malaysia as a Case Study. Health Systems & Reform, 2025, 11, 1, p.2417788-2417788
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