糖尿病と心不全、2つの病気の意外なつながりをご存知ですか?一見無関係に思えるかもしれませんが、両者は相互に影響し合い、適切な管理が行われないと互いの症状を悪化させる可能性があります。
高血糖が続く糖尿病は、全身の血管を傷つけ、心臓に大きな負担をかけます。血管の状態が悪化すると血液の流れが滞りやすくなり、心臓は血液を送り出すために余分な負担を強いられ、時間の経過とともに心不全のリスクが高まる可能性があります。さらに研究により、心不全は糖尿病の病状に影響を与え、相互に症状を悪化させる関係があることがわかっています。悪循環を断ち切るカギは、早期発見・早期治療です。
この記事では、糖尿病と心不全の関連性や悪化のメカニズム、予防法まで、具体的な症状や検査方法を交えて詳しく解説します。糖尿病と心不全の関係を正しく理解し、日常の生活習慣を見直すきっかけにしてください。
大石内科循環器科医院では、糖尿病や心不全などの検査も実施しています。それぞれ早期発見・早期治療が重要ですので、お悩みの方はお気軽にご相談ください。
糖尿病と心不全は、互いに影響し合い症状を悪化させる可能性があります。糖尿病と心不全の相互作用について、以下の3つを解説します。
糖尿病になると高血糖状態が続き、心臓の筋肉に直接ダメージを与え、ポンプ機能を低下させる「糖尿病性心筋症」を引き起こすことがあります。糖尿病は動脈硬化を促進し、心臓を取り巻く冠動脈を狭く、硬くします。心臓の筋肉に十分な血液が供給されなくなり「虚血性心筋症」という心不全の原因となります。
高血糖は、毛細血管のような細い血管にも悪影響を及ぼします。小さな血管が傷つくことで、心臓の筋肉の働きが悪くなり、心不全の一種である拡張型心不全(HFpEF)のリスクも高まります。さまざまなメカニズムが複雑に絡み合い、糖尿病は心不全の危険性を高めていきます。
こうしたリスクを軽減するためには、血糖値のコントロールが欠かせません。以下の記事では、血糖値を下げるために効果が期待できる生活習慣の改善ポイントを7つに分けて詳しく紹介していますので、実践の参考にしてください。
>>血糖値を下げる7つの効果が期待できる方法!生活習慣改善のポイント
心不全になると、心臓が全身に十分な血液を送り出すことができなくなります。酸素不足は、血糖値をコントロールするうえで重要な役割を果たすインスリンの働きにも悪影響を与えます。インスリンは、血液中のブドウ糖を細胞に取り込み、エネルギーに変換するために不可欠なホルモンです。
心不全によってインスリンの働きが阻害されると、血糖値のコントロールがますます困難になり、糖尿病の病状が悪化してしまいます。心不全の治療に使用される薬の中には、血糖値を上昇させるものもあるため、心不全は糖尿病の管理をより複雑にしてしまいます。
糖尿病と心不全の2つの病気が合併すると、以下のような合併症のリスクが高まります。
糖尿病と心不全が合併すると、さまざまな合併症のリスクが高まり、日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、生命の危険さえも招きかねません。
特に心臓や血管への影響は深刻であり、早期からの対策が重要です。以下の記事では、糖尿病が引き起こす心血管系の合併症リスクやメカニズム、日常生活での対処法について詳しく解説していますので、ぜひご確認ください。
>>糖尿病による合併症リスク|心臓と血管に与える影響と対策方法
糖尿病と心不全の症状については以下のとおりです。
糖尿病になるとインスリンの働きがうまくいかなくなり、血液中のブドウ糖の量が増えてしまいます。ブドウ糖が増えることにより高血糖状態となり、さまざまな症状が現れます。糖尿病の症状については、以下のとおりです。
心不全になると全身へ十分な血液を送り出せなくなります。血液量が減ることにより、さまざまな症状が現れます。心不全の症状については、以下のとおりです。
心不全と診断された場合、多くの方が気になるのが「余命」や「進行のステージ」です。以下の記事では、心不全の段階別の症状や進行具合、そして余命に関する情報を医師の監修のもとで詳しく解説しています。
>>心不全の余命はどのくらい?心不全のステージや初期症状も医師が解説
糖尿病と心不全の検査方法について、以下の2つを解説します。
糖尿病の主な検査項目は以下のとおりです。
検査を組み合わせて、糖尿病の診断を行います。HbA1c検査は、過去1〜2か月の平均血糖値を反映する検査で、指先からの採血で簡単に測定可能です。正常値は5.6%未満で、6.5%以上なら糖尿病と診断されます。6.0〜6.4%は糖尿病予備軍とされ、生活習慣の見直しが必要です。
血糖値検査は、現在の血糖値を調べる検査で、空腹時や随時(食後など)に採血します。空腹時血糖値が126mg/dL以上、随時血糖値が200mg/dL以上で糖尿病型と判断されることがあります。
尿検査は、尿中に糖が排出されているかを調べます。健康な状態では、尿に糖はほとんど含まれていません。血糖値が高くなると、腎臓で処理しきれなくなった糖が尿中に排出されるため、尿検査で陽性反応が出ることがあります。
経口ブドウ糖負荷試験は、ブドウ糖液を飲んで、一定時間後の血糖値の変化を調べる検査です。75gのブドウ糖液を飲んで、2時間後の血糖値を測定します。2時間後の血糖値が200mg/dL以上で糖尿病型と判断されることがあります。
心不全の主な検査項目は以下のとおりです。
心臓の電気的な活動を記録する検査です。不整脈や心筋梗塞など、心臓の異常を発見するのに役立ちます。電極を胸や手足に取り付け、心臓の電気信号を波形として記録します。波形から、心臓のリズムや心筋の状態を調べることができます。
超音波を使って心臓の動きや構造を調べる検査です。心臓の大きさや弁の状態、心筋の厚さ、心臓などがどれくらいの血液を送り出しているか(心機能)を確認できます。ゼリーを塗った探触子を胸に当てて、超音波を心臓に送受信することで、心臓の断面画像を得ることができます。
心臓の大きさや形、肺の状態などを確認します。心臓が大きくなっている場合は、心不全の可能性が考えられます。肺に水が溜まっている場合は、心不全の症状が悪化している可能性があります。
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNPなどの、心不全のマーカーとなる物質を測定します。数値が高い場合は、心不全の可能性が高いと考えられます。BNPやNT-proBNPは、心臓が負荷を受けているときに分泌されるホルモンで、心不全の重症度を評価する指標としても用いられます。
検査結果を総合的に判断して、心不全の診断を行います。
糖尿病と心不全は初期段階では自覚症状が現れにくい病気です。症状がなくても定期的に検査を受けることが必要です。早期に発見できれば、適切な治療を開始することで病気の進行を遅らせたり、合併症を防いだりできます。
特に糖尿病は、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病と深く関わっており、心不全のリスクを高めることが知られています。健康診断で生活習慣病を指摘された方は、糖尿病や心不全の検査も受けて、自分の体の状態をきちんと把握しておくことが大切です。
糖尿病患者は非糖尿病患者に比べて、心不全を発症するリスクが男性で約2倍、女性で約5倍増加すると報告されています。糖尿病の前段階である耐糖能異常でも心不全リスクが上昇することが報告されています。
ご家族に糖尿病や心不全の方がいる場合は、遺伝的な要因も考えられるため、定期的な検査を心がけるようにしましょう。糖尿病と心不全は早期発見と適切な治療によって健康な生活を長く続けることができる病気です。少しでも気になることがあれば、早めに医療機関に相談してください。
心不全の発症には「高血圧」が深く関係しているケースも多くあります。以下の記事では、高血圧が心不全を引き起こすメカニズムやその特徴、さらに予防のためにできる具体的な対策について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
>>心不全は高血圧が原因?特徴とメカニズム、予防法についても解説
糖尿病と心不全は、適切な予防と治療によって進行を遅らせ、合併症のリスクを軽減できる病気です。予防と治療法について、以下の項目に沿って解説します。
適切な血糖コントロールは、血管への負担を軽減し、心不全のリスクを抑えるために不可欠です。HbA1cの数値を目標範囲内に維持することで、心血管疾患リスクの軽減につながります。
目標値は患者さんの状態によって異なりますが、米国では心不全を合併した糖尿病患者ではHbA1cの目標値を7%と設定しています。血糖コントロールの目標設定の一例であり、ご自身の状態に適切な目標値は主治医と相談のうえ、決めていきましょう。
バランスの良い食事を摂ることは、血糖値を安定させ、心臓への負担を軽減するために不可欠です。炭水化物やタンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルなど、必要な栄養素をバランス良く摂取することが大切です。極端な食事制限は栄養不足を招き、かえって健康を損なう可能性があります。
主食、主菜、副菜をそろえ、多様な食材をバランス良く摂るように心がけましょう。具体的なポイントは、以下のとおりです。
ご飯やパン、麺類、果物などの炭水化物は体内で糖質に変換され、血糖値を上昇させます。白米よりも玄米、食パンよりも全粒粉パンなど、食物繊維が豊富な食品を選ぶと血糖値の上昇を緩やかにします。
過剰な塩分摂取は血圧を上昇させ、心臓に負担をかけます。心不全の悪化につながるだけでなく、糖尿病の合併症である腎臓病のリスクも高めます。薄味を心がけ、加工食品やインスタント食品の摂取は控えめにしましょう。
脂肪の摂りすぎは動脈硬化を促進し、心血管疾患のリスクを高めます。飽和脂肪酸の多い動物性脂肪よりも、不飽和脂肪酸の多い魚や植物油を積極的に摂取するようにしましょう。
適度な運動は、糖尿病と心不全の予防と治療に多くのメリットをもたらします。具体的なポイントは、以下のとおりです。
有酸素運動は、ウォーキングやジョギング、水泳、サイクリングなどは、心肺機能を高め、血糖値のコントロールにも効果的です。1回30分以上、週に数回行うのが理想です。急に激しい運動を始めると、体に負担がかかり、けがのリスクも高まります。最初は軽い運動から始め、徐々に強度や時間を増やすことが大切です。運動の効果を持続させるためには、継続することが不可欠です。毎日短い時間でも良いので、体を動かす習慣を身につけましょう。
エレベーターではなく階段を使う、一駅前で降りて歩くなど、日常生活の中で体を動かす機会を増やすことも効果的です。
糖尿病や心不全の病状によっては、薬物療法が必要となる場合があります。糖尿病の治療薬にはさまざまな種類があり、血糖値を下げるメカニズムも異なります。
近年の臨床研究により、SGLT2阻害薬が特定の条件下で心不全の発症予防や症状改善に効果が期待できることが示され、治療選択肢の一つとして注目されています。SGLT2阻害薬は、尿と一緒に糖を排出させることで血糖を下げる新しいタイプの糖尿病治療薬です。
腎臓での糖の再吸収を抑制することで血糖値を下げるだけでなく、心臓保護作用も持つことが明らかになってきています。すべての患者さんに有効なわけではなく、副作用が現れる場合もあります。薬物療法は、患者さん一人ひとりの病状や体質に合わせて、医師が適切な薬剤を選択する必要があります。
糖尿病と心不全は、専門的な知識と経験を持つ医師による適切な診断と治療が不可欠です。少しでも気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
自己判断で治療を中断したり、市販薬に頼ったりすることは危険です。早期発見と適切な治療こそが、健康な生活を守るために最も大切なことです。
糖尿病と心不全は、血管への負担を高めることで互いに悪影響を及ぼし合う関係にあります。高血糖は血管を傷つけ、心臓に負担をかけ、心不全のリスクを高めます。反対に、心不全はインスリンの働きを阻害し、糖尿病の病状悪化につながります。
糖尿病の検査ではHbA1cや血糖値、尿検査があります。心不全では心電図や心臓超音波検査、血液検査などが行われます。予防・治療には、血糖コントロールやバランスの良い食事、適度な運動、そして必要に応じた薬物療法が重要です。特にSGLT2阻害薬は、血糖値を下げるだけでなく心臓保護作用も期待されています。
少しでも気になる症状があれば、早めに専門医に相談し、適切な治療を受けるようにしましょう。糖尿病と心不全は、早期発見・早期治療によって、健康な生活を長く続けることができます。
糖尿病の治療中には「低血糖」にも注意が必要です。重度の場合は命に関わることもあります。以下の記事では、低血糖の主な症状や緊急時に取るべき7つの対処法について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
>>【要注意】糖尿病の低血糖症状と緊急時の対処法7つ
Dillmann W.H. Diabetic Cardiomyopathy. Circulation Research, 2019, 124(8), p.1160-1162.
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