健康診断で「心電図に異常があります」と告げられたら、不安になる方もいます。心臓に何か重大な病気が隠れているのではないかと、心配する方もいます。心電図異常は、必ずしも深刻な病気とは限りません。さまざまな種類があり、それぞれ原因や症状、治療法も異なります。
この記事では代表的な心電図異常の種類と、特徴について解説します。心電図異常の原因や治療法を知ることで不安を軽減し、健康管理に役立てられる可能性があります。
心電図は、心臓の電気的活動を記録する重要な検査方法です。正常な心電図は特徴的な波形パターンを示し、主にP波、QRS波、T波の3つの波形で構成されています。心電図の基本的な波形について、特徴と意味を確認しましょう。
P波は心電図の最初に現れる小さな山型の波形で、心臓上部の心房が収縮する際に生じる電気信号を表しています。正常なP波の特徴は以下のとおりです。
P波の形状は、海辺の小さな砂山をイメージすると理解しやすいです。P波が正常範囲内にあれば、心房が適切に機能していることを示しています。P波の異常は、心房肥大や心房細動などの心臓疾患を示唆する可能性があります。P波の幅が0.12秒を超える場合は左心房肥大を疑う必要があります。
QRS波はP波の後に現れる大きな波形で、心室が収縮する際の電気信号を表しています。正常なQRS波の特徴は以下のとおりです。
QRS波の形状は、急峻な山の斜面をイメージしましょう。QRS波が正常範囲内にあれば、心室が適切に収縮していることを意味します。QRS波の異常は、心室肥大や脚ブロックなどの心臓疾患を示唆する可能性があります。QRS波の幅が0.12秒を超える場合は、脚ブロックや心室内伝導障害を疑う必要があります。
T波はQRS波の後に現れるなだらかな山型の波形で、心室が収縮後に元の状態に戻る(再分極)際の電気信号を表しています。正常なT波の特徴は以下のとおりです。
T波が正常範囲内にあれば、心室が適切に回復していることを示しています。T波の異常は、心筋虚血や電解質異常などを示唆する可能性があります。T波の逆転(陰性T波)は心筋虚血を示唆することがあります。
以上の波形の特徴と意味を理解することで、正常な心電図の見方がわかります。心電図の解釈には専門的な知識と経験が必要であり、最終的な診断は医療専門家に委ねましょう。
定期的な心電図検査を受けることで、心臓の健康状態を継続的にモニタリングし、潜在的な心臓疾患を早期に発見できます。
心電図検査でわかることは以下のとおりです。
心臓は通常、規則正しいリズムで拍動しています。このリズムが乱れると、不整脈と呼ばれる状態になります。不整脈には以下のような種類があります。
心房細動は自覚症状がない場合もありますが、脳梗塞のリスクを高めるため早期発見が重要です。代謝機能不全関連脂肪肝疾患(MASLD)の患者さんでは、心房細動の発生率が上昇することが報告されています。心電図検査は不整脈を特定し、治療方針を決定するために役立ちます。
心筋は酸素を必要とし続ける組織であり、供給が不足すると「心筋虚血」と呼ばれる状態になります。心筋虚血により狭心症や心筋梗塞といった疾患が引き起こされます。心電図検査では以下の点を評価できます。
狭心症では一時的な虚血によるST下降やT波の陰転化が見られる場合があります。心筋梗塞では壊死した部分を示す異常Q波やST上昇など、特徴的な変化が現れます。
心臓肥大とは、心臓の筋肉が厚くなりすぎた状態であり、高血圧や弁膜症が原因になりやすいです。スポーツ選手の場合、生理的肥大として正常範囲内ですが、高血圧など病的原因の場合は注意が必要です。心電図では以下を評価できます。
肥大した心臓は収縮効率低下や不整脈リスク増加につながり、放置すると心不全へ進行する可能性があります。
狭心症や心筋梗塞はどちらも冠動脈疾患ですが、重症度には違いがあります。狭心症は、一時的な冠動脈狭窄による酸素不足で、心筋梗塞は冠動脈完全閉塞による壊死が起こります。以下の特徴的な波形変化を伴います。
急性期には迅速な治療介入が必要であり、早期発見が治療方針の決定に役立つ可能性があります。
カリウムやカルシウムなどの電解質バランスは、正常な心機能維持に不可欠です。バランス異常は以下を引き起こします。
全身性疾患(腎不全など)とも関連しており、体全体の健康評価にも役立ちます。自律神経活動も評価可能で、副交感神経活性増加が痛み軽減に寄与する可能性も示唆されています。
心電図異常にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴が違います。代表的な4つの心電図異常について、解説します。
心房細動は心臓の上の部分である心房が細かく震えることで、心臓のリズムが乱れる不整脈の一種です。心臓が規則正しく収縮できなくなるため、全身への血液供給が滞りさまざまな症状が現れます。
症状としては動悸やめまい、息切れなどが挙げられます。動悸は脈が速くなったり遅くなったり、不規則になったりする症状です。安静時だけでなく、労作時にも出現することがあります。めまいは脳への血流が不足することで起こり、意識が遠のくような感覚やふらつきを伴います。息切れは、肺への血流が滞ることで呼吸が苦しくなる症状です。
上記の症状は、常に現れるとは限りません。自覚症状が全くない場合もあります。診察した患者さんの中には、健康診断で指摘されるまで心房細動に気づいていなかった方もいらっしゃいました。
心房細動は加齢とともに発症率が高くなる疾患です。特に、高血圧や糖尿病、心臓弁膜症などの基礎疾患がある方は注意が必要です。
>>心房細動についてより詳しい解説はこちら
心室性期外収縮は心臓の下の部分である心室から、通常よりも早く収縮の刺激が発生する不整脈です。「脈が飛ぶ」と表現されることが多い症状です。
多くの人は胸がドキッとする、脈が一瞬止まる感じがするといった自覚症状を経験します。しかし自覚症状が全くない場合もあり、健康診断の心電図検査で初めて見つかるケースも多いです。
期外収縮は健康な人にも見られることが多く、特に心配のない場合がほとんどです。頻度が多い場合や、基礎疾患(例:心筋梗塞や心筋症)がある場合は、リスクが高まる可能性があるため注意が必要です。
冠動脈疾患とは心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が動脈硬化などで狭窄・閉塞し、心臓の筋肉に十分な酸素が供給されなくなる病気です。狭心症や心筋梗塞といった病気が含まれます。冠動脈疾患があると、心電図に変化が現れることがあります。
代表的な変化としては、ST上昇、ST下降、T波の異常などが挙げられます。ST上昇は、心筋梗塞が疑われる所見です。心筋梗塞は心臓の筋肉の一部が壊死してしまう病気で、緊急の治療が必要です。ST下降は、狭心症が疑われる所見です。狭心症は心臓の筋肉への血流が一時的に不足することで、胸痛などの症状が現れる病気です。T波の異常は冠動脈疾患以外にも、さまざまな原因で起こり得ます。
上記の変化は安静時には見られず、運動をしたときなどに現れることもあります。そのため安静時心電図で異常がなくても運動負荷心電図検査を行うことで、冠動脈疾患の早期発見につながる可能性があります。
QT延長症候群は、心電図のQT間隔が異常に長くなる病気です。QT間隔とは心室が収縮し、再び拡張するまでの時間を表しています。QT延長症候群では、一部のケースでtorsades de pointes(TdP)と呼ばれる重篤な不整脈が発生し、突然死につながる危険性があります。
QT延長症候群は先天的な遺伝子異常が原因で起こる場合と、薬剤の副作用や電解質異常などが原因で起こる場合があります。症状としては失神やけいれん、動悸などが挙げられます。重症例ではTdPと呼ばれる心室頻拍の一種が発生し、突然死に至ることもあります。
QT延長症候群は、比較的まれな疾患ですが、早期発見と適切な治療が重要です。心電図検査でQT延長が認められた場合は、原因の特定と治療方針の決定のために、専門医への受診が必要です。
「心電図に異常があります」と告げられると、誰でも不安です。しかし、心電図異常は必ずしも重篤な病気を意味するわけではなく、適切な対応で健康を維持できるケースも多い傾向があります。心電図異常の主な原因と関連する疾患3つについて解説します。
高血圧症は、心臓にとって静かなる脅威です。患者さんの中には長年高血圧を放置していた結果、心臓の壁が厚くなってしまい心電図に異常が見られた方がいました。初期段階では自覚症状がほとんどなかったため、健診で指摘されるまで気づかなかったそうです。高血圧は自覚症状に乏しいため、定期的な血圧測定と心電図検査が重要です。
高血圧が続くと心電図の波形が変化するだけでなく、心臓の筋肉にも悪影響を及ぼします。心臓の筋肉は、酸素と栄養を豊富に含んだ血液によって支えられていますが、高血圧によって血管が硬くなると、供給路が阻害され、心臓の筋肉が酸欠状態に陥るのです。狭心症や心筋梗塞といった重篤な心臓病のリスクが高まります。
高血圧について網羅的に知りたい方は、以下の記事をぜひご覧ください。
>>大石内科循環器科医院|高血圧の基礎知識・症状・治療について
糖尿病もまた、心臓の健康を脅かす危険因子です。高血糖状態が続くと血管の内壁が傷つき、動脈硬化を引き起こしやすくなります。以前診察した患者さんは糖尿病を患っており、心電図検査で異常が見つかりました。足のしびれや倦怠感などの症状も訴えており、糖尿病による神経障害と血管障害が進行している状態でした。糖尿病は心臓だけでなく、目や腎臓、神経など、さまざまな臓器に合併症を引き起こす可能性があります。
心筋梗塞は心臓の血管が完全に詰まってしまう危険な状態で、糖尿病患者さんは、そうでない人に比べて心筋梗塞のリスクが2〜4倍も高いと言われています。心筋梗塞は突然死につながることもあるため、早期発見と適切な治療が不可欠です。
生まれたときから心臓にプログラムされた異常が、遺伝的な心電図異常です。遺伝的な心電図異常は、親から子へと受け継がれる遺伝子の変異が原因で起こります。まるで設計図にわずかなミスがある建物のように、心臓の電気的な活動に問題が生じるのです。
代表的な遺伝性の心電図異常として、QT延長症候群が挙げられます。この病気は心電図のQT間隔という部分が異常に長くなることが特徴で、失神や突然死のリスクを高めます。
遺伝的な心電図異常は自覚症状がない場合も多いですが、家族に心疾患の既往歴がある場合は、一度検査を受けてみることをおすすめします。早期発見と適切な管理によって、重篤な合併症を予防できる可能性があります。
心電図は心臓の電気的活動を記録したものであり、心臓の状態を一面から捉えたものにすぎません。重要なのは、適切な対応をとることです。以下では、心電図異常を指摘された際の4つの主要な対処法について説明します。
心電図異常を指摘された場合、まず循環器専門医の診察を受けることが重要です。専門医は心電図の結果だけでなく、以下の要素を総合的に評価します。
期外収縮(脈が飛ぶ、または強く打つ不整脈)が見つかった場合、頻度や他の心臓病の兆候の有無によって、さらなる精密検査の必要性を判断します。心電図異常は心臓以外の疾患でも現れることがあります。
代謝機能不全関連脂肪肝疾患(MAFLD)の患者さんは心房細動の発生率が上昇することが報告されています。MAFLDは心電図異常のリスク増加と関連しており、特に心房細動、QT間隔延長、左室肥大のリスクが高くなることが示されています。
心電図異常の原因となる基礎疾患には、高血圧や糖尿病などがあります。基礎疾患を適切に管理することは、心電図異常の改善だけでなく、将来的な心臓病の予防にもつながります。基礎疾患の管理には以下が含まれます。
糖尿病患者で心電図に異常Q波が見られた場合、過去の無症候性心筋梗塞を示唆している可能性があります。血糖コントロールの徹底とともに、再発予防のための治療が重要です。
心電図異常の種類によっては、薬物療法が必要となる場合があります。主な薬物療法には以下があります。
心電図異常の改善だけでなく、脳卒中などの合併症の予防にも役立ちます。薬の種類や服用方法は、個々の症状や体質に合わせて決定されます。
薬物療法で効果が不十分な場合や、特定の種類の不整脈には、カテーテルアブレーションなどの外科的治療が選択肢となることがあります。カテーテルアブレーションは、心臓に細い管(カテーテル)を挿入し、異常な電気信号を発している部分を焼灼する治療法です。
外科的治療が考慮される状況は以下のとおりです。
治療法の選択は、患者の状態や希望を考慮して、医師と相談のうえで決定されます。
心電図異常は、心臓の電気的な活動に乱れが生じている状態です。さまざまな種類があり、それぞれ症状や危険性も異なります。 健康診断で心電図異常を指摘された場合、不安になる方も多いですが必ずしも重篤な病気を意味するわけではありません。
心電図異常の原因には、高血圧、糖尿病、遺伝的な要因などがあります。心電図異常が疑われる場合は、自己判断せずに専門医に相談しましょう。早期発見と適切な治療によって、健康を維持できるケースも多くあります。健康診断などで心電図異常と指摘された方や動悸や胸の違和感など心配な方は、循環器専門医の当院までご相談ください。
大石内科循環器科医院
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